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愚者が描いた世界  作者: 白い黒猫
~見えてきたのは~

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5-4 <その先にあるもの> 

 今日の兵法の授業はナイジェルが国外に派遣中という事でテリーが担当となった。最近はテリーの剣技の講義だけでなく王国軍三人の講義には誰だかの見学者がつくことになっていた。フリデリックでも流石にそれは見学ではなく監視なのだと分かってきた。王国軍と元老院の溝は自分が思っていた以上に大きい。というか元老院が王国軍を必要以上に警戒しているのを感じた。本日のその監視役がキリアンではなかっただけでなくグレゴリーであった事でフリデリックはホッとする。テリーとグレゴリーの二人の関係は良いようで仲も良く見えた。グレゴリーの意見も交えての講義はいつも以上の広がりもあり面白かった。大好きな講義だけに久しぶりに平和な授業が行えて終えた事にフリデリックには一番幸せな状況だった。

 そんな三人なので自然な形で穏やかな茶会と移行する。

「そういえばテリーはグレゴリー先生とお知り合いでしたよね」

 その言葉にテリーは少し困った顔をして、グレゴリーは寂しげに笑う。

「私が厚かましくもグレゴリー殿に相談させていただく事がありまして」

 テリーのその言葉を受けてグレゴリーが柔らかく笑う。その表情がいつも以上に優しく幸せそうでフリデリックは少し戸惑う。今だけでなく今日のグレゴリーはどこか若々しく楽しそうに見える。

「いえいえ。こんな老人にそのような話を持ち掛けて頂き嬉しかったです」

「老人なんてまだ、お若いのに。お蔭で、本当に助かりました」

 そのような会話をして微笑み合う二人の様子にフリデリックが首を傾げていると、グレゴリーはテリーが気にかけ面倒をみている孤児院の子供達に勉強を教えるという仕事を引き受けたと説明する。

「それは素晴らしい事ですね。グレゴリー先生のような素晴らしい講師を、私だけが学んでいるなんて勿体ないですものね。子供達も幸せです」

 フリデリックの言葉にグレゴリーはいやいやと恥ずかしそうに顔を横に振る。

「この年でもう隠居生活に入ってしまい、私はこの国にとって役立たずな存在です。こんな私でもまだこうしてできることがあるというのは嬉しい事です」

 その言葉にフリデリックはどう言葉を返すか悩む。まだ五十になっていないグレゴリーは侯爵家の次男で、兄は宮内省の議員を務める程の名家の人間である。以前は 按察官として働いていて優秀な人物だったようだが、今はフリデリックの講師だけをしているというのは奇妙ともいえる。

「父も母はいつも貴方の事を誉めていました。グレゴリー殿に任せておいたら安心だと。貴方は何かを産み出し育てるそういう方だと」

 テリーの柔らかい言葉と表情に、大人であるグレゴリーは恐縮しつつも子供のように照れた表情をしている。そのあどけない様子はどこか微笑ましくも見えた。話題はそのまま二人が面倒を見ている孤児院の話となる。彼らの決して良いとは言えない生活環境にいることにフリデリックは心を痛める。講師の役割だけでなく按察官時代の経験と知恵を借りる為にテリーがグレゴリーを頼ったという事も見えてくる。そういう援助はある程度まとまったお金を渡せば終わりという事ではなく、継続的に見守り援助をいかに恒久的に続けていくかを考えねばならない。募金を無理のない形で集めたり、衣類や食品を募り調達したりというシステムを作っていく必要がある。そういう会話は聞いていても面白く、興味深い内容だった。

 同時にフリデリックはそんな会話を楽しむ二人の事が羨ましく感じる。そのように人を見守り育てる事、またそうやって一般の国民と触れ合って共に笑って過ごせる事が、今のフリデリックにはとてつもなく素敵な事に見えた。

 また心の傷を抱えているようで、いつもどこか虚ろだったグレゴリーがその痛みから解放されたかのように晴れ晴れした顔をしている。自分と殆ど変わらぬ年齢のテリーだが、国の為に最前線で闘い、そして王都において戦災孤児らを見守りその教育を手伝うなどの奉仕活動をし、大人であるグレゴリーに生きがいを与え逆に導いている結果となっている事実にも感心するしかない。

