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■ Ep.64 第39話:開会式パニック:聖女の微笑みと、精霊たちのパレード

【第39話:まえがき】

いつもお読みいただきありがとうございます!

前回(第38話)では、暴走する魔導列車を「物理ハッキング」で強引に停止させたコタロウ。

なんとか無事に(?)王都ルミナスへと到着した一行を待っていたのは、世界中が熱狂する祭典「魔法オリンピア」の開幕でした。

今回の第39話は、10万人の観客が詰めかけたグランド・コロシアムでの「開会式パニック」!

純白のドレスに身を包み、聖女として喝采を浴びるアヤネ。

しかし、彼女の溢れんばかりの魔力が、王都中の浮遊精霊を呼び寄せてしまい、パレードは一転して地獄絵図に……!?

「目立ちたくない」というコタロウの願いが、またしてもスタイラス・ワンドの超高速回転によって粉砕される、華麗なる(?)誤解の物語をお楽しみください!

【本文】

1. 喧騒のグランド・コロシアム


王都ルミナスの中央に位置する、最大収容人数10万人を誇る巨大闘技場「グランド・コロシアム」。

その上空には色とりどりの魔法花火が打ち上がり、地面が揺れるほどの歓声が響き渡っていた。


『さあ、世界中が注目する祭典! 魔法オリンピア、いよいよ開会です!!』


実況の声が魔導スピーカーで増幅され、熱狂する観衆をさらに煽る。

各国から選抜されたエリート魔法使いたちが、それぞれの国の旗を掲げて堂々と行進していく。


そんな中。入場ゲートの薄暗い通路で、俺たち「王立精霊学園」チームは待機していた。


「……帰りてぇ」


俺、神木コタロウは、ゲートの隙間から見える人の多さに絶望していた。

10万人。その視線が、今から俺たちに注がれるのだ。

「Fランクの一般人」を自称する俺にとって、これほどの公開処刑はない。


「コタロウくん! 楽しみですねぇ! 屋台のいい匂いがしますよぉ!」


隣で無邪気に跳ねているのは、チームの主役、聖女アヤネだ。

彼女は純白の式典用ドレスに身を包み、その愛らしい笑顔で周囲のスタッフすら魅了している。

だが、その手には既に屋台で買ったと思われる「特大フランクフルト」が握られている。これから行進だぞ。


「ヒヒッ! ボクの新作『自動歩行ブーツ』のテストには絶好の機会だネ!」

アイザックは怪しい機械仕掛けの靴を履いてタップダンスをしている。


「……不潔です。観客の呼気に含まれるウイルス濃度が基準値を超えています。マスクの着用を義務付けるべきです」

ソフィアは除菌スプレーを両手に構え、臨戦態勢だ。


「肉……肉の匂いがする……! 観客席に飛び込んでいいか?」

モモは獣の本能全開で、観客席の食べ物を狙っている。


「お前ら……頼むから大人しくしててくれよ。ただ歩いて、手を振るだけだ。簡単だろ?」


俺は胃の痛みを堪えながら、メンバーに釘を刺した。

だが、俺のポケットの中で、**【自律回転式魔導ペン(スタイラス・ワンド)】**が、微かに「ブブッ」と振動した。【AI】からの警告だ。


【AI:警告(Alert)。会場内の「精霊密度」が異常上昇中。アヤネ様の興奮状態に呼応し、王都中の「浮遊精霊」が集まってきています】


「……嫌な予感がするな」


俺が呟いたのと同時に、入場のアナウンスが流れた。


『続いての入場は! 開催国、ルミナス王国の代表! 王立精霊学園チームです!!』


2. 聖女の「集客力」


ワーァァァァァァァッ!!!!!


ゲートを出た瞬間、音の壁のような歓声が俺たちを包んだ。

「アヤネ様ー! こっち向いてー!」

「聖女様万歳!」


圧倒的な人気だ。アヤネが手を振るたびに、観客席の一部が波打つように揺れる。


「わぁ~! 皆さんこんにちは~!」


アヤネが満面の笑みで手を振り返す。その瞬間だった。


ボワッ。

アヤネの体から、目に見えるほどの濃密な「ピンク色の魔力オーラ」が溢れ出した。

彼女は嬉しくなると、無意識に魔力を垂れ流す癖がある。

しかも、今回は10万人の歓声にテンションが上がり、出力が全開になっていた。


「(おいアヤネ! 魔力漏れてるぞ!)」

俺が注意しようとしたが、遅かった。


アヤネの放つ、甘く、純度が高く、精霊にとってはこの上なく魅力的な「最高級マナ」。

その香りに誘われて、事態は急変した。


ヒュオオオオオオッ……!

