Ep.49 第27話:新学期と理不尽な伝統:Sクラスの洗礼は突然に
【第27話:まえがき】
いつもお読みいただきありがとうございます!
前回、第26.9話では、精霊界ホールディングスの役員会議の様子をお届けしました。コタロウのハッキングがまさかの「空前の黒字」を叩き出し、彼は知らないうちに精霊界のスーパーVIPに。そして、不憫なセフィラ先生には「コタロウ専属コンシェルジュ(実質パシリ)」という非情な辞令が下りました。
さて、今回からついに**第3章【波乱の学園編】**が本格始動します! 冬休みを終え、学園に戻ってきたコタロウたちを待っていたのは、Fクラスのボロ校舎とは対極にある「天上のサロン」――Sクラスの専用教室でした。
全自動マッサージソファに高級マカロン食べ放題。 「これぞ求めていたサボり環境!」と歓喜するコタロウでしたが、エリートコースの洗礼は甘くありません。
席次を奪われた名門貴族の怒り、そして教室のドアとともに現れた「パッション」の塊・ヴォルコット学部長。 新学期早々、コタロウの安眠を脅かす「理不尽な伝統」が宣告されます。 エリートと野蛮が入り混じる、Sクラスの初日をどうぞお楽しみください!
【本文】
1. Sクラスという名の「天上のサロン」
王立精霊学園に、秋が訪れた。 校庭には楓によく似た黄金色の魔樹「秋告げ楓」が鮮やかに色づき、穏やかな陽光が降り注ぐ新学期の朝。 俺、神木コタロウは、かつてないほどの感動と、人をダメにする幸福感に包まれていた。
「……素晴らしい。これが、権力の味……いや、『9万点』の重みか」
通されたのは、学園の最上階、雲をも見下ろす高さにある「精霊学部エリートコース(通称:Sクラス)」専用教室。 そこは、俺がこれまでいたFクラスのカビ臭い地下牢のような教室とは、次元が違っていた。いや、もはや「学び舎」という言葉すら相応しくない。それは王宮のサロンそのものだった。
床には足首まで埋まるほど毛足の長い、真紅のペルシャ風絨毯。 天井には、朝陽を浴びて虹色の光を撒き散らすクリスタルのシャンデリア。 壁には歴代の偉人たち(主にヴォルコット学部長のキメ顔肖像画)が飾られ、空調は常に「人間が最も堕落する温度(24度)」に魔術制御されている。
そして何より、成績順に一人一人に割り当てられた座席は、硬い木の椅子などではない。 最高級の魔獣「夢見羊」の革を使った、「低反発魔導ソファ(全自動マッサージ&ヒーター機能付き)」なのだ。
俺が座っているのは、教室の最前列中央、【席次第4位】の席だ。 周囲を見渡せば、俺の仲間たちが上位席を独占し、我が物顔でくつろいでいる。
- 【席次第1位】リリス・フレアガード(99,020点) 一番奥の「玉座」のような席で、優雅に脚を組み、難解な魔導書を片手に紅茶を啜っている。その姿は完全に女帝だ。
- 【席次第2位】篠宮アヤネ(99,000点) 俺の左隣で、テーブルに山盛りになった高級マカロン(Sクラス食べ放題特典)を、リスのような勢いで頬張っている。「んふ~、幸せですぅ~!」という声が平和ボケしている。
- 【席次第3位】モモ(98,960点) 俺の右隣で、ソファの弾力に興奮し、トランポリンのように飛び跳ねている。「うおー! すげーぞコタロウ! 尻が沈む! 雲の上みたいだ!」と騒がしい。
そして、【席次第4位】の俺、神木コタロウ(98,860点)。
昨年度末の試験で、俺たちが叩き出した「9万点台」というバグじみたスコアにより、Sクラスの序列は完全に破壊されていた。 本来ならここに座るはずだった名門貴族の子息たちは、遥か後方の席へと追いやられているのだ。
「どうですか、コタロウ様。お尻の具合は……?」
おずおずと紅茶を差し出してくるのは、精霊教師のセフィラ先生だ。 彼女は新学期から、精霊界(本社)からの辞令により俺の「専属担当」に任命され、なぜかメイドのように給仕をしてくれている。
「最高だ。一度座ったら二度と立ち上がりたくない。このまま卒業式までここで寝ていたい」
