■ Ep.77 第47話:怪獣大戦争の結末:Fランク流、漁夫の利メソッド
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【第47話(Ep.77):まえがき】
いつもお読みいただきありがとうございます!
前回(Ep.76)は、竜血を覚醒させたジークフリート皇子と、クラウディアによって呼び出された古代兵器テュポーンが激突。挟み撃ちという絶望的な状況下で、コタロウは「怪獣映画の監督」になることを決意しました。
今回の第47話は、魔法オリンピア・バトルトーナメント、正真正銘の決着です!
空から降り注ぐ滅びの光と、地底から放たれる破壊光線。会場全体が消し飛ぶ寸前のエネルギー密度の中で、コタロウが振るうのは、物理法則を書き換える「重力のタクト」。
そして、そんな地獄絵図を「最高のビュッフェ会場」として楽しむ精霊たちと、最後に残った「男同士の意地」。
Fランクの指揮者が、世界最強の皇子を相手に仕掛ける、泥臭くも鮮やかな「漁夫の利」の結末をどうぞ!
【Ep.77 第47話:本文】
1. 崩壊するコロシアム、狂喜する精霊たち
ズガァァァァァァァン!!!!!
グランド・コロシアムは、もはや闘技場ではなかった。
災害現場であり、および「精霊たちの大宴会場」だった。
「グォォォォォォォッ!!」
竜人化したジークフリート皇子が、赤いオーラを纏った拳で古代兵器を殴りつける。
『GYAOOOO……!!』
古代生体兵器テュポーンが、醜悪な触手で応戦し、紫色の溶解液を撒き散らす。
巻き起こる衝撃波。飛び散る魔力の火花。
普通なら周囲の人間が蒸発するレベルのエネルギー量だ。
だが、そこには奇妙な光景が広がっていた。
『わーい! デザートだー!』
『こっちの赤い炎、辛口で美味しいよ!』
『紫の液は酸っぱいけど、コタロウのマナと混ぜるとドレッシングになるね!』
空中に溢れかえる無数の精霊たちが、怪獣たちの放つ余波(衝撃波や魔力の飛沫)を、片っ端からパクパクと食べているのだ。
俺、神木コタロウが**【スタイラス・ワンド】**を高速回転させ、常に極上の「付け合わせ(高純度マナ)」をばら撒いているおかげで、彼らにとってこの戦場は最高のビュッフェ会場と化していた。
「(……たくましい奴らだ。 これなら観客席への被害はゼロで済む)」
俺は瓦礫の陰でワンドを操作しつつ、精霊シンクを介して、思考と指示を全員へ直接共有した。
「よし、環境は整った! 決めるぞ、Fランクメソッド! モモ、右だ! テュポーンの足元で挑発しろ!」
「おうよ! やーい、こっちだトカゲ野郎! こっちだ腐った肉塊!」
モモが残像を残すほどの超高速で、二体の怪物の間を駆け抜ける。
「ぬうっ! チョロチョロと目障りな!」
ジークフリートがモモを狙って竜閃を放つ。
「【AI】! 予測通りだネ!」
アイザックが展開した「鏡面シールド」が、ビームの軌道を僅かにずらす。
ずらされたビームは、モモの背後にいたテュポーンの顔面に直撃した。
『GYA正!? 敵対反応……再設定……ターゲット、竜因子……!!』
テュポーンのヘイト(殺意)が、モモからジークフリートに完全に固定される。
「ソフィア、今だ! テュポーンの足元に『超・潤滑ジェル』を撒け!」
「了解です。地面が汚れていますので、ワックス掛けを行います」
ソフィアがスプレーを噴射。
テュポーンが踏み込んだ瞬間、ツルリと足を滑らせて体勢を崩した。
そこへ、ジークフリートの追撃が突き刺さる。
「消えろ!!」
ドゴォォォォン!!
