■ Ep.73 第44話:休息日の陰謀:王都の夜に蠢く影
【第44話(Ep.73):まえがき】
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前回(Ep.71-72)は、モモが過去のトラウマを「ステーキ300g」の食欲で上書きし、獣人王を音速で粉砕。しかしその裏では、氷の令嬢クラウディアとヴァルド公爵によって、コタロウの「銀色のペン」の正体が物理演算機(重力干渉器)であることが暴かれつつありました。さらにクラウディアが取り出した謎の「黒い鍵」。決勝戦はもはや、ただの学生大会では済まされない空気が漂っています。
今回の第44話は、決戦前夜。
嵐の前の静けさを楽しもうとするコタロウの元に、ガレリア帝国の第一皇子ジークフリートが自ら接触してきます。
「聖女のオマケ」か、それとも「王国の懐に潜む異物」か。
最高級の茶葉の香りに包まれながら、二人の「指揮者」による、言葉の刃を交わすティータイムが始まります。
【Ep.73 第44話:本文】
1. 嵐の前の豪華ホテル
準決勝翌日。 魔法オリンピアは決勝戦を前に、一日の「休息日」を設けていた。
王都ルミナスの最高級ホテル、その最上階にあるスイートルーム。
ここが、我ら「王立精霊学園」チームの宿舎だ。
「わぁ〜! すごいですぅ! 朝食がバイキングですよぉ!」
「肉だ! 昨日のステーキも良かったが、このローストビーフも最高だ!」
「……不潔です。トングの共用は感染リスクを高めます。全て消毒してから取ります」
「ヒヒッ! このコーヒーメーカー、魔導回路を改造すれば高圧洗浄機になるネ!」
メンバーたちは思い思いに休息を楽しんでいる。
だが、俺、神木コタロウの表情は優れなかった。
「……はぁ。 全然休まらねぇ」
俺はソファに深く沈み込み、窓の外を見下ろした。
眼下には王都の街並みが広がっているが、その向こう側――帝国の宿舎がある区画からは、ピリピリとした殺気が漂ってきている。
明日の相手は、ガレリア帝国・魔導竜騎士団。
高度に組織化され、科学と魔法を融合させた軍隊だ。
彼らが駆る「飛竜」と、それを制御する「ドラグーン・システム」。その詳細が分からなければ、明日は一方的に焼かれて終わりだ。
「(……情報が足りない。 『あれ』が届かないと、作戦が立てられないぞ)」
俺が焦りを感じていた時、部屋のドアが控えめにノックされた。
「コタロウ様。 アヤネ様より、差し入れをお持ちするようにと仰せつかりました」
可愛らしい声と共に現れたのは、フリルのついたメイド服を着た双子の少女。
アヤネの実家から派遣されている専属従者、リナとルナだ。
彼女たちは普段、ドジっ子メイドとしてアヤネの世話をしているが、その正体は王国の暗部「カゲロウ」のエリート工作員である。
「ああ、入ってくれ。 ちょうど喉が渇いてたんだ」
俺は合言葉のように答え、二人を招き入れた。
2. 双子のメイドと、利害の一致
部屋に入り、ドアが閉められ、防音結界が展開された瞬間。
二人の「ドジっ子オーラ」が霧散し、鋭利な刃物のような気配が漂う。
「……お待たせしました、コタロウ様」
姉のリナが、カートの下段――銀色のドームカバーを持ち上げると、そこには料理ではなく、分厚い羊皮紙の束と、数枚のクリスタルディスクが鎮座していた。
「帝国の宿舎、および飛竜の格納庫より回収しました。 『ドラグーン・システム』の設計図(断片)と、運用マニュアルです」
リナが完璧なメイドスマイルで報告する。
妹のルナが、周囲を警戒しながら窓のカーテンを閉め、小さな声で補足する。