「は、はい……。あの、胃薬もお持ちしましょうか? 私が飲みたいくらいですけど……」
「いや、マカロンをくれ」
「ひぃッ……! か、畏まりました……!」
セフィラ先生は涙目で後ずさった。俺が快適に過ごせば過ごすほど、彼女の寿命が縮んでいく気がするが、気にしたら負けだ。 俺はこの天国のような環境で、至高の「二度寝」を決め込むつもりだった。
だが、この楽園には一つだけ問題があった。
2. 奪われた席と、エリートの怒り
「……おい。退けよ、詐欺師」
低い、地を這うような怒りに満ちた声が降ってきた。 見上げると、一人の男子生徒が俺の机に歩み寄っていた。 燃えるような赤髪をオールバックにし、仕立ての良い制服を着こなした美男子。 その胸には、王国の魔法・軍事部門を牛耳る名門中の名門、「グロリアス魔導公爵家」の紋章――『王冠を戴く黄金の獅子』が輝いている。
彼の名は、マクシミリアン・フォン・グロリアス。 本来ならこの精霊学部のトップに君臨し、首席の座に座るはずだった、正真正銘のエリートだ。 だが、俺たちのせいで現在の席次は【第6位】(5位は政経占星術学部主席のクラウディア)。彼は屈辱的な下位席に追いやられていた。
「なんだ? 俺は今、マッサージ機能の『揉みほぐしモード・強』を堪能中なんだが」
「とぼけるな! その席は、本来なら僕が座るべき場所だ!」
マクシミリアンがダンッ! と俺の机を叩く。ティーカップが揺れ、セフィラ先生が「ひっ」と悲鳴を上げた。
「昨年の試験結果……あんなもの、誰が認めるか! 9万点? ふざけるな! Sクラス筆頭のクラウディアですら1,950点だぞ? 桁が違うなんてありえない! 測定器の故障か、そこの聖女のコネを使った点数改ざんに決まっている!」
教室の後ろ側からも、同意するような冷たい視線と囁きが聞こえてくる。 「そうだ、Fランクの分際で」「恥を知れ」「神聖なSクラスを汚すな」「消えろ」
彼らにとって、俺たちの点数は「不正の証」でしかない。 マクシミリアンはギリッと歯を食いしばり、憎悪に満ちた目で俺を睨みつけた。
「貴様のような卑怯者が、我らグロリアス家の上座にいるなど、耐え難い屈辱だ。……今すぐ床に座れ。地を這う虫には、そこがお似合いだ」
「ああ、いいよ。どうぞ」
「……は?」
俺は素直にソファから立ち上がろうとした。 面倒ごとは御免だ。床の絨毯もふかふかだし、キャンプみたいで悪くない。何より、マクシミリアンの顔色が面白いくらい赤いので、血圧で倒れる前に譲ってやってもいい。
「コタロウ様!?」 アヤネが驚き、マクシミリアンが拍子抜けした顔をした、その時――。
バァァァァァァンッ!!!
教室のドアが、凄まじい勢いで吹き飛ばされた。 雷撃ではない。純粋な「熱量」を纏った蹴りによって、重厚なオーク材の扉が粉々になり、破片が教室中に散らばった。
3. パッションの学部長、ヴォルコット
「おはよう諸君ッ!! 今日のバイブスはいかがかなッ!?」
もうもうと立ち込める土煙の中から現れたのは、白髪を逆立て、雷を帯びた杖を持った老人。 精霊魔法学部の創始者の弟子にして、学園一の暑苦しい男、ヴォルコット学部長だ。 彼は粉々になったドアの残骸を気にも留めず、大股で教壇に上がり、バン! と黒板を拳で叩いた。
「新学期早々、ちんけな席取りゲームか? 嘆かわしい! 実に嘆かわしいぞ!!」
ヴォルコットは、残像が見えるほどの速度で移動し、俺に絡んでいたマクシミリアンの目の前に現れた。そして、顔が触れそうなほどの距離で叫んだ。
「マクシミリアン君! 貴様には見えんのか! 彼から溢れ出る、**『怠惰という名の情熱』**が!!」
「は、はいぃ!? い、いえ、こいつは単に不正をして点数を……!」
「黙らっしゃい!!」 一喝。ビリビリと空気が震える。
「数字(点数)など飾りだ! 重要なのはソウルだ! 彼は今、『争うくらいなら床と一体化したい』という究極の平和へのパッションを行動で示したのだ! その高潔なバイブスを感じ取れないとは、貴様、それでもグロリアス家の次期当主かッ!!」
