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ヘラクレイトスとクレイステネス

アーシアの改革と違って魔術がないんでヘラさんがおとなしいです・・・。クレさんはどうなるか。

もっともおとなしいのは最初だけ、という気がしますが。

「あちらのヘラクレイトス殿に挨拶に行ってきますので、ちょっとお休みください。」

周囲の皆にそう告げるとギョッとした雰囲気が起きた。

なんだろ?

「アーシア殿はヘラクレイトスを知っておいでか?」

ダモン神官が尋ねてきた。

「名前だけです?」

そう告げると、ヘラクレイトスに向かって歩き出した。


なぜか、モーゼの海割のように前方の人が避けていく。

おまけに痛いほどの視線を感じる。

別に俺を恐れている雰囲気はない、むしろ楽しみでワクワクしている感じが強い。その証拠にあちこちで小声で何か話し合ってる。

内容は・・・ざわざわと音がするだけで、数百人以上に同時にやられると聞き取るのは無理です。


俺が近づく間、ヘラクレイトスはその場にあった木箱に腰かけている。

こちらには気づいているはずだが、視線を合わせようともしない。


「お初にお目にかかります。デルフォイの巫女をしている、アーシア・オレステス・アリキポスと申します。ヘラクレイトス様でしょうか?」


声をかけられた後、ゆっくりと振り向きながら、わざと驚いたふうに


「おや、馬の荷物に声をかけられるとは変わった日もあるもんだな。」


と返答してきた。


・・・


「馬の荷物ですか?」

「あたりめえだろ。だいたいその二本の脚はなんのためについてんだ。つかわねぇとブクブク太ってアレオパゴスにいる禿と一緒になるぞ。」

「アレオパゴスの禿?」

「ほれ、あれだアルコンとかやってる連中だ。評議会とかなんとかいってグダグダいってる連中よ。」


アルコンって司法官だよね、10人の国のトップ・・・もともとは王と貴族だったっていう。

この時代によく堂々と批判できるもんだ。


「そもそも、巫女なんて、男が、なにやってんだい馬の荷物?」


名前、馬の荷物で決定のようです。


「気が付いたら神託してまして、そのままなし崩しに・・・」


「し・ん・た・くぅーー?」


ヘラクレイトスは本当にいやそうな顔をした。


「べらぼうめ!いもしねぇ神様が何ったってんだい!まったく神殿の奴はこれだから。」


驚いた。不敬罪で捕まるレベルの暴言だぞ。


「神がいるかどうかはわかりませんが、神の意志で犠牲が少なくなるなら、いた方がいいでしょう。」


その言葉を聞くとヘラクレイトスはまじまじとこっちを見つめた。

なんかすごい真剣だ。

間違ったこと言ったら怒鳴られそうな雰囲気。



しばらく無言で見つめられた後、ヘラクレイトスは安心したのか落胆したのか、どちらでも取れるような表情になって力を抜いた。


「うん、わかった。おめえはほんもんだ。なにか用事があったんだろう。アー・・・?馬の荷物。」

「アーシアです。」

「わかったアーシア。用事を言え。」


「クレイステネス様にピューティア大祭のことで相談に参りました。お口添えをお願いします。」


「ピューティア大祭?」


「デルフォイではオリンピアに匹敵する祭りにすべく4年に一度、運動競技も取り入れた祭りにする予定です。その際にお知恵をお借りしたいということでやってまいりました。」


その話をきくとヘラクレイトスは微笑みながらボクの後ろの方を眺めていた。


「まあその話はここじゃできねぇし、たぶん口添えもいらねぇと思うが、連絡先はアポロン神殿でいいか?」


「はい。それでお願いします。」


礼を言うと、そのまま食事で座った場所に戻る。


そこでは見知らぬ老人とピュロスが話していた。


「よお、馬の荷物」


開口一番の老人のセリフがこれである。


「・・・馬の荷物ですか。」


「アーシア様、こちらがクレイステネス様です。私がアテナイにいた時にお目にかかったことがありましたので、話しかけていただきました。」


この人がアテネ一の大富豪アルクメオン家の出身・・・とてもそうは見えないけど。


ああ、だからヘラクレイトスさんが口添えいらないって言ってたのか。


あれ!?


そういえばクレイステネスの改革って教科書に載ってたような気が・・・


「クレイステネス様も昔はアレオパゴスで、いろいろなさっていたと聞きましたが?」


「べらんめい、昔の恥ずかしいこと持ち出して、老人をいたぶるんじゃねえや。誰だって忘れたい失敗くらいあるわな。その辺をちゃんと親御さんに教えてもらってねえから、馬の荷物なんだよ。」


すげー、この人もべらんめい調だ。でも「あの」クレイステネスだ。


=クレイステネス=

恐怖政に至った僭主ヒッピアスをペルシアに追放し、

陶片追放を制定して僭主の再発防止策を作り、

アッティカ四部族を再編し一〇部族を作ることで貴族政を崩壊させ、

五〇〇人評議会を作り上げ議員を抽選で決めるようにした。


あのクレイステネスが・・・

東京の下町のおっちゃんみたいな人物だとは思わなかった。


たしかに、不自然なほど人物像や改革後の業績が記されていないとは思っていたけど、まさかこんな理由とは思わなかった。


でもわかる気はする。

この後出てくるソクラテス学派やプラトンとかの選民思想とかから考えると、こんなおっちゃんに民主主義作られたとは書きたくないよなー、で、きっと書かんかったんだろうな。


だから残ってないと、うん納得。


「申し訳ございません、クレイステネス様。古い事績を恥じているとは知らなかったもので失礼しました。」


「おー、謝ればいいやな。で、何の用だ、馬の荷物。」


馬の荷物は変えてくれないのね。


「デルフォイのアレティア巫女長からお挨拶に伺うように言われました。」


「なんでぃ、れいでぃアレティナの紹介かい。そいつぁー悪いことしたな。」


あ、態度が変わった。


「アーシアだっけ。おめぇさんゼウスんところに牛置いてくるんか。んじゃ一緒に行って、その後にでも案内するわ。」

・・・要件、まだ言ってないけどいいのかな?


まあいいか。とりあえずクレイステネスさんとゆっくり話ができそうだし。


出発の号令をかけた。なんか「馬の荷物」と言われつづけたのが気になったので馬の手綱を引いて歩いていく。


横でピュロスが小さく吹き出した。そっちを見ると慌てて謝ってきた。


「申し訳ございません、アーシア様。でも・・馬の荷物と呼ばれたときの表情を思い出してしまって・・」


「おー、謝ればいいやな、っていうだろうね、あの人なら。」笑いながら目線を向ける。


「はい、感謝します。アーシア様」ピュロスも微笑みながら答えてきた。


「ピュロス、ご主人さまに気安いです。」すぐ前からコリーダが突っ込む。

いつも言われてるからなー、「気安い」って。


しかし予想以上に面白い人物だなクレイステネス、この人に弟子入りしてもいいかも。

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