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来襲と招来

音もたてずに跳ね起きたコリーダは予備の松明をつかむと常夜灯から火を移した。

それを玄関に移動して扉の外に取り付けると、室内に戻ってきて護身用の小剣を抜いた。


「ご主人様、サンダルを!」


彼女の命令に従い、サンダルをはこうとベットから足を下すと、横から白い手が伸びてきて編み上げサンダルをはかせてくれた。

ピュロスの「コリーダ、終わったわ。」の声を聞くと、彼女(コリーダ)もサンダルをはき始めた。


「これからどうする?」

中身がごく平凡な日本人の俺はどうしたらいいか、まったくわからなかった。


「とりあえず、室内で待ちます。」


常夜灯を吹き消し室内を闇に落としながらコリーダが答えた。


「今、出て行っても警備隊の迎撃の邪魔になるだけですし。まだこちらに来てないということは狙いは私たちではないと思います。」

呟くような小さな声でコリーダが教えてくれる。


松明が表の通りを照らし、室内が暗いせいで通りの様子がよく見える。確かに大勢が行き来している。

行ったらかえって邪魔になりそうだ。


「もしかしたら襲ってきたのは人間ではないかも?」

コリーダがつぶやいた。

「人間でない?」

「ええ、オオカミか熊のような感じがします。人の多さからみてオオカミの群れ・・・でもまだ確定はできません、盗賊の可能性もありますので。」

「了解。」


ちかくでミーミーいう声が聞こえていた。

ホルスが近くにいるだけでなぜか不安が減った。

それはピュロスはホルスが逃げないように、この間ずっと抱えていたおかげだった。


=カンカンカン…カンカンカン…=


暗闇でじっとしていた僕らに、はっきり聞こえる音が響いた。


「コリーダ、何があったのかな?」

「たぶん戦闘終了の合図だと思います。行き来する人間の緊張感が減りました。」

そういわれてみる広場の人間の行動が、さっきより軽く動いている感じがした。


「もう少ししたら、だれか来ると思いますので待ちましょう。」

こういう場面ではコリーダの独壇場である。彼女の指示に従って暗闇で待つ。


すぐに入口にだれかやってきた。

「アーシア様、クレイステネス様より管理棟までご案内するようにいわれました。グラウコスです。よろしいでしょうか。」


さっきの管理棟で見た中年男性である。

出ていこうとする俺をコリーダは片手で止めると、すっと身を沈め、音もなく近づき、彼の首に短剣を充てると、身体検査を始めた。

腰に差していたナイフを預かると、


「アーシア様、もうよろしいです。案内してもらいましょう。」


・・・そこまで警戒する必要があるのか?・・・あるんだろうな、きっと。


管理棟は目の前なのですぐに到着した。

入ってすぐの広間にクレイステネスさんが兵士数名と一緒にいた。

「アーシア、騒がせてすまねぇ。でけぇオオカミの群れが襲ってきた。」

あ、べらんめい調だ。どっちが素なんだろう?


「はー、それにしても、まいった。」

そう呟くクレイステネスさんは本当に困った顔をしている。


「何か問題でも?」

「いやな、オオカミは追っ払たんだが、そん時に命令違反した奴がいてな。」

「それが何か?」

別に普通にある話だと思うが?


「そいつは西の見張り小屋に行くはずだったんだが、南のほうが危ないと判断して勝手に一人で南の戦場に行っちまったんだよ。」

よく聞く話だ。


「その判断は正確で、おかげで兵士の損害は最小限で済んだんだが・・・」

なら、別に問題はないのでは?


「問題はそいつが奴隷だったことでな。主人の命令を聞かない奴隷への罰を与えなくちゃならない。」

結果良ければすべてよしじゃダメなのか?


「張三て奴だがあっちで買って、おれが中華から帰って来る時もよく守ってくれた。今回も南に俺の義理の息子がいるのを知ってて助けに行ったんだ。」

そういうとクレイステネスは、目の前の大男に目を移した。


「張三、戦闘中に命令違反した奴隷は死刑にせざるを得ねぇ。わかってんのか。」

張三はうなずくと

「私の命より、あなたの息子の命が重要と判断した。」


その横にいたクレイステネスによく似た男性が答えた。

「父上、彼の判断は的確です。彼がオオカミの群れの後ろから突撃してくれなければ我々は殺されていました。」

「アカイオロス、それはわかってるんだ。問題は命令違反のほうでなー。」


クレイステネスは大きくため息をつくと

「張三、命令違反の死罪は変えられない。ただお前の子供と女房は奴隷を開放してメトイコイにする、それで勘弁してくれ。」

「感謝します。ご主人様。」


その間、俺は疑問に思ったことを聞いていた。

(ねぇピュロス、奴隷の命令違反ってそんなに厳しいの?)

(もちろんです。我々は意識ある道具です。道具が勝手にやることを決めたらまずいでしょう?)

(?)

(そうですね、例えば果物をナイフで切るつもりで出したら、そのナイフが勝手に肉を切り出したらどうします?)

(人を切る前に折るかな?)

(そういうことです。)


それでも、疑問が一つ残る・・・なぜ、クレイステネスさんは俺をこの場に呼んだんだろう?

さっきからこっちをちらちら見てる気もする。

何かやることがあるんだろうか?


「では、デルフォイの神託・・・の巫女アーシア様に要請する、彼に最後の言葉をかけてくれないか。」


あれ、口調が変わったな、なんだろう?


死刑執行の前の神父役?違うな、古代ギリシアで、そんな話聞いたことがない。


ああ・・神託か!


「クレイステネス、今アポロンより神託が降りました。奴隷、張三ちょうさん以後、サンチョと名を変え巫女の護衛をなすべし、それをもって贖罪とする。」


うわーデマばっかし・・・ごまかせるといいんだけど。アポロン神は・・・怒らないか、いたずら好きのひねくれものだし気にしないでおこう。


それを聞いたクレイステネスさんはわが意を得たりとばかりに満面の笑みになった。


「そっかー、神託じゃあ仕方ねぇやな。やい、張三いやサンチョか、処刑はなしだ。しっかりアーシアに仕えるんだぞ。」


「?・・・は、心に銘じて」


よくわかってないな。サンチョさん。まああとで話せばいいか。


「サンチョが護衛なら元の格好に戻ったほうがいいな。後で用意しておく。」


元の格好?もしかして中華の服があるのかな。予備がないか聞いてみよう。


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