 一方自分はなんと無力でちっぽけな存在なのだろうか? とも感じ落ち込む。

 この国の中央にいるようで、宮殿の奥部分しか世界を知らず、顔を合わせるのか家族と宮内省の人間と宮殿内で働く人のみ。こんな状況でちゃんとした王になれるのだろうか? とも思う。

 毎日行っている講義により政治の事、社会の事を勉強はしている。しかしそれで知る事の出来る世界は紙の上の知識でしかなく、王となって実際政治を行う時どの程度役に立つのかも悩ましい。お茶会での二人の話を聞きながら外の世界を実際にみて国民に直に会い対話をしてみたいという気持ちも高まってくる。

 しかしそれを今ここで二人に伝えると、かえって二人に迷惑をかけることはフリデリックにも理解できた。先日、怪我人を見舞った事はあえて許可を取らずに行ったから出来た事で、その分後で大騒ぎとなった。宮内省の人はフリデリックが宮殿から出ることを嫌がる。フリデリックが動く事で、警備の問題とか人を余計に動かす事になり、面倒というのもあるのは分かるが、その事にだんだん息苦しさも感じ始めていた。何故宮殿内の外れにある腹違いの姉とその母親の墓参りすらままならぬのか?

 以前なら余計な騒ぎを起こす事は控えてしまっていたがそれではダメだという気持ちもフリデリックの中で強くなっていた。


 今の状況でどう動くのが一番物事を動かしやすいのかとフリデリックは考える。母親で王妃であるマリーは哀しい事に貴族主義で選民思想が強くフリデリックが彼女のいう所の卑しい人と接触する事を嫌がる。下手にマリーに訴えてみても、理論が通じず、彼女の思い通りにしない事は全てフリデリックの我儘として認識され、大げさに嘆き対話にならなくなる。そういう勝手な行動をするようになったのはテリーの所為だと騒ぎだすのが目に見えていた。すぐに感情的に事態をかき回す王妃に気を使って宮内省の人間もフリデリックに余計な事をさせないようになっていたという流れがあるようだ。王妃と宮内省の両者を上手く動かせるのは一人だけ。ウィリアム王だ。


 そこでフリデリックは週の初めの朝食に動く事にした。この日は家族だけでなくその朝食に一週間のスケジュール確認と様々な報告の為に宮内省トップであるクロムウェル公爵も同席する。つまりは王妃とクロムウェル侯爵の前で父を説得出来たら、二人は反対できない。この数年フリデリックとてただぼんやりしていた訳ではなく、周囲の人の会話や行動を見て彼なりに学んできていた。王である父なら、自分のやりたい事を理解してくれるそう信じて、緊張しながらその日を待つことにした。


 王家の食事風景というのは豪華であるものの、賑やかなものではない。毒見の関係で熱々の料理がテーブルに上る事はなく、会話も王妃マリーが一人、サロンで行った夫人だけのパーティーでの出来事などを語っていて会話ともいえない状況が広がる。昔は明るく朗らかに生きている母親の事を素敵だと思っていたし、その話も楽しく聞いていた。しかしデザインの装飾品を注文したとか、今流行しているドレスの話に夢中になり気飾る事に異様に執着しているその様子に気持ち悪さすら感じるようになってきた。

また友人であるはずのサロンに招いた相手を蔑みあざ笑うような言葉を楽しそうに語る王妃に、フリデリックは以前のように敬意をもった感情で接する事が出来ない。

着飾り愉快に気儘に生きる事にしが興味ないそんな母親に対して不快感を覚え始めている自分にも戸惑っていた。彼女が大切なのは如何に美しく生きるか、そして自分の子供立ちだけ。余りにも露骨にそれを見せてくる母親に唖然とする事も増えてきた。

 一人だとはいえ侍女のマールらと会話しながら食べる昼食や夕食の方がフリデリックにとっては楽しく温かい食事風景だった。

朝食は家族四人で食べる事になっているが、王妃やエリザベスは遊び過ぎて寝過ごしたりすることも多く居ない事も多いし、四人いたとしても共通の話題をすることはなく、義務でしかないイベントとなっていた。


