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愚者が描いた世界  作者: 白い黒猫
~見えてきたのは~

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39/51

5-7 <そして愚者は勝手に歩き出す>

  劇におけるフリデリックの役者は覚えるセリフは三つだけで良くて楽だと揶揄される事から分かるように台詞のバリエーションがすくない。


『興味ありません』


『どうでもいいことですから』


『私には関係ありません』


 この三つをシーン毎に使い分け観客から笑いをとるのが道化役のフリデリックの劇においての仕事。政治や世間の事に対して無関心で、ひたすら趣味に惚けて宮殿の外の出ることもなく引き籠っている男、それが劇においてのフリデリックの姿。


 何故そのように表現されるようになったのか? 姉と違い内向的な性格と、まだ幼く社交界デビューもまだしていないこともありフリデリックという人物はその外見やら人柄を示す内容があまり見当たらない。凱旋式の時も紗のカーテンのかけられた高い位置にあるバルコニーの奥にいたことで民衆からはその姿は殆ど認識されることはなかった。

 公共の場に殆ど出ることのない筈のこの時期からフリデリックは世間での悪評が目立ち始めていた。首都で暮らしていた市井の学生が日記代わりに庶民の間に広まった噂をしたためた【萬雑記】にそれまで常連のように登場していた贅沢三昧の王妃と共に、何故かフリデリックの良くない噂話が登場するようになる。『不細工の小男』『男の癖に王妃のスカートにいつもビクビクと張り付いているような弱虫で小心者』というのものから始まりだんだんとエスカレートしていく。まだ十四歳の少年なのだから小柄で当然なのだし、殆ど民衆の前に出ることにかったフリデリック王子の姿を見たものなど殆どいない筈なのに殊更貶める記述が多い。


 それとは真逆で日記の中のフリデリック王子は寧ろ生真面目とさえ思え、その姿にも驚かされる。気象学、地質学にも興味を持ち個人的に記述も増えてきて、彼なりに必死に学び何かを変えたいという気持わってくる。

 マルケスはフリデリック・ベックバードの日記を読み何とも言えない気持ちになる。とり繕われ不都合な事を隠された中での行幸においてもそこで何かを見いだそうと真摯な気持ちで挑み、必死に自分のすべき事、出来る事を模索するフリデリックの心がそこにはあった。

 宮殿に戻った後、余計なもてなしなどない慰問を申し出るが、フリデリックが王族である事からそれは無理な話と諭され、フリデリックを前に民が自然に振る舞える筈はないとも言われ、それ以上の外での活動を諦めるまでの心の流れを切なくなってくる。


 フリデリックの強い想いで挑んだ行幸も『馬鹿みたいに派手な格好でたった一人の国内に関わらずありえない人数の護衛を引き連れ、傲慢な態度で民に接してきた』と【萬雑記】に書かれてしまっている。

「先生、何故フリデリック王子はここまで民衆から悪く書かれるようになったのでしょうか?」

 そう尋ねる弟子にウォルフはウームと声をあげる。

「その時代は貴族政治の世界で、貴族による貴族の為の世の中。領主によってかなり状況は変わってきているが、貴族に逆らう事は破滅に繋がるという状況。それだけに一般民衆からの不満が最高潮に達していたこともある。だからこそ民衆の間でコソコソと気に喰わない貴族や王族対しての悪口を漏らす事でその憂さ晴らすという流れが出来たのだろう。この【萬雑記】にしても、研究所などで元老院の貴族と接していた作者が公表する目的ではなく、自分の中にあるどうしようないムカつきを吐き出す為に書いていたもの。このように未来の人に読まれている事を本人が一番慌てているかもしれない。

 この当時の人がまだ恵まれていたのは、貴族や王族は自分達の事しか考えておらず、民衆の事には興味なく舐めていた事もあり、言論を取り締まるという事まではしなかった。それゆえに悪口もエスカレートするのを止める人もいなかったといえる」

 マルケスはモヤモヤとした嫌な気持ちになる。当時は政治も今と異なり乱れかなり酷い社会だったというのは理解しているものの、立ち上がり何をするわけでもなく不満や悪口だけを言ってクダを巻いている民衆に嫌なものを感じた。その事を口にするとウォルフは笑う。

「まあ、首都で生活するものは、中流の地位にある。不満をいうくらいで発散できる程度の不満ですんでいたというのもあるのだろう。もっと劣悪な環境にいたザビーナの農民たちは実際反乱を起こしたりもしたからな。

 今の生活を捨ててまで行動起こすというのは、よほどの覚悟がいることだから」

 納得は出来るものの、モヤモヤとするものを感じながらもマルケスは頷く。

「色々な思惑が動いていたともいえるだろう。王国軍の上への報告書類にも、城下町において不自然な程、王族の悪意ある悪口が広まっている事についての記述もあった。何者かがあえて態とそういった噂を流していた可能性もある」