「ぐ、ぐぬぅ……!」 マクシミリアンは唾を飛ばされながら、顔を真っ赤にして黙り込んだ。反論すれば雷撃が飛んでくることを知っているのだ。 ……助かったのはいいが、「床と一体化したいパッション」という変な解釈を広めるのはやめてほしい。
ヴォルコットは教室全体を見回し、満足げに頷いた。
「さて、単刀直入に言う。精霊学部の諸君。……『愛のムチ』の時間だ」
彼はチョークを握りしめ、ボロボロと粉砕しながら黒板に巨大な文字を書いた。 『P・A・S・S・I・O・N』。
「我が精霊学部は、少数精鋭だ。現在、2学年に在籍しているのは、ここにいるアヤネ一行を含めた10名のみ。そして、3学年に残っているのは……入れッ! 愛すべきサバイバーたちよ!」
学部長の合図で、裏口から数名の生徒が入ってきた。 その姿を見た瞬間、教室の空気が凍りついた。
眼帯をした大男。 全身に包帯を巻いた陰気な男。 返り血のようなものがついたローブを着た女。
入ってきたのは、わずか6名。 彼らは一様に殺気立っており、その目は「数々のブラック労働とデスマーチを生き延びた社畜」のように虚ろで、かつ獲物を狙う獣のように鋭かった。
「……あれが、3年生の先輩?」
「少なくない……? 半分くらい減ってない?」
アヤネが震える声で呟く。 ヴォルコットは両手を広げて、誇らしげに叫んだ。
「3学年も元々は10名いた。だが、昨年の『パッション溢れる実習(24時間耐久ダンジョン)』により4名が脱落(リタイア・退学)。残った彼らは、精霊との魂の語らい(という名の徹夜労働)を経て生き残った『精鋭』だ!」
3年生のリーダー格らしき、赤い髪の男が前に出た。 二つ名は【爆炎のヴァン】。 彼は俺たち2年生を見下ろし、鼻で笑った。
「へぇ……今年は可愛いヒヨッコが多いな。特にそこの、不正で1位になった魔族と、お菓子食ってる聖女サマと、寝ぼけたFランク。……お前らの『甘ったれたバイブス』、俺たちが骨の髄まで焼き尽くしてやるよ」
強烈な殺気。 モモが「ウゥッ……!」と唸って牙を剥き、リリスが杖に手をかける。一触即発の空気が流れる。
4. 伝統の学内対抗戦と、帝国の影
ヴォルコットが再び黒板を拳で叩いた。黒板にヒビが入る。
「そこでだ。我が学部の伝統行事、【学内対抗戦】を開催する!」
「目的は『魂の激突』! 『友愛の確認』! ……要するに、先輩が後輩をボコボコにして、現場の厳しさと上下関係を肉体言語で叩き込む『パッション注入』であるッ!」
「えぇぇぇ……!?」 アヤネが悲鳴を上げる。 「そんなの野蛮ですぅ! 私たちは平和に……」
「アヤネ君!」 ヴォルコットがビシッと指差した。 「君なら分かるはずだ! 精霊とは何だ!?」
「は、はいぃ!? え、えっと……バ、バイブスぶち上げでぇ……?」
「その通りだ!!」 ヴォルコットは感涙にむせび泣いた。 「やはり君は分かっている! 平和? ぬるい! 精霊が求めているのは、もっと熱く、激しい振動なのだよ!」
教室中が「おおぉ……さすが聖女様、深遠な答えだ」と変な空気で感心する中、アヤネの瞳からハイライトが消えていく。
ヴォルコットは表情を引き締め、真剣な眼差しになった。
「知っているか? 昨年の冬、我が王国は、隣国の軍事学校『帝国アカデミー』との対抗戦【魔法オリンピア】で、無様な敗北を喫した」
教室が静まり返る。 魔法オリンピア。各国が威信をかけて競う、学生最高峰の魔法大会。昨年の敗北は、王国の威信を傷つける大事件だった。
「敗因は何か? 技術か? 魔力量か? ……違う! 『やりがい(パッション)』が足りなかったからだ!」
「帝国は今年も、強力な『人工魔導兵器』や『ドーピング兵士』を投入してくるだろう。効率重視の冷徹な機械だ。……だが、我々の熱い魂(ブラック労働)の前には無力であることを証明せねばならん!」
ヴォルコットの杖から、バチバチと紫色の雷花が散る。
