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りんご争いそして救出

 一体どれほど深い穴なのかと思うぐらい長い距離を落下していく。

 上を見れば赤い空が点のように見える。

 これだけ深い穴を落ちれば死ぬことは間違いないだろう。

 突然やってきた人生の終わりだったが、俺は不思議と怖くなかった。

 むしろ、こんな面白みのない退屈な世界から去れるのなら、歓迎したいほどだった。

 俺は、覚悟して目を閉じる。

 しかし、いつまでたっても底は見えなかった。体感的には既に5分近く落下しているはずだ。

 それどころか、自身に感じていた風圧がいつの間にかなくなっている。

 

「…?」


 恐る恐る目を開けると、俺は何故か木の枝に引っかかっていた。

 訳が分からず呆然としていると、木の枝が俺の重みに耐え切れず折れてしまい、俺は尻餅から地面についた。


「痛っ」


 なんでこんなところに木が…?

 それに俺は落下して死んだんじゃないのか?

 ゆっくりと立ち上がると俺は体に異常が無いか確認する。尻は痛いが、どこにも怪我はなかった。

 

「とりあえず、助かった…のか?」


 五体満足であることを喜ぶと、俺はここが何処であるか確認する。

 俺がいた場所には木が数本生えているが、あとは何もない荒原。

 空は依然として赤いままで、相変わらず不気味だった。


「一体どうなってるんだ…」


 そこで俺は地面にりんごが落ちているのを発見する。

 さっき、俺が折ってしまった枝についていたものだ。

 魚を食べ損ねて腹が減っていた俺は、かじりつく。甘さが口の中に広がり、果汁が喉の渇きを癒した。

 

「うん、なかなかいけるな」


 俺が無心で食べていると、突如俺の前を影が覆う。

 俺は反射的に横へと飛び、その攻撃をかわした。


「誰だ!?」


 振り向くとそこには1人の男が立っていた。

 俺を睨みつけ、今すぐにでも襲いかかってそうな勢いだ。

 男は指をポキポキ鳴らしながら、こう言った。 


「おい坊主…。何勝手に俺のりんごを食ってやがるんだ」

「あ…この木はあんたのだったのか。それはすまなかった」


 まさかこの木が人の所有物だったとは…。

 俺が謝るも、男の怒りは収まらなかった。


「うるせぇ! 俺が独り占めしていたりんごを勝手に食った罪は重い。てめぇには死んでもらうぞ!!」

「なっ!?」


 そう言うと男は有無を言わさず俺に襲いかかってくる。

 男は斧を振りかざすと、まっすぐ振りかざしてきた。

 俺はそれを避ける。


「ちょっと待ってくれ。確かにあんたのりんごを食べたのは悪かった。だからってそこまで怒ることはないだろう。そんな物騒なもの、早くしまってくれ」


 なんとか説得を試みようとするも、男は完全に頭に血が上っているのかその言葉が届いている様子はない。

 男のコメカミには血管が浮き出て、今にもはちきれそうだ。


「うっせぇ!! さっさと死ねやっ!!このガキ」


 坊主の次はガキ呼ばわりか…。

 男の短気っぷりに少し笑いそうになる。

 しかし、先程の躊躇ない斧の振り下ろし…。避けたからよかったものの、もし当たっていれば頭がカチ割れて即死していただろう。

 つまり、この男の攻撃は脅しなどではなく、本気だということ。

 ならば…。

 

「オラアァァッ!!」


 再び斧が振り下ろされる。

 今度は俺は避けることはせず、鞘から素早く剣を抜くと切っ先で受け止める。


「っ!?」


 まさか受け止められると思っていなかったのか、男が驚きの表情を見せる。俺はその隙に脇腹を蹴り飛ばした。

 手加減したつもりだったが、男はその場に崩れ落ちる。


「ぐっ!!おぇ…! てんめぇ…よくもやりやがったな…」


 痛そうに脇腹を押さえ、前のめりになる男。


「すまない。だが、殺されそうになったら普通は抵抗するだろう。これは正当防衛だ」


 俺が勝手にりんごを食べたのが悪いとは言え、いきなり斧で襲いかかってくるなんて恐ろしいにも程がある。

 攻撃しても文句は言われないだろう。


「あ、おいこらまちやがれっ」


 これ以上この男といるのは危険と判断した俺は、男が動けないうちに先へと進んでいく。

 そうして進んでいくうちに、俺は近くに村があるのを発見した。

 

「よし、あそこで休憩しよう」


 村人に聞けば、ここが何処かわかるかもしれない。

 そうして俺は少し小走りで村へと向かう。

 しかし、近づくに連れてなにやら様子がおかしいことに気づく。


「チンタラしてんじゃねぇ! さっさと歩けや!!」

「ひぃぃすいませんすいません、行きますから、ぶたないでください…!」


 男の怒声と悲鳴に何事かと思い近くの木に隠れると、たくさんの村人が手と足を鎖に繋がれて歩かされていた。皆表情は暗く、どこか絶望しているように見える。

 上は老人から下は子供まで様々な人がいた。

 兵服を来た男が鎖につながれた村人達をどこかへと誘導していく。


「…」


 まさか、村人を奴隷にしているのか…?

 俺の国では奴隷制度はとうの昔に廃止されたはず。しかし、目の前に見えている光景はまさに奴隷と主人といった感じだ。

 どうなってるんだ…?


