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■ Ep.84 第50.5話:幕間【職人の嘆き】~神の素材はどこにある?~

【第50.5話(Ep.84):まえがき】

いつもお読みいただきありがとうございます!


前回、第50話(Ep.83)では、新学期早々「英雄」として客寄せパンダにされ、クラウディア様の「執事喫茶プロジェクト」に無理やり組み込まれてしまったコタロウ。キラキラ燕尾服から逃げ出した彼が向かったのは、唯一本音をさらけ出せる場所――頑固親父ガントの工房でした。


今回の第50.5話は、新章の鍵となる装備更新エピソードです。

オリンピアの激闘でボロボロになった相棒ワンドの検死結果と、AIが弾き出した「双発エンジン(ツイン・ドライブ)」という名の悪魔の設計図。


物理法則を置き去りにする**【魔導ブラック・バトン】**の製作に向け、職人たちの魂が鉄花を散らします。しかし、立ちはだかるのは「素材の限界」という残酷な壁。

コタロウが繰り出す、管理者セフィラとの「借金まみれの裏取引」の行方をお楽しみください!

【Ep.84 第50.5話:本文】


1. 鉄血工房と「技術顧問契約」


王都ルミナスの東区画。 石造りの建物が並び、常に鉄を打つ音と煤煙が絶えないこの一角は「職人街」と呼ばれている。 その最奥、一際大きな煙突から猛烈な黒煙を噴き上げているのが、大陸随一の武具店兼工房――名門「鉄血アイアンブラッド工房」だ。


「おやっさん! 緊急案件だ! 炉を空けてくれ!」


俺、神木コタロウは、工房の重厚な鉄扉を慣れた手つきで押し開けた。 途端に、肌を焼くような熱波と、鼻を突く鉄と油の匂いが全身を包み込む。 俺の後ろには、身の丈ほどもある巨大なハンマーケースを背負った専属従者、マリーが静かに続いていた。


「あん? ……なんだ、やっと来たか。遅いぞ、**『技術顧問』**殿」


工房の奥、赤熱した炉の前で鉄塊を叩いていた厳ついドワーフの老人が、手を止めてニヤリと笑った。 この国の鍛冶師の頂点に立つ男、ガント親方だ。 煤で汚れた作業着、ねじり鉢巻、および頑固そうな髭面。その瞳には、常に新しい技術への渇望が宿っている。


「じ、爺ちゃん! ご無沙汰してます!」


「おおっ、マリー! 帰ってきたか! ちゃんと飯は食っとるか!? その服、また少し筋肉が増えてキツくなってないか!?」


ガント親方は孫娘の顔を見た瞬間、鬼のような形相を崩してデレデレになったが、俺が咳払いをすると、瞬時にまた職人の顔に戻った。


「……ふん。顧問の世話係も、だいぶ板についてきたようだな」


第20話での「スタイラス・ワンド」製作以降、俺とガント親方はある特殊な契約を結んでいる。 それが**『技術顧問契約』だ。 俺の脳内にある【カンニング・AI】**が弾き出す、この世界には存在しない未知の魔導技術や理論、設計図を提供する。 その対価として、ガント親方は俺の装備を最優先で、しかも原価(素材代のみ)で製作し、メンテナンスも請け負う。 親方にとって、俺が持ち込む「常識外れの注文」は、職人魂を刺激する最高のパズルであり、至上の娯楽なのだ。


「で? 今日は何を持ってきた? オリンピア優勝記念の新型か? それともワンドのメンテナンスか?」


「両方だ。……いや、正確には『検死』に近いかもしれない」


俺は苦笑しながら懐を探り、愛用していた**【スタイラス・ワンド】**を取り出した。 一見すると、美しい銀色の輝きを放つ金属製のペンだ。 だが、ガント親方はそれを受け取った瞬間、表情を険しくさせた。


「……おいおい、顧問。こいつは酷ぇな」


親方は片眼鏡ルーペを装着し、ワンドの中心部――動力源である**【重力核グラビティ・コア】**が埋め込まれている接続箇所を凝視した。


---


2. 悲鳴を上げるミスリルと、生存した心臓


「見てみろ。**『受け(ソケット)』**がズタズタじゃねぇか」


親方が指差した先。 青白く元気に脈動している重力核の周囲、それを固定しているはずの最高級ミスリル合金が、まるで飴細工のように捻じれ、微細な亀裂が無数に入っていた。 一部は高熱で溶解し、核の振動に合わせて今にも砕け散りそうだ。


