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隣の部屋につながる奥の暗闇から小さな光る瞳が二つ見えた。


=ニャーン=


すぐに青っぽい灰色の猫が闇からトコトコと溶け出てきた。


「おーイシス、元気かー。」


猫もまっすぐにヘラクレイトスのもとに向かっている。

さっきまで厳しい政治家の顔だったヘラクレイトスの顔が蕩けている。

猫もゴロゴロ言いながらヘラクレイトスに体を擦りつけていた。

彼は猫を膝に抱えると毛を撫で始めた。

いつの間にか不思議なことに空気が甘い芳香を漂わせている。


「あー、あーなっちゃうと今日はもうだめですねー。」


ほほえましいものを見る感じでクレイステネスさんが教えてくれる。

イシスが寝るまで続きますね。」


半分あきらめた感じで呟いた。


イシスという猫はクレイステネスさんがエジプトから連れ帰った麝香猫?で現在6才。


飼い主よりもヘラクレイトスが好きという猫らしい。

ヘラクレイトスも誰よりもイシスが好きと公言するほどで


「ちょっと妬けますね。」


「どっちにです?」


思わず、俺は尋ねてしまったが、クレイステネスさんの答えは少しだけ苦みの入った笑みでごまかされた。


「普通、麝香猫は人にはなれないんですが・・・イシスは特別です。体も子供の大きさのままですし。」


子供の大きさのまま?普通の日本猫の大きさはありそうだけど?


麝香猫が大きいのか!


「とりあえず今日の宿を近くの家に準備しますが、後ろの二人も同じ部屋でよろしいのですか?」

「ええ、それでお願いします。」

「わかりました。」

そういうとクレイステネスさんは、中年の男性を呼び何か指示していた。


なにか後ろでもぞもぞする気配がしたが、確認する前にクレイステネスさんが籠から持ち出したもので視線は奪われてしまった。


「かわいい子猫ですね。」

「イシスの子供でホルスという名前を付けました。」


生後1か月くらいだろうか、ちっちゃい毛玉みたいだ。

母親の毛色は綺麗なブルーだが、こっちは黒のタビーの模様がうっすら出たブルーだ。


「よければ、差し上げますのでお持ちください。」

指を出すと前足で触ろうとする。ものすごくかわいい。


「ありがとうございます。」

子猫を受け取った。両掌にすっぽり収まる。

掌の中でモゾモゾ動いている。夢中になっていたら声をかけられた。

「宿の準備ができましたので移動ください。」

さっきの中年男性だった。


「ああ、わかった。」

彼のあとをついて部屋を出る。

「では、また明日、朝迎えに行きます。」

クレイステネスさんが声をかけてきた。

あいかわらずヘラクレイトスはイシスに夢中のようだ。


館を出ると、すぐ向かいの家に案内された。

その家にはキングサイズよりも大きいベッドが一つだけ置いてあった。


・・・は?


「ではごゆっくりお休みください。」

そういうと案内の彼は帰って行った。

・・・ベット、マットレス付き?

思わず近づいて手触りと感触を確認してしまう。

木綿のカバーに、なにかのクッション材が入っている。


「珍しいものですね。たぶんペルシア経由のものです。この大きさは地中海南側の沿岸で用いられていると聞いたことがあります。マットの中身はワラか羊毛ですが・・・この柔らかさだと羊毛だと思います。」

横で同じようにベットを確認していたピュロスが説明してくれた。


「地中海南沿岸?」

「ええ、フェニキア人の領域です。彼らの文献は天文学では必須ですのでフェニキア文字を習う際に参考文献で習いました。」

「ふーん。でも、なんでこんなに大きいんだ?」

そういうとピュロスは視線を下に向け、もじもじしながら答えた。


「・・・それは、アーシア様が・・・私たちも同じ部屋で寝る・・・と答えたためです。アテナイでは母親が奴隷でも子供に市民権も与えられますので・・・気にいった奴隷と・・・するのは禁忌では・・・」


・・・わお、そういうことか。

ほんとにポリスごとに、常識が変わるんだ、まいったね。

そういうことは早く教えてほしかった。


「あの時、アーシア様が子猫ホルスに夢中でしたから・・・」


あ、確かに後ろでモゾモゾしてた。


「まあ、ベットは十分に大きいし、一緒に寝ようか。おっと、寝るだけね。」


今更だし、寝心地もよさそうだし、彼女らも床よりは寝やすいだろうからということで提案した。


「アーシア様が良ければ、それで構いませんが・・・」


「ご主人様、私もいいの?」


戸口付近で周囲を警戒していたコリーダが声を出した。


「ああ、今日は大丈夫だろう。みんなでゆっくり休もう。」


みんな野営の時は盗賊、狼、熊なんかを警戒してゆっくりと休んでいなかったはずだ。今日みたいな時ぐらいはゆっくり眠りたい。


「じゃあ、いちばーん。」


そういうとコリーダがベットの上に寝っ転がった。

そのままベットの上をあっちこっち寝返りをうつと、


「ベットのどこにも仕掛けはなさそうです。」


ささやき声で報告してきた。おお、仕事してたんだ。


次に、俺が寝転ぶと・・・柔らかい・・・布団に近い感触に涙が出そうになる。


顔のすぐよこでホルスが毛づくろいを始めた。こいつもマットが気に入ったようだ。今日はぐっすり眠れそうだ・・・


次いでピュロスが横に来て川の字になる。


「おやすみ。」


「では、休ませていただきます。」


「おやすみ、ご主人様。」


すぐに両側から寝息が聞こえてきた。


・・・


自分の両側から女性の香りがする。


・・・


意識したら眠気が遠くなった。


・・・


え・・・ボクの手が勝手に動き始める


・・・理性ではいけないとわかってるんだが


・・・止まらない。


右手はじわじわと、女性の胸に向かって移動していく。


まずい・・・あと、ちょっと・・・


=ニャア=


じわじわと動く手を、何かの遊びだと思ったのか、ホルスが両前足でピョンと跳び抑えた。


その瞬間に一気に頭が冷静になる。


やばい・・・寝てる女の子に手を出そうなんて最低の行為だ。


そのままホルスとで遊ぶ。


ホルスの体から甘い香りが漂い始め、女性の匂いを消していく。


(サンキュー ホルス)


僕の感謝をよそに、ホルスは指と遊ぶのに夢中のようだ。


その時に外でけたたましい音が響いた。


=カン・カン・カン=


金属の板を思いっきり木槌で叩いた音だ。


一瞬でコリーダが跳ね起きる。


「敵襲です。ご主人様!」

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