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エロスとアガペー

色々と読んでくうちに古代ギリシアの恋愛観が微妙にねじ曲がってきました。(笑)

神話の神様が男色を隠さないので問題はないのでしょうが・・・プラトン出現前なのでプラトニックラブという言葉がつかえないのが作者の精神を徐々に病ませています。



市場の一角にレンガで組まれたコの字型のかまどが据え付けられ、横にテーブルと椅子が置いてあった。

かまどにはすでに火が入れられ、大量の薪が燃えており、天面の網に乗せられた鍋の中ではお湯が沸騰していた。


その横でアイオス神官長が恋人のプトレモスを連れて立っていた。


「アーシア、こちらだ。」

アイオス神官長からお呼びがかかる。


「アイオス神官長、本日はお呼びいただき誠にありがとうございます。」


とりあえず挨拶するが心の中はガクブルである。

だってプトレモスが、無表情のまま、じっとこっちを見て目を離さないんだもの、目から真っ黒いオーラが噴き出てるようだ。


「ここでは私人だ。アイオスでよいよ。こっちはプトレモス。私の大事な若き友人だ。」

友人?その紹介にプトレモスの目に雷が走った。


「アイオス。その言い方でなくストレートに恋人と紹介してくれ。」

恋人・・・どっち?

「すまないね、アーシア。若き友人というのは年寄りの使う、恋人の隠語だ。彼からも、せがまれてるし、改めて、私の恋人のプトレモスだ。」


そういわれると、つんとしていた表情を少し緩めた・・・ツンデレでしたか、このプトレモス

噴き出る暗黒オーラが少し減少したようだ。


「アーシア殿、プトレオスだ。では、よろしく頼む。」

?、なにをよろしく頼まれたのかわからないんで、うかつに頷けないんですが・・・


「こらこらプトレオス、その言い方ではアーシアが何もわかるまい。ちゃんと説明するから待っていなさい。」


アイオス神官長の説明を要約すると、

・昨日の夜は一緒にいる日だったのに、一晩中神殿から帰ってこなかった。

・新しい巫女が若い男で非常な美形だと聞いた。

・朝になって戻ってきたアイオス神官長に、そこを問いただしたら巫女との恋愛関係は否定され、見たこともない料理を作る巫女なので、その料理が神殿の名物にできないか巫女長と朝まで相談していたと弁解した。

・そんな料理なんかで朝まで話し合うなんて信じられないという、プトレオスに、信じてもらうために今日の夕食に一品作るようお願いした。

・食べさせる相手を知っていた方がいいと思い、この場を設けた。


以上である。


簡単に言うと・・・男同士の浮気を疑った痴話げんかに巻き込まれた・・・


思わず絶句しそうになった。なかなかない経験だと思う。


とはいえ、材料は買ってきているのでちょうどいい、夕食といわず昼食で作ってしまおう。うん、そうしようそうしよう。

・・・夕食でまたかかわりたくない。


「アイオス様、材料は買ってきましたので、新鮮なうちに料理します。昼食でもよろしいですか。」


アイオス神官長は嬉しそうに頷いた。まあ夕方までツンされたくはないわな。

コリーダにお願いしてクニドスの館まで足りない材料を取りに行ってもらう。


まずタコを塩でもんでぬめりを取り去る。

今回使うのは足なので吸盤もきれいに塩で洗った。

次いで足の方からお湯に入れ、くるんと足の巻いた茹でダコを作り上げる。この時点でアイオス神官長もプトレモスも驚いていた。

小声で湯につけるだけで、なぜ足が巻くんだろうとか言ってる。

次に足を長さ5cm程度に切り、そこらにあった月桂樹の枝を串に加工して、同じく5cmの長さに切ったポロネギと交互に刺していく。

次に溶き卵に入れパンを細かく砕いた粉をまぶして、熱した油で揚げる。


・・・タコの串カツである。


ジューシーなタコと甘みの聞いたネギに合わせるソースは魚醤ガルムソースと蜂蜜、クミンの和風バージョンと、昨日の残りのタルタルソースを館からもってきてもらった。

付け合わせに芥子菜の種から作った辛子を皿のよこに添える。

湿布薬を食べるのか・・・というアイオス神官長のシュールな声が聞こえたが無視しよう。


串自体がローリエの香りを放つので予想以上に香りの立つ一品になった。

コリーダに味見とソースの調整をお願いしている間に、もう一つの料理に入る。


横でアイオス神官長から各ポリスにおける恋人関係について講義してもらっていた。


プトレモスもボクがスパルタ王家の出身だと聞くと、一気に疑いを薄めたようだ。

スパルタンに男色はない、という珍しい風習は広く伝わっているようだ。


アテナイにおける恋人とは男同士で生活を共にして、仕事の相談や、生き方の指導を受ける師弟関係に近いものまでが恋人の役割で求められる。

もちろん肉欲エロスの処理も入るのだが、それがメインというわけではない。

人生経験を分け合うということで、老いた者が若い者を指導し、人間形成を助けることで楽しみを得る。ということでアテナイでは老人と若者がベストカップルといわれるらしい。


