まさかの…
「な、なんと…ミノタウロスに勝ってしまったぞ!?
そしてここで、タイムアップ!! ミーニャ選手は、気絶してしまったので優勝は、ロルフ選手だ!!
皆さん、ロルフ選手の素晴らしい戦いぶりに大きな拍手をお願いします!!」
そう言って今までにないほど沸き立つ会場。
俺は、ミーニャを背負うとその場を後にする。
室内へ戻ると、先に倒され運ばれてきていた2人が手を叩いて出迎えてくれた。
「すごい戦いぶりだった。まさか、あの状況で勝つ上にその少女まで守るとは…。2人がかりで倒そうとした俺達が恥ずかしい」
「それに、まさかお前が獣人種だったなんてな…。そりゃ勝てねえわ」
そこへ、説明役の女性がやってきた。
俺達をあそこへ閉じ込めたことなど全く知らんといった感じでこう言った。
「ロルフさん、優勝おめでとうございます~あちらの方で賞金を渡すのでついてきてください~」
「嘘をつけ。最初から優勝させるつもりなんてなかったくせに、何が賞金だ。ふざけるなよ」
俺が睨みつけるようにしてそういうと、女性は罰が悪そうに謝り始める。
「申し訳ありません~。普通に試合をしても面白くないだろうということで、急遽投入しただけなんです~。柵で出口を塞いだのもミノタウロスが逃げないようにしただけなので…。
もし、殺されようものなら私が止めに入っていました~」
嘘か本当かわからない女性の説明に疑問を抱きながらも、俺はこう言った。
「まぁいい、どちらにせよ勝ったんだ。賞金を渡してくれないとには、信用できない」
「はいはい~、では付いてきてください」
そう言われ、俺はミーニャを背負ったままついていく。
関係者以外立ち入り禁止の廊下をしばらく進んでいくと頑丈そうな鋼鉄の扉を発見した。
女性が暗証番号を入力したあと、鍵を挿すと鈍い音を立てながら扉が開かれる。
その先を少し進んでいくと大きな金庫があった。それを別の鍵で開けると、中には大量の金貨が。
女性は布袋に金貨を100枚詰めると、俺に手渡ししてくる。
「はいどうぞ。約束の金貨100枚です~」
そう言われ、布袋を受け取る。
金貨100枚も入ってるためかずっしりと重い。
どうやら、優勝賞金が金貨100枚というのは本当だったらしい。
だが、そこで1つ疑問が湧いた俺は、女性に問う。
「何故わざわざこんなところで渡したんだ?
普通に持ってくれば良かったと思うんだけど…」
「……」
そう。別に俺をここに連れてこずとも、女性が持ってくればよかっただけの話。わざわざ俺を金庫にまで連れてくる意味がわからなかった。
するとそこで、背中で気絶していたミーニャが目を覚ます。
「ん……ここは?」
「よう、起きたか」
ミーニャはしばらくぼーっとしていたが、やがて俺の背中に乗っていることを気付くと慌て始めた。
「……えっ!? ど、どうして私がお前の背中に…!」
「おおっと、まだ動かないほうがいい。あれだけ殴られたんだ。しばらくは安静にしてろ」
「くっ…」
体が思うように動かないのか、渋々指示に従うミーニャ。
俺は話を戻す。
「それで、さっきから黙っているようだが…。何か理由でもあるのか?」
俺がそう言うと、女性はニコッと笑みを浮かべ、こう言った。
「はい~。それはですね~」
そう言うと女性はいきなり鞘から剣を抜いた。
「はは! やっぱりそういうことかよっ…!!」
「ふふふ~」
俺の悪い予感は見事に的中した。
女性は、俺達を始末するためにここに呼んだのだ。
もっと早くに気づくべきだった…。
「決勝戦で死なないから悪いんですよ~? もしあそこで死んでおけば、私が始末する必要はなかったんですからね~。ですが安心してください。見事優勝したご褒美に、痛みを感じることなく殺してあげますから」
女性は不気味な笑みを浮かべながら俺に近づいてくる。
逃げようにも、出口の方向に女性がいるためなんとかして突っ切らないといけない。
俺は背中にいるミーニャにこう言った。
「背中にしっかりしがみついていろ。じゃないと命の保証はできないぞ!!」
「わ、わかったわ…!」
女性の実力は、予選の時に男を一撃で倒したことからかなりのものだと思われる。それに、優勝者である俺と戦うというのにこの余裕ぶり…。相当の手練の可能性も十分にあり得る。
俺は2つの鞘から剣を抜くと、女性めがけて走っていく!!
「はぁっ!!」
遠慮などせずに、いっきにねじ伏せようと斬りかかる。ミーニャを抱えているのでスピードは落ちるものの、それでも並大抵の人間ならここで倒せるはず。
だが、女性は俺の連撃を全て受け止めると、斬りかかってくる。
それを横にかわすと、俺は渾身の蹴りを放つ。
だが、読まれていたのかあっさりとかわされてしまい俺の蹴りは壁に当たる。凄まじい音を立て、崩れる壁。
「さすがは獣人種といったところでしょうか…。ミーニャさんを抱えてそのスピードとその力…。少し羨ましいですね~!!」
「そういうあんたこそ、ただの人間なのにその反射神経はどうかしていると思うぞ!!」
「ふふ……まぁ努力しましたからね~」
努力でなんとかなるレベルなのか…?