「顧問契約書の第4条『使用者は機材を大切に扱うこと』に違反してるぞ。 中のコアが出力過多で暴れすぎて、ボディ(ミスリル)が悲鳴を上げてる。 車のエンジンを無理やり自転車に積んで、ニトロで加速させたようなもんだ」


親方は呆れたように息を吐いた。 俺は生きた心地がしなかった。もしコアまで逝っていたら、俺の戦力は半減どころかゼロになる。


「親方、中のコアはどうだ? もう寿命か?」


俺が恐る恐る尋ねると、親方はルーペの倍率を上げ、さらに詳細に観察した。 そして、ニカっと白い歯を見せた。


「……おう、安心しろ。**『心臓』**は無事だ」


「え?」


「見てみろ。亀裂はソケット部分で止まってる。 このコア、とんでもなく頑丈だぞ。周囲のミスリルが身代わりになって砕けたおかげで、コア自体には傷一つついてねぇ。亀裂の伝播もなしだ」


親方はワンドを軽く指で弾いた。キィン、と澄んだ音が響く。


「不幸中の幸いだな。この『重力核』は再利用リサイクル可能だ。 新しいボディさえあれば、すぐにでも移植できるぞ」


「……はぁぁ、よかった……」


俺はその場にへたり込みそうになるほど、深く安堵のため息をついた。 もしこの希少な重力核を失っていたら、俺の計画はすべて水泡に帰すところだった。首の皮一枚で繋がった。


エンジンが無事なら、話は早い。 ……親方、こいつを移植するための、**『次』**を作る。最強の檻が必要だ」


---


3. 悪魔の設計図と、毒舌精霊


「ほう……腕が鳴るわ」


ガント親方の目が、職人のそれから「挑戦者」の目へと変わった。 俺は脳内の**【AI】**に指示を出し、空間に青白い光のホログラムを展開した。


「これが新しい相棒の設計図だ」


空間に映し出されたのは、従来の魔導杖の常識を根底から覆す、異形のペンの青写真。 次世代型**【魔導ブラック・バトン】**。


「な……なんじゃこりゃあ……!?」


ガント親方の目が釘付けになる。 ペンの両端に配置された二つの核。 一つは、今確認した**【重力核グラビティ・コア】。 もう一つは、今回新たに追加される古代の動力、【エンシェント・コア】**。 その二つを繋ぐのは、血管のように複雑怪奇なエネルギー回路と、相互干渉を防ぐための多重結界構造。 理論上の回転数は、毎分100万回転(1M-RPM)。


「おい顧問……正気か? これはもはや『杖』じゃねぇ。 重力核ひとつでもボディを破壊しかけてるのに、古代の動力核まで追加して……『双発エンジン』にするだと? 小型の『戦略兵器』か、あるいは自爆用の『惑星破壊爆弾』の類だぞ」


「作れるか?」


俺の問いに、親方は唸り声を上げた。 長い沈黙。脳内で加工手順をシミュレーションしているのだろう。やがて、彼は顔をしかめて首を振った。


「……設計図(理論)は完璧だ。ワシの腕があれば、ギリギリ加工も可能だろう。 だがな、顧問。もっと根本的な問題がある」


ガント親方は、工房の棚に鎮座していた最高級のミスリルインゴットをハンマーで叩いた。 キィーン、と澄んだ音が響く。


「物理的に無理だ。この出力に耐えられる素材がねぇ。 今のミスリル銀じゃ、二つの核の共振レゾナンスに耐えきれず、接続部どころかペン全体が瞬時に蒸発する。 強度が絶対的に足りんのだ」


「フン、その通りね。アナタの目は節穴じゃないみたい」


その時、どこからともなく冷ややかな声が響いた。 ホログラムの光の中に、一匹の奇妙な精霊がふわりと浮かんでいた。 巨大な片眼鏡モノクルに蝙蝠の羽が生えた姿。 **鑑定の精霊「ルーペ」**だ。


『やぁねぇ、ドワーフのおじいちゃん。 アナタの工房にある「最高級ミスリル」? あんなの、この設計図の前では**「濡れたダンボール」**と同じよ』


ルーペは工房の棚にある高価なミスリル鉱石に止まり、ペチペチと羽で叩いた。


『鑑定結果:強度B。耐熱性B+。魔導伝導率A。 ……プッ、笑わせるわね。 この「ブラック・バトン」が必要とする出力係数はSSSランク。 こんなゴミ金属で作ったら、起動から0.03秒で溶解して、半径500メートルがクレーターになるわね』


