訣別Part2
病院に電話をかけたのは昨日のこと。
今日は土曜日だから、時間もあるし
若葉病院へ行くことにした。
病院なんてものすごく久しぶりだ。
大きくて真っ白な建物に
変な威圧感を感じる。
私はゆっくり病院に呑み込まれた。
病院内は痛いほど静かで
1人で勝手に緊張している私の心臓の音が
聞こえるんじゃないかって
思うほどだった。
意を決してナースステーションに行き
三枝くんの部屋番号を聞く。
看護婦さんは教えてくれるとき
「あの子ねぇ…誰もお見舞いに来ないから
友だちいないんじゃ、と思ってたけど
こんなに可愛い彼女さんがいたのねー」
ふ、ふぇ?!!
「あ、あの、違います!!
ただの知り合い…っていうか、その…」
看護婦さんはくすくす笑いながらも
ちゃんと教えてくれた。
なんか遊ばれてるよ……
ぺたぺたと無機質な廊下を歩く。
うぅ…今更ながら足が震える…
それでも何とか歩いていたけど
[三枝 圭]と書かれたプレートの前で
思わず立ち止まってしまった。
ど、どうしよう…
ここまで来ちゃったけど、勢いだし…
っていうか、突然来ちゃってるし
誰も来てないって、来ちゃだめな感じ?
う、あう、えーと、どうしよう……
お土産にお菓子持って来ちゃってるから
それだけ手紙かなんかつけて
置いて行って、帰ろうか……
そうだ、そうしよ!
急すぎるし、その方がいいよ…
「……お前不審者か何かか?」
心臓が飛び出すかと思った。
そのからかっているような
それでいて真剣なような声の主は…
「人の病室の前で何やってんだよ…」
恐る恐る振り返ると三枝くんだった。
薄い水色のパジャマを着ている。
「…ここに用なら入れば?」
まだ不審そうだけど部屋には入れてくれた。
病室に入るとすぐに
「ま、座れよ」と椅子を出してくれ
三枝くんはベッドに腰掛けた。
あたふたと座る私を見て
やっと不審げな表情を
お得意の意地の悪い笑みに変える。
「で、何で入院してんの知ってんの?」
急に質問されて面食らう。
「えと、あの、長峰の女の子たちが
喋ってたのを、たまたま聞いちゃって…」
「じゃ、花村たちかよ……
あいつら、うるさい上に口軽すぎ……」
しどろもどろになって答えると
三枝くんは渋い顔で女の子たちの
口の軽さに文句を言っていた。
……少し痩せたかな…
沈黙になると堪えられなくなりそうなので
こちらから質問する。
「あ、あの、お見舞いに、その、誰も
来てないって、えと、その…
私も、来ちゃだめだった?」
あっけからんと答えられた。
「え?あぁ、お土産ない奴はお断り」
はぐらかされたけど。
「ちゃ、ちゃんとあるよ!あげます!!
じゃ、じゃなくて!!」
「明日手術なんだ」
間髪入れず答えられたのは
すごく真面目でちょっと寂しげな声だった。
え?思わず目を見張る。
「手術の成功率っていうやつ?
結構低いんだよ。 先生は隠してるけど。
でも、そういうのってなんか分かんじゃん。
それで、まぁ、誰にも会いたくないっつーか
あんまり見られたくないなーみたいな?
クラスとか学年の連中には
入院って時点で来んなって言っといたしな」
何にも答えられない。
三枝くんはまだ言葉を続ける。
「だけどさー、不思議だよな」
三枝くんはベッドに寝っころがる。
「何かさ、お前には会いたいっていうか
顔がたまに見たくなるんだよな。
よくわかんないけどさ。
あんだけしか会ってないし」
顔はやっぱり意地悪そうだけど
ちょっとだけ寂しげだ。
「だから、今日来てくれてよかった」
息が止まりそうになる。
三枝くんは優しげな笑みを浮かべていた。
不意に、三枝くんがよっ、と声をかけて
ベッドのサイドボードの上に転がっていた
濃いブルーの携帯を手に取った。
「ほら、交換させろよ。
急に来たらまた不審者扱いするぞ?」
私は黙ったまま、携帯に三枝くんの
メールアドレスと電話番号を登録する。
どうしても、何も言えなくて
黙り込んでる私を、三枝くんは
どこか寂しげな顔で見ていた。
何にも言えないまま
帰らなければならない時間になり
椅子から立ち上がった私に
三枝くんは言った。
「気をつけて帰れよ。
……また連絡するから」
その優しくて私を気遣うような声を聞いて
堰が切れた。
「……わっ、私も、三枝くんに
会いたくって、その、来たの…
これからも、ずっと、あ、会いたい…
か、から、ちゃんと、か、帰って来てっ」
三枝くんが目を丸くしたのが分かったから
逃げるみたいに夢中になって
病院を走り出た。
顔も目もかっかと熱くて赤いのが分かる。
あぁ、だめだ。
2回しか会ってない。喋ったのも。
でも、それでも、会いたい。
私はきっと三枝くんが大好きだ。




