予算削減
新連載です。既存の作品も連載ペース落とさず続けますのでよろしくお願いします。
「——部門は、解体だ」
静かな声だった。
会議室に、ざわめきはない。
驚きも、抗議もない。
事前に決まっていた結論を、形式としてなぞっているだけの空気だ。
ミレイアは、卓の端に座っていた。
配られた資料には、簡潔な見出しが並んでいる。
戴冠機関管理部門 再編について
再編。
その言葉が何を意味するのか、ここにいる全員が理解していた。
「アウレア・レガリアは安定稼働中だ。重大事故は、先王代から一度も起きていない」
「維持費は年々増加している」
「対外的な実績も、特筆すべきものはない」
淡々と、数字が読み上げられる。
評価ではない。確認だ。
そこに、過去の点検記録や、内部報告への言及はなかった。
「要するにだ」
議長席の男が、視線を上げた。
「成果が見えない」
それだけだった。
「……ですが」
ミレイアは、思わず口を開いた。
一斉に視線が集まる。
だが、その中に期待はない。
「機関は、壊れていないからこそ、今——」
「壊れていないなら、問題ないだろう」
被せるように、別の役人が言った。
「派手な修繕もない。事故もない。報告書は簡素で、専門的すぎる」
小さく、鼻で笑う音が混じる。
「正直に言えばな。何をしているのか、分かりにくいんだよ」
ミレイアは、唇を噛んだ。
分かりにくい。
それは、間違いではなかった。
「……予防です。壊れてからでは、遅いものもあります。せめて、引き継ぎだけでも——」
「引き継ぐほどのものがあるのか?」
その一言で、空気が変わった。
「マニュアルは残っている。定期点検の手順もある。属人的な判断に頼る体制は、今後見直す方針だ」
属人的。
それは、切り捨てを正当化するための言葉だった。
判断が必要だった、という事実だけが、きれいに省かれている。
「元々、先王陛下が特例的に設けた部署だ」
誰かが、ぽつりと言う。
すぐに、別の声が重なった。
「——その先王陛下も、もう崩御されて久しい」
静かな一言。
だが、確実に突き刺さる。
「時代が変わったんだよ」
議長が、結論を告げる。
「戴冠機関管理部門は解体する。専任修繕係は不要だ」
淡々とした声だった。
そこに、ためらいはない。
「本日付で、君の職は終了だ」
形式的な通告。
「……」
ミレイアは、何も言えなかった。
言葉を重ねても、もう意味がないと分かっていた。
国宝は、今日も無事だ。
問題は、起きていない。
起きていない。
それが、彼女の仕事の結果だった。
だから——
「予算の無駄だ」
その一言で、
彼女の居場所は、綺麗に消えた。