「な、なんだこの生意気なレンズお化けはぁぁぁ!?」 ガント親方が激昂してハンマーを振り上げるが、ルーペはひらりと躱す。


『事実を言っただけよ。 この設計図を形にするなら、必要なのは神話級の金属…… 【オリハルコン】か【ヒヒイロカネ】。 それ以外は全部ゴミ。産業廃棄物よ』


ルーペの毒舌鑑定に、工房の熱気が一瞬で凍りついた。 オリハルコン。神々が鍛えたという伝説の金属。 ヒヒイロカネ。太陽の熱にも溶けないという幻の緋色金。 どちらも、おとぎ話の中にしか出てこない、空想上の素材だ。


「……無理だ。そんなもん、人間界のどこを探してもありゃしねぇ。 技術顧問殿、さすがに素材がなけりゃ契約不履行だ。ワシの腕でも、無からは作れん」


ガント親方が、がっくりと肩を落とした。 世界最高の鍛冶師をして「不可能」と言わしめる壁。それが「素材の限界」だった。


---


4. 鉄血の跡取り


重苦しい沈黙が工房を支配する。 それを打ち破ったのは、ハンマーケースを背負った少女だった。


「……爺ちゃん。諦めないで」


マリーが静かに前に進み出た。 彼女は背負っていた巨大なケースを開け、身の丈ほどもある無骨なハンマーを取り出した。 それは、かつて彼女がこの工房で修行していた頃の愛機だ。


「マ、マリー……?」


「ご主人様は、このバトンを必要としています。 重力核が無事だったのは、きっと運命です。 素材がないなら、私が探してきます。地の底でも、竜の巣でも! 加工が難しいなら、私が爺ちゃんと一緒に何万回でも叩きます! ……鉄血工房の跡取りとして、技術顧問(ご主人様)の『最強』を形にしてみせます!」


マリーはハンマーを軽々と振り回し、金床アンビルに全力で叩きつけた。


ガァァァァァァァン!!


凄まじい衝撃音が工房を揺らし、舞っていた煤が衝撃波で吹き飛んだ。 その気迫に、ガント親方は呆気にとられた後、ニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。


「……へっ。言うようになったな、マリー。 そうだ、ウチは『鉄血工房』だ。顧問の無茶振りに応えてこその技術提携だろうが」


親方はハンマーを担ぎ上げた。


「いいだろう! 顧問! 設計図は預かる! あとは素材さえあれば……素材さえあれば、ワシとマリーのフルパワーで伝説を作ってやる!」


---


5. AIの解と、精霊シンクによる交渉


職人たちの魂に火はついた。 あとは、俺の仕事だ。 この世界に存在しないはずの金属を、どうやって調達するか。


「……【AI】。検索実行」 俺は脳内でコマンドを叩いた。 「人間界以外の領域を含め、オリハルコンまたはヒヒイロカネが存在する可能性が最も高い座標を弾き出せ。 文献、伝承、マナ濃度分布図、全てのデータを総動員しろ」


了解ラジャー。検索中……』 脳内で膨大なデータストリームが流れる。 数秒後、**【AI】**が冷徹な答えを返した。


『……検索終了。 人間界での発見確率は0.0001%。ほぼゼロです。 ですが、**【精霊界:王宮深層エリア】**において、高純度のマナ結晶体が長期間の圧縮を経て変異した「神代金属」が存在する確率、99.9%』


「精霊界か……。やっぱり、そこしかないか」


俺は小さく息を吐いた。 場所はわかった。だが、精霊界へ行くには特別な許可とゲートが必要だ。 俺のコネクションの中で、それが可能な人物は一人しかいない。


「……マリー、少し静かにしててくれ。大事な連絡を入れる」


俺は目を閉じ、意識を深く沈めた。 ワンドを持つ必要すらない。今の俺は、数多の精霊とパスが繋がった特異点だ。 周囲の精霊たちの囁きをノイズキャンセリングし、特定の周波数に意識を合わせる。


