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■ Ep.79 第48.5話:幕間【王国新聞】~捏造された英雄伝説と、不穏なゴシップ記事~

【第48.5話(Ep.79):まえがき】

いつもお読みいただきありがとうございます!


前回(Ep.78)では、ダブルノックアウトからの「パジャマ姿の表彰式」という、英雄史上もっとも屈辱的なデビューを飾ったコタロウ。ジークフリート皇子からは「世界が貴様を狙う」という不穏な予言を残され、精霊界からは賞金全額没収級の請求書が届くという、まさに前途多難な勝利となりました。


今回の第48.5話は、大会の熱狂を振り返る「学園新聞」による幕間回です。

本人の意図とは裏腹に、メディアのフィルターを通ることで「老成した賢者」へと仕立て上げられていくコタロウの苦悩。そして、クラウディア様が放った「魔王パートナー」発言が巻き起こす、新たな修羅場の予感……。

王都からポテチが消え、Fランクの日常が崩壊していく様子を、号外記事風にお楽しみください!

【 Ep.79 第48.5話:本文】

1. 嵐の前の静けさと、不法投棄された凶器

王立精霊学園、Sクラス専用男子寮。


2学年進学と同時にSクラスへ特例昇格したコタロウに割り当てられた、以前の日当たりの悪い古びた角部屋とは比較にならないほど豪華な一室。


カーテンを閉め切り、外界からの情報を遮断したその部屋で、神木コタロウは泥のように眠っていた。


昨日の狂乱――魔法オリンピア決勝戦、表彰式、および精霊界からの高額請求書というトリプルパンチを受け、彼の精神は限界を迎えていたのだ。


時刻は正午を回っている。


本来なら授業中だが、今日は「優勝記念・特別休校日」。


誰にも邪魔されず、夕方まで寝てやる。それがコタロウの固い決意だった。


だが、その平穏は、窓ガラスを叩く小さな音によって破られた。


コンコン。


「……んぅ……勧誘なら間に合ってる……」


コタロウが寝言を漏らすと、今度はもっと激しく、窓が叩かれた。


バンバンバンッ!!


「……チッ。どこの鳥だよ」


不機嫌極まりない顔でコタロウがカーテンを開けると、そこにいたのは鳥ではなかった。


風の精霊(シルフィの部下)が、新聞紙の束を抱えてホバリングしていたのだ。


精霊はコタロウと目が合うと、ニカッと笑って(いるように見えた)、持っていた新聞束を窓の隙間から部屋の中にねじ込んできた。


ドサッ!!


「うおっ!?」


大量の紙束が床に散乱する。


それは、ただの新聞ではなかった。


インクの匂いも新しい、王都中に配布されたばかりの**『王国日報・特別号外』**だ。


「……なんだこれ。嫌な予感しかしない」


コタロウは拾い上げた一面を見て、凍りついた。


そこには、昨日の試合中、瓦礫の上でスタイラス・ワンドを振るう自分の姿が、まるで宗教画のように神々しく、デカデカと掲載されていたのだ。


そして、その横に踊る見出しの文字サイズは、王国の開戦宣言並みに巨大だった。


【王国日報(特別号外)】


祝! 魔法オリンピア完全優勝!! 帝国を粉砕した「Fランクの奇跡」! 王国に新たな英雄誕生!


■ 【一面トップ】 戦場を支配した「銀色の指揮者シルバー・コンダクター」とは何者か!?


昨日の決勝戦。誰もが帝国の勝利を確信し、絶望に打ちひしがれていたその時、戦況をたった一人でひっくり返した青年がいた。


神木コタロウ(19)。


王立精霊学園・精霊魔法学部2年(Fクラス出身/現在は特例措置によりSクラス在籍)。


彼は魔法を使わない。


彼は剣も振るわない。


ただ、その手に握られた**「銀色のタクト(魔導ペン)」**一本で、数万の精霊を従え、凶悪な古代兵器と帝国の竜騎士団を手玉に取ったのだ。


専門家の分析によれば、彼が戦場で見せた落ち着き払った態度は、実年齢(19歳)以上の「老成した賢者」の風格を感じさせたという。


「彼は、魔法使いという枠には収まらない。戦場という混沌としたオーケストラを、理知と愛で支配する『指揮者』だ」

(解説:精霊学部長・ヴォルコット氏『パッション!!』)


目撃者の証言も、彼の英雄性を裏付けている。


「空から光のマナが降ってきた時、彼が精霊たちと笑顔で会話しているのを見たわ。あれは命令じゃない。**『魂の対話』**よ」

(貴族院のご婦人・談)


「帝国の竜が、彼に懐いていた。きっと彼の高潔な魂に、竜さえも敬意を表したのだろう」

(近衛騎士団員・談)


