Ep.51 第29話:カンニング特訓(前編):聖女のNTR(ネトラレ)戦法
【第29話:まえがき】
いつもお読みいただきありがとうございます!
前回、第28話にて発表された「死のトーナメント表」。地獄から帰還した3年生たちの殺気に、Sクラスの優雅な教室は一瞬で硫黄と血の臭いに包まれました。
Fランクのコタロウは秒で**『予定された腹痛』**カードを切って逃亡に成功しましたが、AIから突きつけられたのは「仲間が負ければ連帯責任で全員留年」という、サボり魔にとっての最大級のバッドステータス。
自分の安眠を守るため、コタロウはついに重い腰を上げ……はしませんが、ソファに深く沈み込んだまま、アヤネとモモを「卑怯な最強」に魔改造することを決意します。
今回の第29話は、特訓前編。 清楚な聖女アヤネに授けられるのは、精霊をホワイトな待遇で誘惑して寝取る**『NTR戦法』と、ミスリル製の重火器級鈍器『聖女の慈悲』**。 天使のような笑顔でアンドロイドを粉砕する、「物理聖女」の爆誕をお楽しみください!
【本文】
1. VIP専用・秘密特訓場
決戦となる「学内対抗戦」まで、残り6日。
放課後の学園。
俺たちは、一般生徒が立ち入ることのできない聖域、Sクラス専用の**「第1特別演習場」**にいた。
「すごい……! すごいですコタロウ様! ここ、冷暖房完備で、空気中に『微量のマナ回復ミスト』が散布されてますよ!」
「床もフカフカだー! 転んでも痛くないし、なんかいい匂いがするぞー!」
アヤネとモモが、東京ドームほどもありそうな広大な屋内演習場を見て、キャッキャとはしゃいでいる。
Fクラスが使っていた「第3グラウンド(ただの荒れ地)」とは雲泥の差だ。
壁には最新鋭の防音・防魔結界が施され、照明はバイオリズムに合わせて最適な光量に調整される。さらに、壁際には高級ホテルのラウンジのような休憩スペースまで完備されていた。
俺はと言えば、その休憩スペースにある「人間をダメにする魔導ビーズソファ」に深く沈み込み、ポテトチップス(コンソメパンチ味)の袋を開けていた。
「どうですか、コタロウ様。ドリンクバーから『最高級エリクサー配合・メロンソーダ』をお持ちしました」
「ありがとう、セフィラ先生。……うん、炭酸の刺激と回復薬の苦味が絶妙だ」
メイド役が板についてきたセフィラ先生からグラスを受け取り、俺は優雅に喉を潤した。
これこそが特権階級。これこそがSクラスだ。
「よし、二人とも。遊びは終わりだ。これから地獄の特訓を始める」
俺はソファから一歩も動かずに、王様のように声を張り上げた。
「俺はこの場所から一ミリも動かずに完璧な指示を出すから、心して聞け」
「は、はいっ! お願いしますコタロウ様!」
「おう! 任せとけ! ズルして勝つんだろ!?」
二人はやる気満々だ。
なにせ、負ければ「連帯責任で留年」という脅しが効いている。彼女たちの人生(と俺の安眠)がかかっているのだ。
俺は脳内で相棒を呼び出した。
「(おい、カンニング・AI。まずはアヤネのメニューだ。対戦相手の分析データを頼む)」
『了解。空間投影ホログラムを展開します』
俺の視界、そしてアヤネたちの前の空間に、青白い光粒子が集まり、対戦相手である3年生のデータが立体的に表示された。
2. ターゲット:血染めの茨姫
【Target: ジェシカ・ヴァイルス(3年・席次2位)】
• 二つ名: 血染めの茨姫
• 属性: 植物・毒(吸血)
• 危険度: Aランク(対人特化)
