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春秋戦国

李伯陽は老子、孔仲尼は孔子のことです。BC480年代だとこの二人やピタゴラスとドンピシャに時代が会ってしまいます。ちなみにアーシアはBC492年のデルフォイに出現しています。

クレイステネスの問いは部屋の隅のような暗く重い沈黙をもたらした。

窓のないギリシア風建築では室内の明かりは炎頼みだ。

揺らめく炎がパチパチ爆ぜる音とジッと虫が飛び込み燃える音が響くほどの静寂が室内を満たした。


クレイステネスは目の前の少年を見ていた。

神が自ら手を染めたような容姿、彼を恋人にできるなら、同じ重さの金貨を積むものもいるだろう。

彼にその気がないのは幸いだが・・・

それとデルフォイの神官長から知らせてきた経緯を合わせると、本人は気付いてないが、まさにポリスひとつ分の価値があるといっても良い。


ラケダイモンに金貨は意味がない。富や知識も彼らの価値観にはそぐわない。

それゆえに(アーシアは危うい。

権力の危険性と強引さを知ってはいないようだ。


クレイステネスは15年前に陶片追放を制定すると、自らを追放させるように市民を誘導した。


狙いは二つ。


一つは陶片追放の厳格化による僭主の出現の防止。


もう一つは自分をアテナイから穏便に引き剥がすためである。


前者は言うまでもない。

あのクレイステネスですら従わざるを得ない法ということで、法に権威を持たせることができる。


後者は、あれだけの大規模な改革をした以上、多くの貴族から恨みをかった。

そのため身の安全から長期間アテナイを離れる必要があった。


それと、そのあいだに外の世界を見てみたかった。


幸い、誘導はうまくいって私は追放された。

その後の自由な気持ちは、なってみなくては、わからなかったものだろう。


本当に追放の期間は楽しかった。

金銭的にアルクメオン家当主が困るはずもなく、自由きままに動き回われた。


まず、サモスのピタゴラスに会いに行き、数式と天文について語り明かした。

その時にの星座の話になったが、当時のピタゴラス教団では地球を半周すると夏と冬の星座が入れ替わるかどうかが論争になっていた。

結論から言えば入れ替わらないという推論になっていたが、確かめられたことはなかった。

ならば、それを確認してくる。そんなきままな理由から、私は東に行ってみることになった。


ちょうどペルシアではダレイオス1世がペルセポリスを造成していたので、その物資を運びながら東に向かった。

ペルセポリスにつきしばし滞在しながら、香辛料や絹の商人を探し出すことで、私の旅はまだまだ続いた。

ペルシアを抜け属領のガンダーラを越えて、最後には中華に至った。

そして周の地で李柏陽に会い、通詞を通じて、彼にヘレネスやその周辺国について教えた、その代わりに守蔵室の書物を講義してもらった。

その時に一緒に孔仲尼が教えを受けていたが、彼からも音楽の手ほどきを受けた。


その後は呉に渡り、その地で灰釉陶器に出会った。

アテナイと違い、釉で模様を描く技法は新鮮であり、その技術はすぐにアテナイに送らせた。

今や、それが改良された赤絵陶器となって一世を風靡している。

また、この地で雷門と呼ばれる模様が使われていたので、赤絵にも採用したがなぜかメアンドロス模様と呼ばれるようになった。

その由来は私にもわからない。


そして天文観測をしてピタゴラスの推測を確認したのちに帰途についた。

その時に多くの穀物や文物を持ってきた。

それはうまいものが食べられる楽しみを知ったからだ。


中華ではこちらよりもはるかに食文化が華やかだった。

それを再現すべく材料の栽培から始めてはいたが、まだわずか5年。

残念ながらアテナイではまだまだ文化といえるほどの料理はまだ育っていなかった。

やはり美食は肉体の快楽としてエロスに含まれるギリシア文化が妨げになっていたのであろう。


しかし、デルフォイでの彼の料理法、油の使い方や味付けはその中華の料理法ですらなかったものだ。

おそらくその発展形だろう。

となると、彼は中華より発達した文化の地域出身になる。

しかしその外観はどう見てもヘレネスのドーリア人の少年。


・・・


「それはボクが知りたいです。」

クレイステネスの質問はボクが一番困っている質問だった。

ちょっと前なら日本人で未来から来たと答えられたであろう。

しかし、今は自分が重度の中二病患者で、ありもしない日本という国を設定して、それを信じ込んでいる・・・と考えたほうが収まりが良くなってきている。

設定が詳しすぎるのと実感が強いことのを除けば、そのほうがよほど現実的だ。

「断言しよう。君はこの人間世界の存在ではありえない。」


…だからクレイステネスの次の一言は迷いを払ってくれる、救いの言葉に聞こえた。


「私は西はヘラクレスの門、東は中華の都に至るまで世界をさまよった人間だ。だから断言できる。君のような知識をもつ人間に出会ったことはないし、ましてや外観がヘレネスということはあり得ない。だから聞こう、君は誰かと?」


中華からスペイン、ジブラルタル海峡まで旅した人間・・・つまりユーラシア大陸横断したのか。この時代に・・・何年かかったんだろう?


「ボクには2000年後の日本という国で生まれ育った記憶があります。証明はできませんが・・・」


「nihon人?なるほど聞いたことのない地の名前だ。そこは中華より遠いのかね?」


クレイステネスは時間のことよりも地理のほうを気にしていた。


「中華よりさらに東で、蓬莱とも呼ばれた地域です。」


「蓬莱?・・・知っているぞ、その名前。李柏陽が教えてくれた書物にあったな。確か仙人の地とか。」


俺は驚愕していた。なんでギリシャ人が仙人の話を知ってるんですか?


というかクレイステネスさんって・・・どこまで博識なの。


「ということはあの文化圏か・・・食料品といっていたが中華の醤について知っているか?」


醤って味噌?それとも塩辛?どっちだろう。


「大豆は用意できたが醤がうまくできない。何か、いい手があれば教えてほしいのだが・・」


・・・大豆・・・味噌か。


記憶が確かなら欧州にまだ大豆は伝わってないはずだよな・・・うん・・・ローマ帝国でもまだ大豆は来てないはず…ということは・・・歴史がずれている!?


「他にも米や桑、蚕など、いろいろむこうの作物をもってきている。気候の関係で北アフリカやイベリア半島でも育ててみているが・・・」


ちょっと待て、それって絹や米作を持ち込んだってこと。


「うまい利用法を教えてほしい。」


貪欲な知識欲が招いた結果なのか、神の悪戯か?クレイステネスさんがやらかしたことは大事おおごとのような、そうでないような・・・まったく、つかめない。


はっきりしているのは、もしこの時代からら水田や根菜の普及が始まると、欧州世界の未来が変わるのだけは確かだ。


教えても大丈夫なのか?

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