Ep.58 第35話:引き分けの宴と、非情なるサバイバル
【第35話:まえがき】
いつもお読みいただきありがとうございます!
前回、第34話では紅蓮の女王・リリスが、意地とプライド、そして「族車仕様の座布団」を駆使して、死霊使い相手に見事な勝利を飾りました。これで2年生(Sクラス)側は驚異の巻き返しを見せ、対抗戦の全日程が終了!
さて、今回の第35話。 気になる最終戦績の発表です。エリートの惨敗から始まったこの戦い、果たしてコタロウたちの運命は……?
「留年回避」という最低ラインをクリアし、高級レストランで祝宴をあげる一行。しかし、そこには敗者たちの重苦しい沈黙と、リリスが差し出す「家が建つレベルの請求書」、そして新たな地獄の門が待ち受けていました。
ハッピーエンドを許さない、非情なるサバイバルの幕開けをどうぞ!
【本文】
1. 歓喜の爆発と、残酷なスコアボード
『しょ、勝者――精霊学部2年選抜、リリス・フレアガードォォォッ!!』
実況のヴォルコットの声が裏返るほどの絶叫と共に、第3ブロックの試合終了を告げるゴングが打ち鳴らされた。 リリスと特攻座布団部隊による、常識を覆す空中戦術と純白の火竜の一撃。その劇的な勝利に、会場は割れんばかりの歓声とスタンディングオベーションに包まれている。
「すげぇぇぇ! 2年生が3年生のシード選手を倒しやがった!」 「リリス様万歳! これぞ革命だ!!」
熱狂の渦。 だが、VIP席の最上段に座る俺、神木コタロウの視線は、興奮冷めやらぬフィールドではなく、頭上に掲げられた巨大な魔法映像のスコアボードに向けられていた。 そこには、同時進行で行われていた他ブロックの結果も含めた、この対抗戦の「最終戦績」が無慈悲に表示されていた。
俺は氷が溶けて薄まったコーラのグラスを回しながら、その結果を冷静に――いや、少しばかりの苦渋を含んで見つめた。
【第1ブロック:戦闘科エリア】
• MATCH 1: マクシミリアン(2年) vs ゴライアス(3年)
○ 結果:ゴライアス 勝利 (KO 2分15秒)
○ 詳細:マクシミリアンの剣技は通用せず、ゴライアスの圧倒的な怪力によるタックル一発で壁まで吹き飛ばされ戦闘不能。
• MATCH 2: レオン(2年) vs ヴァイパー(3年)
○ 結果:ヴァイパー 勝利 (TKO)
○ 詳細:フィールド全体に散布された神経毒により、レオンが麻痺。解毒が間に合わずドクターストップ。
(2年生戦績:0勝2敗)
【第2ブロック:特殊環境エリア】
• MATCH 3: アヤネ(2年) vs カイマン(3年)
○ 結果:アヤネ 勝利
○ 詳細:特大場外ホームランによる星化。 • MATCH 4: コタロウ(2年) vs シルビア(3年)
○ 結果:シルビア 勝利 (不戦勝)
○ 詳細:コタロウ、試合開始直後に「腹痛による棄権」を申告。
(2年生戦績:1勝1敗)
【第3ブロック:精霊闘技エリア】
• MATCH 5: モモ(2年) vs サラ(3年)
○ 結果:モモ 勝利
○ 詳細:幻影魔法と野生の勘による完全制圧。
• MATCH 6: リリス(2年) vs ゾッド(3年)
○ 結果:リリス 勝利
○ 詳細:特攻座布団とイグニスの進化による完全燃焼。
(2年生戦績:2勝0敗)
【最終結果:3勝3敗(引き分け)】
「……ギリギリ、首の皮一枚繋がったってところか」
俺は深くシートに背中を預けた。 第1ブロックの惨敗は想定内とはいえ、痛い。マクシミリアンもレオンも弱くはないが、相手が悪すぎた。3年生の「実戦派」と呼ばれる連中は、文字通り修羅場を潜り抜けてきた経験値が違う。
