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幕間 工房の片隅で

工房の隅。


炉の火を落とした後、

工具を拭きながら、二人の職人が声を潜めていた。


「……あれか」


一人が、顎で示す。


さっき、

会長に連れられて入ってきた女。


「そうらしいな」


もう一人が、布で工具の刃をなぞりながら答える。


「会長が、わざわざ勧誘しに行ったって話だ」


「へえ……」


視線が、自然とそちらへ向く。


工房の中央。

道具も持たず、

音を聞くように立っている後ろ姿。


「若いな」


「細いしな」


「……職人には、見えねえ」


ぽつりと落ちた本音。


「年は関係ねえってさ」


布を置き、

声をさらに落とす。


「前は、セレスタイン王国で国宝の管理をしてたらしい」


一拍。


「……は?」


「国宝、だとよ」


「冗談だろ」


即座に返る。


「俺もそう思った」


小さく肩をすくめる。


「でも、会長が直々に拾ってきた」

「しかも、判断は全部任せるって話だ」


沈黙。


魔道炉が、低く唸る。

火を落としても、完全には止まらない音。


「……マジかよ」


「らしい」


「この歳で……国宝……」


もう一度、視線をやる。


女は、工房の音に耳を澄ませるように、

周囲を邪魔しない位置に立っている。


動かない。

だが、浮いてもいない。


「……すげえな」


感嘆とも、

警戒ともつかない声。


「でもよ」


少しだけ、間を置いて。


「面倒な仕事、全部あの人が引き受けるってことだよな」


「だな」


「俺らが触れねえやつ」

「判断が重いやつ」


二人は、顔を見合わせる。


そこに、嫉妬はない。

押し付けられる安堵と、

一抹の緊張だけがある。


「ま、余計なこと考えても仕方ねえか」


「だな」


工具を持ち直し、

それぞれの作業へ戻る。


噂は、そこで終わった。


だが——


工房の空気は、

ほんのわずか、

確かに変わっていた。


誰も何も言わない。

だが、

“触らない箱”を前にした時の視線が、

少しだけ、違うものになる。


それは、

新しい人間が来たというより、


役割が、一つ増えた

という変化だった。


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