「この学内対抗戦で、最も熱いバイブスを見せた者だけが、冬の【魔法オリンピア】への出場権を得る。逆に言えば、ここで冷めた戦いをした者は、実習単位なし。即ち留年(やり直し)もあり得ると思え!」
「りゅ、留年……!?」 マクシミリアンたちエリート勢が青ざめる。 彼らにとって留年は、家名の恥、いや社会的な死に等しい。
「1回戦の組み合わせは既に決めてある。……開始は1週間後だ。それまでの間、せいぜい死に物狂いで足掻き、精霊たちに感謝の言葉(残業申請)でも捧げておくことだな!」
ヴォルコットはそう言い捨てて、嵐のように去っていった。 残されたのは、殺気立つ3年生たちと、絶望する2年生たち。
5. AIの分析と決断
教室がパニックになる中、俺はソファの上で天井を見上げた。 脳内では、カンニング・AIが冷ややかな分析を行っていた。
【AI】 分析: 典型的な「やりがい搾取」ですね、マスター。
「(ああ。精神論で誤魔化してるが、要するに『上の命令(先輩)は絶対』という社畜根性を叩き込み込みたいだけだ)」
【AI】 補足: 3年生たちのあの目は、過労と理不尽に耐え抜いた者の目です。まともに戦えば、彼らは鬱憤を晴らすために殺しにかかってくるでしょう。特にマクシミリアンらエリート層は、貴方への私怨も相まって、この対抗戦を『処刑の場』と考えているはずです。
「(……面倒くさい。あまりにも面倒くさい)」
痛いのは嫌だ。 努力も嫌だ。 先輩のしごきも、エリートの逆恨みも論外だ。 俺はホワイト企業の経営者(自称)として、こんなブラックな研修には付き合いきれない。
【AI】 推奨: マスター。このイベントの回避率は0%です。ですが、戦闘リスクを最小化するプランは存在します。
「(……ほう?)」
【AI】 提案: 『戦略的撤退(土下座)』および、アヤネとモモへの『代理戦争』委託です。
俺はニヤリと笑った。 そうだ。俺が戦う必要はない。 Sクラス(VIP)の特権と、俺の「参謀」としての才覚を使えば、高みの見物ができるはずだ。 アヤネとモモを最強に育て上げ、俺の盾となってもらえばいい。
「(1週間、か……)」
準備期間は十分にある。 マクシミリアンがこちらを睨んでいるが、知ったことではない。 俺は再び目を閉じ、ふかふかのソファに身を沈めた。
「おやすみ、セフィラ先生。起こさないでくれ」 「は, はい……(この状況で寝るの……!?)」
ヴォルコットのパッションも、先輩たちの殺気も、今の俺には心地よいBGMだ。 俺の波乱に満ちた新学期が、いよいよ始まろうとしていた。
(第27話 完)
【第27話:あとがき】
お読みいただきありがとうございました! 憧れのSクラス生活、開始5分でドアが粉砕されましたね。
今回のハイライトを振り返ると:
格差社会の極み: Fクラスの地下牢から、マッサージソファ完備のサロンへ。
マクシミリアンの受難: 首席の座を「9万点」に奪われ、顔を真っ赤にするエリート。
ヴォルコット学部長: 暑苦しいバイブスと「怠惰という名の情熱」という迷解釈。
せっかく手に入れた極上の二度寝環境を守るため、コタロウは「予定された腹痛」という力技で戦線を離脱しました。しかし、仲間の敗北が「連帯責任の留年」に繋がると知り、ついに重い腰を(ソファから)浮かせることに。
【次回予告】 第28話『生存者たち:3年生という名の修羅』 掲げられたトーナメント表。そこに並ぶのは「氷の処刑人」に「爆炎の悪魔」。 地獄の実習を生き延びた、硫黄臭い3年生たちが2年生を蹂躙しにやってくる! 「勝てるなら、先輩を泣かせたいですぅ!」 アヤネとモモを「卑怯な最強」に育てる、Fランク流のハッキング教育が始まります。
次回もよろしくお願いします!
【作者からのお願い】 物語を楽しんでいただけましたら、ぜひブックマークや、下の評価欄から**【★★★★★】**で応援いただけると嬉しいです。 皆様の応援が、アヤネの「聖属性・超高圧洗浄波」の出力と、コタロウの「サボり戦略」の精度を向上させます!