• 戦法: 自身の血を触媒に、魔界原産の凶悪植物「魔界茨」を召喚。相手を捕縛し、無数の棘で皮膚を引き裂いて失血死を狙うサディスト。
• 性格: 重度の加虐趣味。特に「清廉潔白で綺麗なもの」を汚し、悲鳴を上げさせることに快感を覚える変態。
「ひぃっ……!」
詳細データと、参考映像(過去の実習で魔物をなぶり殺しにしている映像)を見たアヤネが、悲鳴を上げてその場にしゃがみ込んだ。
「む、無理ですぅ……! 私、痛いのは嫌ですぅ……! あんな棘で縛られたら、痕が残っちゃいます! お嫁に行けなくなっちゃいます!」
「血が出るのも嫌だー! 痛いのは勘弁だぞ!」
アヤネが涙目で首をブンブン振る。
聖女として育てられた彼女は、荒事には慣れていない。ましてや、拷問のような戦い方をする狂人相手など、相性が最悪だ。
「安心しろ、アヤネ」
俺はポテトチップスを咀嚼し、指についた粉を舐めとりながら、極めて冷静に告げた。
「お前は傷一つ負わない。……いや、そもそも**『戦わない』**」
「え?」
アヤネが涙に濡れた顔を上げる。キョトンとした表情だ。
「戦わないって……どういうことですか? 試合放棄ですか?」
「違う。もっと一方的な蹂躙だ」
俺は空中に指を走らせた。
「カンニング・AI。アヤネのステータスと、ジェシカの相性をグラフ化して表示しろ」
『了解』
空中に二つのレーダーチャートが浮かび上がる。
ジェシカのグラフは「攻撃力」「残虐性」に特化しているが、アヤネのグラフは……ある一点だけが枠を突き破り、天井知らずに伸びていた。
【アヤネの特殊能力: 精霊親和性(Spirit Affinity)】
判定: SSS+(測定不能・神域)
「アヤネ。お前は『聖女』だ。
生まれつき、無自覚に、息をするように、周囲の精霊から愛されている。
学園内の至る所で、お前が歩だけで枯れた花が咲いたり、野生の小鳥が肩に止まったり、風が優しく髪を撫でたりしたのを覚えているか?」
「は、はい。動物さんはよく懐いてくれますけど……そういう体質なんですか?」
「それは動物だけじゃない。**『精霊』**もだ」
俺はニヤリと笑った。
「ジェシカの使う『植物魔法』の正体は、植物の精霊を使役して操る召喚術だ。彼女は自分の血と恐怖で精霊を縛り付け、ブラック企業のように無理やり命令を聞かせている」
俺は指をパチンと鳴らした。
「つまりだ。
お前がやるべきことは、魔法で撃ち合うことじゃない。
劣悪な環境で働かされている精霊たちに、『こっちのほうが待遇がいいよ』と囁く……即ち、相手の精霊を『誘惑』して、寝取ればいい」
3. 作戦名:NTR(精霊ネトラレ)
「ね、ねと……?」
アヤネが小首を傾げる。純粋培養の聖女には刺激が強い単語かもしれない。
「NTR。……つまり、相手の彼氏(精霊)を奪うことだ」
俺は手元の操作パネルで、演習用の自律型アンドロイドを起動した。
無機質な金属音と共に立ち上がったアンドロイドが、模擬用の「炎の精霊(下級)」を召喚する。メラメラと燃える火の玉が、敵意を持ってアヤネを見据える。
「いいかアヤネ。今からあのアンドロイドは敵だ。精霊を使って攻撃してくる。
お前は防御結界を張りながら、その精霊に向かって……最大限の笑顔で、こう言うんだ」
俺はセリフを書いたカンペ(フリップ)を出した。
「えっと……『痛いのは可哀想だね。こっちにおいで? 悪いご主人様より、私の方が優しくしてあげるよ♡』……ですか?」
アヤネが少し照れながら、慈愛に満ちた声で読み上げた瞬間。
ボワッ!!
