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予選

 いよいよか。少しどきどきするな。

 くじ番号1番の男が、闘技場内へと入っていく。

 制限時間は十分。その間にミノタウロスを倒すか、十分を越えても立ち上がっていた場合引き分けとみなし、予選を通過できる。

 俺達参加者は外からじっと様子を眺める。

 司会者が挑戦者の紹介をした後、ミノタウロスがゆっくりと闘技場内へ姿を現した。背丈はこの前あった熊よりは小さいが、それでも2メートルは余裕で超えている。参加者もかなり大きいほうだが、ミノタウロスはそれを更に上回っていた。体には厚みがあり、それはまるで歩く雄牛。体毛も厚く、生半可な攻撃じゃ全くダメージを与えることはできないだろう。それに加えて厄介なのは手に持っている大きな金槌。あの強靭な肉体から放たれる一撃が直撃すれば、ミンチになるのは間違いない。

 参加者は完全にミノタウロスに怖気づいてしまったのか、逃げ腰だった。その様子に、傍聴席からやじが飛んでくる。

 しかし、あのミノタウロスはかなり調教されているのかむやみやたらに襲いかからないな。

 俺は近くに先程の説明役の女性がいたので聞いてみることに。


「あのミノタウロスは随分調教されているんだな」

「ええ~。私達が頑張りましたので~。彼らには相手を殺すことだけはするなと言ってあります~」

「それはつまり、それ以外ならなんでもありってことか…」


 俺の言葉に女性は微笑むだけ。

 恐ろしいな…。

 その時、闘技場内で動きがあった。参加者が意を決して攻撃したのだ。しかしミノタウロスには全く効かず、金槌で吹っ飛ばされてそのまま倒れた。


「はい、では2番目の方どうぞ~」


 そう言ってまた参加者が入っていく。

 …が結果は同じ。

 そして参加者が次々とミノタウロスに挑戦していくも、殆どの人は一撃で倒されていった。

 ミノタウロスも何十人という参加者を相手にしてきたのに全く体力が衰える様子はないように見える。実際は疲れがたまっているのだろうが恐ろしいことこの上なかった。

 既に93人戦い終えたが、そのうちミノタウロスを倒せた者は誰もいない。しかし、引き分けとなり予選を突破した者は5人いた。

 続いて94人目はあの毒舌少女だった。素早い身のこなしでミノタウロスを翻弄し、少しずつ攻撃していく。そのうざったい攻撃に段々イライラしてきたのか、ミノタウロスも暴れだす。そうして攻撃が荒くなってきたミノタウロスを見て、懐に突っ込んでいく。そしてミノタウロスが少女を金槌で潰そうとしたとき、少女はあえてミノタウロスを攻撃はせず、瞬時に懐から脱出。そのまま金槌がミノタウロス自身の懐に直撃し、ミノタウロスは悶絶した。

 これには会場も大盛りあがりだった。

 そして動きが鈍ったミノタウロスに止めと言わんばかりに短剣を突き刺す。血しぶきをあげながら、ミノタウロスは最後の一撃と言わんばかりに、少女に金槌を投げる。少女はそれを軽々と避けた。

 そしてミノタウロスは力尽き、地面に横たわる。


「すげぇ…。あんなちっこい体のくせに、ミノタウロスを倒しやがった…」

「ミノタウロスの力を逆に利用した、素晴らしい戦いですな」


 参加者たちから、そんな賞賛の声があがる。

 俺は冷静に少女の戦い方を分析していたが、まさに見本のような戦いぶりで感心した。

 これでミノタウロスを倒したのは1人。引き分けは5人となった。

 さて、次は俺の番だな。


「では続いて95番、中へ入ってください~」


 そう言われ、俺はゲートをくぐる。


「まぶしいな…」


 おもわず手で太陽を遮る。

 傍聴席にいた司会者が説明し始めた。


「続いての挑戦者は、ロルフ=ティーニッヒ! 今までの屈強な男に比べ、若干、いやかなり不安の残る体型をしていますが果たして彼はミーニャ選手のようにミノタウロスに勝てるのでしょうか!?」


 そう言うと、ゲートから新しいミノタウロスが出てきた。

 …ん? ちょっとまて…。


「先程の挑戦者がミノタウロスを倒したおかげで、今度は新しいミノタウロスにチェンジだ~!!

