プロローグは殺人から
スペック。【王、仮面を付けた21歳、素顔は不明】【隊長、25歳。思い込みの激しいアツい奴】【兵士、突っ込みに生きがいを感じる隊長の右腕】
パッパッパッパ〜
軽快なリズムでラッパが鳴り響く。街には紙吹雪がばらまかれ、お祭りムード。
それもその筈、この国々を闇に突き落とし、苦しめ続けた魔王がとうとう倒されたのである。
そしてその勇者が今宵、王である余の元へと帰還する予定。
あぁ待ち遠しい……待ち遠しいぞっ。余は嬉しさのあまり、自慢の杖を振り回した。
「王様、そげん振り回すと危ないけん……」
「ガッ」
「あ……」
どうやら喜びの舞により、余の自慢のオークの杖(48,000リラ)が兵士のミゾオチに会心の一撃。
「……ご、ごめんね?」
「王様……万歳……ベルパレスに幸……あれ」
「え……?あの」
困惑する余にゴフッと血を吹きながら、グッと親指を立て垂直に倒れる兵士。
「いや、あの、グッじゃなくてさ……ゴメ」
【返事がない。ただの屍のようだ】
「!!!!!!!!」
NO〜〜!!!!
余は頭を抱えた、どうしようどうしよう。こんなオープニング無理があるって!!ちょっ、兵士、起きてよ、微笑みながら逝ってんじゃね〜よっ!!
パラッパパパ〜
「あ〜も、うっせーよ糞ラッパがっっ!!!!」
【王様はレベルが上がった】
そっちかよ!!
「う〜、イカン、イカンぞ、取り乱してはイカン。落ち着くのだシンフォニーよ」
「プッ……クスクス」
「だ、誰だ!?」
余は辺りを見渡した。
「プッ、シンフォニて……クスクス。ゴフぅッ」 ――って、お前かいっ!!!!
パッパッパッパ〜
「!!!!」
瞬間、がチャリ……と音がして、玉座の扉に誰かの手が掛かる
のだが、
ガンガンッ……ガッ。
「あれ、ちょっ、開かないんですけどコレ」
「た、隊長、それスライド式ですよ、横にスライド」
「はぁ?普通は押すか引くしかないだろ両開きなんだからさ〜」「ちょっ、壊れますよ隊長……」
どうやら扉の向こうでは口論が始まったようだ。つーか隊長、何年も働いてんじゃないのォ!?
「隊長、勇者様けっこう傷負ってるんで早くしないとヤバそうなんですけど」
「…………チッ」
え、隊長舌打ち??
扉の向こうからは、確かに勇者の辛そうな息づかいが聞こえる。かなりの苦戦を強いられたのだろう。
「はぁ〜。じゃあ頭からね、ラッパ隊“a”の音出して」
パァ〜
「おけ」
早く、ねぇ早く入れてあげて!!!!てゆうか、どうしようコレ…………
私はチラリと転がる兵士を見た。
【返事がない。ただの屍のよ……】
あ゛ーーーーーー
【スパー――ン】
ビックゥ!!!!
「あ、やべ、壊したかな」
「た、隊長〜」
先ほどからすぐ横で突っ込み続ける兵士は、もはや限界と言わんばかりに泣きそうである。
「ん?」
隊長、以下兵士ΑΒC達は玉座を見渡した。
「隊長…………」
「むぅ……」
「隊長!!?」
「分かっている!!何と言う事だ……」
「――私はΑですかΒですかッ!?」
そっち!?問題そっち!?
「うーせーな、お前なんかZだ!!」
「隊長ぉぉぉ」
「とにかくだ。お前がΑかZなのかは後だ」
今にもジタンダを踏みそうな兵士を宥め、隊長は玉座を見渡した。
「チッ、あのクソったれめ、何処行きやがった」
「隊長、クソは無いでしょ、クソは」
「きっとアレだ、家出だ、うん。家出」
「いくら何でも飛躍的過ぎじゃ……」
「おっしゃ捜索すんぞZぉぉお」
「Z!?やっぱZなの!?」
隊長は乱心しつつ、くるりと勇者へ顔を向け軽やかにお辞儀をした。
「今日からは貴方様がシンフォニー王で御座います、宜しいな?」
「…………え」 玉座にはプッ、クスクス等と兵士達の笑い声が飛び交う。王の名前は失笑を買う為、今までトップシークレットとして扱われていたのである。
そんな名前を掲げ、なおかつ留守番なんて酷過ぎる、勇者はそう思った。
「プッ。シ……シンフォニー様、留守番宜しくね」
隊長あんた笑い過ぎだよ!!明らか堪えてんじゃん、プッて笑ってんじゃん!!!!
勇者はげんなりした。
「……あの、僕帰っていいですか?身代わりとか影武者って事ですよね。酷くないですか?シンフォニーて何ですか、戦艦ですか……」
「行くぞZぉぉぉお」
【パァー】
「聞けよぉー!!」
勇者が不満をぶちまけ終わるが先か、隊長、以下ラッパ隊達は旅立ったのであった…………