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Ep.59 第36話:魔の森の48時間(前編)~鉄壁の包囲網と、頭の中に響く「声」~

【第36話:まえがき】

いつもお読みいただきありがとうございます!


前回、第35話では「引き分け」という極限の綱渡りでなんとか留年を回避したコタロウたち。しかし、休む間もなく突きつけられたのは、たった2枠の代表権を奪い合う48時間耐久サバイバルでした。


今回の第36話から、舞台は学園裏に広がる未開の樹海「魔の森」へと移ります。 「サボるために勝つ」をモットーにするコタロウですが、流石に今回はポップコーンを食べているだけでは済まないようです。


姿の見えない狙撃手、森を汚染する毒の罠、そして不眠不休のデスマーチ。 極限状態に追い詰められたヒロインたちを救うため、コタロウが繰り出すのは、物理的な剣でも魔法でもなく……音叉の精霊【シンク】を介した**「戦場のハッキング」**。


「現場で汗をかくのは御免だが、画面越しに脳みそを焼くくらいなら付き合ってやる」 そんな、司令塔ニートの本気をお楽しみください!

【本文】

1. 静かなる開戦と、コタロウの裏工作


『さあ、いよいよ始まりました! 学園対抗戦への出場枠、たった2つの椅子をかけた、地獄のサバイバル戦! 舞台は学園裏、広大な未開の樹海「魔の森」! 制限時間はまさかの48時間!!』


ヴォルコット学部長の実況が、スピーカーを通して観客席を揺らしていた。 だが、その熱狂から隔離されたVIP席の最上段、特別観覧室の空気は、異様な緊張感に包まれていた。


「48時間……。丸二日か。学園側もえげつないルールにしたもんだ」


点滴スタンドを引きずりながら、顔色の悪いレオンが窓の外に広がる広大な森を見下ろして顔をしかめた。 その隣では、上半身を包帯で固定されたマクシミリアンが、苦いコーヒーを啜りながら頷く。


「ああ。単なる戦闘力比べではない。野営のスキル、食料と水の確保、夜間の警戒……そして何より、見えない敵への恐怖に48時間耐え続ける精神力が問われる」


俺、神木コタロウは、彼らの会話を聞き流しながら、手元の端末に表示された複雑な解析画面を見つめていた。 画面の隅で、デフォルメされたアイコンが高速で点滅している。俺の相棒であり、最強の裏ツール『カンニング・【AI】』だ。


そして、俺の肩にはもう一匹、小さな金属質の精霊が浮遊していた。 筆記試験で大活躍した、Y字型の形状をした音叉の精霊【シンク】だ。


「……おい、カンニング・【AI】。現状の勝率予測は?」


【AI】 【解析完了】

【AI】 現時点での2年生チームの生存確率:12.4%

【AI】 警告:3年生チームによる「環境支配」が進行中。


「1割か。厳しいな」 俺は氷が溶けて薄まったコーラを煽り、肩のシンクを指先で弾いた。


『キィィィィン……』


微かな高周波音が鳴る。これは普通の人間には聞こえない、魔力波の共鳴音だ。


「シンク、周波数を合わせろ。対象はアヤネ、モモ、リリスの脳波だ。 カンニング・【AI】の予測データを、言語化する前の『思考データ』として直接転送する」


筆記試験の時と同じ手法だ。 これ完全な反則チートだが、ルールブックに「精霊による遠隔会話の禁止」とは書かれていない。 俺はこの特別室から、見えない糸で戦場を操るオペレーターになる。


2. 汚染される森と、頭上のナビゲーター


開始から半日。太陽が真上に昇り、森の中が蒸し暑くなり始めた頃。 アヤネ、モモ、リリスの3人は、道なき道を進んでいた。


「……ねえ、リリスちゃん。なんか、この辺り臭くない? 生ゴミみたいな、甘ったるい変な匂いがする」 アヤネが鼻をつまみ、不快そうに顔をしかめた。


「! アヤネ、ストップ! そこの鮮やかな赤い花には触るな!」 先頭を歩いていたモモが鋭く警告し、アヤネの腕を引いた。


「え? ただの花じゃん?」 「違う。……匂いが変だ。この花、さっきまでこんな色じゃなかった」


その時、彼女たちの脳内に、あの筆記試験の時と同じ、ノイズ混じりの「声」が直接響いた。


『――右へ3メートル回避。その花は爆発するぞ』


「「「!?」」」


驚く三人の目の前で、アヤネが触れようとしていた赤い花がポンッと破裂し、紫色の毒煙を撒き散らした。 三人が咄嗟に右へ飛び退いたおかげで、直撃は免れた。


「今の声……コタロウ!?」 リリスが虚空を睨む。


『正解だ、リリス。 筆記試験で使った音叉の精霊【シンク】を経由して、思考通信を送ってる。 返事はしなくていい。思考で念じればこっちに届く』


脳内に響く俺の声に、モモがニヤリと笑った。 (へっ、大将! またあの手か! あんた本当に悪知恵が働くぜ!)