さあさあ体力満タンのミノタウロスに、果たして挑戦者はどのように立ち向かうのでしょうか…。皆さん、彼の戦いぶりにご賞味あれ!!」


 94人かけてやっと倒せたミノタウロス。しかし今目の前にいるミノタウロスは新個体。たくさんの挑戦者を相手にしてきたミノタウロスならまだしも、体力満タンのミノタウロスを相手にすることになるとは…。

 正直かなり運要素が強いこの制度に疑問が湧いたが、ここまで来た以上今更あとには引けない。。

 それに賞金のためだ。俺は鬼になろう。

 10分? そんなに必要ない。5分もあれば十分だ。


「さあでは両者ともに、始め!!」


 そして対決の火蓋が切られた。

 俺は鞘から一つ、剣を抜くと果敢に攻めていく。

 制限時間がある以上、先手必勝だと思ったからだ。

 ミノタウロスの攻撃を掻い潜り、脇腹を斬りつける。

 結構強めに斬り付けたつもりだったが、予想以上に体が厚く、致命傷にまでは至らなかった。


「ならこれならどうだっ」


 俺は一旦距離を取り、再び攻めていく。

 そして再び、先ほど斬り付けた脇腹を斬りつけようとする。

 しかし、寸前のところで金槌で受け止められてしまい、俺はミノタウロスに足を掴まれた。


「うぉっ!?」


 そしてそのまま回されると、壁めがけて投げられる。

 激突寸前のところで俺は体制を立て直し、壁を蹴るとその勢いを利用してミノタウロスの懐を狙う。


「おらァ!!!」


 俺は雄叫びをあげながら、渾身の力を込めて斬り付け、すぐに距離を取った。ミノタウロスの腹から血が流れ出る。痛みを感じたのか、ミノタウロスが悲鳴をあげた。


「おぉっと! 意外にも挑戦者はミノタウロスに善戦しております! 皆さん、彼に応援をお願いします!」


 司会者のそんな言葉に、会場が沸き立つ。

 その時、俺は傍聴席にイリアがいるのを発見した。

 そうだ、イリアが見ているんだ。変なところは見せられない。

 俺は息を整えると攻め込んでいく。流石にミノタウロスも腹を攻撃されたためか動きが鈍くなっていた。

 こうなれば後はもう俺の独壇場。ミノタウロスの攻撃も剣で受け止め、俺は押し返す。体制が崩れたところに回し蹴りを放った。その華麗な攻撃に、会場はさらに沸き立つ。


「ミノタウロスの攻撃を押し返すとは、一体彼は何者なんだ! それに彼は剣術だけではなく、武術にも心得があるようです! いやはや、恐ろしい」


 最後にミノタウロスの脳天めがけてかかとを振り下ろす。

 断末魔を上げ、そのままミノタウロスは崩れ落ちた。


「はぁ…」


 なんとか勝てたか…。

 ミノタウロス…、できればもう相手にしたくはない。


「おぉっと!! ついに倒してしまった! 残り時間はまだ6分もあります。なんて男なんだ~!!

 皆さん、ロルフ=ティーニッヒの勇姿に盛大な拍手を!!」


 俺は拍手喝采で沸き立つ会場を後にすると、参加者たちのいる室内へと戻っていく。

 女性が出迎えてくれる。


「お疲れ様でした~。

 いや~すごい戦いぶりでしたね~。私も思わず驚いてしまいました~」

「いえ、自分もかなり必死でしたよ。それに、もし次戦うことになったら勝てるかどうかはわかりません」

「またまたご謙遜を~。

 でも、本当にお疲れ様です~。次の試合まではゆっくり休んでいてくださいね~」

「はい」


 俺は女性に頭を下げると、近くの長椅子に腰掛ける。

 剣に刃こぼれがないか確認していると、ふと視線を感じた俺は顔を上げる。

 すると先程の毒舌少女が俺のことを見ていた。が、俺と視線が合うや否やすぐに顔をそらされる。


「…?」


 まぁいい…。

 俺は剣の手入れを終えると、腕を組んで次の参加者の健闘を見守る。

 するとそこへ、試合前俺に絡んできた男が再びやってきた。


「よう。どうやら運良く勝てたようだが、次の試合では粉々のミンチにしてやるから覚悟しておけよ」


 それだけ言うと、男は去っていった。

 どうやらあの男も予選を突破したらしい。

 人に喧嘩を売るだけの実力はあるということか…。なるほど。


「ん…?」


 そこで、俺は再び視線を感じた。

 それが誰かわかっている俺は、毒舌少女のもとへ。


「さっきから俺を見ているようだが、何か用か?」 


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