赤髪(ピュロス)
ピュロスの登場です。一応コリーダも初登場ですが・・・まだ描写ほとんど無いです。
アレティア巫女長の後を着いていくと中庭に出た。
三方は建物の壁になっているが、海側のみが腰までの高さの石塀になっている。
中庭の中央には四本の石柱が2m×10mの長方形を作るように立てられており、その上には木製の格子を葡萄の枝が這っていた。
格子を覆い尽くした葡萄の葉は涼しそうな木陰を作り出していた。
木陰の中央には雪花大理石で作られた直径1mほどのテーブルが置かれていた。
天板を支えるのは太い一本の足、しかし巧みな彫刻で樹木を模していて、枝を広げる形で天板を支える姿は武骨さのかけらもなく優美に満ちていた。
「さあ、どうぞ。涼しいですよ」
そういって巫女長がテーブルに近づくと、先ほどのストロベリーブロンドの女性が椅子を引き、彼女を座らせた。
続いて近づくと同じように椅子を引いて準備してくれたので小さく礼を言って腰掛けた。
対面に座った巫女長は不思議そうだ。
「その子は私の奴隷ですから礼はいりませんよ」
あたかも当然というように言われた。
「奴隷なのですか?」
この娘、見た目は市民と全く変わらない。
いや、下手な街の人より良さそうな服を身につけている。
手入れのよい髪や肌にエメラルドアイ。
容姿も尋常なレベルじゃない。
体型も豊かな胸と腰、くびれもしっかりとある。
・・・どこで奴隷を連想しろと言うのだろうか?
「ええ、髪の色で分かると思ってましたが・・・ああ、今は遠国の出身でしたね。失礼、、こちらがうっかりしていました。」
巫女長はニコニコしながら説明してくれた。
「確かにきれいな赤髪ですね。」
「それは赤髪の奴隷ですから!」
なんだろう、自慢された感じなんだが・・・?
「なにかピュロスと赤髪は違うんでしょうか?」
その言葉を聞いた瞬間に巫女長の鼻が広がり、目が鋭くなった。
「大違いです。猫と獅子を同じとは言わないでしょう。」
彼女はやや興奮気味に言葉を続けた。
「ピュロスの奴隷はピュロス家産の奴隷にのみ許される名前なのです!」
思わず引くような勢いで、まくし立てる彼女に対して疑問が山のように出てきたが、失礼があってはいけないのでとりあえず謝罪することにした。
「すみません、失礼なことを尋ねたようです。ただ遠国出身のため、そのあたりは判りませんのでお許しください。」
それを聞くと彼女はハッとしたように、浮かせかけた腰を椅子に座り直すと、小さく咳ばらいをして顔を赤らめた。
「こちらこそ失礼しました。ただピュロスの奴隷を持つのは子供の頃からの夢だったもので・・・」
すこし、もじもじした感じで彼女は話した。
「そうですね、ついでに奴隷について教えておきましょう。」
スレンダーな黒髪の女性が昼食を運んできた。
テーブル上にパン(粉っぽいナンが一番近いのかな?)とボールに入った赤ワイン、それに焼き魚と野菜サラダ立った。
「食べながら話しましょうか。」
巫女長の所作を真似してパンを赤ワインに浸して食べる。
発行してないフランスパンに葡萄ジュースをあわせたような感じで柔らかくなって、香りもよい。
焼き魚は塩っ気が強いが、微妙に甘い。ただし、みりん干しや照り焼きほどは甘くはない。手で細く裂いて食べる。
意外においしい。
そしてサラダ、ゆでたキャベツとひよこ豆を山盛り香草と蜂蜜、酢で和えたのだが・・・ニンニクのような香りとシナモンに似た甘い香りが同時にきて、コリアンダーの原っぱのような匂いと酢の匂いが鼻を刺激し、後味に蜂蜜の甘さとほのかな酸味が残る。
ごめん・・・無理
無理矢理飲み込んでも、胃の奥から匂いが混ざってでてくる感じ。
コリアンダーとパクチーって同じものだっけ・・・あんま食べたことなかったからわからないが。
夕飯は自炊にさせてもらおう。
そうじゃないと体からハーブの匂いが染み出しそうだ。
「アレティア様、先ほどの話の続きを」
サラダのことをごまかすため彼女に話をふる・・・うわ、おいしそうにサラダ食べてる・・・
「ああ、そうですね。では基本的なところから始めましょうか。例としてアテナイを使います。スパルタはちょっと特殊ですので。」
彼女はコップに入れた水を持ってこさせ、口を潤すと話始めた。
「まず奴隷は大きく分けて野生種と繁殖種に分けられます。野生種は捕まえてきたばかりで調教してないものだと命令も聞きませんし、言葉を理解しないことすらあります。このため安く手に入りますが、肉体労働用がほとんどですね。農場や家事が主な作業です。アテナイなら100から200ドラクマで手に入れられます。」
ついでにドラクマを説明してもらうと、日本円で一万円分くらいの価値らしい。
奴隷一人100万から200万円か・・・高いのか安いのかよくわからないが?
「その上が繁殖種ですね。交配して生まれた繁殖種は生まれからギリシア語を理解しますので用途別に生育できます。普通はこのグレードで商売を手伝わせたり、他の奴隷の監督官をさせます。」
交配とかグレードとか完全に人間扱いしてない・・・でも罪悪感がないせいか蔑みは感じないな。
ただ事実を述べているだけという気がする。
「最後に繁殖家が血統を固定させた家銘持ちの奴隷がいます。たとえばメネラオス家の奴隷は黒髪に赤銅色の肌が特徴で、非常に頑健な肉体と忍耐強い性格をしていますので鍛冶、造船など力と根気のいる技術習得には最適です。書記や執筆活動を手伝わせるにはメデス家の奴隷がいいでしょう。浅黒い肌と褐色の髪です。標準で読み書きができ、字の美しさには定評があります。また納入に時間は若干かかりますがオプションで算術をつけさせることもできます。」
なんだろう、標準とかオプションとか似たようなことがあったような?
「そして、その中の頂点を行くのがピュロス家の奴隷なのです!体は大きく力があり、読み書き算術はもちろんのこと、学者並の得意分野を最低一つ持ち、見た目も美しい白肌赤髪、最低でも1000ドラクマ、最高グレードでは1タラントン(6000ドラクマ)にもなる最高級品です。」
1タラントンだと二段櫂船1隻分の値段か。
戦艦と同じ値段の奴隷がいたとは・・・
「私もこの子をもつまで5年待ちました。この子は累代5代の純血です。外観の特徴が非常にはっきりでています。」
外観の特徴・・・?そうか、車だ。クルマの扱いに近いんだ。
野生種が軽トラで、彼女はフェラーリとかランボルギーニみたいなものか。
「もちろん買い手も選ばれますので、お金だけあっても手に入るものではないのですよ。」
「それは知らぬこととはいえ失礼しました。ご容赦ください。」
即座に再度、謝っておく。
日本人の感覚だと完全にアウトなんだけど、彼女の態度に嫌みが感じないせいか不快感はない。
とはいえやっぱり慣れないなー