「あぅっ」


 その時1人の少女が石につまずき、転んでしまった。しかし、力が入らないのか起き上がってこない。

 すると、兵士がやってくる。


「おい、誰が休んでいいといった! さっさと起き上がらんか!!」


 そう言うと兵士は少女を蹴り上げる。それを痛ましそうに見ている村人たち。しかし、どうすることもできないのかただ見ているだけだった。

 

「ごめ…ん…なさい…」


 蹴られながら、謝り続ける少女。

 あいつ、なんてひどいことを…。

 何とかして助けてやりたい。しかしどうすれば…。

 俺は、足元に木の枝が転がっていることに気づかずに、勢いよく一歩踏み出す。すると、木の枝折れて、大きな音が鳴ってしまった。


「っ! 誰だ!!」


 兵士がこちらを見て警戒する。


「見慣れないやつだな…もしかして、お前もここの村人か?」

「…」

「おい、答えろ!! 無視する場合は我々に反抗したとみなして攻撃する!!」


 近くにいた兵士達もやってきて、俺を警戒する。その数10人。

 ちっ…。仕方ないか。

 俺は手を挙げて降参といった感じを晒しながら兵士たちに近づいていく。 


「悪い悪い。俺はこの村をたまたま通りがかかったただの旅人だよ。あんたらの邪魔はしない。すぐに立ち去るよ」

「何…旅人だと?」


 その言葉に兵士は少し警戒心を緩める。

 俺はそれを見てニヤリと微笑むと、油断した兵士の元へと素早く突っ込んで行き、思い切り蹴り飛ばす。


「ぐああっ!!?」

「なっ!? 貴様…やはり村人か!!復讐しにきたというわけだな…」


 後方に吹っ飛ばされた兵士はそのまま気絶した。

 俺は剣を1つ鞘から抜くと、残っている兵士の方へ切っ先を向けた。

 村人達の顔が青ざめた。


「ああ、兵士様に刃を向けるなんて…」

「終わったな…」


 村人のそんな声が聞こえてくる。


「どうやら俺達に逆らう気のようだな…卑しい村人の分際で」


 勝手に俺のことを村人と決め付けている兵士。今更違うというのも面倒なので、何も言わないでおく。

 というか、この服を見て村人だと思える神経に思わず笑いそうになる。

 さっき1人削ったので残りの兵士は9人


「9対1なんて、じっちゃん相手にしてる方が全然楽だな」

「何わけのわからんことを…、おい、こいつを斬り殺せ!!」


 そう言うと兵士達が一斉に襲い掛かってくる。

 じっちゃん、最初にこの剣を使うことになる相手が雑兵であることを許してくれ。

 俺はまず、真っ先に斬りかかってきた2人の攻撃をかわし、足首を斬る。

 続いてやってきた3人の、まるでチャンバラのような攻撃を簡単にかわすと背中を斬った。そして目にも止まらぬ速さで、腹を剣の鞘で突いた。

 まずはこれで5人。

 続いて俺は一旦距離を取ると、逆に俺から仕掛けに行く。

 もう1本の剣を鞘から抜くと、一気に3人斬り捨てた。返り血が剣に付着する。


「きたねぇな、剣が錆びちまうだろうが」


 俺は剣を空振りして血を落とすと、残った1人の方へと体を向ける。

 最初に少女を蹴った兵士だ。


「くっ…なんだお前は…一瞬で部下が8人倒された上に双剣使いだと…」

「あ、俺か? ただの落ちこぼれだよ」

「ふざけるな!! ちっ、こうなったら…オリオン様に連絡を…」


 その時、村にさっきの男が入ってきた。

 兵士はそいつの後ろへと隠れる。


「オ、オリオン様! こいつが俺の部下を…」

「あん? あ、てめぇはさっきの!!」


 そう言うと、オリオンと呼ばれた男はいきなり俺に突進してきた。

 

「だからりんごの件は悪かったって言ってるじゃないかっ」


 俺はひょいとかわす。


「うるせぇ! 俺の部下まで殺りやがって…、てめぇは絶対殺す!」

「別に命までは奪ってないって…。手加減したから」


 危うくもう少しで殺すところだったけどな。


「うらあああぁぁ!!」


 オリオンは俺に斧を振りかざす。俺はそれを剣で受け止めると、押し返した。


「うぉっ!? お、おわ!?」


 そのまま後ろへと転びそうになったオリオンの首元に、俺は剣を当てる。


「どうやら、勝負あったようだな」

「ぐっ…」

「どうする? このまま首を飛ばされて骸となるか、村人を解放するか?

俺はどっちの選択肢でも受け付けるぞ」


 俺が笑みを浮かべながらそういうと、男は斧を手から離した。

 

「ちっ…流石に死ぬのはごめんだ…。

 俺の負け___」


 その時、背後からさっきの兵士が斬りかかってきた。


「あ、危ない!!」


 村人の声が聞こえる。

 防具の装備していない丸腰の俺だ。斬られればただじゃすまないだろう。

 しかし俺はそんなことはわかっていた。

 だから空いている方の手に持っている剣で兵士の攻撃を受け止める。


「人がこっちに集中してる時に奇襲とは…下衆め」

「くっ…化物かお前は…」

「あっ? だからさっきから落ちこぼれっつってんだろ」


 そう言うと、俺は兵士を蹴り飛ばす。5メートル程飛んで地面に叩きつけられ、そのまま動かなくなった。 


「さて、これで仲間は全滅してあとはお前だけだが…どうする?」

「わ、わかったわかった!降参だ降参!!」

「じゃあ村人を解放し、二度とここには寄り付かないと約束するか?」

「そ、それは…」


 俺は男の首に剣を強く押し当てる。


「約束、するか?」

「あ、ああ…わかったよ…」


 そう言うと俺は男を解放した。

 その後、村人達についていた鎖を全て外し、二度とここには寄り付かないことを約束させると、オリオン達は去っていった。

 俺はオリオン達が完全にいなくなったのを確認すると、村長達のもとへ。

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