テーベでは恋人同士は同じく人生を分け合って過ごすが、アテナイに比較して、幼年期にパートナーを得ることが推奨されている。

そうなると青年期には相手が老人だと死去することが多いので同年代の幼児同士で恋人になることが多い。

二人で無事に成人すると国の誉れである神聖隊入隊を目指すことになる。

この入隊試験は壮絶であり、肉体的なものだけでなく美男・美女からの誘惑を含む精神的なものまで試験される。

そして晴れて合格するとテーベの誇り、ベストカップルと認定されるのだ。

何しろ毎年15組しか合格しない難関である・・・二人で競い合い励ましあって特訓を乗り越え愛をはぐくんでいるのだ。



アイオス神官長のあつい口調の話を聞きながら、商人のメデスに連絡して栗を持ってこさせ茹でる。

次に茹でた栗の皮を渋皮ごとナイフでむき、つぶす。


そこに山羊乳、小麦粉そしてフェンネルとフェマグリークで甘い香りを調えて、蜂蜜を混ぜた後に四角く形を作って一気に蒸し上げる。

蒸し器はないので鍋・ふたと網の組み合わせで何とかごまかす。


羊羹風に仕上げたものを薄く切り、粗熱を取ったとあとにデザートとして出すつもりだ。


すでに串カツは作った分すべて消えていた。


「ふー」

やっと一息入れた時には周りは黒山の人だかりだった。


ボクの料理が目当てかアイオス神官長の熱弁が集めたかはわからないが・・・


最前列には、あの栗商人メデス君がいた。

ちょいちょいと手で招いて、一切れ味見させる。

陶然とした表情でどこか遠くが見えているようだ。


「ここにある料理が栗の試食品でいいかな?」


メデスのうなずきと同時に歓声があがる。


周りの人達へ、さらに小さく切った羊羹を試食してもらう。

ついでに作り方を聞かれたので、コリーダに説明させた。


一気に栗屋の方に人が移動した。これで栗の売り上げは大丈夫だろう。


「さて、アイオス様。こんな感じで疑惑は晴れたでしょうか?」

肝心の話だ。


「ああ、また昨日とは全く別の味だが旨い。プトレモスも納得しただろう?」

羊羹を食べながらアイオス神官長がそういってプトレモスの方を見る。


プトレモスも陶然とした表情になっているが、視線の先にいるのは・・・俺だ・・・


その様子をみてアイオス神官長はニコニコと微笑んでいる。


「プトレモス、わかったならアーシアに謝罪しなさい。」

「はい、アイオス様。アーシア殿まことに申し訳ございませんでした。今日の食事、まさに天上の神々にささげるにふさわしい味でした。いったいどこで身につけられたのか。今度お教え願いませんか?」


さっきまでとは違う真剣な目でこっちを見据えて離さない。

俺の態度にちょっと脅えがはいったせいだろうか。アイオス神官長からフォローが入る。


「アーシア、プトレモスはアガペーには貪欲だが肉欲エロスには無欲な男だ。そう警戒しなくていい。」


愛に貪欲って段階で日本人的には危機を感じるんですが。

この時代のアガペーって純愛というか敬愛というか精神的な愛を示すらしい。エロスが行為コミね。


で、アイオスとプトレモスは深いアガペーでつながっていて、エロスは手を握る程度で十分だそうで・・・ある意味清い関係なのかな?


まあつまりプトレモスは、俺に対して料理で尊敬してしまい・・・敬愛のあまりアガペーが・・・ノオオオォーーー。


巫女長との約束を盾に急いで聖域に戻ることにした。


もちろん栗の苗はメデス君から1束もらった。たぶん10本位だと思う。

引き続き、今後も持ってきてくれるように、お願いしたので、金策考えないと。


栗って一本から最大で4-5kg実が取れるから・・・結構収率いいな。


さすが縄文人の主食。


桃栗3年っていうみたいに3年目から取れ始めるらしいし、聖域にでも植えておくか。

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