俺たちの役割は「戦闘」ではない。
二体の怪物が効率よく潰し合うように誘導する**「死の交通整理」**だ。
2. 覇王のプライド、あるいは暴走
だが、相手は腐っても帝国の皇子。
ただ利用されるだけのタマではなかった。
「……小賢しい真似を」
ジークフリートが攻撃の手を止めた。
彼は気づいたのだ。
自分が攻撃するたびに、王国チームが巧みに位置を入れ替え、自分の力をテュポーンに向けさせていることに。
および何より、周囲の精霊たちが自分の魔力を「ツマミ食い」していることに。
「余を操り人形にするつもりか? それに、このふざけた精霊ども……余の覇気を『餌』扱いするとは、万死に値する!」
金色の瞳孔が、隠れている俺を射抜く。
距離は50メートル以上離れているのに、喉元に刃物を突きつけられたような寒気が走る。
「気に入らん。 全て消し飛ばしてやる」
ジークフリートは、目の前のテュポーンを無視して、宙に浮き上がった。
そして、両手に赤黒い巨大な魔力球を生成し始めた。
「ちまちまと狙うのはやめだ。 精霊も、古代兵器も、貴様らも……この闘技場ごと消し炭になれ!」
ゴゴゴゴゴゴゴ……!!
空間が歪むほどの超高密度エネルギー。
それは単体攻撃ではない。**「広域殲滅魔法・終焉の太陽」**だ。
「(おいおい、マジかよ!? 精霊たちでも食べきれない量だぞ!?)」
俺は焦った。
ワンドの計測値が振り切れている。
脳内の【AI】が、高速でシミュレーションを行っている。
【AI:警告。 エネルギー充填率150%。 テュポーンも対抗して「最終防衛形態」へ移行中。 ……30秒後、二つのエネルギーが衝突し、半径2キロメートルが蒸発します】
【AI】が無慈悲な未来予測を告げる。
『排除……排除……最大出力……』
テュポーンの全身の口が開き、紫色の閃光が集束していく。
上空からの「覇王の爆撃」。
地上からの「古代の破壊光線」。
俺たちはその間に挟まれたアリだ。逃げ場はない。
「終わった……。もう家に帰れない……」
モモがへたり込む。
「……不潔な死に方です。蒸発したら骨も残りません」
ソフィアが諦めたように目を閉じる。
「(……クソッ。 サボらせてくれよ)」
俺はギリッと奥歯を噛んだ。
ここで死んだら、明日の朝食バイキングが食えない。
それだけは絶対に阻止しなければならない。
「全員、俺のところに集まれ! 最後の賭けだ! ……セフィラ先生、見ててくれよ!」
俺はVIPルームではなく、控室の隅で祈るようにモニターを見ている担当教師に呼びかけた。
3. Fランクの奥義:ベクトル反転・マナコーティング
俺の声に、メンバーが弾かれたように集まってくる。
「コタロウくん! どうするんですか!?」
アヤネがすがりついてくる。
「どうもしねぇ! 真正面から受け止めて、『受け流す』! ……ただし、精霊たちの力を借りてな!」
俺はスタイラス・ワンドを天に掲げた。
「【AI】、全力同期! スタイラス・ワンド、リミッター解除! モード:【重力干渉・偏向】!!」
キュィィィィィィィィン!!!!!
ワンドが悲鳴のような回転音を上げる。
俺の手のひらが摩擦熱で焼ける匂いがする。
「精霊ども! 聞け! 今から来るのは『激辛』と『激酸っぱい』特大コースだ! そのままじゃ食えねぇから、俺が**『甘いソース(マナ)』**を絡めてやる! だから、全力で食らいつけ!!」
俺が叫ぶと、上空の光の精霊王セレスティア(の声)が応えた。
『了解よ、シェフ! みんな、いただきなさい!』
「消えろォォォォォッ!!」
ジークフリートが、太陽のような魔力球を投下した。
『GYAOOOO!!』
テュポーンが、紫色の極太ビームを吐き出した。
二つの滅びの光が、俺たちを中心にして衝突する――その寸前。
「今だッ!! マナ・コーティング、最大散布!!」
俺はワンドを振りかざし、俺たちの周囲に高純度のマナの渦を作り出した。
それは防御壁ではない。
敵の攻撃エネルギーと混ざり合い、精霊たちが「食べやすくする」ための調味料だ。
「わぁーい! 美味しそうになった!」
「いただきまーす!!」
何万という精霊たちが、迫りくる破壊光線に群がった。
彼らが表面のエネルギーを齧り取ることで、攻撃の威力が数割削がれる。
および、残った芯の部分を――。
「物理法則を、書き換えろォォォッ!!」
俺はワンドで空中に巨大な「V字」を描いた。
ズドォォォォォォォォォォン!!!!!