人間がどれだけ鍛え上げようと丸腰でゴリラには勝てないように、限度というものがあるんじゃないだろうか。
だが、今はそんなことを考えている場合じゃない。どうにかしてこの人から逃げ出さないとな…。
今度は女性の方から攻めてくる。ほぼ目視できないほどのスピードに、俺は自身のもつ反射神経のみを信じて動く。
「へぇ~やりますね…」
女性がそうつぶやいた瞬間、俺はイチかバチか女性に突っ込んでいく!!
「おお!? あらら~」
女性は俺がタックルしてくると勘違いしたのか、横へとかわす。俺はそのまま出口へと一直線に走った。
自身がもつ、可能な限り速いスピードでの移動に女性はさすがについてこれなかったのか、追ってこなかった。
俺は猛スピードで、先程の室内へと戻り、続いて傍聴席へと向かった。
そしてイリアを見つける。
「あ、ご主人様…優勝おめでとうございま_」
「悪い、すぐにここから脱出するぞ!!」
「え…きゃっ」
俺は両手でイリアを抱えるとそのまま闘技場から脱出。
そして近くの宿屋へと逃げ込んだ。
「はぁ…はぁ…ここまでくれば大丈夫だろう」
俺はイリアとミーニャを下ろすと、その場に座り込んだ。
既に全身は汗だくで、息も上がっている。自身の持つ最大の力を振り絞って逃走してきたからな…。
「あの人…、ずっと笑みを浮かべながら私達を殺そうとしていたのよね…恐ろしい」
「ああ…。だが、正直こんなにすんなり逃げれるとは思わなかった。それに、今考えてみたら色々とあの女性の行動に矛盾があるんだよな…」
「矛盾?」
「ああ…。その前にまず1つずつ整理していこう」
あの闘技場には何らかの闇がある。制度にもかなり問題があったし、俺達を殺そうとしたこともだ。
あそこの主催者は最初から優勝者に金貨をあげるつもりなどなかったはず。だからこそ、あの女性の謎の行動には首をかしげるものがあった。まず、俺達をあの金庫まで案内するのもそうだ。
俺達を殺すのが目的なら、別にわざわざあの金庫に連れて行く必要はない。そして、俺に先に金貨を本当に手渡してきた後襲ってきたことだ。わざわざ俺に金貨を渡す必要などあったのか?
それに、一番の疑問点はあっさり追跡をやめてしまったこと。
恐らく女性は上からの命令で必ず殺すよう言われているはず。それならば、俺達を生きて逃せばそれは女性の失態となりなんらかの罰を受けるだろう。それならば、もっと追跡してきてもいいような気もするが…。
俺はこの疑問点をミーニャに説明していく。ミーニャも思うところがあったのか、こんなことを言った。
「…そういえばあの人、どこかで見たことある気がするのよね…」
そう言って思い出そうとするも、諦めたようでため息をつく。
そこへ、イリアが話しかけてきた。
「あの…ご主人様、一体どうしたのでしょうか?」
「ああ、ごめん勝手に進めて。説明するよ」
そうして俺はイリアに今までの経緯を全部話した。イリアは途中で口を挟むことなく静かに聞いてくれた。
「そうですか…そんなことが」
「イリア、試合を見てて何か変に思うことはなかったか?」
「いえ…特には。ですが…あの…一つよろしいでしょうか…?」
「なんだ、言ってみろ」
「ご主人様のその姿は…」
「あ…」
そうだ。その謎も残っていたんだった。
「…どうして私を見るのよ」
「だって、さっき俺のこと獣人種がどうとか言ってたじゃないか」
「確かに言ったけれど…、何? もしかしてお前自分のことも知らないのか?」
「ああ…どうしてこういうことになったのかもわかっていない」
「記憶喪失にでもなっているの?」
「……どうだろうな」
記憶喪失ではないと思うが…。
ミーニャは、呆れたといわんばかりにため息をつくとこう言った。
「…仕方ないわね。お前にはその…一応助けてもらった恩もあるし…それに同じ獣人種同士だものね」
すると、今まで頑なにフードを取ることを拒否していたミーニャが、突然取り始めた。
「なっ…」
初めて見るミーニャの素顔。
俺と同じく獣耳が生えていた。
ミーニャがずっと素顔を隠していたのはその耳を隠すため…?
「まさか、こんなところで獣人種と出会うとはね…。どうりで、他の人間達より強いわけね。
私は獣人種のうち、犬族と呼ばれる種族よ。しかしお前のような白い髪に青い目の奴など見たことがないわ。一体何族なの?」
「そう言われてもな…」
何族だなんて言われても、全く見当もつかない。まあだが、よく見れば狼のような特徴に見えないこともない。
………。
……ん? 狼…?
「そういえばご主人様は森で狼達の声が聞こえていたとおっしゃっていましたよね…」
「……えっ? それは本当なの?」
ミーニャの問いに俺は頷く。
「…確かに言われてみれば、狼の特徴に似ているわ…。けれど嘘…そんなはずは…」
ひどく驚いた様子のミーニャ。
それはまるで信じられないものでもみたかのようだった。
「狼族は既に絶滅したと言われているはず…」
「なっ…」




