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 もう絶滅している…?


「いや、そんなはずはない…。だって、俺はあの時狼達と一緒に…」

「幻覚でも見ていたんじゃない…?」

「いや、俺もイリアも確かに見た。そうだよな?」


 そうして俺は同意を求めようと、イリアの方を振り返った時異常に気づく。


「うっ…うぅ…」

「イリアっ!?」


 突如イリアが苦しみ始めたかと思うと、そのまま床に崩れ落ちた。

 俺は慌ててイリアを抱き起こす。


「どうした!? どこか痛むのか…?」


 俺がそう話しかけても返事をしないイリア。体からは脂汗が流れ、苦しそうに胸をおさえていた。


「おい、近くに病院か何かないのか!」


 俺は、ミーニャに問いかけるも、彼女は首を横に振った。


「あるにはあるけどここから数百キロは進まないといけない! 今からじゃどれだけ頑張っても1ヶ月はかかる…」

「くっ…それでも…」


 そうして俺がイリアを抱えて部屋から出ようとしたとき、イリアの弱そうな声が聞こえてくる。


「ま、待ってくださいご主人様…。

 私…知ってるんです…この症状が一体なんなのか…」


 なおも胸を抑えながら言うイリア。


「イリア…」


 そうしてイリアは静かに語り始める。


「前のご主人様の時、私の他にも何人か奴隷がいました…。皆私と同じで毎日肉体労働で酷使され、ご主人様の玩具として痛めつけられていました…。食事もまともに与えられていないせいか、体調を崩しそのまま亡くなる者もいたのです…」

「おい…待て、それじゃまさか…」

「はい…。その時の症状として、皆胸を抑えていたのです…ぐっ、はぁ…はぁ…」

「おい、もう喋るな!」


 俺はイリアを部屋のベッドに寝かせると、頭を撫でた。

 イリアの言っていることが事実なら、このままだとイリアは死んでしまうことになる。突然突きつけられた大切な者が死ぬかもしれないという状況に、俺はどうしていいかわからず困惑する。


「私、近くに誰か医者がいないか聞いてくる!!」

「ああ、すまない!!」


 そう言うとミーニャは宿から飛び出していった。

 最初はかなり反抗的で毒舌だったミーニャも、今はすっかりなりを潜めている。それだけ、自体が深刻だということを如実に表していた。

 俺はその晩、一睡もすることなくイリアの傍で見守っていたが、症状は一向に改善する様子はなかった。

 俺は女将に金貨を払い、しばらく居座らせてもらうことに。

 その後、俺の懸命な看病も虚しく、日に日にイリアは弱っていった。最初は少しなら食べれていた食べ物も、今では水を飲むことすらできない。

 イリアが過去に受けたという、酷い仕打ちの数々が、こうして今になって症状として現れていることは間違いない。

 俺は、前の主人達に怒りを覚えるが、今更どうしようもなく、その怒りをぶつける相手もいなかった。

 あれからミーニャは一度も来ていない。

 正直探してくれているのかわからないが、今の俺にはみーにゃを信じて待つしかない。


「ご…主人様…」

「なんだ…?」


 イリアは今にも潰れそうなか細い声でこう言った。


「私…。ご主人様に会えてよかったと思ってます…。ご主人様には何度も迷惑ばかりかけてきました…。ですが、そんな私をご主人様は怒ることなく、あたたかく出迎えてくださいました。

 そして今も、私なんかのためにこうして看病をしてくださって

…。私…」

「おい、イリア…? 」

「私…最後に出会ったのがご主人様で本当によか……」

「イリア…? おい、嘘だろ…」


 俺がゆすっても、イリアは反応を示さない。

 俺は震える手で、イリアの脈を確認する。


「ない…」


 イリアから完全に脈が消えていた。

 そしてその体から温もりが消えていく。


「……」


 14○○年2月24日午後21時55分。

 過労による衰弱によりイリアはこの世を去った。


「くっ…ちくしょう!!ちくしょう!!!」


 こんなことがあっていいのか!