**【精霊シンク(共鳴)】**発動。 呼び出し先は――境界の管理者ゲートキーパー、セフィラ・アークライト。


『……セフィラ先生。聞こえていますか』


俺の念話コールは、瞬時に繋がった。 脳内に、涼やかで、かつ淡々とした彼女の声が響く。


『ええ、感度良好ですよ、コタロウ様。 ……わざわざ念話を通してくるとは。 余程の緊急事態か、あるいは……誰にも聞かれたくない「裏のご相談オーダー」でしょうか?』


普段の教師としての顔ではない。 人間界と精霊界の均衡を保つ、裏の顔――「管理者」としての冷静沈着なトーンだ。


『単刀直入に言います。 オリハルコンが必要です。AIの予測では、セレスティアの宮殿奥にある「神代の鉱脈」に在庫があるはずだ』


『……おっしゃる通りです。 人間界に存在しない素材をお求めなら、私の管轄(精霊界)を通るのが最短ルート。 王への謁見と、立入禁止区域への採掘許可申請が必要ということですね?』


セフィラ先生は即座にこちらの意図を理解した。 さすがは有能な秘書だ. 話が早くて助かる。


『手配できますか?』


『可能です。私が管理者権限を使えば、特別ゲートを開くことは造作もありません。 ですが……コタロウ様、ご存知の通り、タダというわけにはいきません』


セフィラ先生の声の温度が、ふっと下がった。 それは、逃れられない契約を突きつける「債権者」の響きを帯びていた。


『対価は金銭ではなく、「労働」でお願いしております。 セレスティア様は最近、極上のマナ料理に飢えておいでです。 そこで、アヤネ様の天然マナと、コタロウ様のワンド技術による「マナ・フルコース」。これを振る舞っていただき、王を満足させてください』


彼女は一呼吸置き、さらに付け加えた。


『……そうすれば、第49.5話でお渡しした「オリンピア決勝戦のマナ使用料請求書」の件も、今回の報酬で帳消しにできるかと。 いかがでしょうか? 借金返済と素材入手、一石二鳥のプランですが』


つまり、こういうことだ。 借金返済の代わりに、精霊王への接待(料理番)をしろ。成功報酬として素材をやる。 ……完全に足元を見られている。こちらの窮状を把握した上での、断れない提案だ。


『……分かりました。その条件で契約します』


『承知いたしました。交渉成立です。 手配は全て整えておきます。 直ちにマリー様とアヤネ様を連れて、学園の第3特別ゲートへお越しください。 ゲートキーパーとして、精霊界への道を特別にお繋ぎいたします』


念話が切れた。 俺は目を開け、マリーとガント親方に向き直った。


「マリー、爺さん(パートナー)。話はついたぞ」


俺はニヤリと笑った。


「有能な管理者が、素材へのルートを手配した。 俺たちが取ってくる。だから親方は、炉の温度を限界まで上げて待っててくれ」


「はい、ご主人様! 爺ちゃん、聞いた? 最高級の素材が来るって!」


「おうよ! 腕が鳴るわ! 早く行ってこい顧問! 帰ってきたら、この鉄血工房の歴史に残る『最高傑作』を叩き上げてやるからな!」


こうして俺たちは、セフィラ先生の手引きで、神の素材を仕入れに精霊界へ向かうことになった。 目指すは、精霊王の食卓だ。


(第50.5話 完)

【第50.5話(Ep.84):あとがき】

お読みいただきありがとうございました!

最高級のミスリルを「濡れたダンボール」呼ばわりする鑑定精霊ルーペの毒舌……。職人街で最も権威あるガント親方のプライドが、コタロウの持ち込むオーパーツのせいでボロボロに削られていく様は、少し同情してしまいますね。


今回のハイライトを振り返ると:


鉄血工房の絆:マリーの「跡取り」としての覚悟と、ハンマーの一撃。彼女の筋力は、確実にコタロウを超えています。


毒舌精霊ルーペ:鑑定結果が辛辣すぎて、素材集めのハードルが神話級まで上がってしまいました。


セフィラ先生の債権回収:素材の代わりに「精霊王への接待」を要求する有能すぎる秘書。コタロウ、またしてもタダ働き(借金返済)が決定しました。


素材を求めて向かう先は、人間界ではなく、マナが濃すぎて酔いそうな「精霊界」。


【次回予告】 第51話(Ep.85)『極秘鍛造:双発エンジンへの設計図と、精霊王の晩餐』

いよいよ精霊界へ突入。待っていたのは、退屈を持て余した最強の美食家・セレスティア様。

神の金属「オリハルコン」を奪い取るための、コタロウとアヤネによる「命がけのマナ・フルコース」が始まります。


次回もよろしくお願いします!


【作者からのお願い】

物語を楽しんでいただけましたら、ぜひブックマークや、下の評価欄から**【★★★★★】**で応援いただけると嬉しいです。

皆様の応援パッションが、セフィラ先生の胃薬の効き目と、ガント親方の炉の火力に直結します!

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