「帝国の警備システム、想定以上に強固でした。生体認証に自動迎撃ゴーレム……。 普通なら侵入不可能です。 ……コタロウ様から頂いた『合鍵』がなければ、私たちでも失敗していたでしょう」
「そいつは良かった。 君たちの『潜入能力』と俺の『解析能力』、いいコンビだったな」
俺は苦笑した。
本来、一介の学生である俺が、王国の暗部である彼女たちに命令などできるはずがない。
今回の件は、あくまで**「取引」**だったのだ。
【回想:王都到着の夜】
ホテルの廊下の影で、俺はリナとルナに声をかけた。
「……困ってるみたいだな、お二人さん」
二人はビクリと肩を震わせ、一瞬で戦闘態勢に入った。
彼女たちは「帝国の情報を探りたいが、警備が厳重すぎて手が出せない」という状況に焦っていたのだ。アヤネを守るためには、敵の手の内を知る必要があるからだ。
「誰ですか? ……ただの学生にしては気配を殺すのが上手ですね」
リナが冷たい目で俺を睨む。
「俺はアヤネの味方だ。 ……単刀直入に言おう。 俺は帝国のシステムの『裏口』を知っている。 君たちはそこに物理的に潜入する『足』を持っている」
俺は懐からスタイラス・ワンドを取り出し、二人に見せた。
「取引だ。 このワンドを貸す。 【AI】が帝国の警備システムの死角をリアルタイムで解析し、お前たちを最深部まで誘導する。 その代わり……中にあるデータをコピーして、俺にも共有してくれ。 アヤネを勝たせるために、俺も情報が欲しいんだ」
二人は顔を見合わせた。
彼女たちの目的は「アヤネの勝利と安全」。俺の目的も「(自分が生き残るために)チームを勝たせること」。
利害は完全に一致している。
「……信用できる保証は?」
「ない。 だが、このままじゃ明日の試合, アヤネは帝国の竜に焼かれるぞ?」
その言葉が決定打だった。
ルナがため息をつき、ワンドを受け取った。
「……分かりました。アヤネ様のためです。 その『ナビ』、使わせていただきます」
「交渉成立だな。 ……ああ、あと追加報酬として、成功したらアヤネには内緒で『王都限定スイーツ食べ放題』も奢るよ」
「「……それは、絶対に守ってくださいね(真顔)」」
【回想終了】
「……というわけで、約束通りスイーツ店の予約チケットだ。 アヤネには『実家の用事』とでも言って、楽しんできてくれ」
俺がチケットを渡すと、二人は一瞬だけ年相応の少女の顔で目を輝かせ、すぐにプロの顔に戻って一礼した。
「感謝します。 ……では、後は頼みましたよ、コタロウ様。 私たちの大切な主(アヤネ様)を、勝たせてください」
二人は退室していった。
残されたのは、彼女たちが命がけで持ち帰った極秘データの山だ。
「(……さて、プロの仕事に応えてやるか)」
俺は資料を手に取った。
普通の人間なら「読めない」暗号化されたゴミの山だ。
だが、俺には最強の翻訳機がある。
3. 悪魔の囁きと、用意周到な伏線
夜。 俺は自室のベッドに、入手した膨大な資料を広げた。
「【AI】, セットアップ。 モード:【睡眠学習・深層解析】」
【AI:了解(Roger)。 スキャン対象:帝国軍事機密文書・全3000ページ。 解析目標:ドラグーン・システムの制御コードを特定し、これを**「書き換え(ハッキング)」**します】
【AI】の淡々とした返答に、俺の手が止まった。
「……おい、ちょっと待て。 『書き換え』って言ったか? それ、完全にハッキングだろ」
俺は顔をしかめた。
「リナたちがリスクを冒して盗んできたのは『閲覧』のためだ。 データを改竄してシステムをダウンさせるなんて、一線を超えてないか? バレたらアヤネの実家にも迷惑がかかる」
俺が難色を示すと、脳内の相棒は、まるで悪徳弁護士のような流暢さで切り返してきた。
