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盗難そして闘技場へ

 久しぶりの風呂は俺の体を隅から隅まで癒してくれた。

 元々風呂が好きな俺は、のぼせる寸前まで長湯し風呂を堪能した。


「いい湯だった…」


 俺は上機嫌で浴室から出るとタオルで体を拭く。

 そして服を着ようとしたところで布袋がないことに気付いた。

 慌てて近くを探してみるが、どこにもない。女将にも聞いてみたが、落し物はないとのこと。


「嘘…だろ」


 どうやら盗まれたとみて間違いないだろう…。

 さすがに公共の場で堂々と盗みをはたらくやつなどいないだろう、という俺の浅はかな考えが招いた致命的なミスだった。

 あの中にはお金と数日分の食料が入っている。それがないということは、この先の見通しが完全に途絶えてしまったということ。一応服のぽっけをさぐってみると銀貨が1枚だけ隠れていた。

 しかし1枚だけではどうしようもない。

 どうするか…。

 俺は何かないかと考えながら、イリアが出てくるのを待つ。

 しばらくして、イリアが姿を現した。


「上がりました…」

「ちゃんと洗ってきたか」

「はい…」


 イリアの髪からほんのり香料のいい香りが漂ってくる。くすんでいた髪は本来の輝きを取り戻し、美しい銀色の髪になっていた。

 後はこれで服さえボロボロでなかったらな…。それに、痛々しい傷痕も…。

 俺は、イリアに布袋を盗まれたことを言った。


「すみません。この辺りは何度か来たことがあるので…先に言っておくべきでした…。伝えなかった私のミスです…」

「いやいや、イリアが謝ることはない。俺のミスだ。とにかく、どうにかして資金か食料を調達する術を見つけないとな…」


 歩きながら、俺は何か方法はないかと考える。


「…あの」


 そんな俺を見かねたのか、突然こんなことを言い出した。


「前のご主人様も、その前のご主人様も、私のこの銀色の髪を見てたいそうお気に召され、私を買われました…」

「…?」


 突然そんなことを言われとまどう俺だったが、イリアは続ける。


「ご主人様のおかげで、私の髪はまた銀色に戻りました。ですから…」


 俺はそこで初めてイリアが何を言いたいか気づく。


「…!! お前、まさか…自分を売れと……?」


 イリアは頷く。 


「このままだと私はご主人様に迷惑をかけてしまいます。それならせめて最後に…」

「ダメだ。そんなことは決して許さない」


 俺は立ち止まると、イリアと背の高さが同じになるように腰を低くする。

 虚ろな彼女の眼が俺を捉えた。


「いいか。村長は俺を信じ、お前を託してくれた。だから俺はイリアを守る義務がある。だから例え、どれだけ生活が苦しくなろうと俺はイリアを売ったりはしない。だから2度とそんなことは口にするな」


 俺は少しきつめに注意する。


「あ…。

 ……。

 はい、申し訳ありませんでした…」


 そう言って謝るイリア。

 俺は彼女の頭をなでる。


「…でも、俺を助けようとしてくれたその気持ちは嬉しい。ありがとうな」

「…」

「あ、ごめん。撫でられるの、嫌いだったか?」

「いえ…」


 子供扱いしているようで嫌がるかとも思ったが、イリアは特にそんなことはなかった。

 その後、俺達は再び街を回っていく。

 しばらくして、遠くから男の野太い声が聞こえてきた。


「闘技場に参加する奴は早くこっちに来い~!! あと少しで締め切るぞーー!!」


 闘技場…?


「そんなものがあるのか?」

「はい。優勝者には賞金も出るみたいです」


 賞金だと?

 俺はたまたま落ちていたチラシを拾うと、書いてあることを確認する。

 イリアの言うとおり、優勝者には賞金が出るらしい。しかも、その金額は金貨100枚。

 これは、出てみるしかないんじゃないのか?


