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旅立ち

デルフォイ編終了です。次章はアテナイ編になります。

閑話で本編で省いていた旅の話を入れる予定です。

あと、この頃のヨーロッパにはまだライオンが残っています。ヨーロッパライオンが絶滅するのはこれから500年後です。


クニドスの聖域に入ると石の階段を登っていくと、後ろから息を弾ませたコリーダが追い付いてきた。

「アレティア様、警備の方は解散して通常業務に戻しました。」

コリーダの報告に対しアレティア巫女長は軽く頷くだけで、特に言葉はなかった。

ついボクの口から普段の言葉が飛び出す。

「ご苦労様。」

ボクの言葉にコリーダが驚いている。

アレティア様も驚いている?

奴隷にねぎらいの言葉って変なのかな?

どうもいろいろ教えてもらわないといけない。


館に入ると中庭のぶどう棚の下のテーブルに案内された。

ここで、薄く水で割ったワインと干しブドウのつまみで一息つく。

ブドウの葉が作り出した影が一服の涼気を作り出していた。

南からの風が薄く浮いた汗を乾かしてくれた頃だった。


「アーシア、あなたはギリシアの常識を少し勉強する必要があるわね。」

一緒に席についていた巫女長から苦言に近い口調での提案があった。

「身内だけならともかく奴隷に甘すぎるのを見られるとと尊厳にかかわるわ。」

確かにこの時代の常識というのは全くない。

「基礎的な礼法はできているようなのに、なぜ奴隷の扱いができてないか疑問ですが?」

アレティア巫女長は少し考えたあと、

「基本的なことはコリーダに習ってください。それと機密事項についてはピュロスを差し上げますので相談しなさい。」

「そういえばコリーダの所有者って誰なんですか?」

巫女長のコリーダとピュロスの扱いの差に気付いて確認してみた。

「コリーダはデルフォイ神殿の所有物です。いうなれば奉納された石像とかと同じ扱いになります。」

その所有権は神官長と巫女長が合意すれば神殿以外に移行できるらしい。

今回は望めばボクの専属にすることも可能だそうだ。

「明日巫女長になったら神官長に話せば問題ないでしょう。」

そこまで聞いたところで考えていたことを話す。

「旅に出ようと思っているのですが・・・」

「旅ですか・・・?あなたが神託しないと巫女に神託させることになるのですが、それとピューティア祭の料理指導はどうするつもりです?」

アレティア巫女長は厳しい顔で問い詰めてきた。

「それは、アポロンより”汝自身を知れ”との神託が出たことにして3か月ほど修行に出ることにします。実際、今のままでは他のポリスの知識が不足しすぎています。」

困ったことに、この時代の常識はポリス間で異なる。実際に現地で見聞きした方が早く身につくだろう。

「ピューティア祭については、デルフォイの食材だけでなく他の地域の食材についても調べて組み込みたいと思います。」

そこまで聞いたアレティア巫女長は渋い顔で頷いた。

「そういうことなら3か月だけ猶予を与えましょう。ただ、マリアは次回の情報交換はいつと言ってました?」

「コリントスのアポロン神殿で2か月後の正午と聞いています。」

「それには出てください。」

「わかりました。」


実はデルフォイの神託というのは結構休みの日が多い。

冬はアポロンが極北のヒュペルボレイアスの地に出かけるため、デルフォイでの信託はヂュオニッソスが行うし、アポロンの機嫌が悪い日も”信託は降りなかった。”で済ませることができる。

この辺は石油性ガスの噴出と大きな関係があると疑っているが、できれば巫女に確認させるようなはめにはしたくない。

それからいけば3か月というのは、新巫女長の特殊性を考えれば周囲を納得させるのは難しくはないだろう。


「どこに向かうつもりですか?」

「とりあえずアテナイを目指すつもりです。」

・・・アレティア巫女長は少し考え込んだ。

「料理人のドロンがアテナイの出身です。彼に休暇を与えてアテナイにむかわせますので

アテナイで料理を教えることはできますか?」

「たぶん可能だと思います。」

こちらとしても、素材や調理方法を知っている料理人の協力は必要不可欠と思っていたところだ異存はない。

「では、十分に気を付けて。路銀は用意してピュロスに持たせます。」

「重ね重ねありがとうございます。」

ここにきてアレティア巫女長は寂しげにほほ笑んだ。

「いいのです。私も生まれたタラントからデルフォイに船旅で来たことがあるだけで他の地は知りません。戻って来たら、お話してください。」

その後小さな声で・・・若ければ私もついていくのですが、とつぶやいた。

その後で顔を引き締めると

「旅は危険です。コリーダを護衛につけますが、十分に注意してください。」

警備兵を他に10人ほどつけてくれる話も出たが、それではポリスの実情を知るのに警戒されてしまうということで、断った。

・・・単にまだ自分の護衛というものに馴れていなかっただけなのだが。


ボクはその後、神官長を訪れて、アテナイ行の相談をした。

彼は非常に喜んでくれて、何名かの有力者への紹介状を用意してくれることになった。

またコリーダの所有権を神殿からボク個人に移動させることになった。

彼曰く・・・そうでないと安心して旅で使い捨てられないだろうとのことである・・・

使い捨てって・・・なんで捨てる前提なんだろう?


この辺り、まだボクの危機意識が甘かったと知るのは後日である。


路銀のほかに予備の財産として、薬草と調合した薬をいくつか持っていくことにした。

自分で使ってもよし、売ってもよしなので、配合を書いた巻物スクロールと一緒に持っていくことになる。


こうして旅の準備を整えたボクがデルフォイを出発したのは10日後、その間に神託を2度行って2度目には”汝を知れ”の神託を出している。

これで公的に出発する準備もできた。

巫女長の地位は帰還後の移譲ということにして、ロバに荷物を積み、初夏の風の中、ボクらは陸路でアテナイを目指すことにした。


まずは途中のテーベに立ち寄り、標準的なポリスを知る予定である。


コリーダは非常に楽しそうではしゃいでいる。狩なら任せておけと言っていた。・・・ただ以前狩った内容がライオンとか言っていたが・・・ヨーロッパにライオンっていたっけ?

ピュロスは静かについてきている。

ときおり街道沿いに薬草やハーブなどを見つけてはボクに講義してくれる。

そうするように頼んだからだが、コリーダに比べると態度が固い気がする。・・・というかコリーダの方が砕けすぎなのかもしれない。


この辺はこの旅でおいおい判断していこう。


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