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朝食と聖餐

ギリシア神話では神々が食べる食事はアンブロシア、飲む酒はネクタルで普通の人間が飲食すれば神々に匹敵する力を得られるものと言われています。

それと、ギリシャ神話で料理の神が見つからないのですが・・・誰かしりませんか?

起きたのは午前七時オージェだったが身支度をして、トイレについて考え込んでいたら、すぐ午前八時アナトーレになったらしい。


「おはようございます。アーシア様」

ピュロスが迎えに来た。昨日より態度が柔らかくなっている気がする。


「巫女長が朝食を一緒にと言われています。」


無言のまま首を縦に振り、了承の意を伝える。


「では、ご案内します。」


彼女の後ろをついていきながらも、ついついキトンに包まれたお尻に目が行ってしまう。


上品そうな彼女も野外で・・・ボクの心の中は大嵐である。


いや、それは・・・あくまで日本人の常識だとはわかってるけど・・・受け入れがたいものが・・・


でも中世のベルサイユ宮殿もトイレがなかったっていうし・・・そんな変な状況でもないのだろうか?


「こちらです。」

案内されたのは巫女長の私室らしい。


丸い質素な木製のテーブルに椅子が二つ、一つにはすでにアレティア巫女長が座っている。

柔らかな笑みとともに尋ねられた。


「ゆっくりと休めましたか?」

「はい、いろいろご配慮ありがとうございます。」

そういいながら椅子に腰を下ろした。


「朝食をとりながら今後について打ち合わせをしようと思いまして。」

ピュロスがワインの入った椀とパンを持ってきた。

朝食はこれだけらしい。


ワインは水で薄めてないのでブドウの甘味が強く出ている。

・・・ジャム代わりといった感じか。

パンが固いのもあって、いい組み合わせではある。


毎日これだと飽きそうだが、日本人は「みそ汁とごはん」ならずっと平気な気もするので、ありはありなのだろう。


「困ったことはありませんか?」

食べながら巫女長が聞いてきた。

「差し迫ってはいないのですが、生活習慣で大きな違いが一つありますので、これだけは何とかしようと思います。」



「何をなさるのですか?」

その言葉を聞いた巫女長が身を乗り出してきた。


「我々の生活設備にはトイレというものがあるのですが、これを普及しようと思います。」

「トイレですか・・・」

「ええ、ギリシャの国々(ポリス)に普及しようと思います。」


その言葉を聞いた巫女長は怪訝な顔をした。


「そこまで重要な設備なのですか?」

それに対し、きっぱりと首を縦に振る。

「最も重要な設備の一つです。」


実は我々の世界ですら約10億人がトイレを利用したことがなく、ユネスコが情況を改善中であり、不衛生を原因とする下痢性疾患で1日あたり1000人の子供が死んでいる原因と指摘している。

投資効果が非常に高く、1ドルの投資に対し4.3ドルの費用削減が望めること。

他にも教育効果や、観光資源の保全などきりがない。


普及しきった現代日本では目立たないが、それだけ重要な設備がないのである。


絶対作るべきでしょう!思わず力説しそうになった。


「そもそもtoiletとは何をする設備なのでしょうか?」

食後のサフランティーを運んできた、ピュロスが聞いてきた。


「あ?」

その言葉にすごい違和感を覚えた。


「巫女長?」

何事もなかったように巫女長はサフランティーを口にしている。


とりあえずピュロスにトイレの概念を説明した。

「それだけで病気が減るのですか?」

「聖域と街中での下痢の発症を比較すればわかると思います。」

「そういえば、巫女長が聖域にドーリア式を持ち込んでから、病気が減ったと聞いたことはあります。」


「やっぱり」


その言葉を聞いて俺の心にある確信が生まれた。


「アレティア巫女長、あなたは何者ですか?」


その言葉をきいても巫女長には全く動揺がない。


「ただのアポロンの巫女ですよ。予言をつかさどる神のね。」

当たり前のように切り返してくる。


「とりあえずやりたいことはわかりました。こちらの希望としてはあなたの料理を作れるように料理人の指導をお願いしたいと思っています。そのあとで好きなポリスの市民権を取得してそのポリスに住むこともできるようにしたいと思います。もちろん、候補にはこのデルフォイも含みます。」


デルフォイではちょうど100年前(BC592)に隣接ポリスのクリッサを滅ぼした戦勝記念にピューティア大祭が音楽祭から戦車レースも含めた運動競技も含めた大祭に変化した。

開催期間も8年に1回から4年に1回に変わり、今ではオリンピア大祭に匹敵する4大祭の一つになった。

そこでこの100年目を祝うために今年の大祭の目玉企画を考えていたらしい。

その目玉企画に今回ボクが作った料理を元にした、優勝者に振る舞われる聖餐アンブロシアを考えているようだ。


しかし、どのポリスでも市民権が得られるというのは破格だ。現代で言えば好きな国籍をもらえるといってるに等しい。ポリスによっては資産も必要なのでその提供もあるということだろう。

通常では考えにくいほどの好待遇である。

「一番難しいアテナは神官長から取得してほしいと希望が出ていますし、スパルタはあなた自身があと3年でスパルタニアンになるので私の口添えがあれば問題ないでしょう。やや難しいのはテーベとアルゴスですが、私があなたの市民権がほしいといえば快く従うはずです。」


・・・やっぱり巫女長ってこの世界の重要人物なんだ。

余計に正体が気になってきた。


「まあ将来の話は、あとにして今日はコリーダをつけますので、神殿と街を見学してください。その間にトイレについては私も考えましょう。」


・・・まあ特に問題もないし、他にやることが思いつかないのでその言葉に従うことにした。


「わかりました。よろしくお願いします。」


コリーダがまるで子犬が跳ねるみたいな感じで部屋に入ってきた。


なんでそんなにうれしそうなの、いいことでもあった?



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