そして、俺自身の「黒星」。 これには会場中からブーイングを浴びたが、俺には俺の計算があった。 対戦相手のシルビア・アイスバーン。生徒会副会長にして、氷魔法と論理的思考の使い手。彼女とまともにやり合えば、手の内を全て晒すことになる。 だから俺は右手を挙げ、「あ、朝食べた牡蠣があたったみたいで……棄権します」と言ってのけた。 プライド? そんなものは犬に食わせろ。俺たちの目的は「留年回避」なのだから。
その時、会場のスピーカーから、威厳ある声が響き渡った。
『えー、静粛に! 厳正なる審査の結果を発表する! 2年生と3年生の対抗戦は、星取りの結果、3勝3敗の引き分け(ドロー)! よって、事前に通告していた「2年生全員の即時留年処分」については……2年生の健闘を称え、**保留(回避)**とする!』
「うおおおおおおッ!! 助かったァァァ!!」 「俺たちの青春はまだ続くぞォォォ!!」
2年生席から、勝利以上の安堵の絶叫が上がる。 だが、学部長の言葉には続きがあった。
『ただし! まだ終わりではない! 来月開催される他校との交流戦、名門校が集う祭典**『学園対抗戦』! 我が校から出場できる代表枠は、規定によりたったの2名のみである! よって……今回勝利を収めた以下の6名による、『選抜サバイバル戦』**を明後日開催する!』
ドンッ! とモニターに6人の顔写真が映し出された。 アヤネ、モモ、リリス。 そして3年生からは、副会長シルビア、重戦士ゴライアス、毒使いヴァイパー。
「……なるほどな。全員でハッピーエンドとはいかないわけだ」 俺は小さく息を吐き、これからはじまるデスゲームの予感に目を細めた。
2. 宴の裏側と、敗者たちの傷跡
試合終了から2時間後。 学園内にある高級レストラン『シルバースプーン』の個室貸切エリア。 普段は貴族の学生たちが優雅に食事を楽しむこの場所は、今、カオスと化していた。
「うめぇぇぇッ!! 肉汁が! 勝利の味がするぜぇぇ!!」 「ガツガツガツッ!!」
モモが、顔の大きさほどもある特大チーズインハンバーグ(1kg)を手づかみで食らっていた。 アヤネもまた、ブラックホールのような胃袋でマカロンタワーを粉砕している。
そして、部屋の隅では――。 『ヒャッハァァァッ!! 姐さん(リリス)のおごりだぁ!』 リリスの試合で暴れまわった**『ストーム・ライダー』**たちが、コタロウ特製の「高純度マナオイル」の瓶をラッパ飲みして、どんちゃん騒ぎをしている。
そんな狂乱の宴の片隅に、重苦しい空気を纏う二人の男がいた。 包帯で上半身をぐるぐる巻きにしたマクシミリアンと、顔色が青白く、点滴スタンドを横に置いたレオンだ。
「……すまない、コタロウ。そして皆」 マクシミリアンが、痛む体でスープを啜りながら沈痛な面持ちで口を開いた。 「2年選抜の騎士として、先陣を切った私が……あのような無様な敗北を喫するとは。合わせる顔がない」
「オ, オレだって……」 レオンが悔しそうに拳を握る。その手はまだ痺れで震えていた。 「あの毒使い……戦い方が汚ぇんだよ。まともにやり合えば、スピードで負ける気はしなかったのに……!」
俺は二人のグラスに、回復効果のあるハーブティーを注いだ。
「気にするな。お前たちが負けた相手は、3年生の中でもバケモノ級だ。 それに, お前たちが体を張って戦ってくれたおかげで、奴らのデータが取れた。これは無駄死にじゃない」
俺が慰めると、マクシミリアンは自嘲気味に笑い、俺の目を見た。
「……コタロウ、君も試合では『腹痛』で何もしていないが……敗者である今の俺たちが、それをとやかく言う権利はないな。 君の『逃げる』という判断も含めて、チーム全体の結果だ。情けない話だがね」
