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愚者が描いた世界  作者: 白い黒猫
~王子と剣~
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2-5 <盤上の兵士>

 フリデリックはチェス盤を前に、困り果てた顔をしていた。

 隣ではさらに難しい顔をした第八連隊長のトムが腕を組んでうなっている。

 チェス盤の向こうには第六連隊長のサムソンが頭を抱えていた。

 レジナルドと、バラムラスと、レゴリスと、クロムウェル公爵、ダンケが、そして十四人の連隊長がその様子を見守る。

「あ……あの……ごめんなさい……」 

 フリデリックは二人の連隊長に、恐縮しきった様子で謝るが、目を反らされる。

「いえ、お気になさらず……」

 二人の連隊長も、なんとも困った表情で答えて離れていった。

 事の発端は、バラムラスが娯楽室に皆を招いて、チェス大会を始めたことにある。

「お前らに、処世術の実施訓練をさせてもらおう、そこでフリデリック王子に来て頂いた」

 バラムラスはそういって、フリデリック王子を皆に紹介する。

「二人ずつ今からフリデリック王子とチェス楽しんでもらう。

 一人はフリデリック王子と組んで王子が楽しく勝てるようにお助けしろ。

 一人は王子と対戦して王子を気持ちよく勝てるように駒を動かせ」

 連隊長は戸惑うように、お互いの顔をみる。

「ただし十分毎に盤を回転させる。その状態で三十分で決着つけろ。フリデリック王子をお助けする者は、具体的な駒の位置を指示するなんて野暮な事するな!

 対戦する者は、キングを全面に押し出して取らせるというあからさまな事をするな。

 ゴマすりチェスは、相手に分からないように、自然やってこそ意味があるからな!」

 ハッハッハと楽しそうに笑うバラムラス。

 接待されるはずのフリデリックにもシッカリ聞こえており、別の意味で戸惑ってしまう状況だ。

 一組目の試合が行われたのだが、フリデリックがチェスを殆どした事ない事もあり、最初にゲームをすることになったトムとサムソンは無残な結果に終わってしまった。

 すごすごと仲間の元に戻る二人を、他の連隊長は、意外なことにニヤニヤと迎える。


 次にゲームでは、第二連隊長のガイルがフリデリックの協力者で、第九連隊長レナードが対戦相手となりゲームが再開される。

 ガイルは、フリデリックがチェスに関して殆ど初心者と理解した上で、ルールの説明を交えながら駒を進めさせた。レナードはゆっくりしたペースでその戦いを受け、三十分あたりで良い感じに決着をつく。

 それ以降の連隊長はより明確に、一つのパターンを踏襲するようになる。協力者・対戦相手、共に最初の十分を無難に動かし、次の十分で対戦相手を攻撃的に動かす形で対応し、残り十分で形成が有利になっている盤を自由に動かし勝利を演出する。

 その中で印象的だったのは、七組目の第四連隊長ナイジェルと第二十三連隊長テリーだった。

「大丈夫ですか? お疲れですよね?」

 テリーは微笑みながら、フリデリックに声を掛けてきた。

 花が咲いているかのような、美しい笑みにフリデリックの顔もつられて綻んでしまう。

 美しい人といったら、身近にレジナルドがいたので慣れていると思っていた。

 しかし彼の存在はまた別なようで、このように間近で微笑まれるとドキドキする。

 金の瞳をもつ者は、皆こんなに風に美しいものなのだろうか? とフリデリックは素朴な疑問を感じながら、その美しすぎる顔を不躾なほど見つめてしまう。

 レジナルドが夏の太陽とすれば、テリーは春の穏やかな日差しで、その美しさは春の王宮のあの花に満ちた庭園にも勝るように思う。

「いえ、お付き合いしてくださっている、皆さんのほうこそ……」

「いえいえ、私達は楽しんでいますので。

 フリデリック王子、私とテリーどちらと対戦いたしますか?」

 ナイジェルがフリデリックに礼の姿勢をとり訊ねてくる。

「え……あの」

「隣は私のような暑苦しいものより、テリーがいたほうがいいですよね。お相手させて頂きます」

 穏やかに笑いナイジェルは対戦席の方につく。

 暑苦しいと自分を称したナイジェルだが、男気に溢れているが、どちらかと言うと爽やかで格好良い。

 他の連隊長のような圧迫感を与えることなく感じの良い人物である。

「なら私が隣を失礼します」

 テリーも礼をして隣に座る。

 王族として育ったフリデリックから見ても、テリーの所作はなんとも上品で優雅だった。どこか育ちの良さを感じさせた。


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