『褒め言葉として受け取っておく。 ……状況は最悪だ。【AI】の解析によると、ヴァイパーの「毒界侵食ポイズン・テラフォーミング」が進行している。 このままだとお前らは毒の迷路に閉じ込められる』


俺は【AI】が弾き出した「安全ルート」を、視覚イメージとして彼女たちの脳裏に焼き付けた。 これは言葉で説明するよりも早く、正確に伝わる。


『10時の方向、岩場の陰を抜けろ。そこだけまだ毒が回ってない』


「了解よ、司令塔さん。……アヤネ、モモ、行くわよ!」


コタロウのナビゲートにより、毒の沼地を避け、唯一安全なルートを選んで進む3人。 だが、その先で彼女たちが目にしたのは、希望ではなく絶望だった。


「……なによ、あれ」 リリスが眼鏡の奥の目を細め、愕然と呟く。


森が開けた場所には、巨大な「氷の要塞」がそびえ立っていた。 ゴライアスの怪力でなぎ倒された巨木を基礎とし、その上をシルビアの氷魔法が分厚くコーティングした、難攻不落の城塞。 太陽の光を反射して輝くその姿は、あまりにも美しく、そして残酷なほど強固に見えた。


『……マジかよ。3年生の奴ら、完全に籠城戦術キャンプを決め込んでやがる』


俺の苦渋の声が響く。 要塞の周囲にはヴァイパーの毒植物が幾重にも植えられ、堀の役割を果たしている。 近づくことさえままならない「死の城」。 攻めるに攻められず、かといって退路は毒の沼。 じりじりとした焦燥感の中、太陽が無情にも西に沈んでいった。


3. 悪夢の夜と、シンクの共鳴


日が暮れ、森は深い闇に包まれた。 視界が悪くなり、気温が急激に下がる。ここからが、本当の地獄の始まりだった。


2年生チームは、要塞から少し離れた岩陰で野営の準備をしていた。 火を焚けば位置がバレるため、暗闇の中で身を寄せ合うしかない。


「――ッ!?」 突如、モモがくしゃみを連発し、鼻を押さえてうずくまった。


「モモちゃん!? どうしたの!?」 「は、鼻が……! 鼻が焼けるように痛ぇ……! くそっ、なんだこれ!?」


『ヴァイパーの特殊花粉だ。無色無臭だが、獣人の鋭敏な嗅覚だけをピンポイントで潰す神経毒だ』


俺の解説に、リリスが歯噛みする。 「索敵役レーダーを潰された……。来るわね!」


【AI】 【カンニング・【AI】 警告】

【AI】 探知:高密度の魔力反応。方位330、距離800メートル。

【AI】 攻撃予測:氷結弾道ミサイル。着弾まで3秒。


VIP席の俺は叫んだ。


『来るぞ! 11時の方向、仰角45度! 氷の礫だ、伏せろ!!』


ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ!!


闇の中から、風切り音と共に正確無比な氷のつぶてが飛来した。 シルビアの狙撃だ。 姿は見えない。気配すら感じさせない超遠距離からの攻撃。


「くっ……!」 リリスは俺の指示に従い、即座に炎の障壁を展開。 ジュワッ! と音を立てて氷が蒸発する。


『次弾装填確認! 今度は真上から来るぞ! アヤネ、フルスイングだ!』


「任せてっ!」 アヤネが闇雲にバットを振るのではなく、俺が転送した「弾道予測ライン」に合わせてスイングする。 ガキンッ! と小気味よい音が響き、氷塊が粉砕された。


「すごい……! 本当に見えてるみたい!」 アヤネが目を輝かせる。


だが、状況は好転しない。 シルビアの狙撃は正確無比で、休むことなく続き、ヴァイパーの毒花粉が徐々に結界を蝕んでいく。


『……結界を解くな! 位置を変えるぞ! 右へダッシュだ!』

『次は左! 木の裏へ!』


俺は【AI】の演算能力をフル稼働させ、回避行動を指示し続ける。 だが、モニター越しの俺にも限界が近づいていた。 思考転送に使用している【シンク】への魔力供給が、俺の精神力をゴリゴリと削っていたのだ。


