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選択の朝


目が覚めたときすでに日は高く上り、午前十時ジムネジアになっていた。

ベットのボクの両側にすでに二人の香りは残っておらず、陽の光による埃っぽい空気の匂いがした。

「あれ、ホルスどこだ?」

寝ぼけた頭で仔猫を探す。


「お目覚めですか?アーシア様。」


ボクの声が届いたらしく急いでベットの横に寄ってきたピュロスの声が聞こえる。


昨日の夜・・・いや今朝か、までかかった狼の襲撃のせいでボクだけ寝坊したようだ。


「ああ、何かあったか?」


何の気もない確認だったが、返答は期待していたものと違っていた。


「ええ、それが・・・」


その返事を聞いて顔を目を開くと声のする方に向けた。

そこには色鮮やかなおおとりの刺繍がされた絹布を手に戸惑っているピュロスがいた。


・・・?

「どうしたんだ。その布?」

「先ほどクレイステネス様から届きました。この木札と一緒に。」

その木札を見ると一言だけ書いてある。


=名前を与えるか?=


ちょっと意味がわからない?なんだろ。

「ピュロス、この札の意味が分かるか?」

「たぶんですが・・・私とコリーダに名前をつけろということだと思います。」

「え!ピュロスじゃないの?」


彼女曰く、ピュロスというのは育てた家を示すもので、いわばブランド名らしい。ポルシェとかフェラーリとかいう感じだ。


デルフォイのアレティナ巫女長の時はそれでもよかったのだろうが、ここはアテナイ、ピュロス家出身の奴隷だけでも100人近くいるらしい。

そのため固有の名前を持つ必要があると教えているのではないかというのが彼女の意見だった。


ただ俺的にはその説明では何かしっくりこない。


なんだろう?

「そういえばコリーダのことも言ってたけど?」

「はい、コリーダにもこちらのキトンが・・・}

同じように虎が刺繍された絹布を示された。


・・・


「もしかしてボクにもきてない?鳳とか竜が刺繍されたやつ?」


「なぜ、おわかりですか?」


ピュロスは驚いた表情で告げた。


やっぱりか!


クレイステネスさんの言ってることが読めてきた・・・結構厳しいが・・・


「確認のため聞いておきたい。普通、ヘタイラを呼ぶような宴の時って、ヘタイラは一人か?」

「いいえ、普通は複数です。呼ばれる客も、可能ならヘタイラを連れてくるのが一般的です。」


「ヘタイラが複数なのは理由があるのか?」

「一人ではそのヘタイラが優れているかどうか比較できません。比較されて初めて優劣がつくのです、歌も踊りも。」

まあ、いってる意味はわかる。


「ピュロスは歌・踊りはできる?」

「ピュロス家の奴隷は一般的に教えられています。」


やっぱりか。


「最後の質問だ。一人の男性が複数のヘタイラを持つことはあるのか?」

「ええ、財力があれば、ごく一般的に。テミストクレス様のセゾン テトラ コレスは4人組ですし。」


・・・QED(証明終了)


すごく難しい判断だ。

ただ、なんでクレイステネスさんが、それを迫ってきたのかがいまいちわからない。


「どうしたのですか。アーシア様?」

「ちょっと話したいことがある。コリーダも呼んでくれ。」


コリーダは部屋の前で立哨をしていたらしく、すぐにやってきた。


「なに、ご主人様?」

「コリーダ、言葉遣いを・・・」

「いや、それはいい。これからいうことを注意して聞いて、どうするか決めてくれ。」

俺の珍しい宣言に二人が戸惑った。


「「はい?」」


二人ともきょとんとした顔をしている。


「お前たちを、奴隷から解放してもいいといったらどうする?」


この言葉を聞いた・・・二人の反応は全く違った。


ピュロスはひどく驚いた・・・その後、真剣に考え込んでいる。


コリーダはひどく驚いた・・・そのまま脅えて、泣き出しそうになった。


「こんなことを言ったのも理由がある。二人にクレイステネスさんから絹のキトンが送られている。しかも刺繍付きで1000ドラクマは軽くする代物だ。一緒に送られた言葉は「名前を与えるか?」つまり源氏名をつけてヘタイラとして宴に伴うか決めろということだと思う。」


そこまでいって二人を見る。


ピュロスもコリーダも様子は変わらない。


「ただヘタイラにするには奴隷のままというわけにはいかない。二人とも解放奴隷になりメトイコイとして自立・・・」


そこまで言った時点でコリーダが飛びついてきた。


「やだ!! 私はアーシア様の奴隷でいる・・・いさせて・・・お願いです・・・なんでもします・・・」


コリーダは泣きながら絶叫していた。


「コリーダ!アーシア様は私たちのことを考えてくださ・・・」


コリーダはピュロスの言葉の途中で遮るようにしがみついてきた。


その身体は小刻みに震えていた。


「そんなのわかってる!でもいや!!もうあんな思い・・・ピュロスにはわからない!」


「私にはわからない?」


「奴隷が・・・仕えるべき主人が・・・いないって、どんな・・状態か・・・わからない・・でしょう。」


コリーダの叫びはもう涙声で、とぎれとぎれになっていた。


ただ俺は、それを聞いてようやくコリーダが何に脅えているのかわかった。


日本人的に言えばこうなる。


「私から仕事そんざいいぎを奪わないで・・・」

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