「まあな。俺は最初から戦う気なんてなかったし」 俺は肩をすくめた。 騎士道精神の塊である彼にとって、俺の敵前逃亡は許し難い行為だろう。だが、自分が負けた以上、結果を出した(引き分けに持ち込んだ)俺の判断を否定できない。その葛藤が、彼の真面目な横顔に滲んでいた。
俺は伝票の桁が恐ろしい速度で増えていくのを死んだ目で見つめながら(マクシミリアンとレオンの治療費もここに含まれている気がする)、シーザーサラダをつついていた。
「……これはこれで、結構な出費だなぁ。『選抜活動費』として学部予算から落ちればいいんだが……」
そこへ、個室の扉が開き、シャワーを浴びて新しい深紅のドレスに着替えたリリスが、優雅に入室してきた。 褐色の肌に真紅の髪、および知的な眼鏡。ダーク・エルフの気品を漂わせ、その肩には満腹で眠そうなイグニスが乗っている。
「お疲れ、コタロウ。それに敗残兵のお二人さん」
「お疲れ様です、女王様。 で、その手に持ってる物騒な紙切れはなんだ?」
俺の視線は、リリスが優雅にテーブルに滑らせた一枚の羊皮紙に釘付けになった。 【請求額:金貨 500枚】
「ご、ごひゃく……!? 家が建つぞ!?」 俺は思わず叫んだ。
「あら、安いものじゃない。2年選抜(私たち)の未来が買えたのだもの」 リリスは悪びれもせず、マリーに淹れさせた紅茶を啜った。
「それに、マリーさんが言っていたわよ? 『主様は、2年選抜のためとあらば金に糸目はつけないお方です』って」
俺はマリーを振り返った。 彼女は俺と目を合わせず、壁のシミを興味深そうに観察していた。
「……はぁ。分かったよ。払えばいいんだろ、払えば」 俺はテーブルに突っ伏した。
3. 敗者からの警告
「まあまあ、大将! 金なんてのは天下の回りものだ!」 シップウが酔っ払って俺の肩を叩く。
「次の試合、か……」 俺は顔を上げ、声色を変えた。 その変化を敏感に感じ取り、肉を食らっていたモモと、パフェを食べていたアヤネも手を止めた。 マクシミリアンとレオンも、真剣な表情に戻る。
「いいか、よく聞け。次のサバイバル戦についてだ」
俺は端末を操作し、テーブルの上に立体映像を投影した。
「次のルールは『バトルロイヤル』。 制限時間は24時間。最後まで立っていた2名だけが、来月の対抗戦の代表になれる」
俺はデータを表示させる。
「対戦相手の3年生は、間違いなく『チーム』として動いてくる」
• 副会長シルビア(氷・指揮)
• ゴライアス(物理・タンク)
• ヴァイパー(毒・罠)
すると、包帯姿のマクシミリアンが重々しく口を開いた。
「……忠告しておこう。ゴライアスは、ただ力が強いだけではない。 奴の皮膚は鋼鉄よりも硬い『金剛肌』だ。私の全力の剣撃ですら、掠り傷ひとつつけられなかった。 真正面からの打撃戦は避けた方がいい」
続いて、レオンが青白い顔で付け加える。
「ヴァイパーの毒もヤバいぜ。 あいつ、森の植物を変異させて、そこら中を『毒沼』に変えやがる。 息を吸うだけで肺が焼ける感覚だった……。風魔法で空気を回さないと、近づくことさえできねぇぞ」
敗者たちの生々しい証言に、アヤネとモモの表情が引き締まる。
「指揮官、無敵の盾、猛毒の罠師。 はっきり言って、チームとしての完成度は向こうが遥かに上だ。真正面からぶつかれば、連携で磨り潰されるぞ」
リリスが眼鏡の位置を直し、冷静に分析する。 「つまり、私たちは分断され、各個撃破される可能性が高いということね。 ……でも、コタロウ。貴方が言いたい『最悪のこと』は、それだけじゃないでしょう?」
リリスの黄金の瞳が俺を射抜く。 俺は頷いた。
「ああ。一番の問題はルールだ」
俺は指を2本立てた。
「勝者は2名。 だが、ここにはお前たち3人がいる。 ……つまり、お前たち3人のうち、誰か1人は必ず落ちる」
