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■ Ep.95 第56話:最終日、仮面舞踏会のワルツ

【第56話(Ep.95):まえがき】

いつもお読みいただきありがとうございます!


前回(Ep.94)は、文字通りの「死闘」だった隠蔽工作を終え、なんとか退学の危機を脱したコタロウ。命がけの「猫の鳴き声」で用務員の爺さんを欺いた彼を待っていたのは、煌びやかな最終日のメインイベント、**仮面舞踏会マスカレード**でした。


本来なら壁のシミになってサボりたかったコタロウですが、リリスの「給料査定」という名の脅迫に屈し、ボロボロの体でダンスフロアへ。

そこで待ち受けていたのは、真紅のドレスで誘惑するパトロン・クラウディア様と、鋭い審美眼を持つ処刑人・アリス様。


今回、コタロウは新たな精霊「マリオネット」を起動し、**「理想の動きを強制される操り人形」**となって地獄のワルツに挑みます!

優雅な音楽の裏で鳴り響く、コタロウの関節が軋む音(悲鳴)をお楽しみください。そして、ラストには祭りの終わりを告げる「最悪のフィナーレ」が幕を開けます……!

【Ep.95 第56話:本文】


1. 逃げ場のない祝祭


学園祭、最終日。

王立精霊学園のメインホールは、豪華絢爛なシャンデリアと、数千本のキャンドルによって、幻想的な光の海となっていた。


今夜のメインイベントは、伝統ある**「仮面舞踏会マスカレード」**。

生徒たちは思い思いの衣装と仮面を身につけ、素性を隠して(あるいは隠したフリをして)一夜限りの舞踏を楽しんでいる。


だが、そんな煌びやかな会場の壁際で、俺、**神木コタロウ**は死んだ魚のような目をしていた。


「(……帰りたい。切実に)」


俺はタキシード姿(第50話でシフォンに改造されたキラキラ仕様ではなく、自前の地味な黒)で、壁のシミになりきっていた。

もちろん、仮面もつけている。文房具屋で買った、何の変哲もない黒いアイマスクだ。


「(なんで俺がこんな所に……。昨夜の屋上修復作業で徹夜して、身体はボロボロなんだぞ)」


逃亡しようとした矢先、精霊学部の執事喫茶の売上計算をしていた**リリス**に「総支配人がフィナーレにいないなんてありえません! 給料査定に響きますよ!」と首根っこを掴まれ、強制連行されたのだ。


