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イリア

 俺はオリオン達が完全にいなくなったのを確認すると、村長達のもとへ。


「この度は本当になんと言っていいやら…。感謝で胸がいっぱいです」


 そう言うと村長が深く頭を下げる。隣にいた村人達も俺に頭を下げた。


「いえ、気にしないでください。それよりも、色々話を伺いたいのですが、宜しいですか?」

「え、ええ! 勿論ですとも。貴方は私の村を救ってくれた英雄だ。私でよければ力になりましょう」

「それは助かります。実は俺、じゃなかった私は…」


 俺は村長に簡単に事情を説明した。

 と言っても、ありのままに伝えたわけではない。大穴に落ちたらここに飛ばされた、なんて到底信じられない話だからな…。なので、事故の後遺症で記憶がない、ということにしてこの近辺の情報を探ることに。

 村長の話は俺にとっても信じがたいような話ばかりだった。

 まず一番驚いたことは、この世界に国家というものが存在しないこと。一定の大人数で固まっている地域はあり、それを統べるリーダーはいるものの、しっかりとした国というものは見たことがないという。

 そしてなにより、警察機関が存在しないことによる治安悪化で世界全体が無法地帯となり、皆が皆やりたい放題しているという。強い者が生き残り、弱い者は隷従されられるか殺される。まさに弱肉強食の世界となっていると。

 到底信じにくい話だったが、さっきまでの光景を見ていると、信じざるを得ない。

 

「そうですか…。そんなことが」

「はい…。我々は、農作物を作ることでなんとか生計を立てていたのですが、突然あのオリオンとかいう男たちがやってきて我々を奴隷にしたんです。抵抗した村の若い男達は皆殺されました…」

「それで、一体何をさせられていたんですか?」

「我々がやらされていた仕事は、隣の鉱山で金を採掘するという肉体労働でした。毎日朝から晩まで働かされ、我々の作っていた農作物も、奴らが根こそぎ奪っていき、食事はまともに食べさせてくれませんでした。過度な働きすぎによる過労死で元は1000人近くいたこの村も、もう100人程しか残っていません」


 なっ!?

 じゃああのオリオンはもう既に何百人という人を殺してきた悪党だったのか…!!

 俺は生かしておいたことを後悔する。


「あいつら!! 今すぐにでも追いかけて斬り捨てて…」

「待ってください! もういいんです…あなたが追い払ってくれただけで十分ですから…」

「そう…ですか」

「ところで、よければあなたのお名前を聞かせていただけませんか?」

「勿論です。私の名前は、ロルフ=ティーニッヒ。貴方は?」

「ボルカノ=シュトラーセです。

 ロルフさん…貴方はこの村の英雄です。

 これで私達も奴らに怯えることなく、生活していけます」

「そんな、私はただの落ちこぼれですよ。英雄だなんてとんでもない」


 人にお礼を言われるのが初めてな俺は、照れてしまう。

 そして同時に、胸があたたかくなった。

 今まで、自分のこの強さなど何も役に立たないと思っていた。しかし、こうして今自分の能力が認められ、感謝までされている。少し前までならありえないことだ。


「お礼といってはなんですが、今日は食べていってください。

というかむしろ、ずっとここにいてくれても…」

「いえ、それはやめておきます。色々と、この世界について知っておきたいですから」

「それは残念です…。ロルフさんのような強いお方が村にいれば、村人も安心するのですが…」


 確かにこのままだと、もしまたオリオンのような奴らがやってきたとしても対処できない可能性がある。できればなんとかしてやりたかったが、今の俺にそれを為す術はない。

 その後、俺は他の村人達にもお礼を言われ、1つ1つ丁寧に応じていく。そして最後に、兵士に蹴られていた少女と会った。

 さっきは遠目で気が付かなかったが、体中にたくさんのアザや傷痕があり、見てて痛々しかった。他の村人と同じく服はボロボロで、靴も履いていない。本来なら輝いていたであろう銀色の髪も、洗っていないのかくすんで灰色のようになっている。

 

「…この子は?」

「イリアです。この村で若い子供はもうイリアしか残っておりません。ですが、その子は幼い頃奴隷商人につかまり、主人を渡り歩いてきました。そして、近くの森に捨てられていたのを私が拾いました。ほら、イリア…お礼を言いなさい」

「う…ぁ…ありがとう…ございます…」


 そう言うと、イリアは俺に頭を下げた。その瞳からは生気を感じられず、まるでそれは機械のようだった。

 俺は、イリアの目の前へとよると、腰をかがめ、目線を合わせる。


「蹴られたところは大丈夫か?」

「あ、はい…。大丈夫です…」

「そうか。それは何よりだ」


 俺は微笑むと、立ち上がる。


「もう行かれるのですか? せめて夕御飯だけでも…」

「いえいえ、気にしないでください。それよりも、どうにかしてこの村を再興することを優先してください」

「……ロルフ様は本当にお優しい方だ。

 そんなロルフ様に一つ頼みがあるのですが、よろしいでしょうか」


 村長はそう言うと、イリアを俺の目の前へと出した。


「さっきも言ったように、この子は今まで本当にひどい仕打ちばかり受けてきました。ですが、村にとっては最後の子供。イリアにはもう、辛い思いはさせたくないのです。幸せになって欲しい。これは他の村人達の総意でもあります」


 そう言うと、他の村人達も頷いた。村長は続ける。


「ですから是非イリアをロルフ様にご同行させていただけないでしょうか。オリオン達が去ったとはいえ、またいつ別の人達が襲ってくるとも限りません。その時、我々がイリアを守れるという保障はどこにもないのです。ですが、ロルフ様のようなお強い方の下にいればイリアも安心できるでしょう。そしてなにより、我々も安心できるというもの。

 どうか、イリアを連れて行ってはくれませんでしょうか…?」


 そういうと、村長は深く頭を下げた。

 

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