「なるほどな。んじゃ出てみるか」

「え、ですが危険__」

「なぁに、俺に任せとけ」


 俺はイリアにはにかむと、受付をしている男の元へ。


「あの、参加したいのですが」

「おめーみたいなひょろそうなガキがか? はっやめときな…と言いたいところだがこっちも商売なんでな。

 参加費は銀貨1枚だ」


 やっぱりただとはいかなかったか…。

 俺は銀貨を1枚だす。

 これでいよいよ全財産をなくすことになる。後には引けない。

 せいぜい死なねえようにな、と言われ、俺は闘技場の中へ。


「イリアは傍聴席にいるんだぞ」

「はい…。ご主人様」


 イリアはつぶやくようにしてこう言った。


「ん?」

「その…頑張ってください」

「おう」


 そう言われ、俺は参加者たちが集まる室内へと入っていく。

 中にはおよそ100人程の参加者がいた。皆かなり鍛え上げられた肉体をしており、俺より背の高いものがほとんどだ。

 というか俺、かなり浮いてるな…。

 こいつらが全員優勝狙いだと思うと、思わず身震いするが賞金のためだ。頑張ろう。

 端の方で座っていると、1人の男が俺に絡んできた。俺よりも1回り身長の高い、いかつい男だ。


「よぉ~兄ちゃん。まさかとは思うがおめーも参加者ってことはねえよなぁ?」

「参加者だ。それがどうした」


 すると男は下卑た笑いを浮かべた。


「こりゃ傑作だ。あ~あ、俺、初戦はお前と対戦したかったなぁ。ウォーミングアップにはちょうどよさそうだしなぁ」

「…そうか」


 話を続けるだけ無駄だと判断した俺は、以後、無視することに。

 男は俺にさんざん言いたい放題言うと、反応を見せない俺に飽きたのかどこかへと消えていった。

 俺はやかましいのが消えてほっとすると、周囲を見渡す。

 すると、さっきは気が付かなかったが女性の参加者がいることに気付く。他には見られないのでおそらく唯一の女性参加者だろう。顔をフードで隠しているのではっきりとは見えない。背はイリアよりほんの少し高いぐらいか。いずれにせよ、こんな屈強な男たちに囲まれているのに参加するということはそれなりに腕に自信があるのだろう。


「えーじゃあ参加者を締め切ったのでルールを説明します~」


 暫く待っていると、進行役の女性が現れて簡単なルール説明が行われる。


「え~っと、これだけの参加者がいるのは非常に嬉しいことなんですがー、ちょっとばかり多いので減らしたいと思います~。 

 ですので、予選第1試合目は~皆さん1人ずつミノタウロスと対決してもらいますね~」


 女性の言葉に、室内は騒然となる。


「おい、ふざけんじゃねえ!! ミノタウロスなんて30人がかりでやっと互角に戦えると言われてんだぞ!! んなもん、勝てるわけねえだろうが!」


 男の怒声にそうだぞ! 同調する屈強な男たち。


「あれあれ~? 皆さんは腕に自信がおありなんですよね~? それなのにそんな弱気なこと言っていていいんですか~? まあ、別に嫌なら帰ってもらっても構わないですよー? お金は返せませんが」 


 にやりと笑いながら、挑発的にそういう女性。


「ふざけんな! これじゃただの詐欺だろうがこのクソアマ! ぶっ殺してや__」


 そう言って1人の男が女性に襲い掛かったが、一瞬で地面に叩きつけられた。

 さすがはここの進行役。並みの強さではない。


「はい、まずは1人退場~。

 文句がある方はもういませんか~?」


 女性がそう言って周囲を見渡す。

 反応がないことを確認すると、次の説明へ。


「はい、じゃあ続いて名前を呼ばれたら1人ずつ身体チェックを行うので別室に来てくださいね~。

 あ、ちなみに予選を突破した方にのみ、次の試合について説明しますので~」


 そういうと女性は別室へと入っていく。

 その後、1人ずつ身体チェックが行われた。剣や斧といった武具の所持は認められているが、爆発物の所持は認められていない。その他にも変なものを持っていないかチェックしていく。

 そして、俺の番がやってきた。


「ロルフ=ティーニッヒさん~」


 呼ばれて、俺は別室へと入る。

 女性はてきぱきとチェックをしていった。


「珍しい服をお持ちですね~」

「ええ、まあ」


 女性はチェックをしながらも、俺の服に興味津々だった。


「この剣も見たことありませんね~…。特注品ですか?」

「亡き祖父の形見です。なので詳しいことは…」

「ほぉ~。なるほどなるほど。

 っと、はい。チェック終了です~」

「ありがとうございます」

「優勝できるよう頑張ってくださいね~」


 そうして俺はチェックを終えると、続いて戦う順番を決めるため、くじを引かされる。


「95番か…」


 だいぶ後の方だな。

 これなら他の参加者たちがどれほどの強さなのか見極めるのは十分可能だろう。

 その前に俺がミノタウロスに勝てれば、の話だが。

 正直勝てるかどうかなんてわからない。ミノタウロスなんて、じっちゃんの話の中でしかでてこなかった相手だ。

 だが、やれるだけのことはやってやる。

 そうして全てのひとがくじを引き終えると、女性は出て行った。


「ミノタウロスと戦うのか…。俺まだ死にたくねえよ」

「馬鹿野郎。金貨100枚がかかってんだぞ。俺はミノタウロスぐらい根性で倒してみせる」


 やはり、ミノタウロスと戦うことは想定外だったのか、思ったより弱気な人が多い。しかし、中には全く動じてない者もいた。今回唯一の女性である少女もその一人だ。

 俺は、少女の元へと行く。


「ミノタウロスが相手みたいだが、そんなに驚いていないんだな」


 単純な好奇心から話しかけるも、少女からの返事はない。

 まさか聞こえてないということはないはず…。

 もう一度聞いてみる。


「おーい、聞こえて…」

「…」


 さっきより近めで言ってみるも返事はない。


「おい、無視するんじゃ__」

「うるさいゴミ虫。私に喋りかけるな殺すぞ」

「……」


 華奢な見た目に反してその口から出てきたのは罵詈雑言だった。


「いや、あのな…」

「聞こえなかったのか? 私に喋りかけるな、と言ったんだ。次話しかけたら本気で殺すから」


 そう言うと少女は俺を人睨みしてそっぽを向いた。

 試合前で話しかけられたくないのだろうか。それとも、ここの参加者である以上俺達は敵だから…ということだろうか。どちらにせよ、話しかけられたくなさそうだからそっとしておくか…。

 俺は少女から離れる。すると程なくしてさきほどの女性がやってきた。


「では準備が整ったので、予選を開始したいと思います~」

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