神木コタロウ。


遅咲きのFランクにして、彗星のごとく現れた救世主。


彼の持つ「大人の余裕」と「底知れぬ実力」に、今、王国中が熱狂している。


2. 読者(本人)のツッコミと苦悩

「……誰だこれ。 俺じゃねぇよ」


コタロウは新聞を持つ手を震わせながら、乾いた笑い声を漏らした。


「『老成した賢者』? 『大人の余裕』? 違うだろ! アレは単に、ビビりすぎて感情が死んでただけだ! 単に魔力ゼロで、Fランクと判定されただけだ!」


記事の内容は、事実を微妙にかすめつつも、美談として大幅に、かつドラマチックに脚色されていた。


精霊たちのマナに群がって「餌くれー!」と騒いでいた光景が、「魂の対話」に変換されている。


竜がマナの味を覚えて懐いただけの事実が、「高潔な魂への敬意」になっている。


マスコミのフィルター機能は、もはや現実改変レベルだ。


「それに、この写真はなんだ……」


掲載されている写真は、コタロウがワンドを掲げ、少し憂いを帯びた表情で空を見上げている瞬間を切り取ったものだ。


(実際は「あーあ、精霊たちが食い散らかしてやがる……後始末どうしよう」と考えていた時の顔だ)。


だが、記事のキャプションにはこう書かれている。


『平和への祈りを捧げるコタロウ氏。その横顔は、勝利の喜びよりも、争いの虚しさを憂いているように見える』


「憂いてねぇよ! 請求書の心配をしてたんだよ!」


コタロウは新聞をベッドに叩きつけた。


だが、悪夢は一面だけでは終わらなかった。


ページをめくると、そこには仲間たちの活躍(という名の暴挙)もまた、美談として紹介されていた。


■ 【社会面】 聖女アヤネ、物理で語る「真の慈悲」


「敵を傷つけたくない」。そんな聖女の祈りが、新たな戦闘スタイルを生んだ。


彼女が振るう白銀の杖**「聖女の慈悲ホーリー・マーシー」**は、帝国の騎士たちを優しく(物理的に)夢の世界へと誘った。


「殴られた瞬間、頭蓋に衝撃が走ったが……不思議と痛みはなかった。母の腕に抱かれたような安らぎ(脳震盪)を感じて、意識が飛んだんだ」

(帝国騎士団員・談)


専門家は、これを「究極の無力化術」と絶賛している。


■ 【コラム】 忠義の獣、モモの献身


コタロウ氏の指示一つで、巨大な古代兵器の足元へ特攻した獣人族の少女、モモ。


彼女の迷いない走りこそ、主への絶対的な信頼の証だ。


「コタロウの言う通りに走れば、ハンバーグが食えるんだ!」


彼女が戦場で叫んだこの言葉(※実際は食欲)は、二人の絆の深さを表す名言として語り継がれるだろう。


「……アヤネの『脳震盪』を『安らぎ』って書くのは無理があるだろ。 モモのハンバーグ発言も、絆じゃなくてただの食い意地だ」


コタロウは頭を抱えた。


周りが勝手に勘違いし、勝手に評価を上げていく。


これでは、今後「実はただのサボり魔です」とカミングアウトすることすら許されない空気になってしまう。


3. 不穏すぎるゴシップ欄

そして、最もコタロウの胃を痛くさせたのは、新聞の隅にある**「ゴシップ欄」**だった。


そこには、ピンク色の枠で囲まれた、扇情的な見出しが躍っていた。


【噂の真相!】 英雄を巡る「恋の四角関係」勃発!?


今、社交界で最もホットな話題。 それは、英雄コタロウ氏(19)を巡る乙女たちの戦いだ。


幼馴染の聖女アヤネ。 忠実なパートナーである獣人モモ。


彼女たちは常にコタロウ氏の側に侍っているが、ここに来て最強のライバルが出現した。


王国の至宝、クラウディア・フォン・ルミナス公爵令嬢だ。


目撃者の証言によれば、昨日の決勝戦、VIP席からコタロウ氏を見つめる彼女の瞳は、これまでの氷のような冷徹さとは違い、獲物を狙う「狩人」のように熱く、および妖艶であったという。


関係者は語る。


「クラウディア様は、同年代の男性に興味を示されたことがありませんでした。しかし、コタロウ様の持つ『大人の知性』と『支配者としての素質』に、運命を感じられたようです」


さらに、公爵家の使用人からのリーク情報によれば、彼女は昨晩、自室でこう呟いていたという。


「彼こそが私の求めていた『魔王パートナー』ですわ」


次なる社交界の主役ターゲットは彼で決まりだろう。


秋に開催される**「学園祭」**にて、公爵家から重大発表(婚約?)があるとの噂も……?


「……勘弁してくれ」


コタロウの顔から血の気が完全に引いた。


クラウディア・フォン・ルミナス公爵令嬢。


あの、裏でテュポーンをけしかけてきた黒幕女。


Sクラスの筆頭であり、冷酷無比な氷の令嬢。


そんな彼女が、俺を「魔王」呼ばわりして狙っている?


