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崩壊

「はぁ~…。落ち着くな」


 時刻はまだ正午を回る直前。学園では講義真っ最中だが、俺はそれをサボって近場の港で釣りにいそしんでいた。

 サボっている理由は単純明快で、講義についていけないからだ。

 昔から学問がからっきしダメだった俺は、学園では常にテストは最下位。教師にもさじを投げられる始末。そんな俺でも、武道や剣術などにおいて、つまり身体能力においては誰にも負けない自信がある。

 しかし、経済成長真っ只中であるこの国ではそんなものは必要なく、頭が良い方が圧倒的に有利。だから俺の身体能力を評価してくれる人は誰も全くいない。

 学園に行けば落ちこぼれのくせにのうのうとよく来れるな、とか、親のコネで入ったクズだとか、色々言われるがもう慣れたもの。親のコネというのは半分あっているようなものだしな。正確にはコネではなく、金を積んだというものだが。

 しかし、エリート学生らのストレス発散要因として毎日暴言や罵倒ばかりされてくると、流石にイラつくし、疲れてくる。

 それに、家に帰ればまた勉強のことで怒られるのは目に見えている。

 だから俺は釣りをして心を落ち着けている。

 釣りをしている時だけは何もかも忘れられる。現実逃避、といえば確かにその通りかもしれないが、もはや今の俺にとって釣りは、いわば精神安定剤のようなもの。これなしでは、落ち着くことができないといっても過言はない。

 いや、流石にそれはいいすぎか?

 しかし、俺の心が疲弊しているということは事実。こうして今も、釣りをすることで学園という鎖から無理やり逃れようとしている。


「おっかかったか」


 その時、釣り糸の浮きが沈み魚がヒットした。

 小さいが、焼けばうまそうだ。

 俺は調理器具を取り出し、魚を捌くとガスコンロに火をつける。

 しかし、ガスが少なかったのかすぐに火は消えてしまった。


「おいおい…これからが楽しみだというのに」


 仕方がない、近くに買いに行くか…。

 俺は立ち上がると、ガスボンベを買いに、街へと出ることに。


「っと、これを忘れちゃいけないな」


 俺は祖父からもらった2つの剣を腰にさす。

 誰も認めてくれない俺の武術や剣術だったが、唯一祖父だけは褒めてくれた。両親は祖父のことを時代遅れだと言って快く思っていなかったものの、俺はよく祖父の道場に足を踏み入れていた。

 そんな祖父が亡くなる直前にもらったのがこの2つの剣だ。

 祖父はかなり珍しい双剣の使い手で、戦時中、祖父の強さの右に出る者はいなかったという。全て祖父が言っていただけなので、それほどまでに強かったのかは謎だが、その戦時中に使っていたという2つの剣を俺にくれた。

 当時まだ幼かった俺は、そんな物騒なものをもらってかなり喜んだのを覚えている。


「いけね、早く買いに行かないと」


 剣を見ていたらつい昔のことを思い出してしまった。

 腹もかなり減ってきたし、さっさと街まででよう。

 船人達が漁船から魚を引き下ろしている作業を横目に、俺は港から出る。

 しかし、街までもう少しというところである異変に気付いた。

 空って、こんなに赤かったか?

 まだ時刻は昼だ。今日は朝から晴天で、絶好の釣り日和のはず。青くないとおかしいはずなのに、空はまるで、血のような少し黒い赤色をしていた。

 しかし周りの人達を見てもなんら気にする様子はない。


「…?」


 俺は気味の悪さを感じながらも、ガスボンベの売っている店へとたどり着く。

 そして、1つ購入すると、再び港へと戻っていった。


「よーし、材料も揃ったしさっさと焼くか」


 空のことは気になるものの、俺はとりあえず食欲を満たすことを優先した。まるで楽観的な考えだが、腹が減っているので仕方がない。

 鉄網がいい感じに温まり、魚をその上へ乗せるとジューっという音が流れる。

 しばらくして、醤油を垂らすといい匂いが立ち込めてきた。


「うまそうな匂い…。そろそろか」


 いい感じに焦げ目がついてきたので、俺は一口食べてみる。

 ジューシーでとても美味しかった。


「やっぱり魚は鉄網で焼くに限るな」


 学園で出てくる食べごたえのない魚より、俺はこっちの方が断然好きだ。

 それに、海を見ながら食べられるしな。

 2口目を食べようとしたその時。

 突如地面が揺れ始めた。


「ちっ、なんだ!?」


 過去にもなんどか地震は経験したことがあるが、それとは比べものにならないほどの大きな地震だった。

 船人達も大きな地震にかなりびびっている。

 というか立ち上がれねえ…。

 とりあえず俺はなんとか港から脱出しようと試みるが、地震は段々と大きくなる一方だ。

 これは結構、いやかなりまずい状況なんじゃないのか?

 そして次の瞬間、俺の立っている地面に巨大な大穴が開く。


「!?」


 嘘だろ…。

 どこまでも暗く、底が見えない穴に俺は吸い込まれるようにして落ちていった。

  

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