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テーベへの道

本編では書いてなかった誘拐の状況です。

人気のないところで一晩中ソーセージ燻蒸したら狼は寄ってくるし、盗賊も見つけますよね。

危機感のない主人公の自業自得でした。

「それにしても、何もないなー」

デルフォイからテーベへ行く道は野原の中にある、幅1mほど草のない地面が目印だった。

「陸路って聞いたとき轍の跡ぐらいは想像したんだがな。」

デルフォイを出て3日この辺になると、もはや民家もなく大自然の中を一本の道が通っているだけだ。

「この道はまだ人通りが多いのでしっかりした道がついています。中小のポリスに向かうには獣道のような道を見極めてすすむ必要があるので、目的ポリス出身の道案内を雇うのが普通です。」

ピュロスの講義が始まった。

「この道でも雨が降ればぬかるむので荷馬車は使えません。轍の跡がないのは当然です。荷物が多い時にはロバに積んで移動します。私たちのように。」

そうボク達も馬車ではなくロバに荷物を積んで旅をしていた。

この3日ですれ違ったのは4組、すべて商人ではなくデルフォイへの巡礼だった。

「商人を見ないんだけど・・・?」

「商人は普通海路で行き来します。詰める量も速度も船の方が上なので、運賃が割り安になります。」

ああ、そういえば地中海では下駄代わりに小舟を使うという話を聞いたことがある。

ギリシア人やフェニキア人ならそっちの方が自然か。


それにしても道以外何もない。昨晩は野宿だったし、これから先3日ほど野宿の予定だ。

巡礼の人たちが山のよう荷物を背負って歩いていたのも納得できる。


午後に入り、道のわきに泉が湧いている場所を見つけた。

周囲には焚火の燃え跡など夜営の痕跡が残っている。

この水は大丈夫そうだ。

ちょっと早いが今日はここで夜営することにして、テントを用意する。


「ご主人様、ちょっと夕食の材料を集めてきます。」

そういうとコリーダは森の方に飛び込んでいった。

昨日も鳥と兎と野草を持ってきてくれた。

今日は水場もあるのでミートパイを焼いてもいいだろう。

そう思って小麦粉とラード、塩を出してラードをバター代わりにパイ生地を練り始める。

ピュロスが代わろうと声をかけてきたが、パイ生地はパン生地とは練り方が違う。

見て勉強してもらい次回からということにした。

ラードをつぶさないように小麦粉をまぶす感じで徐々にざっくりと丸めていく。

あとは革袋に入れて泉で冷やす。

冷やしている間にピュロスと一緒に薪を拾いに行く。

森の方に行くと折れている木や朽ちている木があるので、焚き付け用の枯葉や小枝も大量に集める。

オーク、イチイ、楓といた木がメインで常緑樹はほとんど見当たらない。

それと高さが低く20mを超える木はほとんど見当たらない。

山の上の方に行けばダグラス松は90m以上あるものもあるとは聞いているが、わざわざ見に行くほどのもでもない。近くに行ったら覗いてみよう程度のものだ。

燃料を集めたらかまどを作り、二人がかりで動かせる石を上において、かまどに火を熾す。

パチパチいう音と焦げ臭いにおいがあたりを漂う頃には十分に石も熱せられて、パン釜代わりに使えるようになっている。


ほどなくコリーダが戻ってきた。

期待に違わず、兎を2羽抱えている。

腰の袋からは大量の香草が顔を出している。

ぱっと見、タイム、ローズマリー、ディルといったところか?

めったに人が入ってこないせいで楽に採取できたそうだ。

泉を使って兎をさばいて血抜きすると、タイムとタラゴンを刻んだ玉ねぎと一緒にお腹に入れ

塩を全体にまぶしてから、パイ皮で包んで石焼にする。

ほかに周辺から野蒜やコリアンダーが取れたので、ワインピネガーとオリーブオイル、塩でドレッシングを作り、サラダにする。

ついでに兎の腸を使って内臓や血、タラゴン、セージ、野蒜を混ぜ合わせ、ソーセージを作ってみる・・・燻蒸は石で組み立てた窯に、砕いた朽木とどこにでもある月桂樹の葉を組み合わせてスモークした。

これが、うまくいくようなら今回の旅で肉の手に入らない時でもおいしい食事が出せるようになるし獲物を捨てる部位が少なくなるので食糧事情も改善できる。

うまく燻蒸が進みそうだったので、明日の朝まで燻すことにして、交代で休むことにする。

夜間の見張りは二人が譲らないため、ボクは早めにテントに引っ込むことになる。


その日の夜だった。

森から狼が現れ、ボクはさらわれることになった。


満月が中天に輝くころ、狼の遠吠えがやけに響いていた。

テントの中のボクは念のため火を増やすように指示しようかと体を起こした時だった。

外からキャーンという犬のような悲鳴が聞こえた。

考えるまでもない、狼の襲撃だ。


「大丈夫か!」


テントの外に飛び出そうとして、あわてて転がり出てしまった。

外ではピュロスが弓を放ち、コリーダが次々と狼を切り付けていた。


「彼女らはテントを背に戦っていたので、すぐボクに気が付いた。」


「ご主人様、中に。」

「アーシア様、中に。」


二人はテントに戻るように勧めるが、いったん見てしまうと中に入って見えなくなるのは余計に不安だ。


あたりを獣臭いにおいと血の匂いが充満した。

そんな中、すでに10匹以上に狼の死体が転がっていた。


「満月ですので見つけやすくて楽です。」

弓を放ちながらピュロスが話かけてきた。

余裕があるな。と思った時だった。


返事をしようとしたボクを誰かの手が塞いだ、小便のようなすえた臭いが鼻に潜り込んでくる。

絶対風呂に入ってないと確信できる体臭だった。


そのまま別の人物に足首をつかまれると、テントの裏側を通って運ばれていく。

声を出そうとする前に無言でナイフを突きつけられた。


「アーシア様、テントに戻られましたね。」


ピュロスが尋ねる声が聞こえる。

そうじゃない、今さらわれ中と言いたかったが、いえば命が終わる・・・


当たり前だがパン屑も小石も持ってない。

どうしようもないまま森に運びこまれていった。

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