「19歳だから『大人の知性』? いや、俺の中身は小学生レベルの『楽したい欲求』しかないぞ。 買い被りすぎだ……」


だが、世間はそうは見ない。


「聖女」と「公爵令嬢」が奪い合う男。


このレッテルは、コタロウにとって「全男性からの嫉妬」および「終わりのない修羅場」を意味していた。


4. 街の狂乱と、便乗商法

ふと、新聞の裏面にある「広告欄」が目に入った。


そこには、この騒動に便乗して一儲けしようとする、逞しすぎる商人たちの姿があった。


【緊急入荷】 ガントの魔導工房 ~英雄の武器はここで作られた!~


「見たか! あの銀色の輝きを! コタロウ君のワンドも、アヤネちゃんの鈍器も、ワシが打った! 今なら『英雄モデル(レプリカ・機能なし)』を特別価格で販売中! 徹夜続きで死にそうだが、注文は待ってるぞ! (店主:ガント/ドワーフ)」


【品薄のお詫び】 王都製菓組合


「コタロウ様が愛好しているとされる『コンソメ味のポテトチップス』および『特選マカロン』につきまして、現在、王都中の店舗で完売しております。 貴族のお嬢様方が『英雄と同じ味を知りたい』と買い占めたためです。 次回入荷は未定です。申し訳ございません」


【求人】 精霊界・臨時職員募集(急募)


「業務内容:わがままなVIP(人間)の御用聞きおよびクレーム処理。 勤務地:王立精霊学園周辺。 条件:胃が丈夫な方。メンタルがオリハルコン並みの方。 給与:応相談(高給優遇)。 ※現担当者セフィラが過労で倒れそうなため、至急ヘルプを求む」

(採用担当:精霊王セレスティア)


「……ガントの親父、ちゃっかり商売してやがる」


「ポテチが売り切れ? 俺の主食を奪うなよ……」


「セフィラ先生、限界近そうだな……」


コタロウは深い深いため息をついた。


もう、どこにも逃げ場はない。


外に出れば英雄扱い。 コンビニに行けばポテチがない。 影の中にはヤンデレ精霊。 精霊界からはマナの請求。 そして学園祭では、公爵令嬢の婚約トラップ。


「……とりあえず、変装用のメガネとマスクを買いに行くか。 いや、それすらも『お忍びスタイルの流行』とか言って真似されるかもしれない」


コタロウは帽子を目深に被り、裏口からこっそりと寮を抜け出そうとした。


しかし、そのドアを開けた瞬間。


「あ! いました! コタロウ様です!」


「コタロウ様ー! サインしてー!」


「きゃー! 寝癖も素敵ー! 大人の無造作ヘアよー!」


寮の周りは、既にファンクラブの女子生徒たちとマスコミによって包囲されていた。


「(……終わった)」


コタロウは静かにドアを閉め、鍵をかけた。


そして、布団の中に潜り込み、震えながらこう呟いた。


「誰か……俺をFランクに戻してくれ……」


19歳の英雄(仮)の苦悩は、まだ始まったばかりである。


(第48.5話 完)

【第48.5話(Ep.79):あとがき】

お読みいただきありがとうございました!

「憂いてねぇよ! 請求書の心配をしてたんだよ!」……コタロウの魂の叫びが聞こえてくるような幕間でしたね。マスコミの「美化ハック」は、ある意味でコタロウの物理ハックよりも強力かもしれません。


今回のハイライトを振り返ると:


「銀色の指揮者」誕生: ゲーミングペン(仮)を振る姿が、なぜか「平和への祈り」に変換されるメディアの魔力。


恋の四角関係: クラウディア様の「魔王」発言により、アヤネとモモを巻き込んだ公式(?)修羅場が決定。


英雄商法: ガントの親父のレプリカ販売や、ポテチの完売。コタロウが望まない方向へ経済が回っています。


布団の中で震えるコタロウですが、彼を「商品」や「戦力」として見ているのは、ファンや商魂逞しい大人たちだけではありませんでした。


【次回予告】 第49話(Ep.80)『学園長室での報告会:英雄の査定と、聖教会の影』

次は、いよいよ「学園の重鎮」たちとの対面。

優勝の恩賞か、それともコロシアム破壊の責任追及か? そして、以前からアヤネを狙っていた「聖教会」が、新たな策を練ってコタロウの前に立ちふさがります。


次回もよろしくお願いします!


【作者からのお願い】

物語を楽しんでいただけましたら、ぜひブックマークや、下の評価欄から**【★★★★★】**で応援いただけると嬉しいです。

皆様の応援パッションが、コタロウの変装用サングラスの遮光率と、過労死寸前のセフィラ先生の「追加ヘルプ求人」の当選率に直結します!

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