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野営地

キャラバンの夜営地は、静かだった。


砂の上に円を描くように張られた結界。

その内側に、荷車と駄獣、人の気配が収まっている。


火は小さい。

明かりは最低限。


砂漠では、

目立たないことが、安全だ。


「こちらです」


キャラバンの責任者が、二人を奥へ案内する。


結界の基点。

問題の装置は、その中央に据えられていた。


大型。

携行型としては最大級だが、

構造自体は、無駄がない。


「夜になると、急に揺れるんです」


責任者が言う。


「完全に落ちるわけじゃない。でも、出力が不安定になる」


ミレイアは、装置の前に膝をついた。


(……夜だけ)


(昼は、問題ない)


砂漠特有の条件が、頭をよぎる。


昼夜の温度差。

乾燥。

そして——


(……魔力の流れ)


「少し、見ます」


短く告げる。


返事を待たず、

意識は装置に向いた。


布製マスクを引き上げ、

手袋を嵌める。


完全に、職人の顔だ。


ラザルは、数歩離れた位置で立ち止まる。


口出しはしない。

だが、視線は外さない。


責任者として。

そして——

判断を委ねた人間として。


ミレイアは、装置を開いた。


内部に、異常はない。


砂の侵入も、想定範囲。

摩耗も、許容内。


(……壊れてない)


(設計も、正しい)


魔力を流し、

流路を追う。


そこで、気づいた。


(……反転)


微細だが、確かに。

夜間、地表側から逆向きの流れが混じっている。


(夜間魔力反転流)


砂漠特有の現象だ。

日中、蓄積された魔力が、

夜になると地表から放出される。


(装置は、一定方向前提)


(だから、揺れる)


欠陥ではない。

想定外だ。


「……なるほど」


独り言のように、漏れる。


ミレイアは、工具を取り出した。


交換しない。

増設もしない。


“流れを許す”。


反転を抑え込むのではなく、

受け流す方向に、位相をずらす。


(……夜基準)


夜を基準に安定させ、

昼は余力で回す。


安定性優先。


作業は、静かだった。


刻印ナイフが走り、

位相調整具が、わずかに回る。


誰も、声をかけない。


砂の上に、

小さな金属音だけが落ちる。


ラザルは、その様子を見ながら思う。


(……判断が早い)


(でも、雑じゃない)


原因を責めない。

現場に合わせる。


商人としても、

責任者としても、

一番ありがたい対応だった。


やがて。


ミレイアは、装置を閉じた。


「……起動、お願いします」


責任者が、緊張した手つきで魔力を流す。


結界が、広がる。


夜の砂漠。

反転する魔力を含みながらも——


揺れない。

波打たない。


静かに、

膜が張られた。


「……!」


責任者が、息を呑む。


「安定してる……!」


ミレイアは、マスクを下ろした。


「夜間に、地表魔力が逆流しています」

「装置は正常でしたが、その影響を受けていました」


責任者は、目を見開く。


「そんな現象が……」


「砂漠では、珍しくありません」


淡々と。


「夜基準で再調整しています。昼は、余力で回るので問題ありません」


「……助かりました」


即答だった。


「これで、次の中継地まで安心です」


周囲の空気が、緩む。


安堵。

信頼。


ラザルが、一歩前に出た。


「ありがとう」


短い言葉。


だが、

それで全部伝わる声だった。


ミレイアは、少しだけ姿勢を正す。


「……現地条件に、合わせただけです。装置は、最初から良いものでした」


「それを、見抜いたのが君だ」


ラザルは、そう言った。


夜営地に、

静けさが戻る。


結界の内側。

星空。

遠くで、駄獣が低く鳴く。


二人は、

少し距離を取って立っていた。


だが——

昼より、近い。


「……砂漠、どうだった?」


不意に、ラザルが聞く。


「怖かったです」


即答だった。


それから、少しだけ考えて付け足す。


「でも……一人じゃなかったので」


ラザルは、笑わない。


ただ、静かに頷く。


「それなら、よかった」


それ以上、言わない。


言わなくていい距離だった。


結界の外で、風が鳴る。


だが、

内側は、静かだ。


ミレイアは、星を見上げながら思った。


(……ちゃんと、仕事をしてる)


(……ちゃんと、現場に合う判断ができた)


それで、十分だった。


砂漠の夜は、冷える。


だが、

不思議と、寒くはなかった。


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