 イリアはまだこれから先たくさんのことを学び、感じ、楽しんでいくんじゃなかったのか!?

 それをこんな…最期で…!!

 俺は自分の不甲斐なさに思わず涙が出てくる。


「俺がもっと早くイリアの異常に気づいていれば…」


 そうすれば助かったかもしれないはずだ…。

 だが、そんなこといつまで言っていてももう遅い。

 俺は、今のこの現実を受け入れるしかない。


「そうだ…。墓…、埋めてやらないと」


 俺はイリアの亡骸を抱え、集落地から遠く離れた豊かな森にイリアを埋めた。


「ほら、お前森が好きって言ってたよな。

 ここで好きなだけ遊ぶといいぞ」


 そうして俺はイリアの墓に微笑みかける。

 立ち上がろうとしたその時、俺の腹が何かによって貫通された。


「な………に……?」


 違和感を感じた腹を手で触ってみると、ぬるっとした感触がした。

 恐る恐る手を見ると、そこには血で真っ赤に染まった手があった。


「あ……」


 俺……まさか……刺された……?

 そうして俺は恐る恐る後ろを振り返る。


「ふふふ~やぁ~っと見つけました~」

「お……前は……」


 そこにいたのは、あの時俺とミーニャを殺しに来た女性。

 相変わらず不気味な笑みを浮かべながら、俺に剣を突き立ててくる。


「ぐあああっ!?」

「本当は逃がしてあげたかったんですが~どうしても上からの命令であなたとミーニャさんを殺せという指示がくだったものですから~。

 あ、安心してください~。既にミーニャさんはもうこの世にはいませんから~」

「な…んだと…?」


 ミーニャが死んだ?

 あの、俺と互角に勝負をしたミーニャが…?

 じゃああれ以来姿を見せなかったのも、既にこいつによって狩られていたから…?


「ぐふっ…てめぇ……」

「あらあら…、これだけ血が出ているというのにまだそんな表情をしていられるなんて流石は狼といったところでしょうか。

 ですが、あまり時間もありませんので、死んでくださいね~」


 そういうと、

 女性は、

 俺の、

 首を、

 刎ねた……。












「…?」


 恐る恐る目を開けると、俺は何故か木の枝に引っかかっていた。

 訳が分からず呆然としていると、木の枝が俺の重みに耐え切れず折れてしまい、俺は尻餅から地面についた。


「痛っ」


 なんでこんなところに木が…?

 それに俺はあいつに首をはねられて死んだんじゃないのか?

 ゆっくりと立ち上がると俺は体に異常が無いか確認する。尻は痛いが、どこにも怪我はなかった。

 足元をみれば、りんごが1つ転がっていた。


「……? どうしてこんなところにりんごが…」


 その時だった。


「おい坊主…。何勝手に俺のりんごを盗ってやがるんだ」

「……え……?」


 そこには、本来ならいるはずのないオリオンがいた。

 俺をものすごい形相で睨んできている。


「何故……お前がここに…」

「あ? 何わけのわからねえこと言ってやがるんだ!! さっさと返せやこの野郎!!」


 そう言うとオリオンはいきなり攻撃してきた。

 俺はそれを軽々とかわすと、思わず乾いた笑みを浮かべる。


「は…はは…まさか…嘘だよな?」


 そんなこと…あるわけがない……。

 だが、目の前で起こっていることは現実。


「時が…戻ってる…?」


 なぜかは不明だが、俺はもう一度ここまで時を遡ってきたと考えるのが妥当だろう。

 現に、目の前にいるオリオンは俺が降伏させたはず。

 それなのに、俺のことを全く知っている様子はない。


「……ということは!!」


 ミーニャとイリアは生きている…?

 俺は、いくらか気分が晴れたような気がした。

 しかしこれは、俺にとって地獄の始まりでしかなかった____。

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