衝撃。 光。 音。 全ての感覚が消し飛ぶほどのエネルギーの奔流。
だが、俺たちは蒸発しなかった。
精霊たちがエネルギー密度を下げ、俺のワンドが生み出した「重力の滑り台」が、上からの爆撃と下からのビームを**「左右へ受け流した」**のだ。
4. 漁夫の利、成立
「ぐ、ぐぅぅぅぅぅッ!! 重てぇぇぇッ!!」
俺は絶叫した。
受け流したとはいえ、その圧力だけで全身の骨がきしむ。
モモが俺の腰を抱きしめ、必死に踏ん張ってくれている。
アヤネが回復魔法を俺に注ぎ続ける。
だが、計算通りだ。
俺たちが受け流した二つのエネルギーは、それぞれ「本来の標的」へと跳ね返った。
ジークフリートの爆撃は、軌道を変えてテュポーンの核へ。
テュポーンのビームは、軌道を変えて空中のジークフリートへ。
「なっ……!? 馬鹿な!?」
ジークフリートが目を見開く。
自分の放った最大の攻撃が、眼下の小粒たちによって反射され、さらに敵のビームと混ざり合って自分に向かってくるなど、想定外だ。
「回避……間に合わんッ!!」
ドッゴォォォォォォォォォォン!!!!!
王都の空に、二つの巨大な花火が咲いた。
一つは地上で。テュポーンが赤黒い炎に包まれ、その再生核を消し飛ばされて崩れ落ちる。
一つは空中で。ジークフリートが紫色の光に飲み込まれ、竜の翼を焼かれて墜落していく。
『ごちそうさまー!!』
精霊たちが満腹の声を上げて、光の粒子となって消えていく。
俺たちの勝利だ。
5. 決着、および静寂
光が収まった後。
グランド・コロシアムには、不気味なほどの静寂が戻っていた。
フィールドはクレーターだらけになり、中央には黒焦げになったテュポーンの残骸が転がっている。
そして。
その残骸の上に、一人の男が立っていた。
ジークフリート皇子だ。
竜化は解け、ボロボロになった人間の姿に戻っている。
全身から血を流し、肩で息をしているが、それでも倒れてはいなかった。
「……ハァ……ハァ……」
対する俺たちも、限界だった。
アヤネは魔力切れで座り込み、ソフィアとアイザックは気絶している。
モモも俺を支えたまま膝をついている。
俺自身、ワンドを握る右手の感覚がなく、立っているのがやっとだ。
「……見事だ、神木コタロウ」
ジークフリートが、ふらつきながら剣を構えた。
「システムを壊し、怪物をけしかけ、精霊を味方につけ……最後には余の力すら利用したか。 ……認めてやる。 貴様は、強い」
「……どうも。 最高の褒め言葉だが、俺はもう一歩も動けねぇよ」
俺は正直に答えた。
ワンドは完全にオーバーヒートし、冷却モードに入って沈黙している。
「フッ。 余もだ。 だが……最後は、これしかあるまい」
ジークフリートは剣を捨てた。
そして、素手で拳を構えた。
「魔法も、竜の力も、策もなし。 ただの男として、決着をつけようではないか」
彼は笑っていた。
これまでの傲慢な笑みではない。
強敵を見つけた、戦士としての清々しい笑みだった。
「……へっ。 上等だ」
俺はモモの手を借りて、何とか立ち上がった。 Fランクの貧弱な体。
だが、その時、俺の懐でガシャン!と硬質な金属音が響いた。
「カッカッカ! 酷い整備不良じゃな、若造! 骨までミシミシ言っとるワイ!」
**【機巧の精霊:ギア(ギア爺)】**が、立方体の姿から一瞬で展開し、俺の右腕に強引に絡みついた。無骨なスチームパンク風の外骨格が、俺の細い腕をガッチリと補強する。
「ギア……起きてたのか」
「当たり前じゃ! 最後にポンコツが壊れては寝覚めが悪いからの。……行くぞ、ワシの『筋肉』に身を任せるがいい!」
【強制駆動】。
ギアの歯車が噛み合い、俺の意志とは無関係に、右腕に爆発的な駆動力が充填される。
俺はジークフリートに向かって一歩を踏み出した。
この夏休み、散々こき使われ、走り回らされたおかげで、少しだけ体力はついている。そして今は、ギアの補助がある。