会場の空気が変わった。

最初は小さな風だった。だが、すぐにそれは「雲」のような塊となって、アヤネの上空に集まり始めた。


『な、なんだあれは!?』

『黒い雲……いや、あれは精霊か!?』


集まってきたのは、王都の空中に漂っていた何万、何億という微細な「低級精霊スピリット」たちだ。

彼らは自我を持たないが、純粋なマナの味には敏感だ。

「餌だ! 餌だ!」「美味い匂い!」「吸わせろ!」

そんな本能剥き出しの精霊たちが、アヤネのマナに群がり、巨大な竜巻のような渦を形成したのだ。


「きゃっ!? な、なんですかこれぇ!?」


アヤネが驚いて足を止める。

精霊の密度が高すぎて、視界が遮られ、彼女の姿が見えなくなる。

これでは行進どころではない。精霊による「もみくちゃ事故」が発生する。


さらに、悪い偶然が重なった。


「聖女様! これ食べてー!」


興奮した観客の一人が、手に持っていた**「特大ドラゴンの串焼き(タレ味)」**を、アヤネに向かって投げ込んだのだ。

それが空中で放物線を描き、精霊の渦の中に飛び込んだ瞬間。

肉の匂いとマナの匂いが混ざり合い、化学反応(爆発的食欲)を引き起こした。


『メシだぁぁぁぁぁッ!!!』


精霊たちが暴走した。

渦が弾け、制御不能の嵐となってアヤネに襲いかかる。


「ひぃぃぃっ! くすぐったいですぅ! 舐めないでぇぇ!」


「ギャーッ! 肉が! ボクの肉が取られた!」(モモが乱入)


「不潔です! 害虫駆除を開始します!」(ソフィアが毒霧を噴射)


「ヒヒッ! 精霊の生体サンプル取り放題だネ!」(アイザックが網を振るう)


カオスだ。

開会式の厳粛な行進は、一瞬にして「精霊パニックホラーショー」と化した。


3. スタイラス・ワンド、展開


「(……やっぱりこうなるか)」


混乱するフィールドの片隅で、俺は冷静にポケットに手を入れた。

このままでは、アヤネが精霊に埋もれて窒息するか、ソフィアの殺菌ガスで会場が地獄絵図になる。

そして何より、開催国のメンツが丸潰れだ。


「【AI】、仕事だ。……あいつらを『整列』させるぞ」


俺は指先で、愛用の**【スタイラス・ワンド】**を弾いた。


シュルルルルルッ……。

銀色のペンが、俺の掌の上で高速回転を始める。

重力核が作動し、ペンは空中に固定ロックされる。


「モード:【指揮者コンダクター】。全方位に『誘導信号マナ・ビーコン』を発信。精霊たちの意識を、アヤネという『点』から、会場全体への『線』に書き換えろ」


【AI:了解(Roger)。スタイラス・ワンド、出力30%。誘導パターン:「ロイヤル・パレード」。……演奏オペレーション、開始します】


4. 物理演算による「強制演舞」


俺は人混みに紛れながら、ワンドを指揮棒のように振った。


キュィィィン!!

ワンドの先端から、人間には聞こえない、しかし精霊のコアを直接揺さぶる「特殊周波数のマナ波動」が放たれた。


それは、暴走する精霊たちにとっての「号令」だ。

『右向け右!』『列を乱すな!』『綺麗に並べば餌をやる!』

そんな命令が、ワンドの回転数に乗せて毎秒数千回、叩き込まれる。


ピタリ。

アヤネに群がっていた数万の精霊たちが、一斉に動きを止めた。


『……?』

精霊たちが困惑する。

だが、ワンドが描く複雑な軌跡(幾何学模様)に合わせて、彼らの体は抗えない力で動かされていく。


「さあ、踊るんだよ。これはパニックじゃない。……『演出』だ」


俺がワンドを大きく振り上げると、精霊の群れが一斉に上昇した。


ザァァァァッ!!

黒い雲のように見えていた精霊たちが、俺の計算した配置につくことで、光を透過させ、虹色の粒子へと変化する。

「わぁっ……!?」

観客席からどよめきが起こる。


「次、回転スピン!」

俺がワンドを回すと、精霊たちはアヤネを中心にして、美しい二重螺旋のリングを形成した。

それはまるで、惑星を取り巻く星の輪のように、キラキラと輝きながら回転する。


「お次は、ハート型!」

ワンドで空中に図形を描く。

精霊たちが瞬時に整列し、会場の上空に巨大なハートマークを描き出した。


「すごーい! 綺麗ですぅ!」

アヤネが目を輝かせて拍手する。

「あ、あれ? 私がやったんですか? 精霊さんが勝手に?」


「(……そうだ、お前がやったことにしとけ)」


俺はポケットの中でワンドを操作し続ける。汗が滲む。

数万の個体を、物理演算でリアルタイム制御するのは、脳への負荷が凄まじい。

だが、ここで止めたらまた暴走する。


「ソフィア、毒霧やめろ! それを『スモーク演出』に見せかけろ!」


「モモ, 暴れるな! 宙返りしてファンサービスだ!」


「アイザック、その変な機械で光を出せ! ライティングだ!」


俺はインカムで指示を飛ばしながら、ワンドでカオスな状況を強引に「ショー」として成立させていく。


5. 喝采と誤解


『な, なんという光景でしょう!!』

実況が絶叫した。


『王立精霊学園チーム! 暴走かと思われましたが、これは……高度な精霊魔法によるパフォーマンスです!! 数万の精霊を一糸乱れぬ動きで統率し、光のアートを描き出しています! まさに「精霊学園」の名に恥じぬ、圧倒的な技術力!!』


ワァァァァァァァッ!!!!!

