TILE6 変わった昼下がり
話は飛んで次の日。ふぶきが教室に行くと一つだけ机が増えていた。それを見てふぶきは目を光らせた。
「おはよう。…………増えてるだろう?…帰ってきたのさ、【あいつ】が」
創がにっと笑って嬉しそうにふぶきに伝えた。
そして、「ひ……久しぶりだね。ふぶきちゃん、創ちゃん先生。」とか細い声が聞こえた。
時は変わって休み時間。三年の教室、つまり愛歌たちのもとには、ふぶきと見慣れないもあより深い青髪の細い少年が立っていた。
「……誰。転入生?」
「あーー!!!!この子知ってる!!」
愛歌のすぐあとに舞菜が叫ぶ。
「知り合い……なのか?」
と、飛夜理。
舞菜は「違う違う!」と言った。
それから瑠衣が「え、じゃあ何?」と問う。
「この村の『感情を司る神』だよ!」
「「はぁ!?」」
皆が舞菜を見て目を丸くした。
ほ、本当だよ!と両手を左右に振りながら言う。そして、話を続ける。
「舞菜の家の神社はふぶきちゃん、『時を司る神』の神社なんだ……。村には4つ、舞菜の家を入れて5つ…神社があるじゃん?家の神社を中心にちょうど東西南北1つずつあるんだ。その5つには『時を司る神』『生命を司る神』『村を守る神』の他に『感情を司る神』がいるんだ。その中の感情の神様は今の年齢でふぶきちゃんと同い年なんだよ。話だけは聞いてたけど舞菜も始めてみた……。」
「はい。舞菜の言う通りです。………ほら、きずな、自己紹介するのです。」
両眼を隠したその少年はえーっとふぶきに抵抗する。
白いベストは彼の白く細い腕が余計に細く見せる。そこに赤いネクタイがもっと強調される。
「あう……。………夜空きずな。舞菜ちゃんの言う通り、感情を司る神と別名があり……ます。と………とにかくヨロシクオネガイシマス…。」
眼はわからないけれど焦っていることはわかる。
そこで舞菜が疑問をきずなに問いかける。
「ねぇ、きずなくん。なんで舞菜の名前を?」
「僕も、よくわからない。でも、皆の名前は知ってる。仮にも……神だから…。」
一瞬皆は黙り込んだがいつもの様によろしくな、と返す。
「きずな、あんたなんでここ5年顔出さなかった。」
愛歌が冷たく覚めた声で聞く。
そして、きずなは、
「………僕もわからない。でも、ああやって舞菜ちゃんや悠志ちゃんは僕の事を忘れてくれた。だから、もう一度やり直すんだ。」
「あぁそう、なら好きにしなさい。」
「……! そうさせてもらうね」
フッと愛歌が笑うと飛夜理が首を傾げた。
どうした?と言った表情をしていた。そんな表情を読み取ってか愛歌はなんでもないわよ、と呟いた。
そんな二人の後ろを見送ったきずなはうーん、と悩んだ末にくっと悪戯な笑みを浮かべた。
「どうしたのです、きずな」
「んー?なんでもないよ。また、機会があったらね」
クェッションマークがふぶきの頭上に現れる。
「おい、平仮名コンビ。昼飯食うぞ」
創が不機嫌気味に、でも笑顔で教室に呼ぶ。
はーいと二人は返事をしてパタパタと教室へと戻って行く。
しぃんと静まり返った大きなホール。そこに少しざわざわした声が響く。それは、それは、下界ではもっと人が多くてもっと当たり前な光景かも知れないが、それがとても嬉しくて、幸せだった。
この空下村自体の歴史や文化や生き方や死に方や様々なものがあるのだろうが、今はこれが幸せだった。
「しっかし、よく帰ってきたもんだ。きずな。」
創が珍しく輪に入りそう言った。
きずなはキョトンとした。
「創ちゃん先生……何をいきなり 」
「きずなって名だけに、ふぶきとも深い信頼関係や【絆】があんだな。」
創が呟く。そして、きずなが「何を言うんですか、創ちゃん先生も輪の中ですよ」と言うと創が「そうか」と薄く笑い答えた。
「上手いこと言いまとめられてメンドクサイのです」
「ふぶき、成績落とすぞ」
「ごめんなさいなのです」
それから昼休みになり、教室では2人が何やら話していた。
「ねぇ、ふぶきちゃん。」
「なんですか。」
「愛歌ちゃんと飛夜理ちゃんやもあちゃん先生と真吾ちゃん先生ってさ、何かある?」
「あ、それならもあがし…………ぶっ」
「ふ、ふぶきちゃん!?」
「あたしが、どうしたって?」
きずなが振り向いた先にはパンチの姿勢で構え黒い笑顔で立ってるもあがいた(この右フックを真吾曰くもあパンチというらしい)。
「も、もあちゃん先生……なんでもないよ!?だ、大丈夫デスカラ………!」
「きずな!余計なこと言ったのお前か!!」
「ち……違いマスヨ…!!!」
「敬語だけカタコトになんじゃねえぇぇぇぇぇぇえ!!!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
そうして、終えた昼下がりなのだった。