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旅1日目

 「…」


 他の村人達も同様に頭を下げる。

 このイリアという少女は村にとって最後の子供。だから幸せになって欲しい…か。

 しかし、俺と共に来ることでイリアが幸せになるかどうかなんて検討もつかない。

 むしろ、この世界について全く無知な俺は数々の困難に見舞われるかもしれない。

 だから、俺は答えを出すのに少し時間がかかった。

 しかし、村人達全員がこうして頭を下げている。

 できれば、その思いを汲んであげたい。

 そう思った俺はこう言った。


「…私もまだまだ未熟な身です。それどころか落ちこぼれとまで言われていました。

 そんな私で本当にいいのですか?」

「ええ…。ロルフさん。

 あなたは大したことではないと思ったかもしれませんが、私はあなたがこの世界を変えてくれる…そんな気がしてならないのです。

 ですからどうかイリアを連れて行ってやってください」


 どこにそんな根拠があるのか全くわからないが、村長には俺がまるで救世主のように映ったのかもしれない。

 それが嬉しくもあり、少しプレッシャーにもなった。

 しかし、腹をくくった俺はこう言った。


「わかりました。イリアを連れて行くことにしましょう」


 俺がそう言うと、村長は顔を上げ、表情をほころばせた。


「おお、本当ですか! では早速イリアに準備させますので、少々お待ちください」


 そう言うと村長はイリアと共に小屋へと入っていった。

 暫くして、布袋を持ち、靴を履いたイリアと共に村長も出てくる。

 

「この袋の中に数日分の食料と少しばかりの銅貨と銀貨が入っております。好きなようにお使いください」

「それはありがたいです。しかし、銅貨や銀貨など使えるところがあるのですか?」

「ここから南に数十キロ下った先に大きな集落地があるのでそこで使えますよ」


 村人にそうアドバイスされる。 


「集落地…、なるほどわかりました」


 集落地があるという情報が聞けたのは大きい。

 とりあえずは、そこを目指してみよう。

 そこに行けば、この世界についてもっと詳しく知っている人がいるかもしれない。

 俺は、村長たちに見送られながら、イリアと共に村を出た。

 イリアを連れて行くとき、てっきり村長のもとから離れるのを嫌がるかと思ったが、そんなことはなく、普通についてきた。


「あの…」


 しばらく俺もイリアも無言で歩いていると、不意にイリアが話しかけてくる。


「その…どうして、あの…私を…」

「ああ、連れてきたかってことか?」


 イリアは頷く。


「さっきの村長の話通りだよ」

「そう…ですか…」


 そう言うと、イリアは黙った。

 しかししばらくして、再び話しかけてくる。


「私は今まで3人のご主人様と出会いました…。その時に家事や料理などの雑事、肉体労働など一通りのことはやっていました…。ですので、そういったことは全部私にお申し付けください…」

「…ん?」


 何やら話が噛み合っていない…?

 もしかして、自分のことをまだ奴隷だと思っているのか?


「どうして急にそんなことを?」


 俺がそう言うと、イリアは淡々とこう言った。


「私は奴隷ですから…。これぐらいしかご主人様にご奉仕することができません…」


 やっぱりまだ自分の立ち位置を奴隷だと思っているようだった。

 今までの仕打ちが彼女をそうさせているのだろうが…。


「愛玩具として痛めつけていただいても構いません。前のご主人様は私の痛がる顔を見てお喜びになっていました。その前のご主人様は私の泣く顔を見てお喜びになっていました…。

 ご主人様が望むのであれば、そうしていただいても…」

「あのな…」


 これは相当闇が深いな…。

 今まで奴隷として扱われていたせいか、もう自分のことを奴隷としてしか生きる価値がないと思っているのだろう…。

 ならば、もしそれを今否定してしまえばどうなる?

 恐らく、自分には利用価値がないと思って死んでしまうだろう。

 ならば、否定することはイリアにとって酷ではないのか?

 少なくとも、今突然奴隷じゃないといっても彼女は戸惑うだけだ。それならば、しばらくは俺がご主人様として接してあげるべきじゃないのか?

 いや、そうに違いない。

 この歳で主従関係を持つことになるとは思いもしなかったが、イリアの闇を取り払うためには、そうするしかないと思った俺は、イリアの立ち位置をそのままにしておくことに。


「じゃあ、そうだな…。しばらくは野宿だから、寝る時に交代で誰かが来ないか見張りをお願いしよう」

「はい…わかりました」


 そう言うと、俺とイリアは再び歩き続ける。

 村の近くにはあまり木が生えていなかったが、荒原を越えるとしだいに草木が見え始めた。

 やがて森の入口にたどり着く。

 できれば、森の中を進んでは行きたくないが、避けて通れそうもないため、中を進んでいくことに。太陽を見れば、ちょうど真上に来たところだった。つまり大体正午だということになる。

 途中、森の林冠を見つけた俺は、そこで昼食をとることに。

 道すがら、いくつか果物を見つけたので俺はそれを食べる。村長からいただいた食料は貴重なのでなるべく消費したくはないからだ。

 しばらく食べていると、俺はイリアが食べていないことに気づく。


「ん? 食べないのか?」

「食べてよろしいのですか…?」


 少し驚きながらそう言うイリア。

 逆に俺が驚く番だった。


「当たり前だ。どこに自分だけ腹を満たす畜生がいるんだよ」

「前のご主人様は、自身が食べられた後私に食事を与えてくれましたから…パンと水を」

「…」


 パンと水だけって…。よくそれで今まで生きてこられたな…。

 俺は口の中に含んだ果物を一旦飲み込むとこう言った。


「食べることを許可する。だから何でも好きなだけ食べろ。これから夜まで進めるうちに進んでおくからな。お腹が減って倒れられたら面倒だ」

「はい…。ありがとうございます」


 そう言うとイリアは、俺がとってきた果物に食べ始める。

 お腹が空いていたのか、小さい口で一生懸命かぶりついていた。

 あっという間に平らげると、次の果物も食べ始める。


「果物だけじゃ味気ないだろう。ほら、パンも食え」


 俺は布袋から、大きめのパンを取り出すと、イリアに差し出す。


「これは貴重な食べ物じゃ…」

「果物だけで栄養が足りるわけないだろ。炭水化物もとっておけ」

「炭水…?」


 炭水化物がわからなかったのか首を傾げるイリアに俺は簡単に説明する。


「体にとって必要な栄養のことだ。

 俺はパンなんて腐る程食ってるから飽きてるんだ。だからほら」


 そう言うと、無理やりイリアにパンを渡す。

 こうでもしないと彼女は食べてくれないだろう。


「では…いただきます」


 イリアはパンにかぶりつく。しかし、慌てて食べたのか、パンを喉に詰まらせてしまった。


「ああ、もう…ほら」


 俺はイリアの背中をさすって嚥下(エンゲ)を促した。


「んぐっ!? ん、ふぅ…。あ、ありがとうございます」


 もう少しで詰まって大変なことになるところだった。

 こんな時飲み物があればすぐだったんだが…。

 そこで俺は大事なことに気づく。


「そうだ、飲み水だ」


 果物の水分でなんとか喉の渇きを癒していたから良かったものの、飲み水の確保を忘れていた。

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