第4話:借金まみれの人狼を、放課後の特訓で懐柔してみた
【第4話:まえがき】
前話で判明した「精霊はブラック企業の社畜である」という世知辛い真実。 コタロウが目指すのは、そんな精霊たちに適切な報酬と指示を与える「ホワイト経営」です。
さて、今回のターゲットはFクラスの猛獣枠、人狼族のモモ・イヌガミ。 彼女は「魔力はあるのに制御できない(自爆する)」という致命的な欠点を抱えていました。
さらに、彼女は賭けポーカーで負けて全財産を失い、空腹で理性が飛びかけているという緊急事態。 果たしてコタロウは、AIとペン回しを駆使して、この暴走機関車をどう手懐けるのでしょうか?
「餌付け」と「特訓」。 Fクラス攻略ミッション、最初の犠牲者(仲間)作りのスタートです。
1. 翌朝、人狼からの依頼
翌朝。
俺は重い足取りで、Fクラス「監獄」の教室へと向かった。
昨夜、AIから「精霊はブラック企業の社畜であり、同時にパリピである」という衝撃の講義を受けたせいで、妙な夢を見た。
小人の精霊たちが「残業代よこせ!」「あと有給!」と叫びながら、俺をペンライトで追い回す夢だ。寝覚めは最悪だった。
「……ふわぁ。おはよう」
腐りかけた教室の扉を開けると、そこは相変わらずのカオスだった。
だが、俺が席に着くより早く、ドタドタと足音を立てて近づいてくる影があった。
「おい! コタロウ!」
犬耳の少女、モモ・イヌガミだ。
昨日はドワーフに身ぐるみ剥がれて泣いていたが、今日も何やら切羽詰まった顔をしている。お腹からは「グゥゥ……」という悲しい音が響いていた。
「……なんだよ、朝から」
「約束! 昨日の約束だ! 『ポーカーの必勝法を教えてやる』って言ったろ!?」
モモが俺の机に両手をついて身を乗り出す。その金色の瞳は必死だ。
「昨日の晩飯は水で誤魔化したけどよぉ……今日の昼飯代もねえんだ! このままじゃ俺、空腹で理性が飛んで、クラスメイトを齧っちまうかもしれねえ!」
「(……それは困るな)」
俺は鞄を置き、胸ポケットから愛用のボールペンを取り出した。
昨日の今日で、食いつきがいい。やはりコイツは単純だ。
「分かった。約束通り、昨日の負け分ごと倍にして取り返させてやる」
「ほ、本当か!?」
「ああ。ただし条件がある。ゲーム中は俺の指示に絶対服従だ。『降りろ』と言ったら降りろ、『全額賭けろ』と言ったら賭けろ。できるか?」
モモは一瞬迷ったようだが、背に腹は変えられないらしい。
ゴクリと唾を飲み込み、力強く頷いた。
「わ、分かった! 飯のためなら犬にでもなってやるよ!」
「(お前、最初から犬だけどな)」
俺はニヤリと笑い、教室の中央で我が物顔に座っているドワーフ、ガントの方を向いた。
「よし。狩りの時間だ」
2. 逆転のポーカー・フェイス
「……おい、次は降りろ」
「えっ? でも、ペアができてるぜ?」
「いいから降りろ。相手はツーペアを隠してる」
数分後。
俺はモモの隣に座り、小声で指示を出していた。
目の前には、今日も勝ち誇った顔で葉巻(中身はただの干し草)をふかすガントがいる。
俺の視界には、AIによる拡張現実(AR)ウィンドウが展開されていた。
【AI】 観察眼
- 対象: ガント(ドワーフ)
- 心拍数: 110(上昇中)
- 瞳孔: 拡大(興奮状態)
- 右手の動き: カードを揃える際、小指が微かに震えている → 「役が揃った」サイン。
ガントの表情は完璧なポーカーフェイスだ。だが、身体は嘘をつけない。
**チートな「カンニング・AI」**を持つ俺の前では、どんなブラフも無意味だ。
「ちっ……分かったよ。フォールドだ」
モモが俺の指示に従い、不満げにカードを投げ捨てる。
