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i might Loved you.  作者: SaLa
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父の背中

転章


ただいま、と声をかけた玄関は静寂を以って返事をする。

シルフ族では靴を脱ぐ習慣はないので、そのまま、ブーツの土を払ってから中へ入る。

玄関入ってすぐ、白い大理石を削った装飾華美な階段が目に入る。その階段を駆け上がって、その先の短い廊下の突き当たり、緑色の石で作られた重そうで重くない扉を引く。扉と同様に、緑を基調とした調度品と木の板を張り合わせたフローリングの床と壁面。南の大窓からは暮れる西陽が濃いオレンジ色を伴って差し込んでいた。

両腰に吊った直長剣(ロングソード)2本をいつも通り壁のフックにかけて、纏った濃紺の長衣(ロングコート)をハンガーにかけて同じ様にフックにかける。軽くなった我が身を軽快に動かしながら、階段を下り、正面に見える玄関口にクルリと背を向けて、その奥にある、大きなガラス扉を開ける。大部屋の真ん中には、一枚板のテーブルがあり、その上に一枚の羊皮紙がハラリと踊っている。


暮れには戻る。

父、母。


いつも通り、両親は仕事に出たようだ。母は村唯一の薬屋で、レイヤー行き付けになっている様だ。いつも朝と暮れに店を開けて、昼間は村内の畑で薬草を作っている。

父はそのレイヤーだ。普段はふざけたおじさんだが、村の大人たちは、最強のレイヤーと言っている事を俺は知っている。毎回死なずに帰って来るから、それなりなんだろう、と俺は思う。

対して、俺は。

もうじき、学校も終わる。すると、自分で生きて行くことになる。周りの人間が、俺がレイヤーになることを期待しているのは、肌で感じる。俺自身も、漠然とレイヤーの未来を描いている。そんなんでいいのか。そう聞いた俺に、もう一人の俺は、そんなもんだろ、と答えた。


2週間の時間がうだうだして通り過ぎた。

セイトの胸には、村の徽章が飾られていた。

学校の修了と成人を示す徽章である。

これから新成人たちは、夫々(それぞれ)の仕事に就き村の維持発展に貢献していくことになる。畑を耕して生きるのも、家畜を飼い生きるのも、家を建てて生きるのも、全て村のためになっていく。勿論、レイヤーも重要な職業である。しかも、最近はモンスターが村の周辺によく出るようになった。レイヤーの存在感は、日を追うごとに大きくなっている。今では、報酬の額は5年前の2倍とも言われている。

セイトの心はもう決まっていた。

どうやって、村の人々の役に立つか。

それは、父の後を継いで最強のレイヤーを目指すことが、自分にできる最大の貢献だと考えた。

その思いを、父も母も笑わなかった。ただ、そうか、と言って我が儘(わがまま)を受け止めてくれた両親の優しさに、改めて感謝した。

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