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■Ep.61 第37.5話(幕間):禁忌の代償と、聖教会からの招待状

【第37.5話:まえがき】

いつもお読みいただきありがとうございます!

前回、第37話では魔の森サバイバルの完結編をお届けしました。

リリスの文字通りの「命懸け」の特攻、そしてアヤネが覚醒させた【リュミエール・アステリア】の圧倒的な光。

3年生の精鋭たちを場外ホームランで粉砕し、2年選抜(Sクラス)は見事に代表権を勝ち取りました。

しかし、物語はここでハッピーエンドとはいきません。

今回の第37.5話は、勝利の熱狂に沸く学園の裏側で勃発する、コタロウにとっての「詰み」の物語。

アヤネの放った輝きが呼び寄せてしまった、国家最大の宗教権威【聖教会】。

そして、コタロウがこれまで隠し通してきた「禁忌の力」の露見。

「サボるために勝たせた」はずが、いつの間にか「自分たちの命を懸けた大博打」の片棒を担がされることになったコタロウ。

彼が「共犯者」としてサインをさせられる、運命の幕間をお楽しみください!

【本文】

1. 無自覚な英雄と、逃亡失敗


魔の森での激闘から数時間後。


夕闇が迫る学園の中央広場には、急遽設営された特設ステージが組まれ、全校生徒が集結していた。 魔法照明マジック・ライトのスポットライトが交差し、中央に立つ二人の少女を照らし出す。


ボロボロのジャージ姿だが、その表情は誇らしげな――いや、単に空腹で不機嫌なアヤネとモモ。 そして、マイクを握り、演説を行っているのはヴォルコット精霊学部長だ。


「諸君! 見たかね、あの48時間の激闘を! 我らが精霊学部の誇り、2年選抜(Sクラス)から新たな英雄が誕生した瞬間を!」


ヴォルコットは大げさなジェスチャーで、熱狂する生徒たちを煽った。


「シノミヤ・アヤネ! 伝説の光の大精霊『リュミエール・アステリア』へ進化させ、最強の守護者ゴライアスを遥か彼方へ粉砕したその奇跡! 彼女こそまさに、当学園が誇る真の切り札、**『Sクラスの聖女』**である!」


「うぉおおおおおッ! アヤネ様ァァッ!」 「聖女様! こっち向いてください!」 「Sクラス万歳! 2年選抜最強!」


生徒たちが熱狂的に手を振る中、アヤネはマイクのスイッチが入っていることも忘れて、学部長に小声で詰め寄っていた。


「えへへ、照れますぅ。……で、学部長。副賞の『学食のデザート全部乗せ・一年分無料券』はまだですか? リュミエールちゃんも、お腹すきすぎて発光現象が止まらないんですけど」


アヤネの肩では、小さくなったアステリアが「ピュイピュイ!」と抗議の点滅を繰り返している。


「そして、百獣モモ! 精霊の加護をその身に纏い、音速の領域へ踏み込んだその野性! 君の爪は、あらゆる敵を切り裂く学園のほことなるだろう!」


「おう! じいさん、話がなげぇぞ! 早く肉だ! 骨付きのマンモス肉を持ってこい! 焼き加減はレアでな! 血が滴るやつだ!」


モモが貧乏ゆすりをしながら唸り、舞台の床を爪でガリガリと削っている。


「……コホン。とにかく! この二名を、来月開催される学園対抗戦グランド・マジック・フェス『魔法オリンピア』の正式代表として認定する! 皆、盛大な拍手を!!」


ワァァァァッ!! と割れんばかりの歓声が上がる中、二人は興味なさそうに大あくびをした。

舞台袖の暗がりで見守っていた俺、神木コタロウは、そのあまりに緊張感のない光景を見て、深く深くため息をついた。


「(……やれやれ。あんな制御不能な連中が代表か。前途多難だな。ま、俺の仕事はこれで終わりだ。リリスとの約束通り勝利はさせたし、後は生徒会なり教師なりが、せいぜい胃を痛めながら面倒を見てくれるだろ)」


俺はポケットの中にあらかじめ用意していた「退部届(という名のサボり宣言)」を握りしめ、その場をこっそりと立ち去ろうとした。 もう関わりたくない。これ以上は、俺のキャパシティを超える。平穏な日常に帰るんだ。


「――おっと、待ちたまえ。神木コタロウ君」


背後から、ぬっと伸びてきた手が、俺の肩を万力のようにガシリと掴んだ。 逃がさないという強い意志を感じるグリップ力。


振り返ると、いつの間にかステージを降りたヴォルコット学部長が立っていた。 先ほどまでの観衆向けの好々爺然とした笑顔はない。そこにあるのは、獲物を追い詰めた狩人のような、鋭く冷徹な瞳だった。