 週の初めの朝はクロムウェル侯爵が入る事で、話題は仕事中心となることで、日に日に高まっていく母親への苛立ち呆れを感じずに済む事はフリデリックにはありがたい日でもあった。


 前の週国内で起こった事を報告するのを父は背もたれに身体を預けゆったりとした様子に聞いている。同盟軍と帝国軍連合との間で相変わらず国境においての小競り合いは続いているようで、そこでフリデリックの講師でもあるナイジェルが戦っていると思うと心配になる。いやナイジェルだけでなく、多くの兵士が同盟国の国境で死と隣り合わせで職務についている。しかし父親は作物の収穫高やある貴族が結婚することになったとか、どこの家の夫人が子供を産んだといった話の方が気になるらしく、厚い肉を美味しそうに食べながら、楽しそうに聞いている。一方母と姉はそんな報告より月末に行われる秋の収穫を祝う園遊会に参加するメンバーの方が気になるようだ。母と姉は珍しく活発に意見を言いクロムウェル侯爵を困らせている。感情だけで出席者を選ぼうとしている王妃を宥めるように、その必要性を説き説明しクロムウェル侯爵も大変そうである。


 ウィリアム王はというとそんな様子を穏やかな笑みを浮かべ見守っている。フリデリックはそんな父にそっと話しかける。

「父上、お願いがございます」

 真剣な表情で声をかけてきた息子を父親は首を傾げ見つめかえしてくる。

「将来の勉強の為にも、農地や学校の見学をして実際に自分の目で国を見ていたり、養護院や孤児院を慰問したりと、王族として今俺が出来る事をしたいです。いずれ父の横で立派に仕事していく為にも」


 ウィリアム王は驚いた顔をするが、その目をやわらかく細めて笑う。そして少し浮かれた様子でクロムウェル侯爵に声をかける。クロムウェル侯爵と王妃とエリザベスは園遊会絡みの話に夢中になっていてこの会話を聞いていなかったようだ。


「クロムウェル侯、君に感謝するよ! 息子がこんな事言い出すとは、君の教育の賜物だな」

 その言葉にフリデリックはホッとする。父は分かってくれて、俺の想いを理解して認めてくれた事も嬉しかった。母は目を吊り上げてそんな下賤な者の所に行かせるのは危険だとか、そんな慰問など下らない仕事は按察官に任せたら良いと反対する。

「マリア、お前が子供のことが心配なのは分かるがフリデリックは男の子だ。もう少し大らかに見守りなさい」

 ウィリアム王のそんなのんびりと穏やかな声で妻を諭し、侯爵に手配を命じる。王妃は怒りに身体を震わせ何も言わずに食堂から出て行ってしまった。フリデリックはその後ろ姿を哀しい気持ちで見送るが、自分の力で自分の世界を広げる事ができた事には満足していた。フリデリックが行動して変わっていけばいつか母も考え方を変え分かってくれる筈。フリデリックは祈りに似た思い胸に、大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出した。


 メインディッシュも終わりデザートである栗のデザートをニコニコ楽しむウィリアム王も、これから体験する事への期待に胸を膨らませているフリデリックも、顔を顰め忌々し気に王子を見つめているクロムウェル侯爵の表情に気付く事もなかった。クロムウェル侯爵の顔が脂肪に覆われて色々垂れさがっている為に表情が分かり辛いこともあるので仕方がないないと言える。食事の時間も終わり、クロムウェル侯爵は諂った笑みという仮面を被りなおす。挨拶をして食堂から出て大きく溜息をついた。

 無邪気で人の悪意に疎く疑う事を知らず、善良で呑気な気質。それは王と王子に共通する長所である。王の場合は、その気質は元老院にとって都合よかったが、王子の場合それがやや不味い方向に向かい始めている。クロムウェル侯爵は悩む、さてどうすれば上手く余計な事をしないように矯正出来るのか? クロムウェルの欲と邪念と脂肪にまみれた頭でいい方法が見つかるはずもない。何か良い方法を見つける為に元老院本部へと急ぐ事にした。


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