街に到着。高価な服
俺は手を叩くと、狼達にこう言った。
「今日は豪快に熊焼きにして食べるぞ!」
熊の内蔵部分を取り出し、剣で捌く。
続いて、火を付ける作業に入る。じっちゃんに教わったサバイバル技術がここで生きてくるとは…。
俺は心のなかでじっちゃんに感謝する。
火をつけると、狼達は驚いて一瞬逃げようとするも、段々慣れてきたのか火の周りに集まってきた。
夜なので気温は落ち込み結構肌寒い。その上森の中だ。気温はまるで冬のよう。火がなければ凍えていてもおかしくない。
しばらくしていい感じに焼けてきたので、俺は1口食べてみる。調味料などは何もつけていないので大して味はしないが、それでも肉を食べれるというのは大きかった。
「熊、食べたことあるか?」
「いえ…」
「ほら、食べてみろ」
俺は適当に草をむしり、それを重ねるとその上に肉を置いてやる。
「…」
さっきまで自分を襲っていた熊を食べるのは流石に厳しいか…?
そう思ったが、意外にもイリアは肉を口に入れた。
「ん…美味しいです」
「そうか。そりゃよかった」
俺は狼たちにも熊の肉を分け与える。
肉自体は大量にあったが、狼の数もそれなりに多かったのであっという間になくなった。
その後、俺達は火で暖を取りながら眠りについた。
狼達が見張りをしてくれるというので、俺はその言葉に甘えることに。
「ふぅ…」
今日はいろいろあったな…。
地震が起きたかと思えば、大穴に落ち、死んだかと思えば、この世界に飛ばされた。
警察など、治安部隊などは今のところは確認できず、無法地帯。奴隷という存在が普通に認められる世界。弱い者は死に、強いものは生き残る…弱肉強食の世界。
しかし、俺は不思議とこの世界のことを気に入っていた。まだ1日目だが、スリルがあって楽しいとすら思える。元の世界のような、ひたすら勉学に打ち込み、勉強で成果を出すことが最高とされるものよりは断然こっちの世界の方が俺には合っていた。
「…」
俺は隣で静かに寝ているイリアを見つめる。
さっきも言ったとおり、狼が見張りをしてくれているのでイリアが見張る必要はなくなった。なので寝させている。眠っている姿はとても可愛らしいものの、傷痕が見てて痛々しい。前の主人らにつけられたのだろう。
こんな少女を痛めつけるなんて一体どういう神経しているんだか…。
その時、イリアが寒そうに体を縮こませた。火は近くにあるとは言え、彼女が履いているのは布着一枚と靴だけ。街につけば、何かしら服は売っているので買ってやりたいところだ…。
俺は、自身の上着をイリアにかけてやる。これで少しはマシになるだろう。
「ううっ、寒いな」
だが、イリアが凍えるぐらいなら、俺が我慢する方が全然ましだ。
そこへ、1匹の狼がやってきた。
「…いいのか?」
狼は頷く。どうやら、背もたれにしてくれて構わないらしい。
俺は礼を言うと、狼を背にしそのまま眠りについた…。
次の日、俺は小鳥のさえずりによって起こされると、体を伸ばした。寝方が悪かったのか少し体が痛い。
イリアはまだ寝ていた。起こすのもかわいそうなので俺はそっとしておくことに。
リーダーの狼が俺が起きたことに気付くと近付いてきた。
俺は頭を撫でてやる。狼は嬉しそうに喉を鳴らした。
暫くして、イリアも起きてくる。
「おはようございます…」
「おはよう」
イリアは目をこすりながらも、まだ眠そうにしていた。
ほどなくして、他の狼達がやってきた。
どうやら皆ついてきてくれるらしい。何とも頼もしい仲間だ。
朝食を済ませると、俺とイリアは狼達と共に出発する。
狼達は俺に気を使っているのか、なるべく通りやすい道を選んで進んでいく。途中、入り組んだ道もあったが、狼に助けられながらなんとか進むことに成功する。
「しかし、あそこの村人たちはよくこんな森を越えられたな…」
何か、裏道でもあったのだろうか。けど、舗装されてる道なんてなかったしな…。
途中、川で休憩しつつ更に1時間程歩いていくと次第に出口が見え始めた。
狼達が立ち止まる。
どうやら、後は自分で行けということらしい。
俺は狼達にお礼を言った後、森を脱出した。
それから程なくして、村長の言っていた通り集落地が見えてきた。集落地というよりは町のように見えるが…。
集落地の中に入ると、たくさんの人で賑わっていた。とはいっても、俺が元いた場所に比べればずっと少ない。あちこちで魚や肉、野菜などが売られ、宝石や服なども売っている。
しばらく探索していると、武器や防具を打っている店などもあった。
いかつい店主が睨みつけるように俺を見ているのを見て、そそくさと後にする。
「柄の悪い人達が多いなー」
治安はあまりよくなさそうだった。現に、近くで男2人が言い争いになっているが誰も止めようとはしない。俺は、一瞬間に入るか悩んだが、絡まれると面倒なので放置しておく。
「危ないから、はぐれるんじゃないぞ」
「はい」
そう言って、俺はイリアの手を握る。
「あ…」
「どうした?」
「いえ…」
俺の顔に何かついてたのだろうか?
まあいい。
とりあえず、イリアに服を買ってやろうと思い俺は服屋の中へ。
しかしどの服も高価だった。
「最低銀貨7枚か…」
村長にもらったのは銀貨5枚と銅貨10枚。俺の世界と同じであるならば銅貨500枚で銀貨1枚、銀貨50枚で金貨1枚といったレートだ。
全財産はたいても服一つ買ってやれなかった。
服屋を後にする。
「すまない…。お前に服を買ってあげようと思ったんだが金が足りなかった」
「そんな、気にしないでください。私は大丈夫ですから…」
本当はそんなわけないのに、俺を気遣ってそう言ってくれるイリア。彼女の年頃なら本来もっとオシャレをしたいはず。なんとかしてやりたかったが、金がないことにはどうしようもなかった。
しばらく回っていると、入浴ができる施設を発見した。
俺もそうだが、特にイリアは全くと言っていいほどお風呂に入っていない。
服は買えなかったが、せめて体ぐらいは綺麗にしてやりたいと思った俺は入ることに。
料金は一人銅貨25枚。2人なので銀貨1枚渡した。
「あの、ここは…?」
「とりあえず、いったん体を洗おう。暫く洗えていなかったから俺もお前も臭うからな。特にイリアみたいな女の子はちゃんと清潔にしておかないと。
だから、ゆっくり洗ってこい」
「いいのですか…?」
「ああ。ちなみに、前お風呂に入ったのはいつだ?」
「覚えていません…。1ヵ月ぐらい前だったかと」
「そうか。なら隅々まできちっと洗ってこいよ」
俺はイリアの頭にバスタオルを乗せてやる。
「あぅっ」
「じゃあまた後でな」
そういうと俺は男風呂へと入っていった。