「ぐっ……頭が割れそうだ……」 VIP席で俺は鼻血を拭った。 マクシミリアンが心配そうに声をかける。 「おい、コタロウ。顔色が真っ青だぞ。無理をするな」


「……うるさい。今、俺が意識を切ったら、あいつらは全滅だ」


俺のサポートでなんとか即死は免れている。だが、このままではジリ貧だ。 3年生は交代で仮眠を取っているはずだ。対してこちらは、一瞬たりとも気が抜けない。 アヤネとモモの体力、リリスの魔力、および俺の精神力。 全てが限界に近づいていた。


4. 夜明け前の決断と、途切れる通信


日付が変わり、サバイバルは運命の2日目に突入した。 東の空が白み始め、鳥の声が聞こえる頃、ようやく氷の狙撃が止んだ。


つかの間の静寂。だが、2年生チームの疲労は限界に達していた。 モモは鼻の激痛と寝不足でぐったりと座り込み、アヤネも自慢のパワーが影を潜め、うつらうつらと船を漕いでいる。


リリスは一人、血走った目で周囲を警戒し続けていた。 彼女の褐色の肌は青ざめ、目の下には濃いクマができている。一晩中、高強度の結界を維持し続けた代償だ。


『……リリス。聞こえるか』


俺の声も、ノイズが混じり、途切れ途切れになっていた。


『これ以上は……俺の処理能力が持たない。シンクの接続を……切るぞ』


(……ええ。十分よ、コタロウ。 貴方のおかげで、夜を越えられたわ)


リリスの思考が伝わってくる。感謝の念と、および悲壮な決意。


『おい、まさか……お前』


俺はモニター越しに、リリスが懐から通信機を取り出すのを見た。 それは、前回の試合で使った「特攻座布団部隊ストーム・ライダー」への直通回線だ。


(私の魔力も限界。アヤネとモモも消耗している。 ……この膠着状態を打破するには、誰かが『捨て石』になって、あの要塞を内側から爆破するしかない)


リリスは眼鏡を外し、乱暴に顔を拭った。 その黄金の瞳から疲労の色が消え、狂気にも似た熱い炎が宿る。


(私が作った借金ツケ、私が払うわ。 ……コタロウ。貴方の「目」と「声」、頼もしかったわよ)


『待て! リリス! それは自爆特攻だぞ! お前が脱落したら……!』


(最後に笑うのは私たち『2年選抜(Sクラス)』よ。 ……さあ、ダンスの時間だ。派手にいくわよ)


プツン。 リリスが精神の壁を作り、俺とのリンク(シンク)を拒絶した。 VIP席で、俺は椅子を蹴り飛ばして立ち上がった。


「あのバカ……! 自分で終わらせる気か!」


モニターの中で、遠くの空から暴走族のホーンのような爆音が響き渡り始めた。 魔の森に、運命の2日目の朝が訪れようとしていた。 それは、コタロウのサポートを離れ、リリス・フレアガードが自らの命を燃やす、最後の戦いの始まりだった。


(第36話 魔の森の48時間 前編 完)

【第36話:あとがき】

お読みいただきありがとうございます! 「サボるために、死ぬ気で働く」。司令塔コタロウの孤独なハッキング回、いかがでしたでしょうか。

今回のハイライトを振り返ると:

• 通信精霊【シンク】: 筆記試験でのカンニング用が、いつの間にか戦術支援デバイスに。コタロウの魔力供給が切れたら即終了の綱渡り。

• 3年生のガチ戦術: 毒で地形を変え、氷で要塞を作る。もはや「授業」の域を超えた、生き残るための嫌がらせ(戦術)。

• リリスの決意: コタロウに負担をかけまいと、そして首席としてのツケを払うため、彼女は自らリンクを断ち切りました。


鼻血を出しながら「うるせぇ」とハッキングを続けるコタロウも大概ですが、最後の最後で「特攻」を選んだリリスの瞳に宿る熱。彼女が召喚した「暴走族」が、夜明けの森にどんな嵐を巻き起こすのか……。


【次回予告】 第37話:『魔の森の48時間(後編):紅蓮の特攻と、進化せし光の聖女』 リリスの座布団が空を舞い、アヤネのバットが光を帯びる! そして物語は、学園の枠を超えた「聖教会」との因縁へ……。


次回、魔の森サバイバル完結編。リリスの散り際(?)とアヤネの覚醒をぜひ見届けてください!


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