第一話◆家出だろうが何だろうが、旅立ちゃいいんだろぉ!?◆
ズルズル……ズルズル……
「重い」
とっさに城を抜け出した王は途方に暮れていた。
玉座の椅子の後ろにある非常出口から脱出したはいいのだが、引きずるには少々重すぎる荷物が余を途方に暮れさせる。
「何故余がこんな目に……」
今日は皆でご飯食べて、ダンパ(ダンスパーティ)とかして
ズルズル……
「目出たい日だと言うのに」
ついでに勇者のパーティーに居たボイン姉にオイたしたりして
モノにしたりとかして
ズルズル、ガッ!!
「あっ」
石の出っ張りを兵士の頭に当ててしまったが、ま、いいか。そう思いながらも進む。
「はぁ…………」
ため息をつく王の背中を、夕日が寂しく照らしていた。
****一方その頃
「王ぉぉぉう!!」
「王様ぁぁぁあ」
城の周りにある草むらを必死に捜すラッパ隊。
「もうやだ帰ろ」
「隊長ぉ、諦め早!!まだ五分!!」
「GOSUN?」
「何語ーッ!?て言うか裾引っ張らないで、可愛くないから」
「え〜」
「隊長ぉぉぉ!!」
***一方その頃
ラッパ隊の三十メートル程先では、王が困っていた。
「あの……」
――喋ってる?ねぇ死体喋ってる?
「頭痛いんすけど」
「…………」
「無視すか、痛いんすけど」
ひょっとしてあれかなー?痛いのは余の頭かー?
「はぁ。とりま、引きずるの止めて貰えません?」
****
「説明宜しく」
「おけ」
んっんっ、と軽く咳払いをし、泥だらけになった足元をパンパンッと払うと、兵士が口を開く
「あの〜私あれじゃないですか、兵士になる前は僧侶系ってヤツ?」
ちょっ、ド○クエ!?
「う、うむ」
「で、王に溝カックンされて瀕死だったんで回復したんですけど、疲れて寝ちゃって。エヘッ」
先程から四十八回も石にぶつけてしまっていた為、目が覚めたらしい。
「つー事で、とうとう旅立ちっすよねーお供しますよ」
眩しそうに夕日を手で遮る兵士。
「えっ、あの、生きてるなら……戻れる」
「つぅーかッ!!!!男なら伝説の1つや2つ作ってみようと思わんのか!?」
「しかしもう勇者は誕生したし」
「だから何だ!?呆れたね、そんな気持ちで王様やってたのかよっ」
「だって……」
「ハァー何すか?」
「だってェ、伝説1個終わったじゃんよぉー!!15時間位前にぃーーーー!!!!」
王の目からは思わず涙が溢れる。ブワッって感じで。マジ溢れ出て引くくらい。
「余だって!!余だってぇ勇者になりたかったさぁ……魔王ズタズタにしてぇー微塵にしてぇーーボイン姉とチチ繰り合ってぇ……」
まさかの勇者志望!?ちょっ、待て、最後!!最後の文章おかしいから!!明らか不道徳!!っつーか冒頭からの謎、ボイン姉って何!?
「と、と、とにかく、だ。家出だろが何だろが、おまんが選んだ道じゃろ?なら突き進まんね」
「え…………」
「さぁ、逝こうっ」
ガッと肩を抱かれ、無理やり王は進む。つーか進まされる。まるで誰かに操作されてるように。コントローラーが存在するかのように。
ちょっ、何か間違ってない?字違うし、家出ってお前のせい!!明らかお前のせいですから!!!!
「まずは街へ逝きますよー、色々準備が要りますからねー」
だから字!!!!え……、まさか恨んでる?この人、殺されかけた事恨んでる!?
「と、その前に……絶景な崖を観光して逝きましょうね〜」
にやり。
ちょっ、もう殺人計画立ってんのォ〜〜!!?
こうして、王と兵士はデコボコしながら次の街へ向かったのであった。
「ところで王様ぁ、取り敢えず、その仮面取りません?」
「…………む?」
いつの間に用意したのか、大荷物を抱え兵士が王の仮面を見下ろす。
冒頭で引きずっていた為誰も気にしなかっただろうが、彼らの身長さは実に20センチにも及ぶ。
「その金ピカの面じゃ目立つし、王様の素顔は誰も知らないから気付かないっ。て事でぇ、街に入るなら尚更取らなきゃ、ねっ」
「…………ん」
何だか丸め込まれてる気もするが、今はこやつの言う事を聞いておくか。
王は渋々了解した。
ふふふ、素顔はいけ〜ん。
**またまた一方では……
「王ぉぉぉう!!!!」
ラッパ隊の捜索は続いていた。“もういいじゃん神隠しって事で”
そんな空気が流れ始めた頃
――ガサッ
草影の物音に目を光らせるラッパ隊。
「にゃぁ〜お」
「い……居たぞ者どもぉ〜!!!!」
隊長ぉ、それ猫ぉ!!どう考えても猫ぉーーーー!!
「隊長ぉぉぉお」
……っつー感じで、こちらのデコボコも旅立ちを迎えた訳で。
Zの受難はまだまだ続きそうな訳で…………