「……なんですか、学部長。俺はもう帰って寝たいんですが。疲労で幻覚が見えそうなんですよ」


「そう冷たいことを言うな。君には、どうしても話しておかねばならないことがある。……『国家と宗教』、および君自身の**『秘密』**に関わる、極めて重大な話がね」


学部長は俺の腕を強く引き、誰もいない学園の奥深く、「学部長室」へと連行した。


---


2. 聖女という名の「家畜」


重厚なオーク材の扉が閉められ、何重もの防音結界と認識阻害魔法が展開される。 完全な密室。


ヴォルコットは革張りの椅子に座り、懐から一枚の書状を取り出した。 金色の箔押しで、厳めしい十字架の紋章が刻印された、見るからに高圧的な手紙だ。 彼はそれをデスクの上に叩きつけた。


「単刀直入に言おう。今回のアヤネ君の大精霊の進化……あれは、やりすぎた」


「は? 勝つためには必要だったでしょう。ゴライアスの金剛肌を破るには、あれしかなかった」


俺が反論しようとすると、ヴォルコットは苦虫を噛み潰したような顔で首を横に振った。


「問題は威力ではない。『存在』そのものだ。光の大精霊の第2段階への進化。教会の本質を知らんのか」 ヴォルコットは低い声で告げた。


「教会は、この書状で正式に『シノミヤ・アヤネの身柄引き渡し』を要求してきた。教会にとって『聖女』とは、信仰の象徴であり、同時に**『神の所有物』**だ。人権など存在しない。一度連れて行かれれば、彼女は一生、中央大聖堂の地下深くに幽閉されることになる。毎日祈りを捧げ、奇跡の力を搾り取られ、政治と信仰のプロパガンダの道具として利用され続ける。自由な意思での外出も、好物の菓子を食べることも、友人と笑い合うことも許されない。……要するに、豪華な籠の中で飼われる、ただの『家畜』だ」


背筋が凍った。 あのアヤネが? いつも能天気に笑い、お菓子があれば幸せそうなあの少女が、暗く冷たい石造りの部屋に閉じ込められ、死んだような目で祈り続ける光景が脳裏をよぎる。


「……ふざけるな。そんなこと、させるわけがないでしょう」 俺の声が震えた。


「では、モモは?」


「彼女も無事では済まない。『聖女の従魔』として服従の首輪をつけられ、教会の番犬にされるか……あるいは『聖女をたぶらかす異端の獣』として、その場で処分されるか。どちらにせよ、人間としての尊厳は剥奪される」


俺は拳を握りしめ、机を叩いた。

「学園は!? あなたたちは、それを黙って見過ごすんですか! 生徒を守るのが学校でしょう!」


「無論、抵抗はする。だが、相手は国教だ。王室すらも逆らえない権力を持っている。『ただの優秀な学生』というだけでは、引き渡しを拒否する大義名分が弱すぎるのだよ」


ヴォルコットは俺の目を見た。


「だが、一つだけ回避する方法がある。彼女たちが『教会の聖女』ではなく、**『学園の英雄』**であるという既成事実を作ることだ」


---


3. 未認可の解析スキル(チート)


「学園対抗祭『魔法オリンピア』での**『優勝』**。それが絶対条件だ。

全国のエリート校を倒し、その活躍を国中に知らしめ、民衆の熱狂的な支持を集める。そうすれば、彼女たちは『学園のシンボル』となり、世論を味方につけることができる。さしもの教会も、国民的英雄を無理やり幽閉することはできなくなる」


「……なるほど。理屈は分かります」 俺は出口へ向おうとした。

「なら、優秀な教師でもつけて勝たせればいい。俺のようなFクラス崩れの出る幕じゃない」


話は分かったが、俺がやる理由はない。 俺はサボりたいのだ。面倒ごとは御免だ。


「待ちなさい。……君以外に、誰があの二人を制御できると言うんだね?」


ヴォルコットの声色が、一段と低く、鋭くなった。 部屋の空気が張り詰める。


「サバイバル戦の全記録映像、および魔力波形データを解析させてもらったよ。アヤネ君の進化のタイミング、モモ君の精密な連携、およびリリス君の特攻……。あれは、現場の判断だけではない。外部からの的確かつ高速な『思考誘導』がなければ不可能だ」


俺の足が止まる。心臓が嫌な音を立てた。


「神木コタロウ君。君が使っている、その**『解析能力』……いや、より正確に言えば。君の持っている、『未認可の解析スキル(イリーガル_アナライズ)』**について、説明してもらおうか?」


「ッ……!?」


俺は振り返った。完全にバレていた。 俺が「カンニング・【AI】」と呼んでカモフラージュしていたものの正体。 それは道具ではない。俺自身の魂に刻まれた、転移の産物のユニークスキルだ。