「いけ、コタロウ! 一発殴ってやれ!」
モモが背中を叩く。
俺は最後の力を振り絞り、拳を握った。
ジークフリートも、よろめきながら突っ込んでくる。
これは、世界最強の皇子と、世界最弱の詐欺師の、泥臭い殴り合い。
魔法オリンピアの最後を飾るには、あまりにも地味で、しかし最も熱いフィナーレだった。
6. クロスカウンター
「うぉぉぉぉッ!!」
「はぁぁぁぁッ!!」
二人の拳が交差する。
ドスッ。
ギアの歯車が激しく火花を散らし、俺の拳を加速させる。
俺の拳が、ジークフリートの頬にめり込む。
ジークフリートの拳が、俺の頬にめり込む。
「……痛ってぇ……」
俺の意識が飛んだ。
ジークフリートもまた、糸が切れたように崩れ落ちた。
ダブルノックアウト。
だが、俺が倒れる寸前、ジークフリートが微かに笑ってこう言ったのが聞こえた。
「……楽しかったぞ、指揮者」
7. VIPルームの結末
その様子を、VIPルームで見つめるクラウディア。
彼女の手元にあるモニターには、テュポーンの機能停止と、ジークフリートのダウンが表示されている。
「……あらあら。 どちらも壊れてしまいましたわ」
彼女はつまらなそうに、しかしどこか満足げに黒い鍵を抜いた。
「私の可愛いテュポーンちゃんも、帝国の皇子様も、コタロウの前では噛ませ犬でしたわね。 ……ふふっ。 やっぱり貴方は素敵ですわ、コタロウ」
彼女はモニターの中の、大の字に倒れているコタロウに熱い視線の送る。
「これで優勝は確実。 王国の英雄となった貴方を、私がどうやって『手に入れる』か……。 ふふふ、楽しみが増えましたわ」
彼女の歪んだ愛は、大会の終わりと共に、新たな「物語(呪い)」の幕開けを告げていた。
一方、ホテルの自室でモニターを見ていたセフィラ先生は、胃薬の瓶を握りしめたまま、安堵の涙を流していた。
「よかった……。王都も、私の職場も守られた……。 でも……これ、報告書どう書けばいいの……?」
歓声と熱狂の中、波乱の魔法オリンピアは幕を閉じた。
俺が目を覚ます頃には、きっと面倒な表彰式と、さらに面倒な「英雄扱い」が待っているだろう。
そう思うと、俺は意識の底で「もう少し寝かせてくれ」と願うのだった。
(第47話 完)
【第47話(Ep.77):あとがき】
お読みいただきありがとうございました!
魔法と科学、精霊の食欲、そして最後はまさかの「物理的な殴り合い」。魔法オリンピアのフィナーレを飾るには、これ以上ないほどカオスで、そして熱い決着となりました。
今回のハイライトを振り返ると:
重力干渉・偏向: 二大怪獣の必殺技を「左右に受け流す」という、ワンドと【AI】の演算能力の極致。
精霊の味付け: 破壊エネルギーを「激辛ソース」扱いして食べる精霊たち。彼らの「ごちそうさま」が勝利の合図でした。
ギア爺の助力: 最後の最後で「強制駆動」を仕掛けてくる、粋な機巧精霊。
ダブルノックアウトで幕を閉じたこの死闘。しかし、勝負がつけば、そこから始まるのは「政治」と「世論」という名の、コタロウにとっての第2ラウンドです。
【次回予告】 第48話(Ep.78)『目覚めれば、そこは地獄:英雄という名の罰ゲームと、拾った爆弾』
次は、オリンピア編の最終回。
目を覚ましたコタロウを待っていたのは、称賛の嵐とマスコミの群れ。そして、敗れ去った皇子が残した「不穏な忠告」と、テュポーンの残骸から拾ってしまった「国家予算級の危険物」。
コタロウのサボりライフは、再び遠のくことになります……。
次回もよろしくお願いします!
【作者からのお願い】
物語を楽しんでいただけましたら、ぜひブックマークや、下の評価欄から**【★★★★★】**で応援いただけると嬉しいです。
皆様の応援が、殴られたコタロウの治療費と、ネロが影でおねだりする「おかわりマナ」の量に直結します!




