トイレ再興を目指して
史実でもミケーネ文明ではトイレが有、古代ギリシア文明のみ、すっぽりとトイレがありません。この後はローマ文明なので水洗式完備になります。
なぜギリシアのポリスだけトイレが途切れているのか?
その謎を紐解きます。
もっともローマ帝国の後のケルト人もフランス帝国ではトイレを忘れてオマルに戻っているので欧州では不思議なことではないのかもしれませんが・・・この辺り日本人にはよくわからない感覚です。
聖域に入るとすぐに・・・もよおしてきてしまった。
昨日からしてないもんなー
「ちょっと、お花つんでくる。」
「はい、あちらのオークの木のあたりが良いと思います。」
通じたのかな?花壇に案内されたらどうしよう。
とはいえトイレ行きたいでは通じないし・・・
とりあえずコリーダに指示された木の方に向かうと、地面に木製のスコップが刺してあった。
周囲に藪があるわけではないが、ここがポイントになっているらしい。
スコップで穴を掘り、用をたし・・・お尻を拭く・・・あーーー紙あるわけないよな。ふと目に入ったのはオークの葉、結構大きい。これを揉んで使用する。
一緒に穴に入れ土で埋める。
うん、周りに丸見えなのを除けば、意外にまし・・・なわけあるかーーー
してる最中に虫は飛んできて刺すし、どっかから視線は感じるし、やっぱりトイレは必要である。改めて、力説しよう!!
用が終わってコリーダの場所に戻ると、すぐにピュロスがやってきた。
「アーシア様に巫女長からご連絡です。館に戻り次第お会いしたいとのことです。あと今日の昼食はアイオス神官長が会食を希望されています。」
要望を言ってる風に聞こえるけどこれは実質的に命令だよね。
逆らっても意味ないので両方承諾する。
ピュロスに続き、やや急ぎぎみで階段を登り、クニドスの館に着く。
結構な段数があったはずだけど息切れもしない。
やっぱり鍛え方が違うんだろうな、この体。
館の中はひんやりとして、お香として用いられているタイムの香りが漂う。
すごく落ち着く、街中どころか神殿より静謐な感じがする。
これはトップのアレティア巫女長の影響だろうか?
ともあれピュロスに連れられ巫女長の執務室に向かう。
「アーシア様をお連れしました。入室よろしいですか?」
ドアの前でのピュロスの声に、許可しますと中から声がした。
「では、どうぞ。」
そういうとピュロスは横にずれる。
俺だけなのかな?
「コリーダは水浴の準備を。私はここで控えています。」
一緒に来ていたコリーダにピュロスが命令してる。
やはり俺だけなんだね。
=ズズズ=
例のごとく引き戸を開けて中に入ると、巫女長が大きなクッションに座って待っていた。
「待っていたわよ。」
そういいながら自分の前の同じようなクッションを指さす。
言われるままにそのクッションに座る。
麻布に大量の羊毛が詰め込んであるようだ。ちょっと硬めだが案外楽である。
「一日中椅子に座ると腰がいたむの。」
なにか言い訳っぽい感じで巫女長が説明してくれた。
「気に入ったらあなたの分は部屋にもっていきなさい。」
「そうさせてもらいます。」
そう答えると巫女長は笑みを浮かべたになった。
「さて、時間もないので早速要件に入るわね。トイレの件だけれど、簡易式のものを明日までには用意できるわ。座って用を足すタイプで、中に便受けの桶がついているものです。場所は館の土手のすぐ下に設置するわ、もちろん周囲は囲んでおきます。」
・・・トイレ作ったのか・・・早いな。
ていうかギリシャにないはずのものをなぜ知ってる。
「あと内部に消臭剤の焼き貝殻粉を置いておくので、桶の表面に振っておけば匂いはしないはずです。」
・・・消臭剤まで・・・なんで知ってるの巫女長?
疑問が顔に出ていたのだろう。怪訝な顔で巫女長が俺の顔を覗き込んだ。
「どうかしたのアーシア?」
「なぜ、アレティア様はトイレを知っているんですか?」
ストレートに聞いてみた。
「知っていると変?」
「ええ、ピュロスもコリーダも知らないようでしたので、ポリスには存在しないものと思っていました。」
その答えに納得顔になる巫女長。ちょっといたずらっ子みたいな笑みを浮かべた。
「そうね。ヘレネスのポリスではトイレの概念はないわ。」
そこで口を閉じると、ちょっと間をあける。
「・・・でも昔のミケーネやティリンスを中心とするミノア古王国やクレタ島では1000年ぐらい前からトイレはあったの。」
昔はちゃんとトイレがあった?
「いまでも私の祖国のタラントのあるイタリア半島にはローマ共和国という小さな国があって、そこは見事な水洗式のトイレをもっているわ。」
・・・ローマ共和国・・まだ帝国になってない時期か・・・でも水洗トイレまであるんだ。
「なんでギリシャにトイレがなくなったんだんですか?」
その質問をすると巫女長はすごく真剣な顔になった。
「それはデルフォイの巫女の中でも中枢しか知らない話です。あなたはそこに足を踏み入れますか?」
なに、その大上段な感じ。トイレ消失ってそんなに大事件なの?
いや、大事件は認めるけど、これってトイレがなくなった理由が知りたいならデルフォイの巫女の中枢に入れってことだよね。
まあ、ここまで来てNoは言えんわな。
「お願いします。」
精いっぱい、顔を引き締め、真剣にうなずいた。
「わかりました。では話しましょう。」
アレティア巫女長は試すようにボクの顔を見ながら話し始めた。
「あなたはユダヤ人が聖書と呼ぶ本の存在を知っていますか?」