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学会からの依頼品

その依頼は、至って簡素だった。


学会から、順番に回ってきた案件。


発掘品。

保管中に停止。

起動しないため、調査と修復の可否を確認してほしい——それだけだ。


依頼書式は、いつも通り。

特別な注記も、緊急指定もない。


ミレイアは、いつも通り書類に目を通した。


古代文明の遺構。

用途不明の装置。

学術的価値あり。


分類番号は、一般研究枠。

危険指定は付いていない。


特記事項はない。


工房に運び込まれた装置は、見慣れた形をしていた。


台座。

主核。

外周フレーム。


規模は中型。

単独稼働を前提とした構成だ。


外装の劣化も、想定内。

保存状態も悪くない。


(……これなら、直せる)


思考は、自然にそこへ行く。

それ自体に、違和感はない。


工具箱を開く。

マスクを上げ、手袋を嵌める。


——仕事だ。


外装を外す。

刻印を読む。

魔力導線を追う。


設計は、とても古い。

だが、洗練されている。


合理的。

無駄がない。


当時の技術水準としては、過剰なほどだ。

学会が欲しがる理由も分かる。


修復できれば、研究用途としては十分だろう。


内部に進む。


補助機構。

制御層。

演算補助刻印。


どれも、整っている。


——整いすぎている。


ミレイアの指が、わずかに止まった。


(……?)


一つの刻印。


用途としては不要なはずの、

異様に細かい分岐。


評価回数が、多い。


必要以上に。

不自然なほどに。


(……なんで、ここまで?)


演算装置にしては、

“揺らぎ”を嫌いすぎている。


環境制御にしては、

結果の誤差を、許容していない。


まるで——

「想定外」を、最初から排除する設計だ。


ミレイアは、息を一つ整え、さらに奥へ進んだ。


主核の裏。

通常なら、構造補強が置かれる位置。


そこに——

見慣れない層があった。


防護でもない。

補助でもない。


ただ、挟み込まれている。


(……これ)


刻印を一つ読む。


意味が、即座に繋がらない。


もう一つ。

さらに一つ。


組み合わせる。

照合する。


——理解した瞬間。


ミレイアの呼吸が、浅くなる。


工具を持つ手の感覚が、少し遠のいた。


(……嘘)


評価対象。

反応条件。

最適化項目。


そこに書かれているのは——


(……“破壊効率”?)


装置は、

環境を制御するためのものではなかった。


演算する。

予測する。

最適解を出す。


だが、その最適化対象が——


(……生存、じゃない)


被害。

損耗。

消失率。


それらを、

どれだけ速く、

どれだけ多く増やせるか。


そのための思考回路。


しかも——

評価基準が、外部入力に依存していない。


ミレイアの喉が、かすかに鳴った。


寒さではない。

恐怖とも、少し違う。


工具を握る指先が、

いつもより軽い。


(……待って)


まだ、断定するには早い。


誤読かもしれない。

用途転用かもしれない。

後世の改造の可能性もある。


そう言い聞かせて、さらに分解する。


外周フレーム。

その内側。


隠されていた副核。


主核と同規格。

だが、記録には存在しない構成だ。


そこに刻まれていたのは、

“制限解除”のための条件群。


解除条件。

連鎖条件。

再起動条件。


どれも——

最初から、止める前提がない。


止まるのは、想定外。

停止は、例外処理。


(……)


評価対象に、

“無関係者”という区分がない。


“巻き込み”という概念がない。


あるのは、

数値。

効率。

最短経路。


——そして。

再現性。


ミレイアは、一歩、後ろへ下がった。


踵が椅子に触れ、

小さな音が鳴る。


その音が、やけに大きく聞こえた。


(……だめ)


(……これを、直したら)


思考が、逸れる。


——直せる。

——修復できる。

——起動させられる。


自分なら。


その事実が、

胃の奥に、重く沈んだ。


(……違う)


これは、

直すために理解していい構造じゃない。


学会の依頼。

悪意のない発掘。

無知な善意。


全部、分かっている。


それでも——


装置の奥で、

静かに“考え続けているもの”を前にして。


ミレイアは、はっきりと理解した。


これは、

“いつもの装置”じゃない。


直す、という判断を

選んではいけないものだ。

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