ガントがニヤリと笑い、手札を開く。「賢明な判断だ。危うく身ぐるみ剥がされるところだったな」 そこには、俺の読み通り強力なツーペアがあった。
「ま、マジかよ……! なんで分かったんだ!?」
モモが驚愕して俺を見る。
俺は肩をすくめ、ペンをカチリと鳴らした。
「次は勝負だ。全額レイズしろ」
「はぁ!? 手札はブタ(役なし)だぞ!?」
「いいから行け。相手はブラフだ。瞬きの回数が3倍になってる」
モモは半信半疑ながらも、残ったチップを全てテーブルに叩きつけた。
「オ、オラァ! オールインだ!!」
その瞬間、ガントの顔色が青ざめた。
「なっ……貴様、まさか……俺の手の内を読んで……!?」
ガントは脂汗を流し、長い沈黙の末、カードを伏せた。「……降りだ」
「勝った……! 勝ったぞオオオオ!!」
そこからは一方的な蹂躙だった。
俺の指示通りに打つだけで、モモのチップは倍々ゲームで増えていく。ガントの顔色は土色になり、最終的には「勘弁してください」と土下座する羽目になった。
「すっげえ……! すっげえええ!!」
モモが、山積みになったチップ(とランチ代、ついでにガントの愛用する斧)を抱えて、俺に抱きつこうとしてきた。
俺はそれを寸前で避ける。
「お前、何者だよ!? 金運の神様か!? それともギャンブルの悪魔か!?」
「ただの暇人だ。……言ったろ、俺に従えば損はさせないって」
モモの金色の瞳が、キラキラと尊敬の眼差しに変わる。
単純なやつだ。だが、これで第一段階はクリアだ。まずは餌付けに成功した。
「へへっ、ありがとな! 今日の昼飯、奢ってやるよ!」
モモは尻尾をブンブンと振りながら、上機嫌で食堂へと走っていった。
3. 惨劇の屋外実技
午後の授業は、校舎裏にある「第3演習場」で行われた。
演習場といっても、Sクラスが使うような整備された芝生ではない。赤土が剥き出しで、あちこちに爆撃の跡が残る荒野だ。
「ふわぁ……。じゃ、適当に的を壊せ。怪我したら保健室へ行けよ」
担任のゲイルは、またしてもスキットルの酒を煽り、木陰のベンチで横になった。帽子を目深に被り、早くもイビキをかき始めている。
教師がこれなら、生徒も真面目にやるわけがない。
リリスは演習場の端で謎の魔法陣を描いてブツブツ言っているし、ガントたちは賭けの続きをしようとしている。
そんな中、一人だけやる気に満ちているのがモモだった。
ポーカーでの大勝で気が大きくなっているらしい。
「見てろよコタロウ! ポーカーだけじゃねえ、魔法も最強ってとこを見せてやる!」
モモは自信満々に前に出ると、20メートル先にあるカカシ(ボロボロで炭化している)を指差した。
「燃えろォ! 『ファイアボール』!!」
モモが右手を突き出す。
その瞬間、彼女の身体から凄まじい熱風が巻き起こった。
ドォォォォン!!
「うわあっ!?」
カカシが燃える音ではない。
モモの手元で、圧縮された魔力が暴発した音だ。
紫色の爆煙が晴れると、そこにはアフロヘアーのように髪が逆立ち、顔中煤だらけになったモモがへたり込んでいた。
「ぷすぅ……。また、だめかよぉ……」
口から黒い煙を吐き出し、モモが涙目になる。
それを見たクラスメイトたちが、待ってましたとばかりに嘲笑を浴びせた。
「ギャハハ! 相変わらず派手な自爆だなぁ、駄犬!」
「おいおい、ポーカーで運を使い果たしたんじゃねえか?」
「学習能力ゼロね。あれだけの魔力を垂れ流して、制御もできないなんて」
心ない言葉が突き刺さる。
モモは悔しそうに唇を噛み締め、拳を地面に叩きつけた。
「うるせぇ! 次はできる! 次こそは……!」
彼女は何度も立ち上がり、魔法を放とうとする。
だが、結果は同じだった。
ボンッ! ドカンッ!