 マルケスはその言葉に顔を顰める。

「という事は、それは王国軍側の策略だったと?」

 その問にフォルフが顔を横に振ることで、マルケスはホッとする。自分が愛する英雄たちがそんな卑劣な事をして欲しくなかったからだ。

「バラムラス元帥も、レジナルド様もその噂の出所の調査を命じていたことからも、おそらくは違うだろう。それに王国軍やレジナルド様に対しても色々悪い噂は同様に流されていた。【テリー・コ―バーグはレジナルド様の色小姓】とか、【王国軍の士官たちはテリー・コーバーグに腰抜けにされている】とか【歓楽街に足しげく通う程テリー・コーバーグは好色である】」

 マルケスは、初めてきくとんでもないそれらの噂に目を丸くする。

「ま、英雄色を好むというし、そうであっても彼らの功績に傷つくものではない。実際レジナルド様とテリー・コーバーグの関係はそういう関係であったとされる説も残っていたりもするからな」

 マルケスは思いっきり不快そうに顔を顰める。

「それはありえないでしょ、第一レジナルド様はテレサ様がいます! そもそもそんな男色の趣味などありません」

 そう一生懸命主張する弟子にウォルフは笑ってしまう。何よりも憧れているレジナルド・ベックバードに対する事となると彼は必死になる。そういう感情を引き起こすのも当然といっただけの功績を実際残しているし、アデレードの歴史でも一番愛されている人物といったら彼になるのだろう。華々しい功績と容姿から、豪快な人物に思われているが、彼の行った事は腐敗していたアデレードの改革に動き、そしてその知力とカリスマにより戦乱で乱れていた大陸を安定に導くと、常に求めていたのは安定と平和で慎重で穏やかな人物である。闘いにより皇帝の地位を手にいれ、その後周辺諸国を侵略という暴挙にでたアラゴール皇国のゲイル皇帝や、マギラ皇国政権を一掃し皇帝となったヴィンセントらのように破壊により道を作った彼らとは真逆で、築きあげ道を拓くという生き方をしたのがレジナルドの個性であり魅力である。


 そしてもう一つ、後世の人を夢中にさせている要素は、ラブロマンスである。下半身が不自由で子を産む事も難しいとみられるのに『誰が何といおうと、私が愛するのも、共に生きるのも彼女だけだ』と宣言しその愛を貫いた。


『私の愛、そして私の全て

 同じ物を見つめ同じ音を聞き、同じ想いを抱き、同じ未来を創る

 我らは一つ。故に死でも分かつ事は出来ない』


 そう墓石に刻み今尚も夫婦で同じ墓に眠る。そう人の目に見える形で誠実さを示し誤解を解く事の出来るレジナルドとは異なり、何も明かさておらず謎の中に生きたフリデリックは色々な意味で不利だったともいえる。良くない噂が流れている事を知る事も出来なければ、それを否定してみせる機会もない。そういった噂についてテリーの部下が『そんな事を俺達が許す訳ないだろ』とキレて、同様の噂を流されたレゴリス上級大将はその事を聞き爆笑して否定したという。


「まあそう膨れるな、どんな人物でも全ての人から愛され支持されるものではない。面白くなくて悪口を言うもいるくらいが自然な事だ。逆に偏った印象だけで噂が構成されている方が不自然な状態なのだ。それだけに実際に職人などに我儘を言いまくっていたとされる王妃とは異なり、まったく外への接点がないはずのフリデリック王子が『寝汚く、朝起こすのに物を色々投げたりとして起こすのが大変である』とか『洋服選ぶのにアレコレいつも文句言って毎日二刻もの時間を使う』とか『勉強するのが面倒くさいと我儘言い、サボりまくる』とやけに具体的ならしいエピソードを交えて悪く言われるのは不自然だ。そして日記にかかれている彼の生活とはまったくそれらの噂の内容がズレているという」


 十五歳を目前としたフリデリック・コーバーグ。何故か彼は呪いにも近い悪意によって覆いつくされその存在を隠される事となってしまった。それは何者かの故意によるものなのか? そういった不満を抱え変化を求める流れのちょう度いい位置に存在したゆえにそうなってしまったのかは今となっては分からない。


 フリデリック王子は不思議な事に元老院が我が物顔で政治を動かす貴族中心の腐敗した政治を放置することでより強力なモノにしてしまったウィリアム王よりも後世の人には有名で嫌われ馬鹿にされている。何故そこまでの悪意を浴びる事になってしまったのか? ある意味誰よりも数奇な運命の星の元に生まれた男だったのかもしれない。


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