「あらゆる事象、魔力、構造を瞬時に解析し、最適解を導き出す。一見便利な能力だが、その本質は『他者の思考や秘密を無制限に暴く』ことができる、精神干渉系の最上位能力。……魔法管理法において、**『第一級禁忌指定スキル』**に該当する危険な力だ」


ヴォルコットは冷徹に告げた。


「君がこれまでFクラスで落ちこぼれを演じていたのも、その力が露見するのを防ぐためだろうと、勘繰る輩も出てくるやもしれん。 もし教会や**魔法管理局マジック・ビューロー**に知られれば、君は即座に『異端認定』され、能力を剥奪されるか、あるいは一生監視付きの生活を送ることになる」


「……悪党ですね、アンタ」


俺は観念した。完全に詰みだ。 アヤネたちを守ることは、俺自身の最大の秘密と、自由な生活を守ることに直結してしまったのだ。


「教育者として、才能ある生徒を守りたいだけだよ」 ヴォルコットは悪びれもせず、別の書類を差し出した。


【学園対抗戦・特別専任マネージャー契約書】


「来月の『学園対抗戦』。君がマネージャーとして帯同し、その『解析スキル』をフル活用して、彼女たちの力を**『完全に制御』して見せろ。そして『優勝』**という結果で、教会を黙らせるのだ」


「……もし、負けたら?」


「その時は、全員まとめて教会行きだ。アヤネ君は幽閉、モモ君は処分、君は……異端審問で『魔女裁判』にかかることになるな」


重すぎる。 借金なんてレベルじゃない。俺たちの人生そのものが人質だ。 勝てば自由と栄光。負ければ破滅。究極のデッド・オア・アライブ。


「……分かりましたよ。やればいいんでしょ、やれば」


俺は震える手で羽ペンを握り、サインをした。 インクが滲む。それは俺の血判状のようなものだった。


「条件があります。あのバカ二人を制御するために、俺に『絶対命令権』をください。それと……俺のスキルの使用に関しては、学園側で全力で隠蔽してください。俺はあくまで『ちょっと勘のいいマネージャー』として振る舞います」


「交渉成立だ。君の手腕に期待しているよ、**『共犯者』**君」


---


4. 茨の道への旅立ち


学部長室を出た俺は、廊下で天を仰いだ。


「はぁ……。なんてことだ」


聖教会の脅威、異端審問の危機、およびバレたら終わりの禁忌スキル。 俺の平穏なサボりライフは、完全に崩壊した。 これからは、あの制御不能な「核弾頭」たちを抱えて、国と宗教を相手に、薄氷を踏むような綱渡りをし続けなければならない。


「コタロウくーん! お腹すいたー! デザートまだー?」 「おいコタロウ! 肉は! 肉をよこせ! 腹が減って力がでねぇ!」


廊下の向こうから、何も知らないアヤネとモモが無邪気に走ってくるのが見えた。 アヤネは泥だらけのジャージのまま、天使のような笑顔で手を振っている。 モモは涎を垂らしながら、野生動物のような勢いで突進してくる。


その屈託のない笑顔を見ていると、不思議と「まあ、守ってやるか」という、諦めにも似た覚悟が湧いてくる。 あんな笑顔を、教会の冷たい檻の中に閉じ込めたり、処刑台に送ったりするわけにはいかない。 それに、俺自身の秘密を守るためにも、こいつらには最強の盾になってもらわなきゃ困る。


「(……まったく。世話が焼ける連中だ)」


俺は二人の前に立ち、努めて不敵に笑ってみせた。


「お前ら、よく聞け。これから俺が、お前らの専任マネージャーだ。飯が食いたきゃ、俺の指示に従え。……これから地獄の特訓を始めるぞ」


「えー、めんどくさーい! 練習よりパフェがいいー!」 「ケッ、肉さえ食えれば文句はねぇ! さっさと寄越せ!」


文句を言いながらも、二人は俺の周りに集まってくる。 やれやれ、と俺は肩をすくめた。


こうして、俺, 神木コタロウは、正式に「学園対抗戦代表チーム・専任マネージャー」に就任した。 目的はただ一つ。「優勝して、俺たちの自由と未来を守り抜く」。


そのためなら、聖女だろうが野獣だろうが、神様だろうが管理局だろうが、俺の『禁忌スキル(チート)』で徹底的に利用し尽くしてやる。 俺たちの「革命」は、ここからが本当の正念場だ。


(第37.5話 完)

【作者からのお願い】

皆様の応援が、コタロウの胃痛を和らげる魔法の薬になります。

面白いと思っていただけましたら、ぜひブックマークや、下の評価欄から**【★★★★★】**で応援いただけると嬉しいです!

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