【AI:マスター、ご安心ください。 これは新規の犯罪行為ではありません。 **「第38話における、未完了タスクの続き」**です】
「……はぁ? どういう意味だ?」
【AI:思い出してください。王都行きの列車がサイバー攻撃を受けた際、マスターはワンドを使って物理的に制御を奪還しました。 あの時、私はただ防御していただけではありません。 攻撃の発信元である**「帝国の軍事サーバー」への逆探知を行い、バックドア(裏口)の位置と、システムの脆弱性を既に「特定済み(マーキング)」**です】
「……お前、あのドサクサに紛れてそんなことしてたのか?」
俺は呆れた。
パニック状態の列車内で、こいつは冷静に敵の弱点をリサーチしていたのだ。
【AI:はい。あの時点で「いつでも侵入可能」な状態にしておきました。 リナとルナさんが持ち帰った資料は、その「裏口」から入った後、具体的にどの数値をいじればいいかを確認するための「地図」に過ぎません】
【AI】の声が、少し得意げに響く。
【AI:つまり、これは新たな攻撃ではありません。 先に手を出してきた彼らに対する、正当な**「カウンター・インテリジェンス(防諜活動)」**の仕上げです。 法的にはグレーですが、倫理的にはセーフです】
「……お前、本当に性格悪いな(褒め言葉)」
【AI:さらに付け加えるならば、帝国の竜たちは「痛み」によって無理やり支配されています。 我々がシステムを無力化することは、彼らを苦しみから解放する**「動物愛護活動」**でもあります。 聖女アヤネ様の従者であるお二人も、きっと喜ぶはずです】
「……出たよ、その屁理屈」
正当防衛と動物愛護。
この二つの錦の御旗を掲げられ、さらに「リナたちの期待」と「やらないと死ぬ」という現実を突きつけられては、俺に拒否権などない。
「……はぁ。 分かったよ、俺の負けだ」
俺は降参して、ベッドに大の字になった。
「やろう。 『ボランティア活動』とやらをな。 ……まったく、お前と組んでると、どんどん悪党になっていく気がするぜ」
【AI:光栄です、マスター。 では、用意しておいた「裏口」から、心地よい夢(侵入)の時間へご案内します】
4. 夢の中のハッキング
俺はワンドを空中に放った。
シュルルルルルッ……!
ワンドが重力核を起動させ、俺の枕元でホバリングを始める。
俺が目を閉じ、意識を手放すと同時に、ワンドが動き出した。
【AI:睡眠導入、完了。 レム睡眠へ移行します】
ここからは、俺の**「夢の世界」**だ。
――暗黒の空間。
そこに、無数の文字と図形が浮かび上がっている。
俺は夢の中で意識を覚醒させ、その情報の海に漂っていた。
「(……へぇ。これが帝国の『竜』の中身か)」
目の前に、ワイヤーフレームで描かれた巨大な「飛竜」の3Dモデルが構築される。
生物としての骨格に、無数の機械部品が埋め込まれている。
それは生命への冒涜とも言える、醜悪なキメラ技術だった。
【AI:照合完了。 第38話で特定した「アクセスポイント」と、リナ・ルナさんが回収した「制御ユニット回路図」が一致しました。 ……パスは通っています。セキュリティ、ザルですね】
【AI】の言う通りだった。
列車のハッキング時に【AI】が仕込んでおいた「マーカー」が、帝国のシステム内部で赤く点滅している。
俺はそこを通るだけで、最深部までフリーパスだ。
「(【AI】。 この制御ユニットの『鍵』はここだな?)」
【AI:はい。そこに、資料から抽出した「強制解除コード」を上書きします。 ……ハッキング完了まで、あと3分】
夢の中で、俺の手にはスタイラス・ワンドが握られていた。
俺はワンドを振るい、開かれた裏口から、帝国自慢のシステムをズタズタに書き換えていく。
ガガガガガッ!!