アンドロイドが召喚していた炎の精霊が、急激に膨張した。
攻撃色である赤黒い炎が、瞬時に優しげなピンク色へと変色する。
そして、精霊はハートマークのような形になりながら、命令権を持つアンドロイドを無視して、ふらふらとアヤネの方へ飛んできた。
「きゅ~ん♡」
幻聴ではない。精霊が頬を赤らめて(いるように見える)、アヤネの頬にすり寄り、まるで忠犬のように媚びている。
「わぁ、可愛いですぅ~! よしよし、いい子ですねぇ!」
アヤネが無邪気に精霊を撫でる。
主を失ったアンドロイドは制御不能になり、エラー音を出して停止した。
「……これだ」
俺は戦慄した。
アヤネの「聖女スマイル」と「慈愛の波動」。
これは、サバイバーたちによるスパルタ教育(ブラック契約)で疲弊しきった精霊たちにとって、抗いがたい極上の麻薬だ。
【AI】 分析: 凄まじい威力です。ジェシカが精霊を酷使していればいるほど、アヤネの「ホワイトな誘惑」は効果を発揮します。
【AI】 結論: これは戦闘ではありません。宗教勧誘、あるいは悪質なホストクラブの引き抜き営業に近いです。
「よし、作戦名は**
$$Operation: NTR$$
(精霊寝取り作戦)**だ」
「え、えっと、よく分かりませんけど、精霊さんと仲良くすればいいんですね!?」
「そうだ。ジェシカがどんな凶悪な植物を出してきても、お前が微笑めば、その植物はジェシカを裏切って、アヤネを守る盾になる」
俺はさらに付け加えた。
「ただし、この作戦には一つだけ弱点がある。
自分の精霊を奪われたジェシカ本人が逆上して、魔法を使わずに直接殴りかかってくる可能性があることだ」
「ひぃっ! それ一番怖いです!」
「その時のために、もう一つ。**『物理的な拒絶』**を覚えてもらう」
4. 慈悲深き物理
俺はソファの横に置いてあった、長い布に包まれた物体を手に取った。
俺はソファの横に置いてあった、長い布に包まれた物体を手に取った。
そして、それをアヤネに向かって放り投げた。
「受け取れ、アヤネ。ガントに緊急依頼で仕上がったばかりの特注の武器だ」
「きゃっ!? ……お、重っ……!?」
受け取ったアヤネがよろめき、床の絨毯に足がめり込む。
包みを解くと、中から現れたのは一本の美しい杖だった。
白銀に輝く柄、先端には天使の羽があしらわれた装飾。どこからどう見ても、聖女が持つに相応しい儀礼用の杖だ。
「わぁ、素敵な杖……! でも、なんでこんなに重いんですか?」
「銘を**『聖女の慈悲』**という」
俺は説明した。
「俺が設計し、ドワーフの鍛冶師ガントに『徹夜で頼む』と泣きついて作らせた一品だ。
見た目は可愛いが、先端部分は超高密度のミスリル合金。さらに内部には、重力魔法による重量増加術式が刻まれている」
俺はニヤリと笑った。
「実質的な**『可変式ウォーハンマー(鈍器)』**だ。戦車の装甲すら粉砕できる」
「えぇぇぇ!? そ, そんな野蛮なことできませんっ! 私は聖女ですよ!? 人を殴るなんて……!」
アヤネが全力で拒否する。杖を持つ手が震えている。
「甘えるなアヤネ! 相手はサバイバーだぞ! お前を血祭りにあげようとしてる変態だぞ! お前の綺麗な顔に傷がついたらどうするんだ!」
「うっ……それは嫌です……」
俺は諭すように、優しく語りかけた。ここが正念場だ。
「いいか、よく聞けアヤネ。
お前の得意な光魔法は、相手の視界を奪う。これは『相手に自分の残酷な姿を見せない』という慈悲だ」
「じ、慈悲……?」
「そして、この『聖女の慈悲』での打撃。これは相手を一瞬で気絶させる。
中途半端な攻撃は、相手に痛みと苦しみを与えるだけだ。だが、この杖なら一撃で意識を刈り取れる。
つまり、相手に痛みを感じさせる時間を最小限にする、**『究極の安眠魔法』**なんだよ」
「きゅ、究極の……安眠魔法……」
アヤネの目に迷いが生じる。カンニング・AIが弾き出した「聖女を洗脳するためのロジック」が浸透していく。
「そうだ。ジェシカ先輩は、過酷な実習で不眠症気味だそうだ。目の下にクマがあっただろう?
彼女に、深い深い眠りを提供してあげることこそ、聖女の務めじゃないか? その杖の名前の通りにな」
「……そっか。そうですよね!」
アヤネの表情が、ぱぁっと明るくなった。雲が晴れたような笑顔だ。
「私、間違ってました! 相手を傷つけないように戦うなんて偽善です! 苦しまないように、一撃で眠らせてあげるのが本当の愛なんですね!」
「(……極端だな、こいつ)」
俺は少し引いたが、結果オーライだ。
「よし、やってみろ。あのアンドロイドをジェシカだと思え」
アヤネが杖を構える。
腰を落とし、杖を後ろに引くその構えは、魔法使いではなく、完全にメジャーリーグの強打者のそれだった。
「ジェシカ先輩……お疲れのようなので、安眠をプレゼントしますぅ!」
「キュピィィィィン!!!」
アヤネの全身から、直視できないほどの閃光(目潰し)が放たれた。
俺とモモはサングラスをかけていたが、それでも視界が真っ白になるほどの光量だ。
「いまだ! 愛のフルスイング!」
ドガァァァァァァァンッ!!!
