遠距離恋愛
俺には高校の時から付き合ってる彼女がいる。
彼女は地元付近の大学に進学し、俺は他県の大学に進学した。 遠距離恋愛の形になる。
テレビなんかで『遠距離恋愛はつらい』との話をよく耳にするけど、そんなことはない。 lineやSkype、メールで話はできるし、カメラを使えば顔だって見れる。
会えないのはいやー、なんてバカップルみたいなことは俺も彼女も言わない。 話せるだけで十分だ。
暇潰しに付けていたテレビを見ながら、スマホで遊んでいると彼女からメールがきた。
『電話してもいい?』
確認を取らずにかけてくればいいのに。
『バッチこい』とメールを返すと、すぐにかかってきた。 通話画面でずっと待機してたんだろうな、と彼女の姿を想像して電話にでる。
『よ』
「よ」
『なんか、話題くれ』
そっちから電話したいって言ってきたから、なにかあると思ってたのに。
「あーっと、もうすぐ夏やね」
『そうやね。 今は梅雨でじめじめ暑い』
「洗濯もんが乾かない。 つらい。 部屋臭い」
『イカ臭い?』
「トイレは」
『うわ、キモ』
「嘘だ」
キモい言うな、傷つく。
「そっちはどう?」
『暑くて死にそう』
「暑いで有名なところやもんな」
『今、ノーブラ』
「マジで!」
『嘘だ。盛り上がるな童貞』
お前は処女だろ。
そのあとも「キモい」だの「童貞」だの冷めきった口調で言われ続ける会話をして、三十分ほど経過した。
「じゃ、そろそろ切るわ」
『もう!?』
彼女の声が上ずった。
「一人暮らしには、やらないといけないことが多いのです」
『でも……』
歯切れ悪く彼女が繋ぎ止める。 キモいとかもそれぐらい歯切れ悪く言ってもらいたい。 言われないのが一番なんだけど。
『 あし、たもさ……電話、していい?』
「夜なら」
『 うん! わかった! 』
「それじゃ」と電話を切って悶える。
なんだあの可愛い聞き方は! 前までの会話なんてクソみたいだったのに、いきなり乙女になるなよ!
彼との電話を切って、机にごりごり額を押し付ける。
あーなんだよ、あの聞き方は。 恥ずかしくて死にそうだ。
わたしはあんなキャラじゃない。 ずぼらで遠慮がなくて、女とのしての要素はおっぱいぐらいしかなくて、そんなわたしを好きになる彼は変で……。 ってちがくて!
えーっと、あーっと、もういい! 寝る!
……早く明日にならないかな……。
早く明日にならないかな……。