先ほどまでの悲鳴が、割れんばかりの歓声と拍手に変わった。


「ブラボー! アヤネ様!」

「なんて幻想的なんだ!」


観客たちは完全に騙された。

精霊たちが「餌をくれ!」と叫びながら整列させられている姿が、彼らには「聖女を祝福する天使のダンス」に見えているのだ。


「ふぅ……。なんとかなったか」


俺はワンドの回転を緩めた。

精霊たちは徐々に落ち着きを取り戻し、アヤネの周囲をふわふわと漂う「護衛」のような配置に収まった。

これも、ワンドの**【自動防衛オート・ガード】**機能を応用し、アヤネの周囲に「精霊が近づきすぎない結界」を張ったおかげだ。


「……ん?」


ふと、視線を感じた。

観客席のVIPルーム。

そこに座る帝国のジークフリート皇子が、双眼鏡でこちらを見ていた。

いや、正確にはアヤネではなく、その背後でこっそりと指を動かしている「俺」を。


「(……チッ。また見られたか)」


俺は慌ててワンドをポケットの奥に隠し、何食わぬ顔で手を振るフリをした。

だが、皇子の口元がニヤリと歪んだのを、俺は見逃さなかった。


6. パレードの終わり


こうして、地獄絵図寸前だった入場行進は、皮肉にも「大会史上最も美しいパレード」として幕を閉じた。


控室に戻った俺たちは、疲労困憊だった。


「いやぁ、焦りましたねぇ! でも、精霊さんたちが急にいい子になって……不思議ですぅ」

アヤネが首を傾げている。


「……僕の計算では、あのカオスが自然に秩序化する確率は天文学的数字だヨ。誰かが『外部演算』で介入したとしか思えないネ」

アイザックが俺の方をチラリと見る。


「……不潔です。ですが、観客は喜んでいました。結果オーライです」


俺はソファに深く沈み込み、熱を持ったスタイラス・ワンドをそっと取り出した。

ミスリルのボディが、高負荷の演算でほんのりと温かい。


【AI:お疲れ様です、マスター。スタイラス・ワンドの動作テスト、良好です。これなら、本戦での「不測の事態」にも対応可能です】


「……不測の事態なんて、もう起こらないでほしいんだけどな」


俺はボヤいたが、それは叶わぬ願いだった。

この開会式での「パフォーマンス」が、他国のチームの警戒心を最大レベルに引き上げてしまったからだ。


「見ろ、あの聖女の精霊支配力を」

「数万の精霊を同時に操るなんて……化け物か」

「要注意だ。王国はとんでもない兵器を隠している」


各国の控室で、アヤネ(と、それを操る俺)への包囲網が敷かれ始めていた。


俺はまだ知らない。

このワンドの輝きが、単なる「便利な道具」を超えて、世界を揺るがす「鍵」として認識され始めていることを。

そして、明日からの試合が、スポーツではなく「戦争」になることを。


(第39話 完)

【第39話:あとがき】

お読みいただきありがとうございます!

地獄のパニックホラーを強引に「光のアート」に書き換えてしまう、コタロウの指揮者コンダクターぶりが光る回でした。

今回のハイライトを振り返ると:

• アヤネの集客力: 10万人の歓声でテンションが上がり、最高級マナを垂れ流す歩くパワースポット。

• スタイラス・ワンドの「演出」: 数万の精霊を物理演算で並べ替え、ハートマークまで描かせるコタロウの超絶技能。本人は必死ですが、周りからは神業に見えています。

• ジークフリート皇子の双眼鏡: アヤネではなく、その陰でワンドを操る「黒幕」に気づき始めた帝国の天才。

観客からは大絶賛を浴びましたが、他国のチームからは「王国に化け物がいる」と最大級の警戒をされてしまった一行。平穏な日々がまた遠のきましたね。

【次回予告】

第40話:『聖火は爆発と共に:降臨せよ、光の精霊』

開会式のフィナーレ、聖火点灯。

しかし、アイザックが聖火の燃料を「ニトロ・マナ・グリセリン」に改造していた!?

王都蒸発の危機に、コタロウが挑む「物理法則の書き換え」とは――。

【作者からのお願い】

いよいよオリンピアが本格始動します!

このパレードの演出、凄い!と思ってくださった方は、ぜひブックマークや、下の評価欄から**【★★★★★】**で応援いただけると嬉しいです。

皆様の星の数が、コタロウのオーバーヒートした脳を冷やす氷嚢になります!

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