第4.5話:氷の代表は、Fクラスの『汚点』を許さない
【第4.5話:まえがき】
前話で人狼のモモを仲間にし、Fクラスでの生存戦略を立て始めたコタロウ。 しかし、異世界学園モノのお約束として、順調な時ほど「面倒なイベント」は向こうからやってくるものです。
ある朝、コタロウのもとに届いた一通の「赤紙」。 差出人は、学年を支配する公爵令嬢・クラウディア。
「Fクラスのゴミクズが聖女様に近づくな」という呼び出しに対し、事なかれ主義のコタロウはどう対応するのか? 話が通じそうで全く通じない、上流階級との「対話(一方的な通告)」が始まります。
1. 学年代表からの赤紙
モモが仲間に加わり、Fクラスの寮(通称:監獄)が少しだけ賑やかになった翌日のことだ。
俺――神木コタロウは、安眠を妨げる不吉な封筒を受け取った。
真紅の封蝋で閉じられた、高級な羊皮紙。
通称**「赤紙」**。
差出人の欄には、優雅な飾り文字でこう記されていた。
『1学年代表 クラウディア・フォン・ローゼンバーグ』
「ボス……それ、退学通知か? 荷造り手伝うぞ?」
隣で骨付き肉をかじっていたモモが、心配そうに(というか、俺がいなくなったら餌が減ることを危惧して)尋ねてくる。
「……いや、退学ならもっと事務的な紙だろ。これはもっと面倒な、『上流階級様からの呼び出し』だ」
クラウディア・フォン・ローゼンバーグ。
由緒正しき公爵家の令嬢であり、入学試験をトップ成績で通過した才女。
その冷徹な美貌と、規律を絶対視する姿勢から**「氷の令嬢」**とあだ名される、1学年の支配者だ。
Fクラスの落ちこぼれである俺に、雲の上の存在から何の用だ?
嫌な予感しかしないが、無視すれば「不敬罪」で何をされるか分からない。俺は重い腰を上げ、本校舎の最上階にある特別室へと向かった。
2. 氷の令嬢の「一方的な」通告
「失礼します」
重厚なオーク材の扉を開けると、そこは別世界だった。
ボロボロのFクラス寮とは違い、空調は完璧、床にはふカフカの絨毯。窓からは王都の街並みが一望できる。
その部屋の中央、執務机で優雅に紅茶を嗜んでいる銀髪の少女がいた。
「…………」
彼女――クラウディアは、入室した俺を一瞥もしない。
ソーサーにカップを置く、カチャリという硬質な音だけが響く。
数秒の沈黙の後、彼女は氷のように冷たい青い瞳を俺に向けた。
「Fクラス、神木コタロウですね」
「はい」
「単刀直入に言います。今後一切、Sクラスのシノミヤ・アヤネ様に近づかないでください」
挨拶も、前置きもない。
それは会話ではなく、一方的な「通告」だった。
「……は?」
俺が呆気にとられて口を開こうとすると、彼女はそれを鋭い言葉で遮った。
「言い訳も、理由の説明も不要です。貴方が何をしたのか、あるいは聖女様が何の気まぐれで貴方のような『石ころ』に目を向けたのか……そんなことに興味はありません」
クラウディアの声には、明確な敵意が混じっていた。
それは単なる「Fクラスへの差別」ではない。もっと生理的な嫌悪感――いうなれば、自分が崇拝する神聖な神殿に、泥足で踏み込まれた信徒のような怒りだ。
「シノミヤ様は、我ら1学年の誇りであり、至宝です。その方が貴方のような底辺と関わっているという噂だけで、学年全体の品位が下がります」
彼女は扇子で口元を隠したが、その目は俺をゴミを見るように蔑んでいた。
要するに嫉妬だ。
完璧主義者の彼女にとって、学年のトップであるアヤネが、最底辺の俺に構っている事実が許せないのだ。
「身の程を知りなさい。貴方が視界に入るだけで不愉快なのです」
完全に理不尽な言い分だ。
普通の生徒なら、「ふざけるな」と怒るか、「そんなこと言われても」と泣き出すところだろう。
だが、俺にとっては渡りに船だった。
「……了解です。俺もそうしたいと思ってました」
俺は即答した。
アヤネのストーカー行為には俺も命の危険を感じていたところだ。学年代表公認で「接近禁止」になるなら、こんなにありがたいことはない。
「では、俺はこれで――」
「……お待ち」
クラウディアの声が低くなった。
彼女は不快そうに眉をひそめ、俺を睨みつけている。
「……口先だけで従順なフリを。その腐った根性が透けて見えます」
「はい?」
「貴方のような輩が、素直に聖女様から離れるわけがない。どうせ裏では『言質を取った』だの何だのと騒ぎ立て、聖女様の同情を引くつもりでしょう?」
何を言ってもダメらしい。
彼女の中で俺は「アヤネをたぶらかす害悪」として固定されており、俺が肯定しようが否定しようが、彼女の不快感は消えないのだ。
3. 冷徹な退出命令
クラウディアは、もう俺に興味を失ったように視線を外した。
手元の書類に目を落とし、再びティーカップに手を伸ばす。
まるで、そこにいるのが人間ではなく、掃除し忘れた路傍の石であるかのような扱いだ。
「話は以上です。下がりなさい」
彼女は冷たく言い放つ。
「二度と私の前に顔を見せないように。……あのような清廉潔白で素晴らしい方が、なぜ貴方ごときに……」
最後の一言は、聞き取れないほどの小声だった。
だがそこには、アヤネへの歪んだ憧憬と、俺への深い嫉妬がドロドロと渦巻いていた。
「……失礼しました」
俺は反論することなく、静かに頭を下げて退出した。
バタン、と重厚な扉が閉まる。
廊下に出た俺は、大きく息を吐き出した。
冷や汗が背中を伝う。
「……あんなのがトップにいる1学年、前途多難だな」
アヤネという爆弾に加え、それを崇拝する権力者まで敵に回してしまった。
俺が求めているのは「平穏な学園生活」だけなのに、状況はどんどん修羅場へと向かっている気がする。
背後の特別室からは、再び優雅な、しかしどこか神経質なカップを置く音が聞こえた気がした。
こうして俺は、アヤネ本人がいない場所で、1学年代表クラウディアから「アヤネを汚す害虫」として、決定的な**敵対視**を受けることになったのだった。
(第4.5話 完)
【第4.5話:あとがき】
お読みいただきありがとうございます!
「聖女様に近づくな」と言われて、食い気味に「はい、喜んで!」と即答する主人公。 なかなかいないと思いますが、コタロウにとっては本心からの言葉でした。
しかし、相手は疑り深い「氷の令嬢」クラウディア。 彼女の脳内では「素直に従うフリをして、裏で聖女を操ろうとする狡猾な男」という、とんでもないフィルターがかかってしまいました。 これでまた一つ、コタロウの平穏な学園生活が遠のきましたね(合掌)。
さて、次回は本編の第5話。 Fクラスには、もう一人の問題児がいます。 爆発狂のマッドサイエンティスト・リリス。
彼女の悩みは「空飛ぶ箒が制御できない」こと。 原因はやっぱり「精霊の性格」でした。 コタロウが出した解決策は……まさかの「座布団」!?
第5話『古代語を翻訳したら「取扱説明書」で、空飛ぶ箒を改造したら「座布団」になった』。 異世界の常識を破壊する、コタロウ流の魔改造にご期待ください!
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