何度やっても手元で爆発し、カカシには掠りもしない。
その度、モモの身体には擦り傷が増え、制服が焦げていく。
「(……見てられないな)」
俺はため息をついた。
魔力量だけなら、あのアヤネにも匹敵するSランク級だ。だが、出力の蛇口が壊れている。
消防ホースの水を全開にして、制御できずに暴れ回っているようなものだ。
4. 放課後の特訓場
夕暮れ時。
授業が終わり、他の生徒たちが寮へ帰ったり、街へ遊びに行ったりする中、第3演習場にはまだ爆発音が響いていた。
「はぁ、はぁ……! 今度こそ……!」
モモだ。
彼女は一人残って、ボロボロになった身体で練習を続けていた。
泥だらけの顔。膝からは血が滲んでいる。それでも彼女は諦めず、カカシを睨みつけている。
「なんでだよ……! なんで言うこと聞いてくんないんだよぉ……!」
悔し涙を拭いながら、モモが叫ぶ。
その背中は、昼間の威勢の良さが嘘のように小さく見えた。
「(……馬鹿だなぁ、あいつ)」
俺は校舎の陰からそれを見ていた。
放っておけばいい。俺の目的は「楽をして進級すること」だ。他人の努力に付き合う義理はない。
だが、ここで彼女を見捨てれば、俺の「用心棒計画」は破綻する。それに――。
「(泥臭い努力ってのは、嫌いじゃないんだよな)」
俺は苦笑し、胸ポケットのペンを取り出した。
そして、脳内の相棒に問いかける。
(おい、AI。あいつの魔法、なんで失敗してるんだ?)
【AI】 解析完了
- 原因: 精霊との「コミュニケーション不全」です。
- 詳細: モモの魔力放出には「リズム」がありません。彼女は大量の魔力(給料)を一度に叩きつけていますが、指示出しのタイミングがデタラメです。
(リズム?)
【AI】 精霊の特性データ参照
- 【火の精霊(サラマンダー種):ビート】
- 性格: パリピ(Party People)。
- 嗜好: ダンス、ビート、高揚感。
- 現状: モモの魔法は、彼らにとって「音楽のないダンスフロアにダンプカーで突っ込む」ような無粋な行為です。ステップが踏めず、将棋倒しになって爆発しています。
俺は思わず吹き出しそうになった。
なんだそれ。精霊ってそんなファンキーな連中だったのか。
「(そういえば昨日の夜、アヤネが死んだ目で愚痴っていたな……)」
『コタロウくん聞いてよぉ……Sクラスの先生が『精霊はパッションだ! バイブスだ!』って叫んでて、授業にならないの……』
あの時は「大変だな」と適当に聞き流していたが、あの暑苦しいヴォルコット学部長の言葉も、あながち間違いじゃなかったのかもしれない。
(じゃあ、どうすりゃいい?)
【AI】 解決策
- 外部から**「ダンスのリズム(BPM)」**を刻んであげてください。
- 彼女の魔力放出タイミングを、精霊が踊りやすいビートに強制的に合わせます。
(なるほど。DJをやれってことか)
俺は演習場へと足を踏み入れた。
「――おい。いつまで一人相撲を取ってるんだ」
俺の声に、モモがビクッと肩を震わせて振り返った。
「コ、コタロウ……? なんでまだいんだよ。笑いに来たのか?」
モモが威嚇するように牙を剥く。だが、その声は震えていた。
「笑いに来たんじゃない。見かねて助けに来てやったんだ」
「はぁ? 助けるだぁ? 俺はポーカーは素人だけど、魔法はずっと練習して……!」
「結果が出てないなら、それは練習じゃない。ただの自傷行為だ」
俺は冷たく言い放ち、モモの前に立った。
「いいか。お前の魔法は『無粋』なんだよ」
「ぶ、無粋……?」
「そうだ。精霊ってのはな、お前が思ってるよりずっと『ノリ』が大事な生き物なんだ。お前みたいに力任せに怒鳴り散らしても、誰もついてこない」
俺はボールペンを指先で挟んだ。
「俺がリズムを刻む。お前は何も考えず、その音に合わせて魔力を流せ」
「リズム? 何言ってんだお前……」
「黙ってやれ。今朝、俺のおかげで勝てたのを忘れたか?」
その言葉に、モモが口をつぐむ。
彼女は悔しそうに一度地面を睨み、それから覚悟を決めたように顔を上げた。
「……分かったよ。一回だけだぞ。失敗したら噛みつくからな」
「上等だ」
俺はペンを回し始めた。
【スキル:無限回転(ペン回し)】 モード:メトロノーム。
カチッ、カチッ、カチッ、カチッ……。
静かな演習場に、硬質で正確なノック音が響き渡る。
ただのペン回しではない。AIが計算し尽くした、火の精霊が最も興奮し、かつ同調しやすい黄金のBPM。
「(……見える)」
AIの視覚サポートを通すと、モモの周囲を漂っていた赤い光の粒子(精霊たち)が、俺の刻むビートに反応し始めているのが分かった。
彼らはサングラスをかけた小人のような姿で、リズムに合わせて身体を揺らし、ステップを踏み始めている。
「(うわ、マジでパリピだ……)」
「な、なんか……身体が勝手に……」
モモが戸惑いの声を上げる。
俺の刻むリズムに、彼女の鼓動と魔力の波長が同調していく。
荒れ狂っていた魔力の奔流が、一つの太い管のように整列し始めた。
「そうだ。その感覚だ」
俺はリズムをキープしながら、モモの耳元で囁く。
精霊たちが列をなし、モモの手のひらに向かって「ヘイ! ヘイ!」と掛け声を上げながら整列していく。エネルギーが充填されていく。
「いけるな?」
「……おう!」
モモの手に集まる炎が、今までのような不安定な爆発ではなく、美しく回転する球体へと変わる。
俺はペンの回転速度を一気に上げた。
クライマックスだ。
「――今だ、撃て!!」
俺の合図と共に、モモが右手を突き出した。
「いっけえぇぇぇぇッ!!」
ドシュゥゥゥン!!