現実の俺の脳は、オーバーヒート寸前だ。
ワンドが外部演算を肩代わりしてくれているとはいえ、膨大なデータ処理の熱が神経を焼く。
「(……完了だ。 これで明日の試合中、俺の合図ひとつで、全ての竜が『ただの生物』に戻る)」
俺はニヤリと笑った。
これで勝てる。明日の決勝戦、空を飛ぶ無敵の竜騎士団を、地上に引きずり下ろしてやる。
5. 影の護衛
その頃。 現実世界の俺の部屋に、侵入者の気配があった。
窓の鍵が音もなく外され、黒装束の暗殺者が忍び込んでくる。
彼の手には毒塗りのナイフが握られており、無防備に眠る俺の首を狙っていた。
「……死ね、王国の指揮官」
暗殺者がナイフを振り上げた、その瞬間。
ゾワリ。
部屋の空気が凍りついた。
ベッドの下から、ドロリとした漆黒の闇が溢れ出したのだ。
『……ねえ』
暗殺者の耳元で、少女の声がした。
ヤンデレ精霊、ネロだ。
彼女は俺の影の中に潜み、ずっと「見張って」いたのだ。
『ボクのコタロウの寝顔、かわいいでしょ? ……でも、見ていいのはボクだけなの』
「な、なんだ貴様は……!?」
暗殺者が動けない。影が彼の手足を拘束している。
『邪魔しないで。 今、コタロウは夢の中で「悪いこと(ハッキング)」を頑張ってるんだから。 ……おやすみ、永遠に』
バクンッ。
闇が暗殺者を飲み込んだ。
悲鳴を上げる間もなく、彼は影の中に引きずり込まれ、完全に消滅した。
部屋には再び静寂が戻る。
『ふふっ。 ごちそうさま』
ネロは再び影に戻り, 俺の寝顔をじっと見つめ続けた。
6. 悪夢の目覚めと、決戦の朝
チュン、チュン……。 小鳥のさえずりと共に、朝日が差し込む。
「……ぐ、あぁぁぁ……!!」
俺は激痛と共に目を覚ました。
頭が割れるように痛い。二日酔いの100倍は酷い頭痛だ。
これが睡眠学習の代償だ。一晩で数年分の勉強をした反動が、一気に押し寄せてくる。
「(……【AI】, 解析率は?)」
【AI:おはようございます、マスター。 解析率100%。 ドラグーン・システムの強制解除コード, 生成完了しました。 リナ・ルナさんの働きと、第38話からの伏線回収、お見事でした】
「……うるさい。もう二度とやりたくねぇ」
俺はフラフラと起き上がり、枕元で熱を持って転がっているスタイラス・ワンドを回収した。
こいつも「共犯者」だ。
「よし。 これで準備は整った」
俺は制服に着替えた。
鏡に映る自分の顔は、目の下にクマができ、顔色は最悪だ。
だが、その目は死んでいない。
今日は決勝戦。 相手は帝国。そして、VIP席には歪んだ愛を向けてくるクラウディアがいる。
「(行くか。 ……終わらせて、最高に美味い飯を食って、泥のように眠るために)」
俺は部屋を出た。 廊下には、既にアヤネたちが待っていた。
「コタロウくん! おはようございますぅ! 顔色悪いですよ? 大丈夫ですか?」
アヤネが心配そうに覗き込んでくる。
その後ろには、何食わぬ顔でドジっ子メイドを演じているリナとルナの姿もあった。
彼女たちは俺と目が合うと、微かにウィンクをした。
「ああ、ちょっと寝不足でな。 ……でも、夢の中で『とっておきの裏技』を見つけたよ」
俺はニヤリと笑い、ワンドを指先で回した。
「行こうぜ。 帝国のトカゲどもを、地上に叩き落としてやる」
決戦の朝。 俺たちの夏休み最大の戦いが、幕を開けようとしていた。
(第44話 完)
【第44話(Ep.73):あとがき】
お読みいただきありがとうございました!
ジークフリート皇子との手に汗握る心理戦。コタロウは「ただのサボり魔」を貫こうとしましたが、皇子の鋭い観察眼を誤魔化しきれたのでしょうか?
今回のハイライトを振り返ると:
皇子の誘惑: 帝国の圧倒的な力と、コタロウの「合理性」の衝突。
一杯の紅茶: 緊張感あふれる対峙の中で、コタロウが感じた「微かなマナの違和感」。
決勝への宣戦布告: ジークフリートが予告した「古代の力」。
皇子との対談を終え、いよいよ明日は決勝戦。ですが、人間たちが策を練っているその上空では、さらに別の「深刻な問題」が勃発していました。
【次回予告】 第44.5話(Ep.74)幕間:『天上の会議室と、深刻な悪臭被害』
次は、打って変わって精霊界の視点。
帝国の竜騎士団が撒き散らす「油臭いマナ」に、美食家の精霊王たちがブチギレ!?
コタロウの放つマナを「極上のドライ・ジン」と称える、精霊たちの『王都美食防衛作戦』が始動します。
次回もよろしくお願いします!
【作者からのお願い】
物語を楽しんでいただけましたら、ぜひブックマークや、下の評価欄から**【★★★★★】**で応援いただけると嬉しいです。
皆様の応援が、コタロウが淹れる紅茶の香りと、精霊界の「食べ放題ビュッフェ」のメニュー数に直結します!




