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FILE39 モデルケース

「希さん、こんなことは出来るのに性格がダメだから結婚出来ないんだよ…………」


 ぽつり、と悠志は悪口を放った。

 愛歌もいつどのタイミングで希に話を出そうか考えていた。どうも二人(主に飛夜理)がいる場では切り出しにくい。

 さて、本題だ。愛歌は何故こうなっているのか。それは前々から本を読んでいたことが発端である。


「ま、希。話が、ある。」


「ん~?♡」


 しばらくすると、希も愛歌もエプロン姿でカフェのキッチンに立っていた。

 チョコクッキーでも作ろうか、とレシピ本を大量に広げていた。


「さ♡愛歌♡やるわよ~♡」


「………うん。」


 愛歌には熱意があるように見えた。


「むぅ、こんなにクッキー作りは難しいのか…………」


「愛歌、滅多に料理しないものね♡」


 よくわかってるわね、と愛歌は嫌味たらしく言う。ふふ、と希が笑う笑にはきっと別の意味が込められている気がした。


 そんなことは他所に、カフェで希の代わりに手伝わされた男子が二人。


「はい。テイクアウトですね。360円です」


 飛夜理は持ち前の愛想で接客をしていた。…………そんな彼の脳内は、ただ妙な言葉が過るのみだった。


(…………この人達……中家の………確か本屋の………)


 飛夜理が今まさに相手にしているのは行きつけの中家の本屋の男性店長と男性店員。そのふたりは異様な仲の良さだった。

 今だから説明をしておこう。下界(そと)は異性婚が当たり前であるが村は『同性婚』を認めている。まさに彼らはそのモデルケースとでも言おうか。まぁ、そんな仲なのだ。


「あ、ありがとうございました」


 苦笑い。というか、中途半端な笑顔で飛夜理は笑った。

 愛歌は前に『『恋』は時間が止まった状態で『愛』は時間が進む状態かもしれない。』と言っていた。彼は其言葉を思い出していた。

 今でこそ、『恋』も『愛』も様々な形があること、彼はそれを痛感していた。


「ふぅ………。しかし、希さんは人を雇わないみたいだなぁ………」


 飛夜理はぽつりと呟いた。

 さて、キッチンはすっかり料理を終えて、ガールズトークに花を咲かせようとしていた。


「んで?♡愛歌は、飛夜理に何も言えないわけ?♡」


「な……………っ、なにか悪いか。」


 悪くないけどさ~と希は笑っていたが、やはり不満そうに、


「運命なのよ♡受け入れなさいよ♡」


 と、だけ言った。希はよくこれをいう。それは事実であり、昔からの教えのようなものだった。


「あんたさ…………それ、『あの子たち』にも言ってたの?…………そろそろ、私も聞かなきゃならないのだけど。」


 愛歌は目をつむった。すると、希は「なんのことかしら♡」と返した。あえて、愛歌も返すのをやめた。

 まだバレンタインまではあと数日はある。ゆっくり考えて、『あの事』はさっさと考えよう。と愛歌は決めたのだ。


 古い、誰もが忘れようとしてた、欠片が少し輝き始める。

 それは、黒く光り、誰もの傷を開こうとする。

 もうすぐ、それを乗り越えるため、彼女たちの勇気が、試される季節がやってくる。

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