放たれた火球は、これまでとは比べ物にならない速度で空を切り裂いた。
一直線にカカシへと吸い込まれ――
ドカァァァァン!!
爆音と共に、カカシが木っ端微塵に粉砕された。
それだけではない。カカシの後ろにあった大岩までもが熱で溶け、赤黒いマグマのようになっている。
Sクラスの学生ですら容易には出せない、特大の威力だった。
「…………」
爆風が収まると、そこには静寂だけが残った。
モモは自分の手と、消滅したカカシを交互に見つめ、呆然と立ち尽くしていた。
「で、できた……」
震える声で呟く。
「爆発しなかった……。狙った通りに……飛んだ……」
彼女がどれだけの間、この成功を夢見ていたのか。
その震える背中が全てを物語っていた。
「……ま、こんなもんだろ」
俺はペンをポケットにしまい、背を向けた。
「じゃ、俺は帰るぞ。腹減ったし」
俺が歩き出そうとした、その時だった。
ダッ! ガバァッ!!
「うおっ!?」
背後から猛烈な勢いでタックルされた。
モモが俺の背中にしがみつき、首に腕を回してぶら下がってきたのだ。
「すっげえ! すっげええええ!! お前マジでなんなんだよ!!」
「お、重い! 離れろ駄犬!」
「魔法の神様か!? いや、神様なんてレベルじゃねえ! 天才だ!」
モモは興奮状態で、俺の頭をグリグリと撫で回してくる。
そして、キラキラと輝く瞳で俺の顔を覗き込み、ニカッと笑った。
「決めた! 今日からお前が俺の**『ボス』**だ!」
「……は?」
「俺は強くなりてぇ! そのためにはボスが必要だ! 一生ついていくぜ! 散歩でもポーカーでも何でも付き合う!」
「いや、俺はペットを飼うつもりは……」
「うるせえ! 決定だ! 拒否権はねえ!」
モモは俺の腕を強引に引き、ブンブンと振り回す。
その尻尾は、千切れんばかりに左右に振られていた。
やれやれ。
どうやら、Fクラス攻略の第一歩――**「忠実な番犬」**の確保には成功したらしい。
少し懐かれすぎた気もするが、まあ、あのドワーフやエルフ相手に一人で立ち向かうよりはマシだろう。
「(……次は、あの爆弾魔か)」
俺は夕焼けに染まる校舎を見上げ、次のターゲットを定めた。
俺のホワイト企業経営(サボりライフ構築)は、まだ始まったばかりだ。
(第4話 完)
【第4話:あとがき】
お読みいただきありがとうございます!
無事に(?)一人目の仲間、人狼のモモを確保しました。 ポーカーで借金を返済させ、魔法特訓で才能を開花させる。 やっていることは立派な教師のようですが、動機が「自分が楽をするための番犬確保」というのがコタロウらしいところです。
それにしても、魔法の発動に「パリピなノリ(BPM)」が必要だったとは……。 今後、モモが魔法を使うたびに、コタロウが後ろでペン回しをしてリズムを刻むシュールな光景が見られることでしょう。
さて、順調にFクラスでの地盤を固めつつあるコタロウですが、目立てば叩かれるのが世の常です。 学園の支配者層である「1学年代表」が、聖女アヤネとコタロウの接触を嗅ぎつけ、不穏な動きを見せ始めます。
次回、第4.5話『氷の代表は、Fクラスの『汚点』を許さない』。 コタロウのもとに届いた一通の「赤紙」。 Sクラスの頂点に君臨する「氷の令嬢」からの呼び出しに、彼はどう立ち回るのか?
次回もどうぞお楽しみに! ブックマークや評価をいただけると、コタロウのホワイト企業経営が捗ります!




