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愚者が描いた世界  作者: 白い黒猫
~剣と誇り~
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3-4 <課外授業>

 その日、フリデリックはグレゴリーに連れられてアルバート南東にある、ヴァラサラー城に来ていた。

 コチラは、もう使われていない廃城で、廃墟となりながらも、直線と曲線を絶妙に取り混ぜた奔放なデザインは素晴らしく、朽ちて尚、強い威厳と存在感をもっていた。現在のアルバードにあるヘブンリーシスタ城が女性的であるのに比べ、ヴァラサラー城は男性的な魅力をもっている。

 海を望むように存在する、その城はかつて『絶美の城』とまで謳われており、船でヴァラサラー城を望む者はその姿を一目見た事を一生の自慢としたほどであったらしい。

 しかし、百年ほど前、海岸部を襲ったハリケーンで城下町と供に被害をうけ、今はレゴナ川の河口から少し内陸に入った。 アルバートに遷都されることで、そのヴァラサラー城の歴史は閉じる。

 現在は軍の管理下におかれ、訪れるものは兵士のみで、それも警備の為の見回りというそっけないものなのも寂しい限りである。

 グレゴリーはヴァラサラー城を案内しながら、その場その場に纏わる様々なエピソードを交えながら。その当時の世界をフリデリックに口授していた。

 そのすぐ後ろからダンケが付き添い、少し離れダンケの部下が警護にあたっている。

 かつての王が住まう、シルビア宮の海を一望できる場所のベンチで一休みするグレゴリーとフリデリック。

「そういえば、王子……先日王国軍を視察されたとか」

 ダンケが用意した、お茶を飲みながらその絶景を楽しむフリデリックをジッと見ていたグレゴリーが、何気ない様子で話しかけてきた。

 フリデリックは、グレゴリーのカップをもつ手に、不自然に力がこもり緊張しているのには気付いていなかった。

「いえ視察などではなく、剣技と兵法の先生となる連隊長の方々と顔合わせさせて頂いたのです」

 照れたように笑うフリデリックをグレゴリーは目を細めてみている。

「連隊長といえば最近就任されたテオドール・コーバーグ殿が評判ですよね」

(テオドール?)

 王国軍から資料として受け取った書類にもT・コーバーグとだけあったので、そこでフリデリックは初めてテリーがテオドールの愛称だったことを理解する。

「金彩の瞳の人物、レジナルドお兄様以外初めてお会いしました。それだからというのではなく、本当に素敵な方でした」

 フリデリックはテリーの姿を思い出しふわりと笑みを浮かべる。

「そうですか、金彩の瞳は遺伝するといいますから、お母様に似たのでしょうね。テオドール殿は」

 グレゴリーの言葉に驚くフリデリックとダンケ。

「グレゴリー先生はテリー殿をご存じなのですか?」

「いえ、お会いした事ないですね、ただテオドール殿のご両親とは親しくさせて頂いておりましたので」

 ダンケは顔を険しくし、剣を抜きフリデリックを立たせ自分の背後へ隠しグレゴリーへ向き合う

「ダンケ?」

 フリデリックは訳分からずダンケの声かけるが、その後ろ姿から張り詰めた気配だけが感じられた。

「貴方が亡霊だったのか! 今回王宮から王子をここにおびき出し何をするつもりだ?」

 剣をグレゴリーに突きつける。

「ダンケどの、誤解なさらないで下さい、私はただのフリデリック様に歴史を教えるためにここに来ただけです。

 しかも私は丸腰ですそれでも切りますか?」

 ダンケに向かって、手を広げグレゴリーは穏やかに答える。

「ダンケやめて!」

 フリデリックは叫ぶ。

「何の話をされるつもりだ! それによっては、切る!」

 ダンケの言葉に驚き、フリデリックはダンケの剣をもつ手を思わず押さえる。

「ダンケ! ダメだ! 止めて!」

 二人の間に緊張した空気が流れる。

 その気配に他の近衛が近づいてくる。

 フリデリックは叫ぶ。

「みんな、大丈夫、誤解だから! 何でもない!」

 階段の下の近衛達が戸惑うような表情でダンケの指示を待つ。

「ダンケどの! 私も同じですよ、王子をお守りしたいだけですよ! 貴方が剣で守るように、私は知識を与える事でね!」

 グレゴリーの真剣な顔と、フリデリックの必死の制止にダンケの心が揺れる

「ダンケ殿、貴方はフリデリック様をお守りするといいますが。

 何も見えない、何も聞こえない、そんな危ない場所に、そのまま過ごさせて、どう守るというのですか!」

 ダンケ、は戸惑いつつも剣をおろす。だが 剣は鞘にしまわない。部下へそこで待機しろと手と視線で指示を与える。

「どういうことですか? ダンケ……グレゴリー先生……」

 グレゴリーはフリデリックを真っ直ぐみて静かに語り出す。

「フリデリック様……授業をしますか、今日の論題は『正義』です」

 グレゴリーはそういって笑ったが、その表情はいつもの優しいものではなく瞳に激しい感情を秘めた冷たい笑みだった。

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