「あら、見つけましたわ。私のパートナー様」


その時、人混みがモーゼの海割りのように左右に開き、真紅のドレスを纏った美女が現れた。

顔には蝶を模した優雅なベネチアンマスク。

だが、その溢れ出る気品と、燃えるような金髪は隠しようがない。


**クラウディア・フォン・ローゼンバーグ**だ。


「……おや、**クラウディア**様。 Sクラスの皆様とのご歓談はよろしいので?」


「ええ。挨拶回りは終わらせましたわ。……退屈でしたけれど」


彼女は扇子で口元を隠しながら、悪戯っぽく俺を見上げた。

その背中には、昨夜の契約の証である「ヘカテーの紋章」が、ドレスのデザインの一部のように薄っすらと輝いている。


「約束通り、ダンスの相手を務めていただきますわよ? 昨夜の屋上でのダンス(戦闘)……とても素敵でしたもの。今夜も素晴らしいリードをお願いしますわ」


「(……昨夜は『摩擦ゼロ』の精霊がいたから滑れただけなんですが)」


俺の額に冷や汗が流れる。

実は俺、ダンススキルは皆無だ。リズム感に至っては、手拍子をすると音楽が止われると言われるレベルの「破壊的音痴」である。

ここで恥をかけば、せっかくの「パトロン」の顔に泥を塗ることになる。

それは、今後の支援(資金提供)に響く。


「(……やるしかないか。おい、カンニング・**【AI】**。プランBだ)」


『了解。身体操作補助オートパイロットモード、起動準備』


俺は覚悟を決め、懐の**ブラック・バトン**に触れ、新たな精霊を起動させた。


---


2. 操り人形の精霊【マリオネット】


「お手をどうぞ、マイ・レディ」


俺は恭しく手を差し出し、**クラウディア**をフロアの中央へとエスコートした。

音楽が変わり、優雅なワルツが流れ始める。


その瞬間。 俺の背後に、誰にも見えない「影」が現れた。

十字の木枠から伸びる、無数の半透明な魔力糸。

**操り人形の精霊【マリオネット】**だ。


『ギギ……、強制舞踏シークエンス、ロード完了……。 関節リミッター、解除……』


**【マリオネット】**の糸が、俺の手足、首、腰に絡みつく。

俺の意志とは関係なく、身体が勝手に動き出した。


「(ぐっ……! いきなりキツイ!)」


俺の背筋が、ありえない角度でビシッと伸びる。

足が機械のように正確なステップを刻み、**クラウディア**をリードする。

外から見れば「完璧な紳士のダンス」だが、内部では俺の筋肉と関節が悲鳴を上げていた。

**【マリオネット】**は「理想的な動き」を強制するため、俺の肉体の柔軟性など考慮してくれないのだ。


「まぁ……! 今夜もキレがありますわね!」 **クラウディア**が驚いたように目を丸くする。


「は、はは……。貴女のために、仕上げてきましたから……(物理的に)」


俺の顔は笑顔で固定されているが、こめかみには青筋が浮いている。

プロのダンサーの動きをFランクの肉体で完全再現する。

これはダンスではない。拷問だ。


---


3. 銀のシスターの乱入


順調に(?)ダンスをこなしていた、その時だった。


「――失礼。パートナーチェンジを所望します」


凛とした、氷のように冷たい声が響いた。

**クラウディア**の手が離され、代わりに白い手袋をした手が俺の手を強く掴んだ。


目の前に現れたのは、銀色の修道服風ドレスに身を包み、白いハーフマスクをつけた女性。

その隙間から覗く蒼い瞳が、俺を射抜くように見つめている。


聖教会筆頭審問官、**アリス・リンドバーグ**だ。


「……これはこれは。聖教会のシスター様が、このような世俗の場に?」

俺は冷や汗を隠し、**【マリオネット】**に固定された営業スマイルを向ける。


「調査の一環です。 ……**神木コタロウ**。貴方の動き、少し『不自然』ですね」


**アリス**は俺の手を強く握りしめ、強引にターンさせた。

彼女のステップは、ダンスというよりは武術の体捌きに近い。鋭く、隙がない。


「まるで、何かに操られているような……。 あるいは、無理やり身体を動かしているような?」


「(!! バレてる!? さすがは審問官、勘が鋭すぎる!)」


**アリス**はダンスを通じて、俺の身体能力と「違和感」を探っているのだ。

もしここでボロを出せば、「やはり貴方は常人ではない」と断定され、その場で異端審問が始まりかねない。


『警告。対戦相手(**アリス**)のステップ速度が増加中。 現在の設定では追従不能。出力を上げますか?』


「(上げろ! ここで転んだら怪しまれる!)」


『了解。オーバードライブ……!!』


バキボキッ!!