凄まじい衝撃音。
演習場の空気が震え、床が波打った。
視界が戻ると、そこには首から上がひしゃげ、火花を散らして壁にめり込んだアンドロイドの残骸があった。
首のパーツが引きちぎれ、胴体部分には大きな風穴が空いている。
ガントの作った『聖女の慈悲』は、傷一つなく白銀に輝いている。さすがだ。
「……」
「……」
俺とモモは沈黙した。ポテトチップスを食べる手が止まった。
演習場の隅で控えていたセフィラ先生が、泡を吹いて気絶しかけている。
「コタロウ様! 上手くできました! 手に全然衝撃が来ないです! これならいくらでも振れます!」
アヤネがニコニコしながら、凶器(慈悲)をブンブンと振っている。
その笑顔は、まさに天使。足元には鉄屑。
【AI】 評価: 攻撃力SSS。防御不能。精霊による防御も「NTR」で無効化されるため、ジェシカの勝率は0%です。合掌。
「(……ああ。とんでもないバケモノが誕生したな)」
俺は戦慄しながらも、親指を立てた。
「完璧だ、アヤネ。その調子で、ジェシカ先輩を『癒やして』やれ」
「はいっ! 私、頑張ります! 愛の力で!」
アヤネは完全に洗脳……いや、覚醒していた。
彼女の中で「物理で殴る」ことが「癒やし」に変換された今、彼女を止める術はない。
5. 次なる課題:獣のブラフ
「すげー! アヤネすげー!」
モモがアンドロイドの残骸を見て目を輝かせている。尻尾が千切れそうなほど振られている。
「次は俺様か!? 俺様もあんなふうにドカーンってやるのか!?」
「いや、モモ。お前は違う」
俺はモモの方を向いた。
アヤネは「精霊愛」と「物理」という才能があった。
だが、モモの相手はシード枠のサラ(疾風の斥候)や、準決勝で当たるかもしれない強敵たちだ。
彼らは素早く、狡猾で、アヤネのような単純な攻撃は避けるだろう。特にサラは見えない攻撃(風)を使い、姿を隠す。
「モモ。お前の武器は『野生の勘』と『身体能力』だ。
だが、それだけじゃ3年生には勝てない。あいつらは罠を仕掛けてくる」
俺はAIに、モモ用のトレーニングメニューを表示させた。
そこには、複雑な計算式と、心理戦のチャートが描かれている。
「お前には、**『獣のフェイント』と『嘘』**を覚えてもらう」
「ブラフ? なんだそれ? 美味いのか?」
モモが首をかしげる。
「ああ、美味いぞ。相手を騙して、絶望した顔を見るのはな」
俺は邪悪な笑みを浮かべた。
アヤネという「聖なる爆弾」は完成した。
次は、この単純バカな獣人を、狡猾な「詐欺師」に変える番だ。
「よし、休憩終わりだ。モモ、前に出ろ。……俺のAIとお前の野生、どっちが速いか勝負だ」
俺たちの特訓は、まだ始まったばかりだった。
Sクラス演習場に、アヤネの可憐な「えいっ♡(破壊音)」という声が、夜遅くまで響き渡った。
(第29話 完)
【第29話:あとがき】
お読みいただきありがとうございます! 「一撃で眠らせるのが、本当の愛だよ」。……アヤネの解釈の飛躍が、この物語で一番のホラーかもしれません。
今回のハイライトを振り返ると:
Sクラス特権: 最高級エリクサー配合メロンソーダを堪能(セフィラ先生の給仕付き)。
作戦名NTR: 精霊を「ブラック企業」から引き抜く、新手のホスト風営業。
聖女の慈悲: 見た目は可憐な杖、実態はミスリル合金のウォーハンマー。
「痛い思いをさせないための安眠魔法(物理)」を手に入れたアヤネ。対戦相手であるジェシカ先輩の安否が全力で気遣われるところですが、これも愛(?)の形ということで……。
【次回予告】 第30話『カンニング特訓(後編):野生の嘘とAIの計算』 次はモモの番です。正直すぎて攻撃が当たらない「動く的」な彼女に、コタロウとAIが教えるのは『嘘つきの極意』。 そして、空調ダクトから現れたリーゼントの不良精霊「シップウ」との出会い!
次回もよろしくお願いします!
【作者からのお願い】 物語を楽しんでいただけましたら、ぜひブックマークや、下の評価欄から**【★★★★★】**で応援いただけると嬉しいです。 皆様の応援が、アヤネのフルスイングの飛距離と、コタロウのポテトチップスの味の濃さに直結します!