場の空気が凍りついた。 アヤネがスプーンを落とし、モモが唸り声を止める。 今まで協力して戦ってきた仲間同士で、椅子を奪い合わなければならない。それがこのサバイバルの本質だ。
「……嫌だよ! 私はみんなで戦いたい!」 アヤネが叫んだ。 「コタロウちゃん、なんかいい方法ないの!? 3人で勝てる裏技とか! 3人で代表になっちゃダメなの!?」
「今回ばかりはない。ルールは絶対だ」 俺は冷酷に告げた。 「俺は棄権してサポートに回る。マクシミリアンとレオンもリタイアだ。 フィールドに立つのはお前たちだ。 3人で協力して3年生を倒した後、最後には……味方同士で決着をつけなきゃならないかもしれない」
残酷な沈黙が落ちた。
4. 女王の覚悟と、託された想い
重苦しい空気の中、カチャン、とティーカップをソーサーに置く音が響いた。
「……甘ったれないで、アヤネ、モモ」
リリスが凛とした声で言った。 彼女は立ち上がり、二人の前に歩み出る。
「私たちは『2年選抜』よ。実力で勝ち上がった代表だわ。 誰が残るにせよ、それは実力の結果。恨みっこなしよ」
リリスは二人の目を見据える。
「でも、これだけは約束しましょう。 『3年生には一歩も引かないこと』。 代表の座を巡って争うのは、あの生意気な上級生たちを全員、森の肥料にしてからよ」
リリスの言葉に、マクシミリアンが立ち上がった。 「その通りだ。……私たちの無念、君たちに託す。 どうか、あの化け物どもに、2年生の意地を見せてくれ」
レオンもニヤリと笑う。 「俺の仇、取ってくれよな。特にあの毒野郎は、ボッコボコにしてくれ」
モモが牙をむいて笑い、アヤネが力強く頷く。 「へっ。任せとけ! 毒も盾も, 俺様が噛み砕いてやる!」 「うん! ホームラン打って、みんなで勝つ!」
「(……いい顔をするようになったな)」
俺はグラスを掲げた。
「よし。なら、作戦会議だ。 敗者たちの情報と、勝者たちの力。全てを使って、最強の3年生を攻略するぞ」
「「「「「応ッ!!」」」」」
モモが肉を、アヤネがスプーンを、リリスがカップを、マクシミリアンが包帯の手を、レオンが点滴を(危ない)掲げる。 勝利の祝杯は、次なる決戦への狼煙へと変わった。
明後日、魔の森。 友情と野心、そして託された想いが交錯する、最強の2人を決めるサバイバルが幕を開ける。
(第35話 完)
【第35話:あとがき】
お読みいただきありがとうございました! 「朝食べた牡蠣があたった」。……コタロウ君、仮病の理由が庶民的すぎて、逆にVIP席の威厳が台無しでしたね。
今回のハイライトを振り返ると:
奇跡のドロー: 3勝3敗。首の皮一枚で「全員留年」を回避した2年生チームの執念。
財布の死: 金貨500枚。リリスさんの「金に糸目はつけない」スタイルの代償がコタロウの懐を直撃。
非情の2枠: 仲間同士で椅子を奪い合う、最悪の「バトルロイヤル」告知。
「まずは3年生を森の肥料にする」。 リリスの掲げた共闘宣言は熱いものでしたが、最終的には「3人のうち誰か1人は落ちる」という残酷な事実が消えたわけではありません。友情か、代表の座か。
【次回予告】 第36話『魔の森の48時間(前編):鉄壁の包囲網と、頭の中に響く「声」』 舞台は未開の樹海へ! 3年生チームの完璧な布陣を前に、コタロウが通信精霊【シンク】を介して「見えない糸」を操るオペレーターとして覚醒します。
次回もよろしくお願いします!
【作者からのお願い】 物語を楽しんでいただけましたら、ぜひブックマークや、下の評価欄から**【★★★★★】**で応援いただけると嬉しいです。 皆様の応援が、コタロウの活動資金の補填と、アヤネが食べるマカロンの高さに直結します!