俺の関節から、嫌な音がした。

**【マリオネット】**が無理やり俺の身体を捻り、**アリス**の鋭いステップに対応させる。

人間離れした回転、重力を無視したようなポーズ。

もはやダンスバトルというより、格闘技の攻防だ。


「……ほう。私のリードについてくるとは。 ただのFランク生徒にしては、反射神経が良すぎますね」


**アリス**の目が怪しく光る。

彼女はさらに速度を上げ、俺を試すように複雑なステップを要求してくる。


「(痛い痛い痛い! 股関節が外れる!)」


俺は必死にポーカーフェイスを保ちながら、心の中で絶叫した。

パトロン(**クラウディア**)との優雅なダンスから一転、処刑人(**アリス**)とのデス・ワルツへ。

この地獄の時間は、曲が終わるまで永遠に続くかと思われた。


---


4. 祭りの終わりの予兆


ジャンッ、と音楽が終わった瞬間。

**【マリオネット】**の糸が緩み、俺はその場に崩れ落ちそうになった。

なんとか踏みとどまったが、全身が筋肉痛の予行演習を始めている。


「……ふぅ。楽しませてもらいましたよ」


**アリス**は息一つ乱さず、冷ややかな視線を残して去っていった。

「疑い」は晴れるどころか、ますます深まったようだ。


「**コタロウ**様! 大丈夫ですの!?」 **クラウディア**が心配そうに駆け寄ってくる。


「ええ……なんとか。 ただ、明日は全身打撲のような状態で目覚めることになりそうですが」


俺は苦笑し、ジンジンと痺れる手足をさすった。

なんとか乗り切った。 だが、俺の脳内にあるカンニング・**【AI】**は、休息を許してはくれなかった。


『警告。 会場内に、複数の高エネルギー反応を確認。 ……昨夜の「黒の使徒」と同質の波長です。 数は10……いえ、20以上。急速に増加中』


「な……!?」


俺は弾かれたように顔を上げ、会場を見渡した。

華やかな仮面舞踏会の喧騒の裏で、会場の照明がフッと揺らぎ、不気味な影が広がり始めていた。


「**アリス**様も、それに気づいて動いていたのか……」


祭りの終わり。

それは同時に、この学園祭編のクライマックス――「黒の使徒」たちによる、本格的な襲撃の始まりを告げていた。


「**クラウディア**様。ダンスは終わりです。 ……どうやら、招かれざる客たちが、本当の『フィナーレ』を始めに来たようです」


バリンッ!!


突如、ホールの巨大なステンドグラスが砕け散った。

悲鳴を上げる生徒たち。

降り注ぐガラスの雨と共に、漆黒の鎧を纏った集団が、次々と会場内へと侵入してくる。


「さあ、始めようか。 偽りの平和を終わらせる、破壊の舞踏会を」


先頭に立つリーダー格の男が、禍々しい剣を掲げた。

俺は**ブラック・バトン**を握りしめ、ため息をついた。


「まったく……。 俺の『平穏』ってやつは、いつになったら手に入るんだ?」


(第56話 完)


【第56話(Ep.95):あとがき】

お読みいただきありがとうございました!

「股関節が外れる!」……心の中の絶叫とは裏腹に、完璧なステップを刻み続けるコタロウの姿、まさにプロの執事(あるいは操り人形)でしたね。


今回のハイライトを振り返ると:


操り人形の精霊【マリオネット】: 身体能力を無視して理想の軌道を強制する、ある意味でブラックな精霊。ダンス中に「バキボキ」と音がするのはご愛嬌です。


アリスとのデス・ワルツ: ダンスを通じて異端の気配を探るアリス様の勘が鋭すぎます! 社交ダンスがいつの間にか格闘技の受け流し合戦に変貌する様は、まさに手に汗握る展開でした。


砕け散るステンドグラス: 優雅な時間が終わった瞬間、ガラスの雨と共に現れた「黒の使徒」の集団。ついに学園祭編が真のクライマックスへと突入します。


人質を取られ、結界で閉じ込められた絶体絶命の舞踏会。

コタロウが選ぶ「平穏を捨てる選択」とは……?


【次回予告】

第57話(Ep.96):『断罪執行! 暴かれる「黒」の正体』

ついに「ただのFランク」を演じ続けることが不可能に!?

アヤネの光を弾丸に変え、ネロの影を伏兵とし、コタロウが32体の敵を同時に貫く「神技」を披露します。

これまで積み上げてきたモブライフに、自ら終止符を打つ英雄の覚醒をお見逃しなく!


次回もよろしくお願いします!


【作者からのお願い】

物語を楽しんでいただけましたら、ぜひブックマークや、下の評価欄から**【★★★★★】**で応援いただけると嬉しいです。

皆様の評価が、マリオネットの糸の強度と、コタロウがアリス様から逃げ切れる確率、そしてネロが機嫌を直してくれるスピードに直結します!

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