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奴隷談義

奴隷の身分格差がポリス間で大きすぎるため、一概に話すことができないことをアーシアまだ知りません。

最初にメッセニアに出現していたら良心がひどく痛んでいたでしょう・・・日本人にはきつい扱いをしますから・・・

何とか昼食を食べ終えて、運ばれてきたワインを手にのんびりする。

ワインはクラテールと呼ばれる瓶で水と混ぜられ、かなり薄味になっている。

酒というよりは葡萄ジュースに近い。

そういえば、パンに付けたワインは原酒だったが、かなり甘かった。

その甘さのせいでジャムのような風味を感じたほどだ。

考えるに醸造を進めすぎると腐るか酢になるかしてしまうのだろう。それで現代と比較するとまだ醸造途中の、糖分が残ったものがワインになっている。

そうか、古代ギリシアのワインは甘酒の葡萄版なのか。

それで甘さを弱めるために水で薄めていると・・・


「非常においしい昼食でした。お礼といってはなんですが、夕食には故郷の料理をお出ししたいのですが、厨房を使わせていただけませんか?」

建前としてはいい感じだと思うが・・・


「それは楽しみです。あとでピュロスに厨房を案内させます。」

楽しそうに微笑む巫女長、本当に楽しみにしているようだ。

料理は奴隷の仕事とか言わないんだな。

そういえば彼女の仕事ってなんだろう?聞いておくか。

「そういえば先ほど奴隷の話が出ていましたが、ピュロスさ、ピュロスに何の仕事をさせているのですか?」

つい「さん」付けするとこだった。

「ピュロスは他の奴隷の監督ですね。あとは天文学の知識があるので、暦の作成と日々の記録をさせています。」

暦の作成・・・まだ太陰暦を用いてるはずだからすごい重要な仕事だ。

なぜなら太陰暦では最大1月程度のずれが生じる。

それを補正して農作業の日時を決めたり、催事の日付をきめる。

例えば大和朝廷なら陰陽寮で安倍氏が作っていた重要項目だ。

「それはすごい。天文学を知っている奴隷がいるんですか。」

「ええ、彼女の知識は他の巫女はもちろん、私でもかないません。よい子にきてもらえました。」


奴隷の方が知識が上なのを認めてるんだ。そういうものなのかな?


「そこまでの知識ですか。」

「別に主人より奴隷の方が、知識や技能が上というのは珍しくないですよ?」

やっぱりそうなのか。

「子供の頃から特定分野だけを訓練されますから、それに我々のように市民の義務に関わることもないので、その分集中できますし。」

「市民の義務ですか?」

「兵役や政治ですね。」

「女性市民は?」

その質問に巫女長は「ポリスによって異なります」と小さく答えた。

あまりふれられたくない話題らしい・・・なんでだろ。

ちょっと話題を変えよう。

「訓練と言えば自分のところで繁殖させた奴隷はどうするんですか?」

「訓練期間が長すぎるので、たぶん奴隷商に売ると思いますが・・・そもそも奴隷を自分の家で繁殖させる人は殆どいませんよ。」

・・・?

「だって考えてください。種付けしてから一年近く女奴隷が働けなくなって、生まれた子が使えるようになるまで10年以上かかるんですよ。そこまでするより新しい奴隷を買った方が早いし安上がりです。」

たしかに言われてみればその通りだ。

「繁殖家でも数十体の奴隷を運用して、年に数体ほど市場に出すのが精一杯です。とても普通の家には真似できませんね。」


それもそうか。訓練に12年かけるとすると市場に毎年3人出すだけでも訓練中が36人、それに親世代が必要なのか・・・割に合わないというのも納得。

野生種なら戦争の捕虜を使えばすぐ手にはいる。

ただギリシア人の場合は、捕虜は2ムナ(200ドラクマ)で返還という不文律があるせいで数が少ないそうだ。

その辺で繁殖種の需要ができたか。

命令にギリシア語、使いたいだろうしな。


「納得しました。」

「ですから普通は女奴隷を男奴隷から隔離してます。」

・・・でもご主人様が・・・とかないのかな?

「性奴隷はどうしてるんですか?」

「性奴隷?」

ものすごいいやな顔された。失敗したかな?

「そうですね、あなたが遠方の人ということを思い知らされました。一応言っておきます。ペルシアやイオニアではそのような話もありますがスパルタでは禁忌です。特に高貴なスパルタ市民である、あなたは特に!」

スパルタでは厳禁なのか。

そういえば・・・カラマタは昔スパルタの植民地で奴隷がどうのとかあったような。


「その辺は部屋に戻ってから教えますが、スパルタで子供に聞かせる話をしましょう。ミノス王の后パーシパエーの話は知っていますか?雄牛と交わってできたミノタウロスの話を。」

「ええ知っています。迷宮でテーセウスが倒した話ですね。」

「その通りです。そのようなキメラを自分の子供に持ちたいと思いますか?」

「いいえ。でもなぜその話を?」

「奴隷と交わってできる子供は同じようなキメラになるのですよ。例えばピュロスとあなたの間に生まれた子度が顔つきはあなた、でも髪は赤く目が青かったらどうします。」

赤髪碧眼であの顔つき・・・すごい綺麗だと思うが・・・スパルタンからすると違和感を覚えそうだな。


「確かに変ですね。」


「でしょう。中途半端に似ているのが嫌悪感を増大させます。それなら蛇の髪の方がましです。それならば人の子とはみられないでしょうから!」


ここまで嫌われるって、ずいぶん価値観違うんだな。


「同様にポリスの住人にも嫌われます。そのキメラは産んだ奴隷もろとも処分されるでしょう!」


なんだろうこのやるせない感じ。

ギリシャ人はギリシャ人、奴隷は奴隷、別の生き物だけど交配可能・・・ネアンデルタール人みたいな感じか。

なんとなく理解できた。ということはギリシア人が奴隷落ちすると人類から退化するみたいな感じかな?


巫女長の後ろにいたピュロスがもの言いたげな顔をしていたのが気になる。後で確認しよう。


奴隷に性欲を抱ける奴は猿に性欲を抱く変態か。

そういえばスパルタにはリュクルゴス制度で性交は戦士を残すための行為で快楽を求めるものではないと規定していた。


巫女長もスパルタを強調していたし、アテナイだとどうなるんだろう?









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