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狼(リュクルゴス)の遠吠え

いよいよ改定前との分岐点です。

リュクルゴスの改革前夜の部分に入ります。

人類史や宗教まで巻き込んだトイレの消去理由に呆然と打ちのめされていた。


トイレが消えたことにここまでヘビーな理由があると想像できる奴がいるだろうか!


できれば、知りたくなかった。


しかし天文板にロトの紋章と名付けられているのは、ちょっとツボにはまった。


ソドムとゴモラの天罰から逃げ出せたのはロトの家族だけだったことにちなむネーミングだろうが、某国産RPGを思い出してしまった。


気付くと目の前に冷たいミントティーが置かれていた。


一気に飲み干すと考えるのは後回しにする。


「よし、次、行きましょう。」


腹の底に力を込め、巫女長をじっと見る。


「決めるの早いのね。」


アレティア巫女長が微笑みながら褒めてくれる。


「いやなことから済ませた方が後が良くなるっていう人生経験からです。」


まあ親父の口癖だが・・・


「そう、いいお父上を持ったわね。」


え、心でも読まれた?


「読心術はできないわよ、人生経験で表情から考えたことがわかるだけよ。」


それを読心術というのではないでしょうか・・・


「さあ、始めましょう。」


そういうと巫女長は、羊皮紙を広げ始めた。


「今度は250年前からスパルタを見てもらいます。ここの巫女のほとんどがスパルタ出身なのは話したわね。その原因のリュクルゴス制がどうしてできたのか。そして私の血も・・・お話しましょう。」


私の血?どういう意味だろう。元王族らしいけど


巻物スクロールが転がされ羊皮紙が広がっていく。


そこに書いてあったのは非常に詳細な線画だった。


描かれていたのは死体の積み重なった戦場だった。死体のほとんどは餓死寸前にやせ細っている。


血まみれで勝利の雄たけびを上げているのがスパルタ兵だろうと思う。


「230年前の第1次メッセニア戦争です。20年にわたる戦争の結果、この勝利でスパルタは自国の10倍以上の人口を奴隷ヘイロタイとして抱え込むことになってしまったの。この後のスパルタを見て。」


羊皮紙の続きには凱旋した兵士はメッセニアから略奪した物資と奴隷を連れ悠々とスパルタに戻る図が描かれていた。


この後がまずかった。二人の王の資質が違いすぎたのだ。


アギス家のポリデュロスは、奴隷に対してすら粗暴な振る舞いをせず理知的に話し、裁判にあたっては公正な王であったために民衆からの人気も高かった。

歴代王の中でも随一と評価される賢王である。


一方のエウリュポン家のテオポンポス王は特に劣った訳でもなく、特に優れているわけでもない、きわめて凡庸な王だった。


しかも第一次メッセニア戦争の第二次会戦で右翼を率いたが敗走し、ポリデュロス率いる左翼のみで戦線を維持して、引き分けに持ち込むという戦歴があり、常にポリデュロスよりも下に見られた。


「ごめんなさい、予備知識としてこちらの巻物を見て、戦争の初期のスパルタを理解しておいて」

こちらは文字で記録された文書だった。


文面を順番に追っていく。


この頃のスパルタは町全体が重苦しく静かであった。

新生児の出生がほぼ零になったのである。

理由は簡単で生殖可能な市民ラダケイモン男性のすべてが、メッセニア戦線に向かい1年以上帰ってこないからである。

特に、戦争開始から6~10年目は負けに負け続け、ラダケイモン兵士の帰還などという贅沢は不可能な状態であった。


そして、来るべき兵士の不足を懸念した長老たちがある決断をした。

それはラダケイモンの女性を半自由民ぺリオイコイの男性に嫁がせるということである。

もちろん嫁がせるぺリオイコイは戦役で活躍した兵士であることが条件ではあるが、生まれた子供をラダケイモンとして扱うことで兵士を補充したのだ。


後々大きな問題を発生することはわかっていたが国家の存続が最優先された。

女たちに選択の自由は存在しなかった。


結果として、それがなければ20年もの長期の戦争を支えることはできなかった。長老達はこの英断により権威が高まった。


そして第二次会戦の左翼の敗走である。

長老会はエウリュポン家のアレティア王女に対しぺリオイコイの配偶者との結婚を命じた。


双王は平等ということから王に対しての処分ができないために、王家の姫が犠牲になった形である。

そして以後、この家系から生まれた女性はアレティナの名を持ち他の王族とは一線を画されることになる。


(ここで生まれた王女が私の先祖・・・になるわ・・・祖母の代までは王族扱いしてもらえたの)


元の巻物スクロールの別の絵を指さされた。そこに描かれていた内容は難しく、アレティア巫女長の説明が必要だった。


その絵では第一次メッセナ戦争終了後のスパルタは今まで双王と長老でできていた権力の鼎状態が崩壊していた。


ポリデュロス王、長老会、テオポンポス王の順で序列が発生していたのだ。


このまま行けば王家と大公家のようにある意味、階級制度が進歩するかもしれなかったが、そうはならなかった。

テオポンポス王と戦争での褒章に不満のある帰還兵が結びついたのである。


それは帰還兵のかかわる裁判で特に露骨にわかった。

ポリデュロス王の場合は判例に基づくもので公正といえたが、テオポンポス王の場合は帰還兵に有利な裁定がでるのだ。

当然帰還兵は裁判の時テオポンポス王の裁定を望み、民衆はポリデュロス王を望んだ。


やがてそれは裁定に不満を持った兵士による、ポリデュロス王の暗殺という最悪の結果をもたらすことになった。

暗殺した兵士の処刑の前の言葉が残っている。


「俺の時にテオポンポス王の裁定ならこんなことは起きなかったのに!」


(彼の独善はともかくとして、この結果、完全にスパルタは無法状態に陥ったの。)


まさにこの後のスパルタは迷走を極めた。


アギス家、エウリュポン家、長老派、帰還兵団、それぞれが勢力争いに明け暮れることになる。

市民がどの派閥に属しているかはキトンの安全ピン(ボルパイ)に使う意匠や、肩飾りなどの装飾品でわかるようになっていた。


当然、メッセニアに対する統治も充分にできず、処刑部隊クリュプテイアによる恐怖政治での搾取地域と化していた。


(耐えきれなくなったメッセニア人が反乱を起こしたのが200年前、それは13年つづいたわ。)


第二次メッセニア戦争の結果、国土は荒れ果て、奴隷は逃亡し、スパルタは存亡の危機にたった。


「そしてリュクルゴスの改革が始まったの。」




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